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「エマ」森薫
a0030177_0531174.jpgこれはいける!
繊細な絵が視神経直撃、それに輪をかけて繊細な心理描写が扁桃体直撃。まとめ買いして正解でした。
衣装や建物などのディテールも凄いんですが、光線がつくる陰翳によって空間をとらえたカットがとてつもなく美しい。まるでその場の空気の存在すら感じられそうな奥行きがあります。そういう必殺の場面が、だいたい数話に一発の割合で出てくる。おいしい作品なのだ。

物語については、僕は少し方向性を誤解してました。アニメ版の方でさわりの数回分を見たきりだったので、インド人のぼんぼんが出てきてロンドン市中を象に乗ってねり歩くとか、そういうコメディメインの話かと思ってたんだけど。本筋はもっとヘヴィなメロドラマだったようですね。原作を読んでようやくイメージが修正できました。

現在第5巻まで読了。ラスト、感極まったエマがウィル坊に渾身のタックルをぶちかます。
エマ、止まらなーい! なんという爆発力なんという根性! まるで重機関車ですッ! (ジョ


いやあ、あの引っ込み思案なエマさんがねえ。愛は偉大だな。


疑問つれづれ。
この作品は身分違いの恋愛がテーマなわけですが、こういうフィクションは実際にヴィクトリア朝時代の英国ではどのぐらいポピュラーだったんでしょうね。シェークスピアのお国柄でもあるし、ロミオとジュリエットのようなすれ違いテーマの恋愛劇は多くの人々が嗜んでいたものと推測できますが、そういうのはたぶん上流社会限定の娯楽でしょう。じゃあ庶民は何を楽しんでいたのか。テレビもないし、本が読めない人も多かったに違いない。日本の江戸時代の草双紙に当たるようなものが、大英帝国にもあったのかどうか。当時の英国庶民の文盲率はまだそれなりに高かったらしく、「エマ」の中にもそんなふうな事情を示す描写が出てきます。文字以外となると、やはりサーカスや大道芸的なものが主だったんだろうか。

てな具合に、やがて19世紀英国文化そのものに興味が向いていってしまう罠。
まあ、それぐらい細かい気配りのきいた漫画ですよということでな。
いずれ機会があれば調べてみよう。


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アニメ「BECK」全26話

a0030177_0523842.jpg一応全部見通したので、あらためて。物語の良さではいち押しの作品です。特に20話前後からクライマックスへ向けての自然な盛り上がり方が印象的。

終盤を見ていて驚いたのが、野外音楽祭"グレイトフルサウンド"でのBECKの演奏シーンが前後3話分にまたがって続くという構成でした。TVアニメという形式、そして音楽という題材を考えると、これは相当な冒険じゃないでしょうか。しかしこの長さのクライマックスを、場面の切り替えや回想シーンを適度にはさんで変化を付けつつ悠々と乗り切ってしまったのにはもっと驚いた。
続けて見るのと週一話ペースで見るのとでは印象が違うかもしれませんが、ここでの盛り上がりはもともと高かった私的評価を決定的に押し上げました。

個人的に劇中で一番好きなシーンは、ビートルズの「I've gotta feeling」を演奏しながらひとりずつメンバーが集まっていくところかな。あと、グレイトフルサウンド直前にコユキが「Slip out」の作曲をするエピソードとか。どうも日常感を強調したところに惹かれる習性があるらしい。
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by umi_urimasu | 2006-01-29 01:00 | アニメ・マンガ | Comments(0)
「放課後」「宿命」東野圭吾
a0030177_0502897.jpga0030177_0505063.jpg大人の事情で長年直木賞からハブられてきた人気作家がついに同賞をゲットしたと聞いて興味を覚え、ダンボール箱から掘り出してきた二冊。初めて読みます。


