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ものすごく久しぶりに、ネット上で「リアルリアリティ」という言葉を見かけました。すわ、超先生再評価の波でも来たかと一瞬驚いたものの、ぐぐってみるとじつはTRPGプレイヤーの間でつかわれている一種のゲーマー用語らしいとわかりました。なんだそっちか。ちょっと安心した。
njtrpg @ ウィキ - リアルリアリティ リアルリアリティとは、実世界を想定した現実味、つまり基本的には世間一般でいうリアリティと同義なようです。ただし、TRPGにおいて単にリアリティという場合は「ゲーム世界内限定での」リアリティを指すことが多く、そちらと区別するためにわざわざ呼び替えている、といった感じなんでしょうか。また、ゲームの判定が自分に有利になるように実世界のリアリティをふりかざして屁理屈をこねる困ったプレイヤーを揶揄するときにもこの言葉をつかうらしい。 ゲームシステムとリアルリアリティの齟齬が顕在化する例として、上のリンク先では囚われの女戦士問題とか百匹のゴブリン問題なんてのがあがっています。ルールに従うと非常識な状況になってしまうようなときにリアリティを保つにはどうすべきかと。これってTRPGにかぎった話じゃなさそうですね。RPGのようなタイプのゲームやフィクション全般におけるリアリティのさじ加減というのは、ほんとに厄介なものでして。 僕の場合、これに似た話として思いうかぶのは、たとえばドラクエ8の家捜し問題。ドラクエ8はいわゆるドラクエ的な世界観の忠実な3D化が売りの作品ですが、プレイしていて町の民家に入って棚や箪笥を「しらべる」と、金貨や薬草が手に入るようになってます。ドラクエシリーズは伝統的にこの方式でPCにサービスアイテムを与えてきました。しかし、このときのビジュアルから受けた違和感が予想外にひどくて、戸惑ったおぼえがあります。他人の家で、家人がじっと見ている前で堂々と金品を漁っているのに彼らはまったく何の反応もしない。ゲーム的なビジュアル処理だけがあってそれにふさわしい描写が欠けているせいで、状況の不自然さがきわだっている。こんなことは2D時代にはちっとも気にならなかったのに、ディテールの細かい3Dグラフィックであらためて見ると驚くほど不自然に感じてしまったりするんですね。他にもDQ8では樽を投げつけて破壊するといったアクションもできて、酒場で酒樽をドカバカ壊しまくっても店の客や主人はその横で平然としています。非常にシュールな光景です。これもコンピュータゲームにありがちな「ゲームシステムとリアルリアリティの矛盾」ではないかしらん。 その種の不自然さを豪快に放置しているゲームもあれば、なるべくほころびが出ないように気をつかっているゲームもあります。どっちがいいの悪いのと簡単にいえるものじゃないと思うけど、どちらかといえば「不自然さを感じさせない」ように配慮してくれる作品の方が僕は好きかな。Morrowind なんかだと、人の家にある物を盗んで見つかったら当然逮捕されるし、悪いことしてると人望パラメータが下がってNPCの態度も冷たくなるなど、異世界といえども社会の存在が強く感じられるつくりになってました。ああいうのいいですね。異世界に「住んでる」実感があって。 逆にICOやワンダと巨像では、社会みたいな描写の面倒な要素はそもそも最初からなくしてあります。あれはあれで、閉じた世界のリアリティを維持する賢い方法かもしれません。そういえば開発チームの人も「リアリティを追求できないものは徹底的に排除した」と言っていた。 まあ、ゲームやフィクションでは現実を完全に再現することができない以上、最終的にこの手の話は人それぞれがどの部分にリアリティを感じるか/求めるかという、趣味嗜好の問題に帰してしまうのだろうと思います。好き嫌いのことだけに自分では制御しにくいのがときどき困るけど。ある小説の「リアリティの欠如」に憤慨して「これはねーだろ。常識的に考えてありえんだろ」とか突っ込みながら、別の小説の似たような部分は全然気にならなかったので黙ってスルー。ってことは往々にしてあるし。同じ作品に対しても「すごくリアルだ」「いや全然リアリティがない」と人によって正反対の感想になることも珍しくないし。 