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「ラピスラズリ」山尾悠子
a0030177_1573874.jpgべらぼうにびゅーてほう。

その筋では生ける伝説とまでいわれる山尾悠子、20数年ぶりの書き下ろし。
いや、大仰に言われるだけのことはある。なんかもう、ありえないぐらい奇麗だ。

幽霊と戯れる娘、館の住人を襲う疫病、水没してゆく日本の片田舎、青金石の光に包まれて廃墟に降り立つ天使。幻想的な断片の連鎖によって生と死の流転を描いた、不思議系連作長編。
映像的というよりもむしろ絵画的なイメージが強く、ひそやかで重みのある静謐さが全編に満ちています。埃をかぶった美術品のようなこの感じ、実はけっこうレアなもので、これに近い方向で僕が知っている小説といえばエンデの「鏡の中の鏡」ぐらいしか思いつかない。たとえるなら「鏡の中の鏡+灰羽連盟」ってとこかな。ただ、エンデの悪酔いしそうなシュールレアリズム指向は「ラピスラズリ」にはないし、それどころか物語の輪を閉じることすら眼中にないみたいだけど。

とにかくめっさ奇麗なのです。ただそれだけ。

純粋に美しさを追求した創作物の、その美しさを味わうためにまた読み返す、いわば骨董美術を目で楽しむような読み方が、この本には似つかわしいような気がする。
いい買い物したなあ。


収録作品のひとつ、「閑日」はこんな話。

冬が近づくと、〈冬眠者〉の一族は一斉に眠りにつき、春まで決して目覚めない。しかし、眠りについた館の中でただひとり目覚めてしまった少女ラウダーテは、屋根の上に棲む幽霊と言葉を交わすようになる。大晦日の前夜、少女は吹雪の中を幽霊の導きによって館の窓から飛びおり、台所場の召使いたちの元へたどり着く。一方、幽霊は与えられた時を使い果たし、光と共に消えてしまう。

これだけじゃ何のことやら意味不明でしょうが。実際、論理的な理解よりも情景を感覚的に受けいれることを要求される部分が多くを占めています。一番近いのは「夢を見ている」状態かな。他の収録作も程度の差はあれ、基本的には同じパターン。
「竃の秋」は、冬眠前の〈冬の館〉の住人たちを襲った災厄の顛末を描いた、比較的ドラマ性の高いパート。時系列も人物関係も錯綜していて難解でしたが、個人的にいちばん面白かったのもこれ。
次の「トビアス」は、リアルヨコハマ買い出し紀行・鬱バージョンといった趣の小品。唐突な世界観の転換が衝撃的でした。
そして最後に、ただ言葉のかぎりを尽くして春の目覚めのすばらしさを讃えまくる「青金石」。

各エピソードは一応関連しているとはいえ、つじつま合わせ的な説明はどこにもありません。不可解な事柄がさも自明のように語られたり、なんの説明もなく時系列が逆転したり、見知らぬ人物が紹介もなく登場したりすることもざら。幻想小説というだけあって、表現手法自体が幻想的なわけだ。
さらに、暗示的な部分や各エピソード間のクロスオーバーは混み入っていて、一読しただけではとてもほどき切れませんでした。再読必須。
というか、あのとろけるような美文の山にもう一度挑戦できるのなら、むしろ難解さは望むところだが。


あと、今回「ラピスラズリ」を読んで確信したこと。

「山尾悠子作品集成」を、何がなんでも読まねばならぬ。

何がなんでも。


「夢の棲む街」「透明族に関するエキス」「破壊王」「ゴーレム」などという、聞くだにすさまじいタイトルの作品をみっしり詰め込んだこの本。「ラピスラズリ」以外では、現時点でプレミアムなしで手に入る本はこれしかないらしい。
こいつは傑作です。もう読まなくたってわかります。エンジン音を聞いてブルドーザーだと認識できるように。
しかし値段がなぁ……。
定価9200円て。
せめてもう一声まからんか、ええ?国書刊行会さんよ。

個人的には本は安ければ安いほどいい派で、装丁とか紙質には興味ないので。値段さえ安けりゃワラバン紙だってかまわんぞ。

てか、文庫出してくれ。
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by umi_urimasu | 2005-08-29 01:59 | 本(others) | Comments(10)
「輝く断片」T・スタージョン
a0030177_22545789.jpgああ! う…美しすぎます!

