これはひどい。いや、もはや一周してかっこいい。
まともな神経をもった人間の所業とは到底思えない話なのに、呆れ果てて絶句するしかない荒唐無稽さなのに。なぜ、どうして、こんなにも美しく虚実のつじつまが合ってしまうのか。「もうこれ正史でいいんじゃね?」と一瞬でも思ってしまった僕は、たぶんすでに脳が冒されているのにちがいない。荒山菌という奇病の虫に。 黒船来航より三年後。若き長州藩士・伊藤俊輔は、海原に忽然と降ってわいた美女にいきなり命を狙われた。女は名乗った───「処刑御使」と。この一件を皮切りに、次々と身におぼえなき凶刃が伊藤を襲う。しかも怪異きわまることに、謎の刺客たちは絶命すると一瞬にして跡形もなく屍体が消えてしまうのだ。彼らはなぜ、一介の雑役夫にすぎぬ少年をかくも執拗に狙うのか?その理由とは、驚くべし、後の世において大韓帝国に災いなす怨敵・伊藤博文を、子供のうちに暗殺するためであった!時空を越えた暗殺者と守護者の間で、前代未聞の妖術戦が始まる。うわあい。もう手のつけようがないよ! 先に朝鮮柳生の作品集を二つばかり読んで、柳生もので有名な作家ならそれ以外の話はちょっと地味なのかな、と思ってたけど甘かった。とんでもない誤解でした。柳生以上に自重してなかった。朝鮮妖術のはっちゃけぶりもますますひどくなっていた。中でも特に秀貌の妖術師・風伯のあやつる術がひどいです。その名を!その名を!その名を! G(ジャイアント)・不動!! もとい、「大武仏」!パンチだ、不動! まあそれはそれとして。 ハイテンションな伝奇活劇に加え、朝鮮史と日本史の「学校で教えてくれない」つながりを娯楽小説にあるまじき詳しさで披露してくれるのも荒山作品ならではの楽しみといえるでしょう。大韓帝国の排日派が伊藤博文を暗殺するほど憎んだわけを、単に国家の主権をうばわれたからという利害の問題だけに帰するのではなく、千年におよぶ歴史をひもといて理にかなった理由を再構築してみせる手際のあざやかなこと。 そういえば、劇中での印象的な科白にこんなのもありました。 「雪蓮のこの肉体を、大韓帝国とこそ思し召しください。どうか、大韓を慈しみくださいますよう……」これは二国間にわだかまる怨恨の歴史を深く調べた作者ならではの、それなりに切実な感情が込められた言葉なのかもしれません。もし国と国とが損得勘定だけでむすばれるのでなく、もっとこう、ラブラブな関係になることができたなら、今ほど悲惨ではない歴史の可能性もあるいはありえたのではないかという。まあそれができないからこそ現実には戦争の歴史ばかりになってしまうんでしょうけど。それにしても地球人て仲悪すぎだよね。 伝奇の鬼才として山田風太郎に比べられることもある荒山徹ですが、いくつか作品を読んで、まったく別の面も見えてきたように思います。歴史への目線とかそういうところで、山風的な虚無感とはむしろ逆なもの、愛憎一如の念を煮つめたような熱さが、ほうぼうに出ているのではないかなと。ストーリー以外でも、ドラマの帰趨に影響しない朝鮮史のディテールをやたらこまかく書き込んだり、国のために命をなげうつ国士タイプの人物がよく出てくる(そして大抵非業の死をとげる)ことなどもそのへんに関係あるのかなあ、とか思っているんですが。インタビューとか読んでみたら何かわかるかな。 ───── 万国『宇宙消失』博覧会 - 本とか音楽とかニュースとか イーガンの「宇宙消失」世界各国のゆかいなカバーイラスト集。ロシア版はまさに腰くだけ。竹刀やめい。イギリス版の「かに道楽」も地味に深手。 仏のデベロッパCyanide,ファンタジー小説「氷と炎の歌」のゲーム化権を獲得 マーティンマーティン、頼むから本編の執筆だけに専念してくれろ。って言いたいけどあんまり急かすとまたキレるかもしれないので言わない。ところでそのゲームはゾンビにクラスチェンジとかできるのかね。 [ニコニコ] 【蝉丸Pの】ニコニコ仏教講座4・「仏壇あれこれ」【一問一答】 ニコ衆生の一部に大好評の電脳辻説法。蝉丸Pの生説法を聞いてみたいです ブラム・ストーカーの「ドラキュラ」がブログに とりあえず僕は日本語版を読まなきゃ。でもかなりのボリュームで、なかなか手を出す決心がつかない P・K・ディックの「流れよ我が涙、と警官は言った」映画化へ いったいこのおっさんと警官どっちが主人公なんだよ?と、前半と後半のギャップに困惑しながら読んだ記憶があるなあ。SF映画としては地味な絵の、見た目普通の日常不条理ドラマっぽい感じになるかも 「ホアズブレスの龍追い人」パトリシア・A・マキリップ 買ってしまったでござる。文庫本としては普通ぐらいの厚み。そのわりに値段は1100円とやや高め。しかしこれでマキリップ分をたんまり補充できると思えば悔いはない。大事に読みます。 「チンギス・ハン」はどこの人? 韓中蒙で大論争 オンラインゲームめぐり三つ巴の“国際問題”に発展 そのどれでもないノッカラ義経説を推す
by umi_urimasu
| 2009-05-14 20:05
| 本(others)
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