つまりなんだね、結論はこれかね。「リアリティは人の数だけ存在する(キリッ」 ───── 「柳生百合剣」(朝日文庫) 荒山徹 タイトルの乙女チックな語感に騙されてはいけない。じつは百合剣とは一晩に百合、すなわち100回連続セックスをしてついに会得される秘剣のことなのである。徹はじつにばかだな(褒め言葉 ゾンビに襲われたときの対処法をまとめてみた ムクンガ・ラレムこそは最強の対ゾンビ武術。でも実際の使い手は今んとこマックス・ブルックスだけっぽいので詳細は不明。World War Z の映画化に期待です。 Togetter - 『マルドゥック・スクランブル』単行本版、文庫版について。 第一作の修正にそこまでこだわるなら、いっそのこと通常文体版ヴェロシティという追加オプションもありではなかろうか ブゲー!血ヘドを吐くほど面白かった。あらぶる漫画力の塊って感じ。「ドラキュラ紀元」から英国伝奇つながりで久しぶりに接触した藤田和日郎作品ですが、たまに読むと脳髄にガリガリくるなあ、この人の漫画は。一冊読んだだけでへとへとになった……。 [画像] この世の果て、恐山で宿坊に泊まる 人里はなれた霊場は廃墟好きにも魅惑の空間。東北旅行の機会があったら寄りたいスポット [youtube] The Warrior's Way Trailer (2010) 妙に活気づいてきて珍品の出現が後を絶たない海外トンデモサムライ映画界。笠をかぶった集団があからさまにGロボの血風連っぽいのが笑えます。いったいどこからそういうネタを拾ってくるんだ。 ノーベル文学賞:ペルーのリョサ氏受賞 「緑の家」しか読んだことないけどおめ。これを機に絶版だらけの状態が改善されたりしないかな。 [画像] The department No. 601 MAI - "Space systems and rocket" これはすごい。旧ソ連時代の月着陸船をはじめ、宇宙開発の遺物がぎっしり詰め込まれている、MAI(モスクワ航空宇宙大学?)構内の写真。機械的でありながらまるっこい感じがなんともいえん テッド・チャン "The Lifecycle of Software Objects" はやばやと無料公開に!ありがたや。がんばって読んでみます。 → 読み始めてみた。すんげー地味な導入。これはこれでとてもチャンさんらしい気もする。今よりちょっぴり未来というだけの現代風の話で、文章もやさしくてかなり読みやすい。がんばるぞ。 ピーター・ジャクソンの「ホビット」が公式に始動宣言!撮影は2011年の2月開始予定 めでたい。そういえば俳優組合問題ってクリアできたのかな。LOTRにも出ていたキャストはできるだけそのまま継投してくれるとうれしいですが。 山口貴由「覚悟のススメ」復活!「エクゾスカル零」始動 なんですと!あまりにも、あまりにも嬉しすぎるニュース。当方に購読の用意あり! 10/23 "The Lifecycle of Software Objects" なんとか読み終えました。つかれた……。 ストーリー後半を占めるAIのセックスビジネス問題が、あんまり心躍るたぐいの話題じゃなかったのと、ひさびさの長文英語のストレスでぐったり。 獣姦とか異種姦とかってただでさえよくわからん世界だが。AI相手だとますますたいへんそう。まあ、そういう地味にめんどいところをめんどいからってスルーしないことではじめてふっと気づかされる、SF的な「気持ちの問題」の味わい深さがチャン作品を好きな理由のひとつでもあるし。苦労して読んだ甲斐は十分ありました。 しかしこれ、邦訳出すときタイトルどうすんだろう。 Happy Birthday, Ursula! ル=グウィン女史81歳の誕生祝い。ご本人のレスが、ビルボの演説ネタ……。お茶目な人だなあ。 [ニコニコ] 【MMD】ペルソナM 夏祭り編(完全版)【ペルソナ】 テクスチャが変わってもP4はやっぱりいい。そのうちMMD互換の3Dゲームエンジンが作られて、誰でもこんなネタゲームを作ったり遊んだりできる日がくるかもしれない。 富野由悠季監督作品「ブレンパワード」が廉価版DVD-BOXに 7枚組、1万1655円という投げ売り価格。たまには富野分を補給したいので、これは買いで。 山田風太郎賞:貴志祐介「悪の教典」に もっといかにも山風ライクな時代伝奇やバカミス的な小説にあげる賞なのかと思ってたけど、そうでもなかったらしい。 #
