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「ザ・スタンド」 スティーヴン・キング
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達成感あるなあ。これだけの長さの小説を、終始まったく飽きずに突っ走った読書経験というのも久しぶりでした。
全体の骨格は指輪物語、主成分はモダンホラー、文庫の1巻ではパンデミックSF、2~3巻はロードノベル、4巻は開拓時代っぽい町おこし、5巻は行きて帰りし物語、といったふうに、「崩壊後の世界における善と悪の対決」という大枠のもと、さまざまなスタイルが盛りこまれた小説です。ジャンルはちがうけど、やり方としてはハイペリオンみたいな。

善悪の戦いを軸にした作品だからか、主要人物の多くは善人あるいは悪人としての素性がわりあいはっきりしています。そういったキャラクターたち、マザー・アバゲイルやスチュー、フラニー、またランドル・フラッグなども、それぞれ非常に魅力的ではあるのですが、キングのねちねちした描写の真価が発揮されるのはやはり、ハロルドやナディーンのように過酷な葛藤の果てに悪や狂気の深淵に堕ちてしまうキャラクターではないかと思っています。またキング作品全般においてモダンホラー的な怖さがもっとも高まるのも、この「堕ちる」箇所ではないかと。ペット・セマタリー然り、シャイニング然り、キャリーしかり、痩せゆく男も然り。しかし、だとすれば堕ちることはなぜそんなにも怖いのか。これは考察の甲斐があるテーマかもしれぬ。いつかよく考えてみよう。

あと、一冊読み終えるつど書いていた各巻ごとの個別感想もこの際なのでまとめておきます。

ザ・スタンド 1 (文春文庫)

スティーヴン・キング / 文藝春秋


「ザ・スタンド」を、ついに読み始めてしまいました。キングの世界滅亡もの! しかもこの超ボリューム。めちゃテンションあがる。滅亡好きのおれによし。愛でてよし食べてよし。
第一巻のなかでは「闇の男」ランドルフラッグの章だけが、文体も内容も明らかに他とちがうようで、かなり異彩をはなっています。それに不可解な玉蜀黍畑の夢。いったいこれらをどうあつかうのか、興味深々。

ザ・スタンド 2 (文春文庫)

スティーヴン・キング / 文藝春秋


災厄を生きのびた者たちが目にする、変わり果てたアメリカ。世界崩壊後のロードムービーっぽいテイストがマイツボ直撃。でもなんかキリスト教的善悪バトルが起こりそうな雲行きにちょっと戸惑い気味。このもやもやした気持ちは…… 現実的なものごとをあつかった普通の現代劇のつもりでずっと読んできた話を、神の思し召しとかで片づけられたくないっていう反発かも。

ザ・スタンド3 (文春文庫)

スティーヴン・キング / 文藝春秋


思わざりき、これほどあからさまに話が指輪物語じみてこようとは。善側と悪側の二勢力にわかれ、超自然的なことが普通になり、指輪ネタも徐々に露骨に。はじめは現代もので指輪をやっちゃうことに抵抗を感じてたけど、これはこういう特異な表現のファンタジーなんだと受け入れることにしました。そう思えたのは、たぶん〈トラッシュキャン・マン〉と〈ザ・キッド〉の狂乱道中が面白すぎたおかげかな。シボーラ、ぱっぱか、ぱん!

ザ・スタンド 4 (文春文庫)

スティーヴン キング / 文藝春秋


人口が激減した今、人々は以前にもまして助けあい、ささやかな共同体を再建しつつあった。だがそこにも闇の力は忍びより、やがて新たな惨劇を生む。悪の元凶を滅ぼすべく西をめざす「旅の仲間」の運命やいかに? 3巻からこちら、善の陣営のほうに描写が集中しがちで、それだけに今回のハロルド・ローダーの華ばなしい悪堕ちっぷりはひときわ輝いてみえました。レイストリンみたいなやっちゃな、ハロルド君。つい同情してまうわ。

ザ・スタンド 5 (文春文庫)