前者は1985年のデビュー作にして乱歩賞受賞作、後者は1990年の作品。とりあえず、二冊つづけて読むことによって劇的な成長の跡があからさまに見えて面白かった。
前者はこれどこのテンプレのコピペ?と聞きたくなるような、笑ってしまうほどステロタイプな推理小説。それに対して後者は、トリックの謎解き要素を薄め、人物の出生にまつわる因縁の方に意外性をもたせた運命劇。「宿命」の方は、密室とか時刻表とかに頼らずとも成立する「より広義のミステリ小説」に分類するべきかもしれない。
東野圭吾はこれらの他にも、あくまでミステリの枠内ではあるものの、変わり種の作品をたくさん書いている多芸多作な人らしいです。できれば最初は「白夜行」とか「秘密」とか、もっと世間的評価の高い作品から入った方が出会いとしてはよかったか。
ま、うちにはこれしかなかったものですから。

現在の東野圭吾は、「放課後」のようないかにもお約束といった感じの推理小説スタイルにさほど固執するタイプの作家ではないようですが、そういうものを頭から否定するつもりもまたないようです。「宿命」でも、「はい、これ伏線ですよ〜」「この人あからさまに怪しいので、真犯人じゃありませんから〜」といったヒントの類が見え見えな形で提示されたりしているし。
ミステリのミステリらしさが好きな人にとっては、それこそが一番の楽しみどころなのかもしれない。ただ、僕自身には「これぞ○○の鑑」という王道的なスタイルをハズしてもらいたがる傾向があって、ゆえにあまりに的確で親切なサービスが煙たくも感じられました。読みやすすぎるのが不満だっていうのは、読み手の方が歪んでいるのかもしれないが。
もちろん、純粋にパズルとして楽しむのは簡単だし、その点では十分楽しみましたよ。

これがSFだったら、王道的なSFらしさをハズせばハズすほど受けが良かったりするんだけど。

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アニメ「BECK」がすげーよかった。みなの者も見るがよい。
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by umi_urimasu | 2006-01-25 00:57 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
アニメ「BECK」
a0030177_2273210.jpgこれはいい。マジでいい!
傑作を引き当てたという確信があります。「カレイドスター」級の大波の予感がする。
まだ視聴中なので最終判断は保留しますが、とりあえず現時点での最注目タイトル。

これといって取り柄もない平凡な中学生・コユキ。しかし"ベック"なる怪犬を飼う男・南竜介との出会いをきっかけにコユキの世界は一変した。志を同じくする仲間たちとの交流、音楽に明け暮れる青春をビビッドに描く、絶対等身大のバンドマンストーリー。


他の何よりも、まずこの「普通さ」に惚れた。ありふれた言葉や仕草によって思春期らしい感情があざやかに写し取られ、ごく自然に高まっていくキャラクターへの共感。そして、心の中の何かがいっぱいに満ちた瞬間をとらえて響き始めるコユキの歌声。
演奏シーンの高揚感は、物語の充実もさりながら、実際に音が出るアニメ形式ならではのタイミング演出もかなり効いていると思います。間の取り方など、思わずぞくりとするものがある。

現在、17話ぐらいまで一気に消化したところ。それこそ一話一話をガブ呑みする勢いで見つづけてます。これほど入れ込める作品は、去年ではカレイドスター1本ぐらいか。
小林治監督作品としては、TVシリーズ「パラダイスキス」がついこないだまで放送されていましたが、残念ながらその時点では「BECK」を知らなかったのでスルー。もったいないことをした。しかし先に「BECK」から入ったのは幸運だったような気もします。ほんと、いい作品ですよ。

技術面で評価したいのは、アニメ独特の記号的表現がうまく排除されていること。絵柄にも動画にも、あるいはセリフの抑揚ひとつ取っても、アニメでよくあるタイプの奇怪な誇張がなく、いい意味で一般性の高い作品になっていると思います。同じ青春ものでも、アニメ的なケレンや記号を満載したカレイドスターとはあらゆる意味で対照的。
また、音楽ものの華やかな面だけでなく、青春物語としてバイトや学校生活がしっかりと描写されているのも日常性の強調につながっていて好感触。貸しスタジオやライブハウスなどの雰囲気も、少なくともTVアニメとしては十分なリアリティ。さすがに演奏シーンや踊る観客などは難しかったみたいだけど。アニメ形式ではもともとやりづらい題材だし、ここまでいけば大健闘と言っていいでしょう。