by umi_urimasu
| 2010-09-27 21:03
| ゲーム
中世の旅事情とうまいメシ!の本。当時のヨーロッパの王族や司教といった貴人はどんな料理を食べていたのか。特に「旅先で賓客としてもてなされる」ときの宴会とはいかなるものだったか。そうした豪勢な饗応の献立を一品一品までことこまかに記した、リアル中世人によるグルメ旅行記です。なかなかの珍品でした。 いまからちょうど500年前、イスラム教徒トルコ軍によって涜された教会を聖別するために、総大司教管区は使節を派遣する。これは、その随行団の書記の書き残した日記である。著者パオロ・サントニーノは、好奇心あふれる精神の持ち主だったらしい。かれの眼は、公式に報告すべきことについてのみでなく、異文化の地・東アルプス山中の教会、人びとの信仰と暮らし、城砦の様子、食べものそして、女性…などあらゆるものを見つめた。中世理解のための好個の贈りもの。引用は amazon の紹介文より。 この旅行記は公式の報告書とは別に残された、ややプライベートな(?)ものらしいです。内容で面白いのはやはり、公式文書に書けないことがついつい漏れ出してしまったっぽい部分。公務である聖別のレポートそっちのけで異様にこまかく書かれた料理の記述などをみるに、パオロ・サントニーノ自身よほどの料理通だったのでしょうか。 彼は美食だけでなく美女にも目がなかったようで、貴婦人を称賛する文章もうまい料理と同じくらい気合入ってます。どこぞの城で久しぶりに入浴した折、美しい奥方に全身くまなくやさしく洗ってもらってウェーイ!とかいうエピソードまでセキララに書いてあったりする。なんなんだこの人。まあ、彼の立場からすればレアな経験だったろうし、「これはしっかり書いとかなきゃ!」ってなる気持ちも想像できるのですが。15世紀という時代を考えると、これは教会関係者が記した書物としては少々、いや、相当に型やぶりなものだったのではないでしょうか。 もちろん料理のことにかぎらず、中世のそれなりにVIPな人の旅行の実態などについても詳しい内容になっています。架空の西洋世界を舞台にしたファンタジー小説やRPGなどをたしなむ人にとっては、「フィクションとリアル中世のちがい」がわかる興味深い一冊かと。 あと、わりとどうでもいいことながら、行間からかすかに、パオロ・サントニーノが「司教さまウゼェ」と思ってたような印象を受ける箇所があるんですが……気のせいかこれ? 「最後に小鉢いっぱいに盛った生クリームが全員に配られた。これはみなにも、またとくに、まず第一にわが身のためをはかる司教さまには美味であった」とか「四番目がベーコンの塊とキャベツ。司教さまはこれをわれわれみなの分まで平らげてしまわれた」とか、どうも食い意地がはってるらしい司教に対して、わずかに棘のある書き方になってるような気がするのですよ。まあ、たとえ実際に司教のふるまいに不満をもっていたとしても、上司の悪口をあからさまに書くわけにはいかなかったでしょうけど。真相は歴史の闇のなかですね。 そしてサントニーノ大盛り上がりの入浴サービスについて。 中世の社会的身分の高い階層で、旅の客をもてなすために接待側の女主人や娘が客の入浴の世話をするというのは、「古い」習慣として15世紀まで残っていたようです。ただし当時は入浴の意味あいが現代とはまったく異なり、そもそも入浴すること自体が稀でした。サントニーノの日記本文では「(高貴なるゲオルグ・ヴェント殿の奥方バルバラ様が)汚いこときわまりない汚水をたっぷりかけながら、腹から足の先まで肢体を洗ってくださった」などと書いてある。うへえ。でも衛生的に困るとかは一言もいってません。むしろ倫理観のちがいをひどく気にかけている。つまり、そもそも風呂は体を清潔にするためのものではなく、入浴とはふしだらなこと、泡風呂的な意味のおもてなしに近い、けしからん行為だ、というのがサントニーノにとっての一般常識だったらしい。 こうした「風呂に入るのは衛生上よくない」っていう中世の感覚は、なかなか現代人には受け入れにくいものがあるなあ。「天冥の標」にもそんなことがちょっぴり書かれてた気がする。