うつし世は夢、夜の夢こそまこと。
現実を愛し、それにもまして虚構を愛する者たちよ。 同胞たちのあげる悦楽の咆哮が聴こえるか。 筒井康隆好きならたぶん誰しも、映像化の難しい作品であればあるほど、その映像化を切望していることでしょう。でも実際には、需要と供給はうまくマッチしてくれたことがありません。 これまでも原作に選ばれてきたのは「七瀬ふたたび」「大いなる助走」「男たちのかいた絵」「俗物図鑑」「ジャズ大名」などなど、比較的現実味の強いタイプのものがほとんどでした。 理由は主にお金の問題だろうと思うけど、供給側には映像表現上のハードルの高い原作を極端に嫌う傾向があるらしい。しかし、ファンがほんとうに見たいのは「朝のガスパール」「虚人たち」「夢の木坂分岐点」「虚構船団」「残像に口紅を」「唯野教授」といった、「どうやって映像にすんだよ」的な作品群なのであり。 この落差が一向に埋まらないまま、数十年が過ぎ去って…… そしてこのたび、ついに「パプリカ」のアニメ化が実現したわけです。 これはちょっとしたブレイクスルーと言っていい。夢と現実の混淆という、筒井康隆作品のなかでもとりわけ映像レベルでの虚構性の強いものが巨費を投じた劇場映画の題材に選ばれた、おそらくは初めての例だからです。1980年代以降の超虚構的な筒井作品の映像化は、当時はいざしらず、現在の技術をもってすれば十分可能であり、なおかつ商業的なヒットも見込めるということがこれでようやく証明されたと言ってもいいでしょう。 ええ、それでつまり何が言いたいのかというと? 誰か虚航船団の映画を作ってくれよってことですねえ。 もう僕と来たらそればっかりで。いや、もうこの際、ビジュアルノベルでもいいから。 そういえば、イーガンの「万物理論」にはPCを使ってたった一人でドキュメンタリー番組をちゃかちゃか作ってる描写がでてきます。早くああいう時代になればいいのになあ。 ファンにとっては、とりあえず映画化されたというだけでも十分嬉しいわけですが、パプリカについてはそれが今敏という監督の手によって行われたこともたいへんな幸運でした。なにしろ、「千年女優」でも随所に見られたメタフィクショナルな演出が最初から最後まで全開状態ときては。原作のもつけだるさや背徳感はやや抑え気味になったものの、その分サスペンスとしてはコンパクトでスピード感のある仕上がりにもなっています。絵も流れていくのがもったいないぐらいの奇麗さ。人形の行列やさびれ果てた廃墟の風景の不穏さが特に印象的でした。 ちなみに音楽は平沢進。活動写真のなつかしさと仮想世界SFの新しさを合わせもつ「パプリカ」の雰囲気に、超時代的な平沢サウンドはまさにおあつらえ向きという感じ。 いやまったく、とんでもなく快楽的な映画だったよ。 ───── 劇中のキーアイテムのひとつでもある日本人形のイメージは、作者自身が執筆中にその夢を見て恐怖のあまり総白髪になったという逸話があったけど、さすがにアニメではそんなに怖くない。でもあの気味悪さはすごくわかる。日本人にとっての日本人形って、動いたらヤバいモノの筆頭じゃないでしょうか。どうしてあんなに異常に怖い気がするんだろう?
by umi_urimasu
| 2006-12-25 17:31
| 映画
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