スティーブン・キング / 文藝春秋


ラスボスしょっぺぇ! でもいいんだ。この作品最大の読みどころはラスボスとの熱いバトルなんかじゃなくて、崩壊した世界でなんとか人間性をたもちながら生きのびようとあがく人間の「生きてる感」、圧倒的なディテール描写で伝わってくる生なましいその感触だろうと思うから。


アンダー・ザ・ドーム 上

スティーヴン・キング / 文藝春秋


えーと、そんで「ザ・スタンド」読了後、間髪入れず「アンダー・ザ・ドーム」に突撃してしまいました。血迷ったか俺よ。
→ すげーキングさんフルスロットルすぎる。冒頭から大爆発、大事故、残虐殺人。スプラッターがとまらない。そして閉鎖環境に権力の亡者というおぞましい取り合わせ。これは蝿の王フラグかな。
→ ビッグ・ジム・レニーさんのド外道政治家っぷりが吐き気がするほどクソいやらしくてよい。そしてこれほど強烈なラスボスキャラが、たかだか人口2000人ぽっちの田舎町の町政委員でしかない(それ以上を望んでいないらしい)、というのが面白い。
→ メルヴィン・サールズの印象的な笑いかた、「にゃっく-にゃっく-にゃっく」は原文では "NYUCK-NYUCK-NYUCK" みたいに書くらしいんですが、音の想像がつかず首をひねっています。英語圏ではありふれた擬音表現と思われるが。YouTube - ‪three stooges nyuk nyuk nyuk‬‏ これかな? わからん。いずれにせよ、和訳の「にゃっく-にゃっく-にゃっく」は日本語の語感としてユニーク、かつゲスっぽさが感じられてよいかなとは思う。
→ 読了。キング自身の言葉通り、上下巻二段組1400頁、最後までアクセル踏みっぱなし。ドームメイカーとかSF的にはしょんぼりな真相だけどまったく気にならない。

[youtube] 「アンダー・ザ・ドーム」公式ブックトレーラー
世界的ベストセラー作家の本だけあって凝ったつくり。

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僕の妹は漢字が読める
萌えラノベが主流文学になった23世紀の小説を未来人が批評するという、文芸ディストピア的なメタ小説(ためし読みできる範囲では)。ラノベのスタイルを戯画化して嘲弄するやり口はなかなか辛辣。筒井好きの血がちょっとさわぐ。

涼もうと入った本屋で ダールグレン を見かけてしばし躊躇。ぐぬぬ、お高い……少しだけ立ち読みしてみる。奇天烈な暗喩表現、まるで詩のよう。かっこいいけど手ごわそう。ギブスンの序文もスタイリッシュすぎて意味不明。かっこいいけど。
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by umi_urimasu | 2011-06-27 00:03 | 本(others) | Comments(2)
「ねじまき少女」 パオロ・バチガルピ
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ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

パオロ・バチガルピ / 早川書房


堪能しました。エネルギー資源不足と環境汚染にあえぐ近未来都市バンコクの混沌、そこに暮らす人々の悲哀や怒りや欲望を複数POVで緻密に描いていく、亜熱帯ムード満点の群像劇。「最近の小説でギブスンっぽいやつを読みたいんだが」という人には、まずおすすめの一品かと。

記録的な勢いでSF賞をとりまくった米国でのヒットに比べて、日本での反応はやや戸惑いまじりのようにも見えますが、これは宣伝文句(「グレッグ・イーガンとテッド・チャンを超える云々」)に語弊があるのかもしれません。実際に読んでみたら、イーガンやチャンのような論理SF?的な方向性の小説ではまったくありませんでした。ひきあいに出すなら、やはりギブスンあたりがよいでしょう。都市の底辺層を顕微鏡的に観察していく視点や、先端技術と妙な日本観のまじりあったおかしな東洋的エキゾチシズム。いかにもサイバーパンクっぽい香り。

しかし、往時のサイバーパンクを髣髴とさせつつも、描かれている世界は今日的な感覚によるものだと思います。けっこうテクノロジーのすすんだ未来の話なのに、すさまじいばかりのジリ貧感! 石油は枯渇し、工業動力源はゾウや人力でゼンマイにためるエネルギー。もちろんコンピュータも電話も手回し式。政治は腐敗しきり、経済はカロリー企業に牛耳られ、難民はしいたげられ、水位上昇、環境汚染、新種の疫病……明るい要素が何ひとつ、何ひとつない。

