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「スプーク・カントリー」をなでなでしたい
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a0030177_2149668.jpgここ数日、ウィリアム・ギブスンの新作「スプーク・カントリー」を読んでいます。ものすごくちんたら読んでます。なんというか劇的な要素に乏しい小説で、ディテールはすごく堪能できるんだけどストーリーを追う意欲がさっぱりわかないのです。別につまらないわけではないんですが。

これはたとえば、端正な美術工芸品(壺とか碗とか)を愛好家がなでなですりすりする心境に近いのかもしれません。いかにもギブスンらしいサイバーポエムな言い回しや、秘密めいたやっかいごとの匂いをはなつ断片群(まさにフッテージ)はそこに在るだけで美しく、そしてそれらを愛でるのに性急さはあまり必要ない。いつ中断してもいいし、いつ再開してもいい。映画や音楽ならそれで興奮がさめてしまうこともあるけれど、壺や茶わんの鑑賞にタイムリミットはないんだからかまわないではないか。という感じで読んでは休み、読んでは休み、とかやってます。そら進まんわ。

しかし、ギブスンをここまで読みあぐねた経験はこれが初めてですね。最近のギブスン作品は昔のと比べてあまりにも読み心地がちがいすぎる。スプロールシリーズの頃って、もっとすごくベタな感じの、サービスサービスな作風じゃなかったっけ。と思って、久しぶりに初期の本を引っぱり出してきてみました。やっぱりそうだ。ニューロマンサーは暗黒街喧嘩伝説だし、カウント・ゼロでは1ページ目からいきなりPOV人物が爆死&蘇生するし、モナリザ・オーヴァドライブではヤクザのお嬢さま、巨大ロボット、ヴードゥー・アイドル、超擬験シンデレラが入り乱れてる。そう、存分にエンタメしている。
これがヴァーチャルライト、あいどる、フューチャーマチックではだいぶおとなしくなり、派手なイベントや過剰にドラマチックな色づけをされたキャラクターがいなくなる。さらにパターン・レコグニションやスプーク・カントリーになると、もはやドラマ性そのものが希薄で、ほとんどただの現代文化メモみたいになってくる。別々に読んでたから実感がなかったけど、じつはけっこう大きく作風が変わってたってことでしょうか。

最近の作品はドラマが地味な代わりに作品世界の解像度はめちゃくちゃ上がっていて、これはこれで刺激的です。でも好みでいったらやっぱり昔のエンドルフィン多めなやつの方がさ。なんかこの、男の子のロマンがさ。などと少年時代を懐かしみつつ古い本たちをぱらぱらめくっているうちにいつしか夜も更けていた。そして今夜もスプーク・カントリーは進まない。

余談。
そういえば僕、一度リアル千葉市を訪れたことがあります。ありふれた街並とモノレールの高架が合体した奇妙な景色が、なんかサイバーパンク的だな~と感心したおぼえがあります。カプセルホテルにも泊まったよ。

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スプーク・カントリーにもARネタが出てきて自分にタイムリーな記事。
現実世界をiPhoneでタグ化するSekai Camera
まだまだしょぼい。でも10年後が楽しみな技術。いつか電脳メガネをかけて街を歩いてポップアップの山に埋もれる体験をしてみたい……というのはさておいて、実際には車のドライバー用の危険察知・事故予防とかに役立てられることを期待しています。

荒山徹の「柳生陰陽剣」と山風版「八犬傳」をついに入手しました。読みたすぎる。でも読むなら全力で読みたい三冊なのでパワー出すタイミングをはかっとく。

ここだけ全員、突然気持ち悪い日記を書き出す女
コピペじゃないとしたら凄い才能

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今川泰宏監督によるマジンガー新作「真マジンガー 衝撃!Z編」テレビ放送決定
マジンガーよく知らないけど今川作品ということで期待。GロボやGガンみたいに賑やかなやつプリーズ

対談 京極夏彦×平山夢明 『愛と「キクチ」』 ロングヴァージョン
愛がうざいので気のすむまで愛叩きをしてやろうという趣旨の……結果的にそんな趣旨の対談。ギャグ多め

製作費28万円、「ロード・オブ・ザ・リング」の前日譚を描く自主制作映画の予告編
アラゴルンのゴクリ探索の旅を題材にしたものだそうですが、PJ映画のテイストを笑っちゃうほど忠実に再現しています。ネットでフリー配布予定。あっぱれな振り込めない詐欺だ。