とりあえず、「マエストロを殺せ」と「輝く断片」が破壊力ありすぎ。この二つのおかげで他の収録作品が全部どうでもよくなってしまうほどのクリティカルヒットでした。
一冊の短編集としては「何だこりゃ」ってのも混ざってたりしますが、そんなの関係ない。たとえ他が全部救いようのないカスだったとしても、この二本だけですべて許せる。それぐらいのパワーがある。
噂は聞いてるけど1900円出すのもったいないとかのんびり読む時間がないという人は、まず上記二本を立ち読みされるとよろしい。1時間で済むから。ブッ飛ぶぞー。

ちなみに僕にとっては本作が初のシオドア・スタージョンです。いわゆる一般的なスタージョンはもう少し親しみやすいSFで世に知られているようですが、これはこれでいい出会いだったと思うな。


では収録作品のうちのおすすめ二本をご紹介。

「マエストロを殺せ」

ジャズバンドの中で起きた殺人を扱った心理小説。
いやもう凄い。冒頭のツカミから最後の一動作まで、テトリスのようにかっちりぴったり胸に落ちてきました。何も持たぬ者がすべてを持てる者に抱く憧憬、嫉妬、憎悪。そうした感情の澱がやがて殺意に変じ、噴出した炎が自らを灼き尽くすまでを、崩れたバンドマン言葉であざやかに描き出す語り口。たったこれだけの枚数で、どうしてこれほど深い共感を与えられるんだろう。
音楽小説としても読める表現力豊かな文体ですが、ストーリーそのものはきわめて平易。たぶん誰でもやすやすと主人公に馮憑でき、ほとんどまったく同じ衝撃を受けるんじゃないかと思います。アキラで言うところの金田と鉄雄の関係みたいなものですよ。
その意味ではものすごくわかりやすい作品。だが普通に書いて誰にでもこれができるかと言えば、絶対に無理だ。

「輝く断片」

雨の夜、路上で瀕死の女を拾った孤独な男。「おれやる、全部やる…」彼は傷の治療から身辺の世話まですべてを自分ひとりでやろうと決意する。
話自体はよくある監禁サイコスリラーの典型で、先の展開もだいたい読める作品。なのにどうしても「こんなのよくあるだろ」と思えないのが不思議です。冒頭の手術シーンの描写が強烈すぎるせいで、主人公視点の物語世界から一歩も抜け出せなくなってしまうらしい。見え見えのパターンなのに、あの結末にはやっぱり一撃くらってしまった。
ほんと、たったの40ページでどうしてこういう真似ができるんだ、この作家は?


───
以下、少々突っ込んだ話を。

「輝く断片」の主人公に対して僕が覚える共感は、トールキンの「指輪物語」の登場人物であるゴクリに対するそれに近いようです。両者とも世間から蔑まれつづけてきた孤独な存在で、光り輝く宝物を思いがけず手に入れ、それに囚われる点でもよく似ています。
ここでの宝は愛を知らない者が欲しがる愛の代用品にすぎないわけですが、しかしたとえ偽物であっても、彼にとっては唯一の生きがいであり、二度と同じものは得られない、だから何がなんでも絶対に失いたくないと考える。
そして、そんな彼を本心から軽蔑したり嘲笑したりできる人が、この社会にいったいどれくらい居るものだろうか?少なくとも僕は笑えない気がするなあ。