劇中の楽曲はその場しのぎ的な劇伴ではなく、一応作品用にちゃんと作られたロックナンバーのようです。分野としてはニルヴァーナやパールジャム、RATM、RHCPあたりの1990年代のロックグループをモデルにしているように聴こえる。あとREMとか? そのあたりの音を聴いて育った世代には共感度がより高いかもしれません。
ただ、やはりこれは出て当然のクレームかもしれませんが、「実際に再現してしまうと原作の世界観が壊される」というのでアニメ版に否定的な原作ファンも多いようではある。
まあそこはそれ、漫画とアニメはきっかり別物ってことでね。
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by umi_urimasu | 2006-01-20 02:40 | アニメ・マンガ | Comments(2)
「ベルセルク」29 三浦健太郎
a0030177_195033.jpg都市を描く。
それはファンタジーにおいては格別魅力的で、同時にやっかいなモチーフのひとつです。都市とは社会のミニチュアであり、そこにはおおよそ人間活動に必要なすべてのものが詰まっていなければなりません。特に「ベルセルク」のようにマンガとして要求される作画水準が高い作品の場合、作り手はセンスの面でも作業量の面でも莫大な消耗を強いられることになります。

しかし「ベルセルク」が凄いのは、そこでまったく折れないところ。たとえ舞台がどこであっても、楽な部分だけ描いて済ませようとする気配が絵から微塵も感じられないところです。
異世界のリアリティをビジュアルで伝えるために、この作品は中世のありとあらゆる場面に挑み、線に線を重ねて立体を捉えるというスタイルを貫いてきました。素人の僕が見ても、それがとてつもなく手間のかかる仕事だということはわかります。
そして港湾都市を舞台にしたこの29巻でも、映像面における妥協は一切ありません。貴族たちがひしめく舞踏会、天を衝いてそびえる軍船、列柱が林立する大広間。固く、重く、精緻なパノラマの数々が画面いっぱいに展開されていく様は圧巻です。そうやって常に人間ひとりひとり、瓦の一枚一枚まで描き尽くしてきたのが「ベルセルク」なのであって、今さら驚くほどのことではないのでしょうが。


で、なんでこんなに絵のことを褒めてるかというと、物語の方で大した進展がなかったからなんですけどね。

ファルネーゼのツテで新しい登場人物が加わったり、シールケ=ソーニャ間のパイプができたりとマイナーな進展はいくつかあったものの、大筋はいつもの牛歩戦術でした。「断罪編」以降、ストーリーの進行ペースが極端に低下したという指摘はよく聞くし、事実その通りです。僕もこんなにのんびりしてていいのかと危ぶんだこともあったっけ。

でも最近では前ほど心配していない。「ベルセルク」はすでに、週刊漫画のタイムスケールで捉える作品ではなくなったと思うからです。今のペースなら、あと5〜6巻分は比較的ソフトな諸国放浪の旅がつづき、その後ようやくガッツとグリフィスの相克テーマに回帰することになったとしても全然おかしくないんじゃないでしょうか。
その行程を縮めろという気はもうありません。描かれるべきものは、黙っていてもいずれしっかり描かれるはず。これは今までの作品の軌跡を見れば容易に想像できることです。あの「黄金時代」編が終わってなおここまで続いてきた以上、よほどのことがあって作り手のモチベーションが突然失われでもしないかぎり、中途半端な完結というのは考えにくい。

僕が心配なのは、一時的なテンションのゆるみではなく、商品としてペイしなければならないという要求から話題性に振り回されるような内容になってしまうことだけです。この作品に限って、それはありえないと思うけど。

ともかく、先はまだ長そうなので焦っても仕方がない。10年オーダーでのんびり待とう。


不満点もちょっぴり。
小粒なキャラクターばかりでのなかよし道中が延々と続く現状は、承知の上でやっているのだとしてもやっぱり少々退屈ですね。近頃ではシールケの乙女化でラブコメ要素まで濃くなってきたし。それも悪くはない。悪くはないが……さすがにそろそろ殺伐シーズンに戻ってきてもいい頃ではなかろうか。