[ニコニコ] タクティクスオウガ風に アイドルマスター 「団結」
これは神ドットすぎる……僕にマイリスしろというのか

伊藤計劃さんのブログがしばらく更新されないので心配になってきた。大事なければいいんですが
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by umi_urimasu | 2009-02-24 22:41 | 本(SF・ミステリ)
「ニューロマンサー」に出てくる謎の武器の正体
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なにげなくギブスンスレに行ってみたら長年の疑問があっさり解かれてた。
女はそれを差し出して見せた。鈍色の鋼鉄の筒で、一端に革紐、もう一方の端にはブロンズ色の小さなピラミッドがある。女は片手で筒を握り、もう一方の手の親指と人差し指とでピラミッドをつかんで、引いた。固く巻きこんだコイルばねが三本、油まみれに伸び出して、噛みあった。
(「ニューロマンサー」より)
刊行以来多くのギブスン読者をまごつかせてきたであろう、この「コブラ」という武器についての描写ですが。2chのウィリアム・ギブスンスレッド Part5によると、実際的な護身用品としてはこういうものではないかというのです。確かにこれは、いわれてみればまさにぴったりな描写ではある。僕は今までずっと、バネのついた爪とかが三本同時にびよ~んって飛び出すびっくり拷問具みたいなものを想像してました。もちろん冷静に考えればそんなのは不条理だし、第一それじゃあケイスがアホな子すぎる。小説の文章から読者が想像だけでつくりあげる世界像の、なんとあてにならないことでしょうか。

コイルばねの描写は原文では「telescoping segments of tightly wound coil spring」となっていて、「(望遠鏡のような)入れ子構造」という意味合いが一応含まれているようです。黒丸尚の訳文ではそこがぼかされています。仮にギブスンの想定した「コブラ」のイメージが上のようなもので、見た目が明らかにただの伸縮警棒だったとしても、ギブスンはそういうありふれた表現をあえて避けて描写するタイプ。だから、黒丸氏がその意を汲んでわざとああいうふうに訳したという可能性も考えられないことではない。このような小道具の描写ひとつでさえも、著者と翻訳者の創意工夫の融合なのかもしれない。翻訳小説を読むのって、なかなか油断のならない作業なんだなあ。というふうなことを思ったのでした。

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イリジウム33とコスモス2251が激突して発生したデブリの軌道ムービー (youtube版
距離とか速さとか想像すると怖くなってあわわわ。いずれは大掃除しないといけないのかな
ついに起きてしまった人工衛星衝突 “使えない高度”が現実になる時代に
ちょっと洒落になんないという気配です。

IBM、飛んでくる銃弾を避けるリアル「ガン=カタ」スーツの特許を取得
>なお、DARPAはすでに発射後に軌道を変えて標的を追い続けるホーミングライフル弾技術を開発中。
ガンカタ→ホーミングスナイプ→ガンカタver.3.0→リベリオン2制作

文章をクトゥルフっぽくするテクニック
548 名前:名無しんぼ@お腹いっぱい :2005/04/03(日) 13:53:56 ID:FXjwupGu0

私は慄然たる思いで机の引出しから突如現れたその異形の物体を凝視した。それは大小の球体を組み合わせたとしか言い様の無い姿をしており、狂気じみた青色が純白の顔と腹部を縁取っていた。這いずり回るような冒涜的な足音で私に近付くと、何とも名状し難き声で私と私の子孫のおぞましき未来を語るのであった。また、それは時空を超越した底知れぬ漆黒の深淵に通じる袋状の器官を有しており、この世の物ならざる奇怪な装置を取り出しては、人々を混迷に陥れるのであった。
わりと有名な文体模倣ネタのようです。冒涜的な足音!