もう何百年かすれば、「ナノマシンで体表面は常に清潔なんだから、水道水の風呂なんて汚くて入れない。天然温泉なんて肥だめと同義」というのが世間の常識になっているかもしれません。くわばら。 ───── その他、ここ最近読んだ本まとめ。ほんとはひとつずつちゃんと感想文が書ければいいんですが。 小川一水 「天冥の標 2 救世群」 ブランドン・サンダースン 「ミストスピリット」 チャイナ・ミエヴィル 「ジェイクをさがして」 野阿梓 「伯林星列(ベルリン・コンステラティオーン)」 半村良 「産霊山秘録」 ジョージ・R・R・マーティン/他 「ハンターズ・ラン」 キム・ニューマン 「ドラキュラ紀元」 マーガレット・ワイス&トレイシー・ヒックマン 「ドラゴンランス秘史 ドワーフ地底王国の竜」 五味康祐 「秘剣・柳生連也斎」 ← 9/22 今ここ ▼ この中だと、個人的には「産霊山秘録」が特に楽しかったかな。アポロ14号が月面でちょんまげの武士の死体を発見とか腹筋死亡なバカネタの嵐なのに、ちゃんとすべてが史実に接続できてる。伝奇の醍醐味ここにあり。 ▼ 「天冥の標」は単品だとわりあいふつうの小川一水。でも一作ごとに時代や舞台ががらりと変わることで、それらを包含する宇宙年代記的なスケールの大きさが生まれてわくわく感が倍率ドン。 ▼ 「ジェイクをさがして」は異形都市好きというニッチな嗜好の人向け。プラスむせかえるラヴクラフト臭。くんかくんか。「ロンドンにおけるある出来事の報告」など、実録都市伝説っぽいのが好きです。 ▼ 「ドラキュラ紀元」。なんじゃこりゃクソワロタ。ヴィクトリア朝英国にからめ得るかぎりの吸血鬼ネタをありったけぶちこんだような、ドラキュラ(とホームズとかジキル博士とかその他たくさん)の巨大な二次創作パッチワーク歴史改変伝奇。パクリ/オマージュのやりすぎっぷりには荒山徹に近いものすら感じる。いいもん読みました。 ▼ 「秘剣・柳生連也斎」。神がかっとる。五味作品をじっくり読んでるときの精神的充足度の高さは異常 [youtube] Game Of Thrones: Behind The Scenes Featurette (HBO) 「氷と炎の歌」TVドラマのメイキング映像公開。なんかよさげではないですか。マウンテンさん(たぶん)の筋肉すげー TGS 10: 『人喰いの大鷲トリコ』の発売時期が決定、『Ico/ワンダ』HDリメイクも正式公開 うおわー!2011年冬!思ってたよりずっと早かった。わずか一年、余裕で待てる。 [youtube] PS3 人喰いの大鷲トリコ TGS2010プロモムービー さらにサワサワかつ優美になった巨獣の動き。ほんとに生きてるみたい。これがほんとに画面内で自由に動きまわるのかと思うと、感嘆で言葉もないな。 ただ、妙にジブリくさい音楽は正直、あまり好みじゃない感じです。これがテーマ音楽なんだろうか。 [youtube] Ico & Shadow of The Colossus - HD TGS 2010 Trailer ICOとワンダも鮮明かつなめらかに。どちらも単純に解像度やフレームレートを上げれば上げただけよくなるという作品ではないかもしれないけど、そのへんは細やかに調整してくれると期待。 『人喰いの大鷲トリコ』の詳細に迫る! 上田文人氏インタビュー【TGS2010】 ゲームデザイン的には獣と少年と兵士がじゃんけんのような三すくみの関係になる。獣をコントロールできないことがコンセプト。らしい PSストアに名作「ガンパレードマーチ」きた PS3とPSPでDL販売開始。もし遊ぶ機会があったら、今度こそスカウト絢爛舞踏を目指してみたい #
by umi_urimasu
| 2010-09-09 21:52
| 本(others)
ときどきファンタジー系の出版物に関するしょうもないトレンドリサーチをしてくれている Orbitが、またへんな調査結果を出してました。「今年のファンタジー小説の表紙に描かれたドラゴンの体色の中でもっとも多いのは何色か」を調べた図、というものです。 The Chart of Fantasy Art Part 3: Dragons うん。毎度ご苦労さまといわざるをえない。