と、ギャグで黒コゲにされたガッツを見て思った。

あとエルフ共邪魔。しばらく引っ込んでて欲しい。


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アニメ「Fate/stay night」

第1話を見てみました。感想=凹。あまり元気なスタートとは言いがたい。原作をやっていなければ躊躇なく1話切りしているところです。
原作からそっくり引き写してきたような説明的な人物紹介がつづき、場面ごとのつながりも妙にぎこちなかったような気がする。それに次回への引きが弱かった。多少話を前後させても、1話ラストでセイバーを召喚するぐらいの派手なサービスがあっても良かったのでは。
「苺ましまろ」の監督・脚本をつとめた佐藤卓哉氏がこのアニメ版Fateのシリーズ構成・脚本担当と知ってちょっと期待してたんだけど、残念でした。ま、エロゲー原作アニメに過大な期待をかける方が間違ってるのかもしれんね。
しばらく様子見。
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by umi_urimasu | 2006-01-15 02:08 | アニメ・マンガ | Comments(0)
「ガニメデの優しい巨人」J.P.ホーガン
a0030177_23363191.jpg木星の衛星ガニメデの氷の下から発見された2500万年前の宇宙船。科学者たちが総力をあげてその調査に取り組んでいる最中、宇宙船を建造した当の種族──ガニメアンの生き残りが突如ガニメデに舞い戻ってきた。かつて彼らが太陽系から忽然と姿を消した真の理由とはいったい何だったのか。異星人との融和と種族的対比を描いて人類の来し方行く末を眺望する本格ハードSF。


1978年に出版された、「星を継ぐもの」の続編です。前作は驚天動地のアイデアで人類の起源を説明してのけた、それこそインド人もびっくりの謎解きSFでしたが、それに比べると今回はずっとおとなしい路線。ありえねー! と本を放り投げるようなことはたぶんない。
むしろ作品の主眼は、温和な異星人とのファーストコンタクトとそのあとの地道な交流を描く方に置かれていたと思います。その様はあまりに和やかで理知的で友好的すぎて「そんなにうまく行くもんか」と疑問を覚えないでもありませんが、まあ生物学的にもごく近い異星人のケースなら実際こんなものかもしれんし。微笑ましくていいんじゃねー。「科学者どうしウマが合う」的な底抜けの楽観主義は相変わらずのホーガンって感じで、気にしなければ気にもならない。登場人物がやたらポジティブな科学者ばっかりなのにも、二作目なのでもう慣れた。

前作でも効果をあげた「謎解き科学もの」のスタイルは、あれほど派手ではないもののそこそこに継承されています。ガニメアンの種族的特徴である温厚な性格の理由や、人類の進化に彼らがどのように干渉したのか、といった問いへの答えが徐々に明らかになっていくあたりにその名残りが。
そして物語の最後に放り込まれた新たなサプライズと共に、物語はさらにスケールを広げた次回作「巨人たちの星」へバトンタッチ。なるほど。最初からそのつもりだったんだな。まあ、ある意味バレバレだったけどな。

ガニメアンとの終始友好的な交流の様子や滑稽な熱狂的歓迎の描写は、なにやらクラーク「幼年期の終わり」を連想させるものがありました。僕だって異星人の使節が地球にやってくると聞いたら、見物に行って旗のひとつも振りたいと思うんじゃなかろうか。主に野次馬根性で。
作中のガニメアンはそんな乱痴気騒ぎすら好意的に解釈して「地球人エライ」とヨイショしてくれたりする、ひたすらに友好的な種族です。その控えめな態度そのものに、どことなくバカにされているような気がしないでもないが……きっと後進種族の僻みでしょう。
いいじゃないか、人間だもの。
次の「巨人たちの星」に今すぐ手を出すかどうかは、正直微妙なライン上。


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で、もう一冊いきます。

「クビツリハイスクール」西尾維新

a0030177_23365749.jpg主人公(♂)が変装して女子校に潜入、バトロワごっこ。以上。
例の戯言シリーズですが、ボリュームも密度も明らかに1巻〜2巻より薄め。個人的にはやはり、ギャルゲーテンプレ的な美少女キャラの濫用に対する抵抗感はいかんともしがたいものがありました。もともと薄かったミステリ性もすでに完全に形骸化していて、むしろ興ざめを誘う要因になりつつある。ここらが潮時かもしれんなぁ。
ちなみに今回はジョジョをはじめ、少年ジャンプネタの引用がやたらと目につきました。僕でもわかるベタなものばかりだったが、あれはいかなる意図なりや?
まあ、作者がジャンプ好きらしいってことはよくわかったよ。
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by umi_urimasu | 2006-01-11 00:10 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「ディアスポラ」グレッグ・イーガン
a0030177_053895.jpg悪いことは言わん、これだけは読んどけ。

