「ちょっと未来の道具で始まるちょっといい話」をとりそろえた作品集。もともと技術系ハードSFを得意とする小川一水ですが、これはそっち系の読者のためではなく、あくまで広く一般人向けに書かれたもののようです。物語は日常ドラマから逸脱せず、出てくる機械もカメラや介護ロボットといったわかりやすいものばかりで、読後感はすっきり爽やか。話題は平凡なOLやさらりまんの恋愛、仕事、趣味のことまで。科学の話は深入り禁止。
そういう趣旨の本なので、硬いSFを主食にしているような人にとっては張り合いがないと思います。でもそんな人たちのことを気づかってくれたのかどうか、一応「白鳥熱の朝に」というガチSFな作品もひとつ収録されています。これはパンデミック後に生き残った人々の苦悩を描く、いわばプチ「復活の日」。実際に近い将来の世界的大流行が懸念されている新型インフルエンザ(H5N1型)を題材としており、想定される蔓延のプロセスからポスト・パンデミック期の社会問題などにまで目くばりが効いていて、ちょっと考えさせられる内容です。僕も思わず真剣に読んでしまいました。明日はわが身ということも十分ありうる話だ。くわばら。 ところで、表題作「煙突の上にハイヒール」に出てくる「Mew ミュウ」、これはプロペラのついたランドセルを背負って空を飛ぶ一人用ヘリコプターみたいなものなんですが、じつはそれっぽい道具はすでに実用化され、販売もされているみたいですね。もちろん燃料電池式じゃなくてガソリンエンジンだけど。 GEN CORPORATION 自転車感覚で乗れる1人乗りヘリコプター メーカーは日本のゲン・コーポレーションというところ。なんでも社長の趣味の延長で開発されたらしい。見た目は少々もっさいし騒音もきついですが、最大高度1000m、時速90km、飛行時間30分と、性能はMewと比べても見劣りしません。というか、むしろこちらがMewの直接の元ネタではあるまいか。ただし、スペックが足りていても種々の法規制がかかるため、日本では自由に飛びまわるなどもってのほかだそうで。 ───── テッド・チャン インタビュー 「地獄とは神の不在なり」を巡って これは貴重!宗教と科学、神の存在、自由意志と決定論などのテーマを、それぞれの作品でどのように扱っているか、チャン自身が懇切丁寧に語ってくれています。作家志望者へのアドバイスとして、「なぜ物語を書くのか」というモチベーションについての考え方も披露。 『僕たちは未来がわからない。問題ないね』『ただ一人自分のみ語ることのできる物語というのは、ほんとうにわずかしかない』『作家にとってもっとも必要なものは、自分自身に忠実であること』とかかっこいいセリフ連発でちょっと笑える。意外と熱い人なのかな。 [ニコニコ] ゴンドールの大将が踊る「キラメキラリ」 今度はボロミアです。モデルのクオリティ異常すぎます。すばらしい笑顔だ [画像] Hotel Ukraina in Moscow ヒプノシスのジャケットみたいな不穏さが印象的な写真
by umi_urimasu
| 2009-11-15 08:19
| 本(SF・ミステリ)
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