人間は誰でも、一度得たものを失くすことを嫌うものです。そして得るものの少ない者ほど、手に入れたものを大切にし、決して失うまいとする。社会が許す範囲を越えてしまえば、それは犯罪行為になったり異常心理と呼ばれたりするけれど、元をただせば誰もが抱いているありふれた欲求にすぎない。それならむしろ、スタージョンの描く異常者はより人間らしくあろうとした人間だとすら言えるんではないか。マクライルにせよフルークやルウェリンにせよ、みな悲しい末路を辿るけれど、彼らは実は少しばかり人間として正直すぎたというだけかもしれない。人の域を越えた英雄たちがひしめく指輪物語の中でずばぬけて「人間」らしく、自分の欲にあくまで忠実だったゴクリのように。
んー、けっきょく何が言いたいかというと……
つまり、ミステリーとかサイコサスペンスとかいう呼び方はいかにもジャンル小説的に聞こえますが、これって実は単なる人間小説でしょうよ、といいたいわけ、なのかな。
自分でもよくわかんなくなった。

ちなみにこの本、SFはともかくミステリじゃないだろと思うんですけど、世間的には一応ミステリのカテゴリに分類されてるみたいなので僕もそれに倣っておきます。

───
補足。
「輝く断片」「マエストロを殺せ」の二本に比べると、他の収録作品はやはり少々見劣りするかもしれません。「ニュースの時間です」「ルウェリンの犯罪」あたりはいいとして、その他の短編はどうもインパクトが薄い。こういっちゃ何だけど、くだらないネタで笑いをふりまいてはっはっはバッカでーというやっつけB級SF的な臭いがする。もちろん精妙な人間描写は十分に楽しめるんですが。
ともかく、おいしい作品は後半に偏っているので、これから読まれる方はその点にご留意ください。おすすめ二本だけを立ち読みで済ませるのも一手だよ。
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by umi_urimasu | 2005-08-23 00:13 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
何事もほどほどに
[ニュース] ゲーム50時間ぶっ通しで男性死亡(韓国)
微妙に人ごとじゃないかもしれない。僕も20時間ぐらいならぶっ続けでゲームをやったという経験は何度かあります。といってもせいぜいFFとかガンパレとか、長時間やったところでどうってことのないものですが。

[音] やる気のないダースベーダーのテーマ
なごむなぁ……むしろこっちを本編に使ってほしい。喜んで映画館まで見に行くぞ。

[画像] セイカのぬりえ 機動戦士ガンダム
アムロとシャアが素手で殴り合ってました。

[画像] 皇帝ペンギン壁紙集
今の壁紙はこれ。

[画像] 白土三平風メタルギアソリッド3
3未プレイなので最初は意味わかんなかった。空腹システム採用なんですね。

[2ch] 一字違いで激しくつまらなそうになる文学作品
文体模写スレとかで実際にねつ造してほしい。

[ニュース] ファイナルファンタジーVII アメリカで規制
ティファの乳も罪作りよのう。記事の日本語訳はここらあたりで。


[映画] ベルヴィル・ランデブー
見たい!マインドゲーム絡みで見つけたんですが、絵がなんとも魅惑的です。劇中音楽にはジプシージャズが使われ、あのジャンゴ・ラインハルトも作中キャラで登場するという。
でもレンタルで置いてる所はなさそうで凹。DVD買うと高いし……。


以上、大方のネタはすでにニュースサイト各所で貼り尽くされているためソースは略ということで。
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by umi_urimasu | 2005-08-19 00:51 | ニュース | Comments(0)
「パターン・レコグニション」ウィリアム・ギブスン
a0030177_23395534.jpgなんというポピュラーな小説!これがあのギブスンか。
彼がデジタルなジャンクに満ちたサイバーパンク袋小路の奥から這い出てくることはもう永遠にあるまいと思ってたんですが、いい意味で裏切られた。
この男、やはり侮れん。


主人公ケイスは、あるファッションやデザインが市場でヒットするかどうかを直感的に悟る能力をもち、それを生業にしているアメリカ人女性。彼女は〈フッテージ〉と呼ばれるネットに埋もれた断片的映像のマニアックなファンでもある。
この〈フッテージ〉にビジネス的価値があるとにらんだクライアントから作者を探し出す仕事を依頼され、ケイスは世界中を駆けまわることになるのだが……探索を進めるうち、〈フッテージ〉の秘密が彼女自身の過去に、9.11のあのテロ事件に、そして冷戦時代の傷跡に深くかかわっていたことが明らかになってゆく──。