時代の寵児イーガンが放つ究極のハードSF「DIASPORA」。やはりというか、凄まじい内容です。想像力の限界を軽くぶっちぎる奇想、シナプスを灼くような思考の疾走、人間が認識し得る極限の哀愁。何から何まですごすぎる。すでに古今不朽の名作の地位を確約された一冊と言っていいでしょう。
「ディアスポラ」を読んだ人が一人でも多く、この宇宙の、この時空の一点に生まれてこの本を手にしたという幸福を共有できるよう願わずにはいられない。
最後まで読むのがひと苦労ですが。

西暦30世紀、人類の多くは精神をソフトウェア化し、ポリスと呼ばれる仮想空間の中で半永久的な生を送るようになっていた。しかしある時、中性子星の連星衝突による突然のガンマ線バーストが地上世界と肉体人をあっけなく絶滅させてしまう。いつまた起こるかもしれないバーストの原理を解明し、また他の知的生命を探すべく、ポリス人たちは自らのコピーを大量に作って宇宙のあらゆる方向に派遣する〈ディアスポラ〉計画を発動させた。
そしてポリス生まれの〈孤児〉ヤチマは、長い長い旅路の果てに、先駆者たちが足跡を残した最後の宇宙へと踏み込んでゆく。そこで彼が手にしたものとは───。


──という、"深宇宙オデッセイ"的な物語。ただし、時間と空間のスケールが笑ってしまうぐらいに桁外れです。多元宇宙を猛スピードで駆け登っていく終盤のラストスパートは圧巻中の圧巻。

そして読了後、ふと考えてしまう。
純粋な数学的思考によってアイデンティティを獲得し、人間関係を築き、豊かな精神を培っていったヤチマにとって、数学的概念の重さとはいったいどれほどのものだったのだろうかと。267兆レベルのワームホールをくぐり抜け、900億年の刻を飛び越えた彼が最後につぶやいた言葉は、


「つまるところ、すべては数学なのだ」


だったのです。うーむ。行き着くとこまで、行くべくして行ったと言うべきか。
とっくりと考えさせられる結末でした。

イーガンの作品には、認識論的なテーマを物理的なものさしでスケールアップしていくというパターンがよく出てくるように思います。このスケールアップ点は、作品によっては一つしかないこともありますが、「ディアスポラ」の場合はいわばスケールアップのn乗という形になっています。小さな〈ポリス〉から現実の地上へ、地球から太陽系へ、太陽系から銀河系へ、さらに宇宙全体へ、ワームホールを通って他の宇宙へ、他の他の他の他の宇宙へ……。
この膨張しつづける世界のサイズについていくためには、読み手の視点もそれだけ大きくならなければいけません。気分的には、電子顕微鏡から宇宙望遠鏡までの倍率をぜんぶカバーする万能ヴューアーをのぞいているような感じかな。
それの何が面白いのかと言われても困るんですが。なんか面白いんですよ。読了してから第一章を振り返ると、もう慄然とするしかない。
思えば遠くへ来たもんだと。人間万歳っすわ。

「宇宙消失」は一発のアイデアで宇宙をひっくり返す話でしたが、「ディアスポラ」ではそういうアイデアはほぼ各章に一発の頻度で何度も出てきます。これはかなりお買い得なことではなかろうか。回数だけでも並のイーガンの約8倍は驚けるってことになるからね。
あと、物語の舞台や雰囲気が章の区切りでがらりと変わったりするスタイルもいい気分転換になってくれました。