![]() この調査、もし日本でやったらどうなるだろう。やるほども数がないかな。 あと、他にはない珍しい色の竜ってなんかあったっけ。「万色にして無色」のタキシスとかでしょうか。 ───── 「パプリカ」「千年女優」などの作品を手がけたアニメ監督の今敏さん死去 癌ですと。やんぬるかな……。虚構の多重連鎖を見せる表現のあざやかさ、失見当識的な幻惑感が筒井康隆好きとしてはツボ直撃で、千年女優などくり返し見たものでした。なんとしても惜しい。 [画像] カラー写真でみる100年前のロシア - The Big Picture - Boston.com セルゲイ・プロクジン=ゴルスキーの仕事。鮮明な写真から当時の人々の生活の様子がありありとうかがえます。ゴルスキーさんほんまGJやで 【本人降臨?】漫画家やってるけど質問ある?|VIPPER速報 高遠るい氏ご本人らしい。好きな漫画家が魔夜峰央とは意外、でもないのかな。確かに、ギャグシーンで猫目のチビキャラになる表現とかけっこうパタリロ的かも。 「俺の屍を越えてゆけ」の続編企画が提出中、ソニー内部でも賛同する動き これは期待。子づくり三昧の日々よもう一度。 荒山先生トークショー再び ~やっぱり荒山先生は荒山先生だ~ 荒山徹トークセッション「百済・新羅 石田三成を巡る時空」(その一) ああ、最早何も言うまい 語るべき言葉、ここにあらず 話すべき相手、ここにおらず 徹、ただ前を向き、ただ斜め上を目指す ただ前を向き、ただあらぬ方を目指す Viz Haikasoru Imprint - Japanese SF 刊行予定リスト更新 マルドゥックスクランブルに書影画像が。あと、グッドラック雪風、ロケガ、荻原規子の勾玉シリーズ白鳥異伝?が新たに追加。だんだん伸びてきたこのリストを眺めてると、ハードSFからファンタジーまでゆるいSFのくくりでわりとなんでも扱うようでいて、ニューウェーブっぽいのだけは避けられてるような気がする。飛浩隆マダー テッド・チャン “The lifecycle of software objects” @ val it: α → α = fun これと「息吹」、「商人と錬金術師の門」、「予期される未来」にエッセイを一、二本たせば、邦訳作品集がまた一冊つくれるのではなかろうか。 #
by umi_urimasu
| 2010-08-23 23:54
| まぞむ
ずっと気になっていたこの奇妙な本を、「夏休みだから」というよくわからない理由で読んでみました。めあては、明治時代に東方の理想郷「白水境」(ベロヴォージエ)をめざしてウラルの奥地から日本までやってきたカザーク(コサック)の旅行者がいた、という驚くべきエピソードを紹介した第三章。いやはや、面白い。ほんとにヤーパンまでエクソダスしちゃったのかよ。 多くの貧農たちを東方へのあてどない探索行に駆り立てた日本=ベロヴォージエ伝説。そこへの行き方を記したガイドブックとして19世紀に旧教徒のあいだで知られた「日本国(オポーニア)への旅案内」なる怪文書は、じつにいかがわしさ爆裂な代物だったようです。いわく、その島々には数百もの教会があり、ロシア人は大歓迎を受け、誰も国に入れずどことも戦争をせず、教会がすべての民を治めている、云々。また、19世紀半ばのアルカージイなる人物はさらにひどく、「日本総主教」叙任証をたずさえて北ロシア各地を巡り、ベロヴォージエには50万のロシア人が住み、教会の数は700、皇帝の名はグリゴーリイ、などとまことしやかに吹聴してまわったそうな。 当然ながら、アルカージイの妄言を真にうけて旅に出たカザークがたどり着いた土地は理想郷などではありませんでした。そこはなんの変哲もないただの日本でした。もう長旅ご苦労様でしたとしかいいようがない。けれど、この話を聞いて不思議と彼らの無知を笑う気にはなれません。知識人でも国家使節でもない無学な農民たちが、理想郷の実在を確かめたいというただそれだけの動機で実際に15000キロの道のりを越えてしまう。結果がどうあれ、そんなとてつもない奇行をしでかしたパワーが単純にすごいと思います。人としてのパワー配分が、もう信仰力一択って感じなんですかね。 ウラル・カザークたちはこの日本行のあともまだあきらめず、文豪トルストイを訪ねてベロヴォージエのありかについて教えを乞うたそうです。