サイバーパンクの帝王が五十歳を越して書きあげた「センチメンタル・ジャーニー」。
珍しい。「泣かせ系ギブスン」という、かなり珍しいシロモノです。
といっても、第一印象は従来とさほど変わりません。文体が一緒だからね。しかし見ている距離がまったく違う。きらめく電脳の未来を幻視しつづけてきたギブスンは今、同じ目でありのままの現代を見ています。クローム薔薇も冬寂もカウボーイも、未来のどこかへ置き捨ててきた。彼の指はオノ=センダイではなくibookのキーボードを叩き、彼の足はスプロールやフリーサイドではなく、現実のロンドンや新宿の地を踏みしめる。
この本を読んでると、サイバーパンクをそのまま裏返すとそこはいつも現代だったんだ、ということがいやというほど実感されてしまいます。
そういう意味では、ギブスン好きにとっては非常に「腑に落ちる」作品じゃないですかね。

一方、ギブスンの名を知らない読者には、これはとりたてて珍しくもない普通の冒険ものと映るのではないでしょうか。ただし、文体はひどく斬新に感じられるはず。
彼がやっていることは、つきつめれば目で見たままを言葉にしているだけです。しかし、一種の超言語的な処理をほどこされた装飾的な表現は、まるで自動記述法で書かれた詩のように、読み手の中に違和感を残したまま滔々と流れこんできます。あげくの果てには、過去も現代も未来も等しく芸術的ガラクタに満ちたギブスン時空と化してしまう。かつて「ディファレンス・エンジン」で実証されたように。
喧噪に満ちた都市という膨大な情報を含む風景の中から、何を選びどんな言葉で語れば、見飽きた街を、まるで初めて訪れた外国のように感じさせることができるのか。ジャンクコラージュ作家としてのギブスンは、要するにずっとその技ばかりを研鑽してきたような人ですから。そりゃあ巧いですよ。


ただし、そうした技の洗練は、ひょっとするといいことずくめではないかもしれない。
というのは、細々したモノや風景の「言い方」にひどくこだわるギブスンのスタイルは、センスの鋭さと同時にレトリック・マニア的な狭量さも示しているように見えるので。シャープで奇抜な表現が、じつは至極平凡な場面のどうでもよさそうなことの説明でしかなかったりする。
正直なところ、〈フッテージ〉の作者が登場する終盤ぎりぎりまで、僕にとってこの作品はけっこう退屈なものでした。修辞にこだわるのはいいけど、それだけではやはり面白みが薄かったからでしょう。いかに言葉を飾ろうと、結局はありきたりな現実世界にすぎないわけだし。それにサスペンスとしてはやや勢いに乏しく、メールチェックとサイト巡りだけで主人公がちっとも動かない状態が長々と続くせいもありました。ストーリー以外の情報にあまり興味のない読み手にとっては、SFという調味料がない分、やや退屈な本かもしれません。
文章そのものは初期よりもはるかに上手いし、言葉のセンスもより鋭くなってると思うんだけどね。

ついでにいえば、ストーリーもあいかわらず弱かった。というか、おなじみの聖杯探求アドベンチャー型の物語形式を彼は絶対に変えようとしないな。何か特別な信条でもあるんだろうか。

───
戯れ言。
「パターン・レコグニション」は、素材的には電脳空間シリーズの「カウント・ゼロ」に類似しているような気がします。アートの目利きが仕事で、ケイス(@ニューロマンサー)やモリイのような犯罪者系ではない普通人の主人公。あー、これってマルリイに似てるぞと。〈フッテージ〉作者は〈箱作り〉っぽいし。

───
戯れ言2。
毎回毎回、ギブスンの新作を読むたびに蒸し返してることなんですが、それでも言わせてくれ。


安西先生……黒丸尚訳で読みたいです…
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by umi_urimasu | 2005-08-15 23:41 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
トップをねらえ2!
a0030177_2018555.jpgよく描き、よく飛び、よく壊せ。
オタキッシュなアニメ絵をダイナミックに動かすことにかけては本邦屈指の技術力を誇るGAINAX、20周年記念作品となる本作でも、これでもかとばかりにその技を見せつけてます。
細っこい娘を乗っけたレトロポップなデザインの巨大ロボットがゴムボールみたいに画面狭しと跳ねまわり、奔るビームが雲霞のごとく押し寄せる敵をなぎ倒す。
好きな人にはたまるまい。