世の中はこれからどんどん不便になり、衰退していくのではないか。このご時世に、多くの人が抱えているであろうリアルな危機感を、バチガルピは遠慮なくずけずけと突きつけてきます。彼の短編「第六ポンプ」などを読むと、「ねじまき少女」のバンコクすら天国かと思えるほどグロテスクな、ダメダメすぎる未来風景にぞっとします。こういう下降未来観はバチガルピの芸風なんじゃろか。(「ねじまき少女」についてはキャラクターがみんなタフで、生きるためなら「殺すと思った時には実際に殺っちまっている」的なスタンスのせいか、それほど頽廃的な雰囲気はないですが。)

あと、些細なことながら、エミコの描写などにみられる日本観についての疑問がひとつ。ニューロマンサーやブレードランナーに似たトンデモ日本文化的な面白さが、もちろん「ねじまき少女」にもふくまれています。これはおそらく意図的なパロディだと思うのですが、問題は、トンデモ描写の対象が日本だけなのかどうかです。本作の場合、ほぼ全編がタイの描写であるため、日本描写が明らかにトンデモな感じだと、他のアジア描写の信憑性までちょっと疑わしく思えてきてしまうわけでして。

バチガルピ氏は大学で東アジア学と中国語を専攻し、中国に住んでいたこともあるそうです。でもだからといって、作品で素直に自然なアジア文化を描いてくれる保証はない。もしかしたら僕が気づかなかっただけで、「ねじまき少女」は全編トンデモタイパロディの嵐だったかもしれない。まあそんなことないらしいけど。
もし、タイと中国の描写に不自然さは皆無だとすると、それはそれで別の疑問がわいてきます。なんでわざわざ日本だけトンデモ風にしたの?っていう。やっぱりネタとしておいしいからかなあ。サイバーパンク的な意味で。


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山田風太郎「忍術…デタラメ結構」 直筆手紙見つかる
風太郎は甲賀忍法帖のタイトルをつけるときに「忍術帖」と「忍法帖」のどちらにするか、相当悩んだといいます。当時は「忍術」という語が一般的で、「忍法」は新語っぽい感覚だったらしい。今だとどっちも同じように使いふるされて感じるけど。今後、忍術でも忍法でもない新たな呼び名が生まれて広まることはありうるのだろうか。

「シカに注意」「クマに注意」あたりはわかるけど、流石つくばだわ……... on Twitpic
つくば市民は未来に生きておるな

Togetter - パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』感想について、上田早夕里先生によるtweet、リツイートを中心にまとめ。
ノワール的魅力を力説

防衛省が開発した「空飛ぶ球体」がすごいと話題に
完全に電脳コイルだこれ。

ガイギャックスとトールキン
D&D創始者のぶっちゃけトーク。指輪物語は好きじゃないのに表層的に指輪っぽくしたのはトールキン読者をとりこむためだったとか。なんて正直な。

もしトールキンが指輪物語を書かなかったらファンタジー文学はどうなっていたか
長編シリーズよりもこじんまりした作品が増えるのではないか。SFに従属する形になるのではないか。世界構築は重視されないのではないか。エピックファンタジーよりも剣と魔法もの(マッチョ剣士がヒャッハー的な?)が主流になるのではないか、等々。日本への影響はどうだろう。代わりにダンセイニ-ラヴクラフトの系統が大ブームになってたりして。

「鬼哭街」から「沙耶の唄」「魔法少女まどか☆マギカ」までミッチリ質問攻め! 虚淵玄氏&中央東口氏のロングインタビュー
虚淵玄というペンネームからしてキング作品にあやかってつけたほどのキング好きらしいんだけど、具体的にどこらへんに影響を受けてるんだろう。まだよくわからない。

レッツ乙嫁クッキング! 森薫と作るかんたんおいしい中央アジア料理
岸辺露伴タイプの人だ。「料理も作っておこう」「馬も乗っておこう」「解剖書もみておこう」
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by umi_urimasu | 2011-06-01 20:46 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)