トルストイは1904年の知人宛ての手紙にこう書きました。「(カザークたちの来訪の理由を知り、)この驚くべき現象は非常に非常に重要なことを考えさせます。」 古きよき信仰を守る正しきキリスト教徒だけの蜜あふるる約束の地。どこにあるかわからんがそれは絶対にあるんじゃよー。そうした、あいまいなわりに強烈で切迫した実在理想郷への夢につきうごかされ、人々は大挙して東方へと放浪をくりかえしました。当局につかまってシベリア送りにされたケースも多かったとか。では、そのロシア旧教徒とはいったいどういう連中であるのか。Wikipedia では、ギリシャ正教の流れを汲むロシア正教会の中の古儀式派 (分離派)の項で、彼らについてわずかに言及されています。キリスト教の主流派とケンカして以来迫害を受けつづけてきたマイナーで厳格な宗派です。ただし その記述からは、生活感とか日々の苦労みたいなリアルな部分はちっとも伝わってきません。そういうものに触れうるのは、やはり当の人々が世代を重ね伝えてきた伝説や伝承や歌でしょう。 本書で紹介されている多くの文献や口承史料から、その考え方、ライフスタイル、歴史的ないきさつが見えてくるにつれ、驚嘆の念は増すばかりです。あんたらどんだけ厳格主義なんだよ! 迫害と窮乏に耐えて古い信仰を守りぬくため、また信仰による団結なくしては生きていけなかったためとはいえ、宗教面でおおざっぱな日本人には想像もつかないほど過酷な孤立の道を、彼らは凄まじい頑固さで歩んできた(あるいは、21世紀の今もまだ歩みつづけている)らしい。いやもう、ほんとご苦労様としか。 ロシアのユートピア伝説として Wikipedia に載っている例は、スヴェトロヤール湖に沈む見えぬ町 キーテジ だけのようですが、本書にはその他にも、前述の白水境(ベロヴォージエ)、17世紀の司祭アヴァクームの自伝に出てくるバイカル湖上の楽園、オスマントルコ領のカザークが語り伝えたバグダッドの彼方にあるという「イグナートの町」など、さまざまなバリエーションが取り上げられています。特にキーテジに関する考察は徹底的。さすが本職の研究者たちはやりこみ具合が半端ねぇと感心しました。それ単体で読むとわけがわからず戸惑うところの多い日本の遠野物語とかも、ちょうどこんなふうに研究成果といっしょに読めるといいなと思ったり。 『遠野物語』を読み解く (平凡社新書 460): 石井 正己: 本 これなどがよいかの。 著者の中村喜和氏は中世ロシア文化史の泰斗として功績厚い人物だそうで、本書の内容も論文集的な色合いがちょっと濃いめです。僕のようなずぶの素人には敷居が高すぎるところも少なからずありました。が、そこらへんは伝奇愛で押し切った。「もしも柳生が」的な精神で。これさえあれば大抵の歴史本はなんとかなる。 ネット上では、白水境ベロヴォージエやキーテジ伝説、トルコのカザークなどについて日本語で詳しく紹介している場所はほとんどありません。この本にしても、知らなければ永久にそのまんまになる可能性がきわめて高いものでした。僕に読むきっかけを与えてくれたのは魚石庵の紹介記事 読書録「増補 聖なるロシアを求めて」です。かたじけない。足を向けて寝られないです。 以下、関連 Wikipediaリンク。 世界の理想郷伝説 - Wikipedia アヴァクーム - Wikipedia キーテジ - Wikipedia ロシア正教会 - Wikipedia 古儀式派 - Wikipedia 余談ですが、魚石庵主様による 「伝奇ゲームファンのための日本伝奇入門」は、ネットで読める初心者のための伝奇小説ガイドとしては最上級のものでしょう。伝奇道で行き先に迷ったらまずはここ。 ───── [画像] うち捨てられたホビット庄のセット さびれた袋小路屋敷に羊が一匹、二匹。なんかいかにも第四期くさい、もの悲しい風景だ……。ただしこれはかなり前の写真で、今は次の映画のために修復作業中だとか。よかった。 Togetter - 「ゲームでプレイヤーを「演じる」こと、演劇で「役を演じる」ことの違いについて」 ゲームデザイン方面っぽい話。演じるというよりは物語を体験するという行為について。欧米と日本でのFPS、TPS嗜好のちがいも興味深い。 [ニコニコ] 第5回MMD杯 本選リスト 始まった。週末をつかってたらふく見よう [ニコニコ] 【第5回MMD杯本選】ハートキャッチ☆ドワーフ! ケレブリアンと夕星アルウェンをなさしめられた貴いお方よ、これ以上なんと、えー、なんと申せばよいことか。 #