太陽系全域にまで版図を広げた人類は、外宇宙から侵攻してくる謎の宇宙怪獣に対し、〈バスターマシン〉と呼ばれる巨大ロボットを建造し対抗していた。だが、世界に数十体しか存在しないバスターマシンをあやつって宇宙怪獣と戦うことができるのは、〈トップレス〉という特殊な力を発現できる若者たちだけ。
宇宙パイロットにあこがれて故郷を飛び出してきた夢見がちなロボット少女・ノノは、バスターマシン・ディスヌフをあやつるクールな少女ラルクに危ないところを助けられ、彼女に心酔してしまう。可能性を買われてトップレス集団〈フラタニティ〉に迎えられ、世界を守る戦いに身を投じていくノノ。努力と根性で、下働きからトップ・オブ・トップレスを目指す彼女の行く手に待つ運命は。


とまあ、そういう系。いいんじゃないですか、1年に1個ぐらいはこういうのがあっても。
ただ、個人的にはこういう手合いのアニメにはもうあまり反応できなくなりました。まず見た目で勝負な作品だというのが明らかなので。
映像の凝りように比べて、基本的なストーリーやキャラクターの作り込みが呆れるほど浅いのが難点です。何やかやと細かい所にこだわった設定類も、物語があまりに単純すぎるせいか、いかにも釣り餌っぽく映る。絵の動きにしても、「マインド・ゲーム」を見たあとではお行儀がよすぎてむしろ退屈なぐらい。

とはいえ、これはこれで評価すべき、とは思うのですが。
広い意味では、この世に生まれ落ちるすべての創作物に無駄なモノなど何ひとつないのだから。ここで培われた技術は、いつかその真価を問うに足る内容をもった作品に使われるとき、必ず役に立つはずだ。


ちなみに、いい機会だからとオリジナルの「トップをねらえ!」にもトライしてみたところ……。

a0030177_20192252.jpgダメだった。もう全然。
30分耐えきれず。

この明確な拒絶反応は、もしかしたら一種の表現アレルギーなのかもしれない。
つまり、なじみのない価値観にもとづく表現を受け入れることで自分の中の価値観体系に変化が起こるのを恐れてやみくもに排除しようとする、そういう作用なのかと。
この意味で少女漫画へのアレルギーは前から自覚してたんですが、スポ根や島本和彦系に対してもアレルギーがあるのかもしれん。なにしろ摂取したことがないから、目の当たりにするまでわかんないんだよね。
ともあれ、僕にとっては高い壁でした。当分乗り越えられそうにないな。


───
関係ないけど「かみちゅ!」のOPはいい出来です。スタッフクレジットが「東京ゴッドファーザー」風で。ああいうひねった工夫っていいなあ。
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by umi_urimasu | 2005-08-11 21:00 | アニメ・マンガ | Comments(4)
年間おすすめ本ベスト5
一周年記念の時にやりそびれたので、今やろう。

1位  「航路」コニー・ウィリス
2位  「ドゥームズデイ・ブック」コニー・ウィリス

はいよ。この二つはどうあっても譲れません。洒落になんないですから、巧さが。脱帽どころか頭の皮まで脱いでしまいそうな超絶テクニックの集大成。どっちが上に来てもおかしくないんだけど、第二部のまさかのトラップと終盤の勢いで「航路」に軍配。

3位  「死の泉」皆川博子

これまた凄い。ほんとに日本人が書いたのかと疑ってしまう、とんでもないトリックがかけられた偽書。どうせやるならここまでやれよという無言の迫力、背徳的な幻想と狂気の世界に圧倒され続けでした。ラストが凄すぎる。
足が、足がー!

