ちわーす。明けましておめっとさん。謹賀新年、おめでたい時期なのでおめでたい映画のレビューをします。どこがめでたいの?と素で聞かれるとちょっと返答に窮しますが、とりあえずロケットの打ち上げも一種の慶事ということで。それに、個人的には何だかいかにも「正月映画」っていうイメージなんですよ、これ。理由はよくわかんないけど。 ともあれ、見直すたびに妙な磁力に引かれる、独特の濃さをもつ「オネアミス」。いつもオープニングを見始めるときは、宇宙をめざす若人たちの盛り上がりに対する共感なんてとっくに失ったと思っているのに、コミカルな訓練風景がつづくうち、いつしかまた彼らの熱に当てられてしまっていることに気づく。 「みんな立派だよ!歴史の教科書に載るぐらい立派だよ! 俺はまだやるぞ。死んでも上がってみせる!」 ちなみに、この「若さ」は単にキャラクター描写だけじゃなくて、作品そのものがもつ特性でもあります。確かに洗練されたできばえという感じではない。貞本義行のキャラクターも硬すぎてとっつきにくい。しかし、執念深く作り込まれた異世界は、そんなものを越えて見る者を飲み込んでしまう猥雑なパワーに満ちています。 ひとつは絵の力。日常風景の細部まで徹底された、アールデコを戦後復興期の日本にぶちまけたような異様なデザインが生み出す不思議なノスタルジー。 そして音楽の力。坂本龍一による端正でエキゾチックな音がこのビジュアルに重なると、まったくもって呆れるほどに世界の存在感が増す。僕がいちばん強く「アナザーワールド」を感じるのも、実はこのあたり。 さらに言葉の力。特に怪しさ爆発のリマダ共和国語。初めてあれを聞いた人は必ず笑いますよ。「似て非なる」世界のもっとも直接的な説明かもしれません。「アンタバライ(幸運を祈る)」は語り草に。 最後に、それらを場面場面で強調しながら、クライマックスに向かってどんどん尖っていく物語。ストーリーと演出については、「誰かがこれをここまでまとめてくれたんだなぁ」と、ただ心から感謝するのみです。 結局、オネアミス以前も以後も、2時間の長さにわたってここまで「異世界感覚」を強調し続けることに成功したアニメーション映画は、少なくとも日本では皆無なんじゃないでしょうか。 たとえば、現代日本を舞台にしたとしても全く同じストーリーは作れるでしょう。けれど、「どこにもないどこか」でやることにこそ、何だかわからんけどいい感じの何かがある。それはたぶん、「ここではないどこかへ行きたい」という、人間すべての根源的な欲求に根ざしたものであるはずだ。でなければ、誰もわざわざ異世界の想像なんてしたりしないもの。 教会のシーンなんかは「主人公に対してちょっと優しく納めすぎ」だと思うんですが、一方でこの作品にはそれが合っているようにも思えます。これに限らず、オネアミスの物語は主人公にとても優しい。むしろ甘いといってもいい。でも、そういう甘さを通せるのも作品が「若い」からだ、という気がする。話の中では、宇宙開発も戦争の口実にすぎなかったり世間の人々に反発されたりといった現実的な側面も描かれますが、主人公シロツグはやがてリイクニの中に許しを見い出し、そうしたことへのこだわりを捨て去っていきます。最後には無言で見つめ合って「……行ってきます」「…行ってらっしゃい」みたいなシーンすらある。 若い。青い。だがそれがいい。もちろん合わない人には合わないだろうけど。 ふとしたことから、人類で初めて宇宙に踏み出す者となったシロツグ。崇高な理念も深遠な思想もなく、ただ単に宇宙へ行きたいというだけの宇宙飛行士。彼はある意味では「子供」です。その彼が、地上の汚濁の全てから守られ、あるいは逃れて、子供のような誇りをもって祝福と共に宇宙に出ていく。 それは、そんなにめちゃくちゃ悪いことだろうか? それぐらいはまー、いいんちゃいまっか? ときに「蒼きウル」の映画化マダー?
by umi_urimasu
| 2005-01-02 20:11
| アニメ・マンガ
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