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「ハイペリオンの没落」ダン・シモンズ
a0030177_14162428.jpga0030177_14163142.jpgなんたる、いったいなんたる……。
もう絶句するしかないですね、これは。凄い。神棚に並べてそなえて朝夕拝みたくなるぐらい凄い。これだから小説読みはやめられん。
しつこいようですが長門さんありがとう。


前にも書きましたが、こういう一生ものの傑作ばかりにつづけざまに出会い、読んでいると、自分の読者としての快楽センサーが飽和してしまうのではないかという不安にかられます。僕の部屋の本棚にはまだ万物理論が読みかけで、さらに皆川博子とかコニー・ウィリスとかガルシア・マルケスとかごてごて積んであったりして、他の未読本もよく見たら分冊になってる長編の割合がやたら多い。これでは遠からず消化能力の限界を越えてうぉえっぷ的なことになるは必定ではあるまいか。

こういうときには疲弊したお脳にやさしい、やすい内容だけど技術的に優れたコメディタッチの小説でも読んで一休みしたいところですが。なんでか僕の本棚ストックにはそういうのがほとんどない。なにか本を買うときに、軽い作品と重い作品があるとどうしても重い方を選んでしまう癖があるらしい。
どうにかしたいこの習性。


ええ、話をもどして、作品の方向性とかのことを少し。

「ハイペリオンの没落」がユニークな点のひとつは、物語の構成力や語りの技術は圧倒的でありながら、それによって語られる素材が古典文学や古典的SFに異常なほど忠実な、いわゆる「ベタ」なところかと思います。人類対AIの殲滅戦争、巨大星間国家の崩壊、究極知性の誕生、タイムスリップ、どっかで見たようなサイバースペースにどっかで見たような異星人。本当にこれ90年代のSFなのかと疑いたくなるほどのド直球ぶり。同じクラシックなネタをやるにしても、普通のSFってのはもう少し、せめて見かけだけでも新しくしたがるはずなんですが。
しかし、たとえ題材がなにかの模倣やリメイクであるにしても、「ハイペリオン」で展開される物語には、劣化コピーの浅薄さや貧弱さなど微塵も感じられません。ある意味では当然のことです。仮に元ネタが数百年前の戯曲か何かだとしても、現代最高級の演者がそれを再演するさまを我々が観て、「古いから」という理由で楽しめないわけがあるでしょうか?

もちろん、こんなことができるのはけた外れのテクニックがあればこそであって、並の作家には決しておすすめできません。たとえばスターウォーズとハイペリオンを比べてみれば。なあ。

もしかしたら、長い人類の歴史の中で厳しい自然淘汰に勝ち残ってきた物語の古典というのはその多くが、「ハイペリオン」みたいにアイデアよりも力勝負で読者を圧倒できるようなパワー型の作品だったのではなかろうかと。思ったりもするんですがいかがなものだろう。


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「シー・ユー・レイター、アリゲーター」「インナ・ホワイル、クロコダイル」は英語圏では昔からある定番のだじゃれらしいです。日本語でいえばアイアムソーリーヒゲソーリーとかそういうレベルのものか。うーん。ちょっと寒さの度合いがわからんが。リアルで使ってる人見たことない。
ちなみに比較的おとなしいのがアリゲーター科、気性の荒いのがクロコダイル科で、口を閉じて上下の歯とも外に見えるのがクロコダイルなんだって。ほんとかどうか知りませんけど。
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by umi_urimasu | 2007-02-19 18:01 | 本(SF・ミステリ)
売春婦より古い、人類最古の職業
なにげなくジョジョを読んでいて、作者コメント欄にこんな話を発見した。
『人類最古の職業といえば「売春婦」というものが、そのNO.1の栄誉に輝く。
本当にそれより古い職業はないのか? あった!
証明しろ! といわれたら「できません」と謝るけど、きっと古いぞッ!
それは恐怖の物語を聞かせてくれる「語りべ」である。

昔々、星空の下で火をかこみながら、老人から少しだけ恐怖する話を聞く。
きっと話を聞いている人たちは、ものすごい集中力で想像力を働かせて、その世界に浸りきっていただろう。
「さあ、今夜の話はここまでじゃ」
「もっと聞きたいよう。木の実をあげるから話しておくれよう」
「あした、あした! さあ寝た寝た!」
このような物語を作りつづけていきたいものである。』

意外! それは語りべ!
さすが荒木先生、コメントも小咄仕立てで物語っぽくなっている。厳密に「職業」として最古かどうかはともかく、物語が人類最古の「大衆娯楽」であった可能性はそう低くないかもしれません。


まあ古さについてはさておき。
上の話のように、ものすごく集中してあらんかぎりの想像力を働かせて、それでようやく浸りきれる物語と、ことさら努力をしなくても現実さながらの迫真さで体験できる物語とでは、実際どちらがより面白いといえるのでしょうか。
僕はやっぱり前者だと思うんですが。
それは貴様がマゾだから、ではなくて、物語体験のインパクトというのは情報の少なさを想像でおぎなうために払った労力が大きければ大きいほど増すような気がするのです。経験的に。