〈氷と炎の歌〉A Dance With Dragons の進捗状況
難航してるっぽい。今のところ、6月脱稿、9~10月刊行の見込みらしいです。サンサはDWD出番なしか……

[ニコニコ] im@s雀姫外伝SP
ダムアニメすごい動くよ。咲のようにも見えますがたぶんやよいです。

Amazon.co.jp: 「アッチェレランド」チャールズ・ストロス
んー、面白そう。〈ギブスンの鮮烈×クラークの思弁〉とは大きく出ましたな

記事タイトルの下に、試験的にはてなブックマークボタンをつけてみる。体裁はあまりよくないけど、ブクマコメントなどは参照しやすくなるし、記事への注目度も可視化できるし、わりといいかも。
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by umi_urimasu | 2009-02-17 21:01 | まぞむ
民明書房のウソに隠されたホントの話
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漫画「魁!!男塾」の中で「民明書房刊」などとしてしばしば引用される怪しげな故事伝承。あれは言うまでもなく明らかにフィクションです。しかし、じゃあ100%捏造なのかというと、「そうだ」とも言い切れない部分が意外とあります。たとえば「一文字斬岩剣」の由来については、
世に燈篭切りといふ 江戸時代 剣聖とうたわれし一文字流 神泉正宗が
家康に請われ 一度だけ御前にて石燈篭を一刀両断 世間を驚かせたといふ
以来三百余年 剣道界に於いて幻の業とされ これを極めたるものなし
余談ではあるが 不可能を可能とする意の「魂剣石をも斬る」といふことわざはこれをいふなり
   一九○五年 民明書房刊「剣史記」より
この神泉正宗というのはもちろん架空の人物ですが、モデルは剣聖と呼ばれた戦国時代の剣豪、上泉(神泉)信綱でしょう。この苗字と、名刀で有名な正宗をミックスしたような名前です。信綱自身は、記録では徳川家康にじかに剣術を披露してはいません。実際に家康に呼ばれたのは、信綱の弟子でもあった柳生宗厳(柳生新陰流の開祖)であり、宗厳が見せたのは灯篭切りではなく「無刀取り」という技でした。ただしこれとは別に宗厳が刀で岩を両断したという伝説もあり、奈良県の天乃石立神社には言い伝えの元になった一刀石が祀られています。あと、「一文字流」は架空の流派ですが、これは鎌倉時代の刀匠・則宗の作になる名刀の呼称「菊一文字」あたりから取ってきたのかも。また「石灯籠をも切った」という評判については、正宗と並び称される名刀・虎徹の切れ味がそうやって派手に喧伝されたりもしていたらしい。

こうしてみると一文字斬岩剣の由来もまったくの捏造ではなく、それなりに関係の深い実在の人や物の情報をつぎはぎして作った一種のコラージュではないか、という見方ができそうに思えてきます。他の民明書房ネタにも、同様の手法がひそかに使われている可能性は十分ありえる。だとすると、「民明書房の本にはウソしか書かれていない」と思っていた少年ジャンプ読者たち(含む僕)は、もしかしたらあまりにも迂闊な読み手だったのではないでしょうか。あの膨大なネタの中にじつはどれだけのホントの情報が隠されていたか、今の僕の乏しい知識では想像もつきませんが。

ちなみに、実際の歴史から借りたパーツを組み合わせて虚実半ばする物語を作り出すというやり方は、「伝奇」の正統的な手法です。つまり男塾は時代を先どりした学園伝奇だったんだよ!まさに先駆け!男塾。誰うま。

なお、上で挙げた新陰流の知識の大半はやる夫柳生シリーズのおかげで仕入れたものです。作者様に感謝。

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「インターネット文学」の可能性について
僕もまったく同じことを考えてまったく同じところで思考停止しましたね。
2chやニコニコ動画のコメントがたまたまストーリー性をもった群集会話文のような感じになることがあって、あの現象をうまく制御できれば小説っぽい何かが作れるんじゃないかなあ、とかちらっと考えたことはある。でもGetNicoNicomentでニコニコのコメントログを書き出してみたらカオスすぎて速攻で断念しました。

『SFが読みたい!2009年度版』と今年度の新刊
SFが読みたい!2009年版今年の出版予定
よさそうなのがいろいろ。そして飛浩隆〈廃園の天使〉3「空の園丁」がついに出る!もうこれだけで今年は勝ち年確定といっても過言ではありますまい。
年間ベストSFランキング 国内篇・海外篇

「ダークナイト」に続くクリストファー・ノーラン監督の最新作はSF映画「インセプション」に決定
SF大いにけっこう。そしてバットマンの続編は2011年になりそうだとか。今から待ちどおしい。