第4部で、波間に漂う〈ワンの絨毯〉(じつはなんと、フーリエ空間生命体!!)が出てくるあたりは、なにやらレムの「ソラリスの陽のもとに」を思い出させます。ポリス人はもともと仮想空間住まいなわけだから、やろうと思えばああいう世界も知覚できるんだよなあ。
しかし、そこはやはりイーガンと言いましょうか。〈絨毯〉のアイデアすらかすむ5次元ヤドカリ生物が出てくるに至って、頭の悪い読み手としては普通の意味でのビジュアル的な想像はあきらめざるを得ませんでした。うう。そんなもん、三次元人の俺らが直感的にわかるかっつーの。
数学の専門家ならああいうのも自在に想像できるのだろうか。うらやましいこった。

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以降戯れ言。
ガチガチの理論系ハードSFというイメージが先行していて、大笑いできるユーモアなどとは無縁に見えるイーガン作品ですが、ときどき苦笑いな箇所が見つからないこともないです。
「銀河を征服するのは、宇宙船に乗ったバクテリアのやることだ。分別もなければ、他に選択の余地もないのだから」
とか。これを言われたら銀英伝とか星界の紋章は立つ瀬がないぞ。
あー、あと、オーランドとパオロの関係も考えてみれば可笑しいかも。人間はソフトウェア存在になってもまーだ親子ゲンカなんてするのでしょうかね。

さてと、書いた書いた。
まだまだ書きたいことは尽きませんが、とりあえずいったんカット。ヤチマ萌えー。
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by umi_urimasu | 2006-01-07 00:06 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
「射雕英雄伝3」金庸
a0030177_2327257.jpgどうも、昔の飼い犬に手を噛まれるという初夢を見てややブルーなumi_urimasuです。
ではさっそくだが2006年初レビューをお届け参らせよう。

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語るは拳、歌うは剣。愛と正義と義理のため、死合うさだめの武侠の士。老若男女もネコも酌子も中原狭しと駆け巡る爆裂大河歴史ロマン、いよいよ佳境!

ついに黄蓉の父が住む桃花島を訪れた郭靖。「貴様ごときに娘はやれぬ」と黄薬師が課した試練をどうにか切り抜けて脱出したものの、あっけなく遭難→無人島コンボ。黄蓉との心温まる(!?)蜜月の日々もつかの間、海原を越えて恐怖のお義父さんが迫り来る。ついでにサメの背に乗った老人も。死んだはずだよ周伯通。もしかしてこの爺さんたち、全員不死身属性か?

とまあ、そんな感じ。奇想天外なストーリーの転がしっぷりは相変わらずで、まだまだ収斂のきざしは見えません。次巻のモンゴル編(?)ではいかなる修羅場が待ち受けるのか。そういえば、あっち方面には許嫁という爆弾があったっけ……。
なんかもう、らんま1/2をバキのノリでやってるような気がしてきたよ。

ジジイの魅力について。
射雕英雄伝のキャラクタードラマとしての活発さは、主役の若者たちよりもむしろ、武林四柱をはじめとする老人・壮年の登場人物たちに負うところが大きいのではないかという気がしています。そもそも、爺さんばかりがこんなにあくせく動き回る娯楽小説ってのもちょっと珍しいでしょう。いい年こいてケンカ三昧、性格は意地っぱりでアマノジャク、強さはサイヤ人並みだが行動原理はまるで子供。憎むに憎めない。日本ではそうでもないようですが、中国のカンフーものとか娯楽映画ではわりあいよく見かけますね、こういうキャラも。
ちなみに個人的には北乞・洪七公がお気に入り。

今回も風変わりなアイデア・カンフーバトルのオンパレードですが、とくに新鮮なのは桃花島での音楽対決でした。そういえば映画「カンフーハッスル」にも、琴を弾いて相手をはじき飛ばす技が登場します。もしかしたらあれも、この射雕英雄伝あたりがネタ元かも。

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「ディアスポラ」やっと半分まで読んだ。ガンマ線バーストきたー!
なんかイーガンって、ネイチャーやサイエンスから「カタストロフィにできそうなネタ」を適当に拾ってきて話作ってそう。

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アニメ版デモンベイン キャスト発表
メインキャストはゲームそのままで、映像もOVAよりいいらしいとのこと。
あー落ち着いたー。
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by umi_urimasu | 2006-01-02 23:24 | 本(others) | Comments(2)