たとえば、CG使いまくりの見た目リアルな映画よりも、本で読んだだけの話の方があとあと「体験」した感覚が強く残ってた、てな経験はないでしょうか? あるいは、何のストレスもなくクリアできてしまう映像の精緻なゲームより、粗いドット絵でも試行錯誤の末にやっとクリアしたゲームの方がストーリーとして心に残ってるってことは。僕はちょいちょいありますのですよ。

想像力を酷使しただけ想像の対象への没入が深まるというこの現象は、コンピュータに重い処理をさせたらそれがCPUを占有してしまうようなもんかなあ。違うかな。


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ちなみに、古来からの「語り部」のフォーマットに意外と近いのが、じつはサウンドノベルやビジュアルノベルではないかという気もしているのだが。あんまり人に力説はできない。「たとえばどんなんがあるの?」と聞かれたときに返答に窮するので。


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ようやく「ハイペリオンの没落」(上)を読み終えた。どえらいことになってますー。

あと、〈氷と炎の歌〉第二部の「王狼たちの戦旗」文庫版が3月25日に発売される由。やっほい。あと一ヶ月、我慢我慢。
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by umi_urimasu | 2007-02-12 08:33 | まぞむ
「DDD 1」奈須きのこ/他
「ハイペリオン」+「ハイペリオンの没落」をオンアボキャァッとかエスクレメントォッとか吠えつつ読み進めるかたわら、箸休め代わりに消化した本をいくつか紹介しておきます。というか、場つなぎ的にでも更新しておかないと平気で二週間放置とかいうことになってしまうので。
そもそもハイペリオンが読みごたえありすぎるんだよ。


「DDD 1」奈須きのこ

a0030177_19482042.jpg「空の境界」と似た路線の現代猟奇サスペンス。隻腕のフリーター青年が街にはびこるサイコパスな殺人犯をやっつけたり、畸形で異能者の美少年と密室でキャッキャウフフしたり、男ットコ前な美人警視にいじめられたり。要するにいつものきのこワールドのバリエーションです。「従来の奈須の作品群とは一線を画している」みたいな評価をあちこちで見かけますが、いやー。同じでしょこれ。


確信というほどではないんですが、奈須きのこ作品におけるキャラクター設定などの表層部分が常にライトノベル的・少年漫画的であるのに対して、キャラを乗せているストーリーや語り口の部分は、1980年代の伝奇バイオレンス小説の遺伝子をわりあい素直に受けついでいるように思えます。そのルーツと呼べそうな候補のひとつが、菊地秀行。もうひとつは最近ちょっと読みかじった笠井潔の「ヴァンパイヤー戦争」。これらの80年代伝奇エンターテインメントと少年ジャンプの要素が、奈須きのこの中にはだいたい半々ぐらいずつ入っていそうな感じがします。
西尾維新とのちがいもそのへんにありそうな気がする。西尾維新の場合、材料がほとんど少年ジャンプのみなんじゃないかなー、と。

あ、あと小道具は今回もナイフです。あなた、それ以外の得物は頭にないのですか。



「サイコロジカル」「ヒトクイマジカル」「ネコソギラジカル」西尾維新

a0030177_20152673.jpg「戯言使い」シリーズ、コンプリート。
総じて非常に作りの粗い、最後まで混乱したまま走り切った作品という印象でした。それが良いか悪いかについては、なんとも言いかねるんですが。とりあえずミステリとしてはボロボロでしたけど……。「クビシメロマンチスト」あたりはまだしも、「サイコロジカル」ぐらいになるともはやトリックがトリックっていうレベルじゃないというか、あんたそれネタでやってるだけだろというか、そんな感じ。引っぱりつづけた伏線も豪快にスルーしてくれたし。

いかにもな萌えキャラたちが登場するはしからズバズバ惨殺され、忍法帖+ドラゴンボール化していく超人バトル。マンネリ化しながら執拗に再現されるマンガ的な過剰性。その混沌たるやっつけぶりを「粗い」「ぞんざい」と見るなら、この作品への評価はネガティブなものになるでしょう。でも、そういうふうにしか感じないのは単に僕がライトノベルのレセプターをろくにもたない読者だからかもしれない。そのへんの判断基準として信用できそうなものが、まだ僕の経験の中には存在しない。

つまり、ひとことで言うと「よくわかりませんでした」。ひどっ。



「ヴァンパイヤー戦争」1-2巻 笠井潔

a0030177_20333474.gif超古代に宇宙のかなたから飛来した神々の末裔の力をめぐる各国のスパイや秘密組織の壮絶な戦いを描いたSFバイオレンス巨編。これをSFと呼ぶのはちょっと抵抗ありますが……。正直、かなり笑えました。何から何まであまりに直球。超ベタ。王道すぎて恥ずかしい。これぞB級スパイアクションの鑑、ただし主演は阿部寛、みたいな。
設定の電波ぶりもすさまじく、銀河を二分する超種族どうしの黙示録戦争とか古代ムー大陸文明の三種の神器が日本に隠されていたとか、激しすぎるネタが満載です。80年代娯楽伝奇のバブリーな雰囲気にあてられてのぼせてみたいという向きには、案外おすすめかと。

最近刊行されたバージョンでは武内崇がカバーイラストを担当してますが、ブックオフで100円で売ってるのは大抵、昔の天野喜孝バージョンですね。ま、どっちでもええんちゃうやろか?
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by umi_urimasu | 2007-02-05 21:53 | 本(others)