[画像] インド ティルネルベリの巨大な山車
でかっ。寺院のお祭りのためのものらしいです。細部の彫刻もエキゾチック。

[画像] 中世の珍しい甲冑いろいろ (Dark Roasted Blend)
全身鎧って凄まじく蒸れそう。真夏でもしっかりあれを着て戦っていたんだろうか

[画像] アカメアマガエルの一族
シュールな動物の画像くれよから。仲むつまじき一家に見えないこともない

[ニコニコ] クソゲーオブザイヤー2008
買ったら後悔するだろうけど、ちょっとやってみたくなりました
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by umi_urimasu | 2009-02-11 20:54 | まぞむ
「暗黒整数」グレッグ・イーガン
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天上天下数学無双でした。ノーパソ一個で宇宙滅亡とか、いったい何食えばここまで豪快なSFが書けるの。
ルミナスの事件から十年後、「境界」の彼方側と極秘裏に通信をつづけていたブルーノたちに、先方への領域侵犯を検知したとのメッセージが届いた。こちら側の何者かが、〈不備〉領域にまでたどりつくほどの計算を実行したためらしい。ブルーノはその犯人をつきとめ、彼方と此方のこじれかけた仲を修復しようと試みるも亀裂は埋まらないまま、ついに未曾有の危機が……。
隣人と意思疎通する唯一の手段が、同時に致命的な攻撃手段でもありえた、だから永遠に封じるしかなかった、というのはとても皮肉な話に思えます。なんと不幸なファーストコンタクトだったのだろうと。

でもこういうことは、あらゆるコミュニケーション手段に必ずつきもののリスクなのかもしれないですね。対話という行為が対話者を傷つける可能性は、対話をやめないかぎり決してゼロにはならないから。普通は言葉をかわしたぐらいで世界が滅びたりはしないのですが、相手がたまたま宇宙そのものをささえている数学を通じてしか話せないようなひとだったら、対話はいきおい緊迫したものにならざるをえないでしょう。突きつけあった銃口を手旗信号がわりに振って通信するようなもので、これは疲れるにちがいない。でももし数学が危なくてつかえないとしたら、他の手段はもうないのか。この宇宙に絶対安全なコミュニケーションの方法はひとつも存在しないのだろうか。あきらめないで探してみてはどうだろう。ひょっとしたらそれはそれでSF的に面白い問題にならないでしょうか。虐殺言語の反対で温和言語なんつって。

読んでてわかんなかったところ:
1、キャンベルの領地越えは実際にどういうことをやってたのか?ゲラルドトフートとやらのモデルでプランクスケールがどうこうって話をしてたけど、それがでかい計算にどう影響するんだっけ。
2、閉じた壁をつくるために境界面をなめらかにしたりとかいろいろしてたけど、形にどういう意味があるのか?数学定理空間の遠近や連続不連続って実際にはどういうことなの。
3、4096ビットの整数計算ってどのくらいでかいのか?最小サイズがプランクスケールだとして宇宙のサイズもぶっちぎれる?
ヒマと気力があったら再読したり調べたりするかも。

余談。
パニック・スペクタクルな展開もイーガンらしくて楽しめましたが、それはそれとして、〈不備〉の境界をひたすら数学的につつきまわしてるだけのような話も読んでみたかった。夫婦喧嘩とかはもういいや。
暗黒整数がとても理系な話だったので、TAPはもうしばらくいらんかなという気になってきました。ハードSFは肩がこるのお。

「暗黒整数」はSFマガジン2009年3月号に掲載されてます。

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マンガ:これならわかる人工知能入門(人工知能学会監修) PDF注意
駄目なAIが相手でも人間はそこそこ感情移入してほどほどに付き合えてしまうような気がします。ガンパレのAIはアホだけどなんか親しみがもてたな。

[画像] 画像で見る世界各国の本屋さんいろいろ
日本ではみられないタイプの豪華な本屋、ユニークな本屋がたくさん
関連: 人類の叡智の宝庫、世界中の美しい図書館20

[画像] メタルバンドのCDのジャケットって異様にダサいけど
何だか知らんがとにかくよし!

[画像] 海外アーティストの画集紹介 『Structura: The Art of Sparth』
HPにも多数画像あり→sparth construct - illustration
緻密で雄大なSF絵の数々。眼福でござる
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by umi_urimasu | 2009-02-06 19:49 | 本(SF・ミステリ)