4位  「風来忍法帖」山田風太郎

「魔界転生」「柳生忍法帖」との間で悩むこと四半刻。結局、ラストでじわっと泣かされた「風来」が僅差で代表に。まさかあんなのまで書ける人だとは思ってなかったのでよけいキました。僕はこの人こそがライトノベルの神様といっていい存在ではないかと思ってます。

5位  「祈りの海」グレッグ・イーガン

いわゆる切れ者。アイデアはストレートなんだけど、作品としてそれを提示する手口がめちゃくちゃ鋭い。ただし、せっかく普遍性の高いテーマを扱っているのに、理屈っぽさが敷居を高くしているようです。できればもう少しお手やわらかに……っても無理か?
次の邦訳は「ディアスポラ」9月発売予定。

以上、順位は純粋に僕の好みにより独断で決定しました。
ガルシア・マルケスや筒井康隆は、基本的には好きなんだけどあえて除外しました。ややマニアックな領域に入ると思ったし、この方が人のお役に立つリストになるかなあと思って。
ちなみにこのリスト、出版年月には何の制限もなくて、単に僕が一年の間に読んだ本の中から選んだものです。なので古いのも混じってます。あしからず。


おまけ。年間おすすめアニメベスト5。

1位 カレイドスター
2位 マインド・ゲーム
3位 攻殻機動隊Stand Alone Complex 1st GIG
4位 プラネテス
5位 十兵衛ちゃん2 シベリア柳生の逆襲

選んだっていうか、単に見たものを並べただけっぽいけど。カレイドスターは近年稀にみる大収穫だった。いやもう、まさかあれほどとは……。
あ、気づいたらプラネテスは総合レビュー書いてなかった。途中けっこう見逃しちゃったしなあ。というわけでプラネテスのリンクだけへちょいレビューになってます。うぐう。

以上、年間おすすめリストでした。
もし来年の今頃までここが存続できていたら、第二回をやりましょう。
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by umi_urimasu | 2005-08-08 22:07 | 本(others) | Comments(0)
「宇宙消失」ほそく
本レビューから漏れた雑感など。


これ、体裁としては長編ですが、印象としてはむしろ「密度の高い短編」を読んでいるような感じでした。物語としては大して濃いものじゃなく、それよりも議論の肉付けにあたる部分がけっこう場所を食ってる。じつはほとんどワンアイデア・ストーリーなんですね。
「祈りの海」と「宇宙消失」を読み比べたかぎりでは、グレッグ・イーガンという人はやっぱり長編より短編の方が得意な作家なんじゃないかと思います。
とはいえ、アイデアの数は少ないのにこれだけの長さを無理なく読み通せるように仕上げてしまったというのは、それはそれですごい。しかもこれほどコアなテーマを扱いながら、外面はサイバー探偵活劇になっている。さすがというかご苦労様というか。
理屈っぽいSFが苦手な人にも読ませたかったのかな。


原題は〈quarantine〉。
隔離、検疫という意味だそうです。なるほど、「ブラッド・ミュージック」っぽい展開も無理なく連想できるタイトルだ。文庫巻末の解説によれば作者本人もグレッグ・ベア好きだとか。あと、語感的にquantum=量子とかけてあるのかもしれません。
個人的には、邦題よりも原題の方がお気に入り。SFとして売るために科学っぽいタイトルをつけるのは判断としては正しいんでしょうけど、「宇宙消失」って聞くとなんだかあまりに即物的すぎてひるんでしまう。SF好きの中でも、タイトルだけ見てイーガンを避けてる人、かなりいるんじゃないでしょうか。
もちろん今では僕も、どんなにつまらんタイトルだろうがイーガン作品なら何でも読むぞって気になってますが。


お得意のナノテク・バーチャルリアリティ、この「宇宙消失」にもしっかり登場します。ナノマシンで脳神経を直接操作できてしまうニューロ・アプリ、通称〈モッド〉。ちょっとかっこよかった。
ただ、近未来的サイバネ・ガジェットがいくら出てきても、イーガン作品は多くのサイバーパンクのようにそれらを享楽的に味わわせようとしないのが特徴みたいです。脇目もふらず一直線にアイデンティティ問題に飛びついていくって感じ。その辺少し性急すぎるというか、ときにはちょっと道草するぐらいの遊び心があったらと思わないでもない。それもまたイーガンらしいけど。
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by umi_urimasu | 2005-08-04 01:04 | 本(SF・ミステリ) | Comments(3)
「宇宙消失」G・イーガン
a0030177_23555065.jpg訳者あとがきにこんな文句があります。