by umi_urimasu
| 2010-08-11 20:01
| 本(others)
つい昨日、テッド・チャンの直近のものらしきインタビューが Boing Boing にアップされました。昨年の来日時のインタビューの翻訳 「 「地獄とは神の不在なり」を巡って」の倍近いボリュームがあるようです。以下、特に面白そうな中盤の部分を少しだけ個人的に日本語訳したものを載せてみようかと思いますが。時間と自由意志、最新作 "The Lifecycle of Software Objects" の動機について語っているあたりです。あと、日本での妙なチャン人気の理由とか。
あなたの作品の多くは未来予知に関係するものごとを扱っています。時間の性質の何があなたの心をとらえるのでしょうか?自由意思の問題。タイムトラベルのすべての面白さの根本にあるのは自由意思だと僕は思っている。 僕のいうタイムトラベルには、未来から情報を受け取ることも含まれる。それは本質的にだれかが未来から旅してくるのと同等のことだから。タイムパラドックスを作り出せるというアイデアは、自由意思の存在を前提としている。複数の時系列をあつかうアイデアの場合であっても、どれをとるかの選択は行えるので自由意志の存在が前提となる。僕たちに自由意思はあるのかどうかという哲学的な議論は昔からあるが、通常それはやや抽象的なものだ。タイムトラベルや未来予知は、この問いをとても具体的にしてくれる。 もし未来に何が起こるか知ることができたとして、あなたはそれを避けることができるだろうか? たとえ「できない」という物語であっても、「できるはずだ」という気持ちからは感情的なインパクトが生じるんだ。 日本にはあなたのファンが多いようですが、なぜでしょう?わからない。そうと知ったときはとても驚いた。おかげで、ある作品を他の作品よりも翻訳に適したものにする要素は何かということについて考えさせられた。特定の文化的なものの見方に深く根ざした物語を完全に理解するためには、その文化を熟知している必要がある。そういう物語はおそらくうまく翻訳できないんだと思う。僕の作品が哲学的なフィクションであるかぎり、それはアメリカ文化にあまり強く依存しないので、翻訳向きなんじゃないだろうか。これで日本語に翻訳された理由の説明にはなるかもしれない。こちらよりもあちらで人気がある理由の説明にはならないかもしれないが。米国ではグレッグ・イーガンの小説はほとんどが絶版なのに、日本では彼のことは神格化されているようだ。光栄にも僕の仕事をイーガンにたとえてくれる人々もいる。このことは、日本のSF読者がアメリカの読者ときわめて異なった嗜好をもっているという考えを裏付けてくれるだろう。 最新作 'The Lifecycle of Software Objects' を執筆した動機は?主として、ほとんどのSFにおける人工知能の描かれ方への回答だ。SFでのAIは大抵、忠実で従順な執事として表現される。スイッチを入れれば電源が入ってすぐ命令をきく態勢になる。僕はそこにあるはずの、AIの創造に関する膨大な物語がごまかされてしまっているような気がする。これは人間の脳と同じほど賢いソフトウェアの技術的詳細のことじゃない。大半のSFは奇跡的なテクノロジーの進歩を前提としているけれど、それを説明する必要はない。ただ僕はAIに対して、このソフトウェアに人間の脳並みの賢さをもたせ、執事並みに役立つように育てることのできる誰かがいた、という二番目の奇跡が仮定されているように思う。 現在のコンピュータはいまだ新生児の脳の能力にさえ何光年も及ばない。もしそこにたどりつけたとしても、有能な執事に育てるにはまだ不十分だ。たとえばアーサー・C・クラークの2010年で、HAL9000が起動後に発した最初の言葉はたぶん「おはようございます、チャンドラー博士、授業をはじめてください」だった。これは新生児のセリフじゃない。 その下には、その単純な文章の基礎となった一生涯にわたる経験があるはずだ。