再見。精緻な映像美はさっすがでした。しかしそのリアルさゆえか、かえって3次元と2次元のへだたりの大きさを考えさせられもしたり。
「イノセンス」や「人狼」のような、いわゆるリアルアニメの根本的な発想は、古典的なアニメーションの表現を使ってできるだけ実写の感触に近づけるということだろうと思います。では、いったいどこまで近づければいいのだろうか。 結論からいうと、正直なところ、これ以上近づけても近づけなくてもあんまり変わらないんじゃないの?ということになるんですけど。 冷酷な見方ですが、情報の量と複雑さにおいて、人間が手で描いた絵はしょせん、カメラで記録される現実の光景に勝てません。この情報量の差はもう絶対に埋まらない。水中の魚がいかに高く跳ぼうと、鳥がいる空の高みには決してたどり着けないのと同じように、努力でどうにかなる問題じゃない。 「イノセンス」の映像はたしかにリアルです。他のアニメ一般に比べれば。しかし「現実と見紛うばかりにリアル」とはとても言えないし、今後も言えるようにはならないでしょう。そして、他のアニメよりも幾分かリアルっぽいという程度のリアルさに、果たしてどれほどの価値があるのかなって。 「アヴァロン」のように実写の映像から情報を削り落としていくやり方と、「イノセンス」のように2次元アニメの情報量を増やしていくやり方は、どちらも3次元と2次元の間に横たわるギャップを埋めようとするものです。この二つは、いつかどこかでばったり出会うのかもしれません。出会えば、そこが実写とアニメの融合ポイントになるかもしれない。でも、実際に両方見る方としては、そのポイントがどこかなんてことは既にどうでもいいことのような気がする。 それよりも、ギャップが埋まらないことはわかり切っているんだから、2次元は2次元でしかできない工夫をするほうがより生産的なんじゃないかねーと個人的には思っています。 たとえば、TVアニメ「巌窟王」は、キャラクターの衣服に模様のテクスチャを貼りつけて、クリムトの絵みたいな感じ(?)のきらきらした画面づくりを試みていました。別にあれがいいとは言わんけど、3次元並みのリアルな絵を人力で描こうとするよりはずっと簡単な実験だし、妙な装飾的効果も期待できる。そういうやり方のほうが、アニメーション形式には向いていそうな気がするのです。 ちなみに、「イノセンス」についていえば、背景などのCG映像の陰影のリアルさと、相変わらずツートンカラーで影を表現した人物のアニメっぽさは明らかに乖離していました。その乖離に何らかの面白さはあったか?といえば、「不自然だなあ」と感じはしても、あまり面白いとは思わなかったですよ。少なくとも僕は。 あー、何を言いたいのかが今いち不明瞭で申し訳ない。 簡単にいうと、アニメーション形式っていうのは、映像的にリアルになったとしても、それに見合うだけの効果が出にくいんじゃないか?っていうことかな。リアルさのご利益が少ないと言いますか。 なんか思ったより硬い話になってしまった。 「イノセンス」という映画は本来、群がるロボットを少佐がスパルタンX風にまとめて蹴散らすサイバーカンフーアクションなんだが。 ザコ敵と同じ義体なのに少佐が使うとメチャ無敵になるっていう演出、わかりやすすぎて笑っちゃいますね。押井守って、じつはそういうコテコテなやり方が大好きな人なのかも。
by umi_urimasu
| 2005-04-18 19:27
| 映画
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