その経験はどこからきたのか? もしそれがプログラムされる式のものなら、HALにはまったく授業など不要だったろうに。いったい彼はどうやって英語を学んだのか? 彼は授業のための準備をするということが何を意味するのかを、どのようにして知るのか? 人間を役に立つ使用人にするには何年もかかる。より有能な使用人が欲しければ、それだけ長い時間がかかる。 使いたいすべてのAIについて、それぞれ同じ過程を繰り返す必要はないかもしれない。ひとつのAIを一度訓練すれば、あとはコピーをつくるだけでいいかもしれない。でもやっぱりだれかが最初のひとつを育てなければならず、それは困難でじつに手間がかかるだろう。ほとんどのAI描写は、このステップが不要であるか、容易なものとみなすけれど、僕の考えるAIではこれを技術的な奇跡とは完全に別個の奇跡として仮定している。 その二つのAIの奇跡の実現可能性はどの程度ありうると思いますか?実際問題としては、AIについてはかなり疑問視している。不可能ではないと思うけれど、きわめて困難で、なぜ皆がかかずらおうとするのかわからない。 今のGoogleはとてつもなく便利だが意識なんてもってないし、そんな方向に向かってもいない。もし50年前にだれかがgoogle並に便利なコンピュータをSF小説の中に出そうと試みたなら、それはある種の意識を持つものとして描かれただろう。でも今は、コンピュータは便利であるために意識をもつ必要などないということがわかっている。普通のソフトウェアで僕たちの目的には十分だ。 僕の予想ではこれはずっとそのままで、今までのソフトウェアは「覚醒」などなしにその利便性を高めていくと思う。 一方で、初歩的なAIソフトの一形態で驚くほどの人気があるのがバーチャルペットだ。「シムズ」が史上最高のベストセラーPCゲームになるとだれが予測したろう? ソフトウェアとの感情的な関係は人々を強く惹きつけるものだということがわかった。だから、意識をもつソフトウェアを進歩させる最もありそうな理由は、便利さよりもその楽しさからではないかと思う。それは実際に意識をもつソフトが、意識をもつ生物のふりをするだけのソフトよりも「楽しいかどうか」のみにかかっているだろう。もしそうなら、次には本当に人々が時間をかけて役に立つAIを訓練しようという気になるかもしれない。 …とりあえず訳したのはここまで。これでも全体からすればほんのわずかです。このあとさらにAIの身体性についての突っ込んだトークがつづくのですが。自分が読めればまあいいかという程度の志の低さゆえ、ヘボ訳なのはご容赦。問題なしだといいんですけど。 (追記) テッド・チャン・インタビュー 前編 - P.E.S. テッド・チャン・インタビュー 後編 - P.E.S. ありがたいことに残りの部分を訳してくれる方登場。お疲れ様でございます。 ───── 「ジェイクをさがして」 (ハヤカワ文庫SF): チャイナ ミエヴィル 日本版の表紙どえりゃーかっこいいがね。絵師はペルディードストリートステーションと同じく鈴木康士氏。 今週の本棚:若島正・評 『ジェイクをさがして』 チャイナ・ミエヴィル著 書評を読んでさらに買いたい度アップ [ニコニコ] 動画検索 第5回MMD杯予選 回を追うごとに大規模になっていくお祭り。また全部見切れない予感 [ニコニコ] 【第5回MMD杯予選】 BLUE SKY なんかすごいPVが上がってた。これもMMDなのか シグルイのススメ 覚悟+シグルイな豪快すぎるネタ漫画。混ぜるな螺旋!ぎゃばらば [画像] Shorpy Historic Photo Archive 19世紀末~20世紀初頭アメリカの風物を撮影した歴史的な写真を大量に集めているサイト。かなりの高解像度で、芸術的、資料的価値も高そうなもの多数。見てると時間がふっとびます。これのヨーロッパ版がどこかにないものか。 #
by umi_urimasu
| 2010-07-23 21:48
| 本(SF・ミステリ)
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「ゾンビ・ダイス」のようなものをお手軽に自作して遊ぶ
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