「シュレディンガーの猫の気持ちになってみろ!」

……
我輩は猫である。目下超ヤバい状況である。
半減期ってムネきゅん?
ていうか眺めてないで助けろって。食い殺すぞ人間ども。魍魎の匣的に。

誰かー、出してくださいよー。ああ、あれは彗星かにゃー…?

───
2034年、夜空から星が消えた。直径240億キロメートルに及ぶ謎の球体が、太陽系をすっぽり包み込んでしまったのだ。その原因も性質も、すべてが不明のまま33年が過ぎたある日、パースで探偵業を営むニックはとある女性の捜索依頼を受ける。だがそれは、想像を超えた宇宙規模の大破局の引き金だった──。

科学史上もっとも成功した理論といわれる量子力学。そして現代人の心を日々脅かしつつあるアイデンティティ喪失テーマ。この二つを組み合わせた衝撃のアイデア小説「宇宙消失」。作者は現代SFの旗手、グレッグ・イーガン。やってくれました。よく考えるな、こんなとんでもないこと。


ミクロな世界を統べる量子力学には、絶対厳守のルールがあります。それは「観測者が対象を観測するまで、対象の状態は決まらない」っていうもの。言いかえると、「誰も見ていない間は、どんなに可能性が低いことでも確率的には起こりうる」。
このルールのために、量子レベルでは人間は次に起こることを確率的に予測することしかできません。けれど、もし万が一、誰かがその確率を自在にあやつれる能力を持ってしまったとしたらどうなるか?さらに、じつはその確率をあやつる力こそが、この世界を今の姿に維持している原動力だったとしたら?というお話。

もう少しわかりやすい言い方で。
たとえば「多元世界」とか「平行世界」という考え方がありますね。鏡の中の世界のように、この世界とほとんどそっくりな世界がたくさん存在するというあれです。ここへさっきの量子力学ルールを適用すると、多元世界とは無数の確率上の世界が重なりあっている状態だということができる。いわばマクロな世界の量子化ですな。そしてこの作品では、人はある技術によってこの世界的量子化状態を作り出し、しかもどの世界を選ぶかを自分で決められるようになるのです。めちゃ便利だ。

で、問題はここから先です。
仮に自分がそんな力を持てたとしたら?
たぶん誰もが、自分の理想とする世界を選び取ろうとするに違いない。

あらゆる可能性と同じ数だけ世界が存在するのなら、何億何兆という世界のどれか一つにはあらゆる点で完璧に自分好みの世界があって、そこでは自分が今よりもずっと幸福な人生を送っているはずだ。そして、ただ望むだけでその一つを選ぶことができるなら。誰だってそーする。おれもそーする。虹村形兆だってそーする。
これは別段SFに限った話じゃありません。夢でもいいし、ゲームの仮想現実でもいいし、もしもボックスでもいい。どれも問題の本質は同じです。もちろん現実には、スイッチひとつで理想の自分になれるなんてことはありえないけれど。
科学のルールにこだわらなければ、このテーマはミヒャエル・エンデの「はてしない物語」あたりにも相通ずるものでしょう。

ただし、自分ひとりが自己発見をすれば済む哲学ファンタジーとちがって、「宇宙消失」では自分に都合のいい世界を罪悪感なしに選ぶことはできない。なぜなら、ひとつの世界を選んで他を「なかったこと」にするのは、残りのバージョンの自分をすべて皆殺しにするのと同じことだから。
こんなことが耐えられるだろうか? 彼らは夢でも幻でもなく、この自分とまったく同じようにリアルな人生を生きている自分自身なのに。神の摂理というならまだ納得もしよう。しかし神でも仏でもなく、ただの人間がたわむれに振るサイコロの運次第でなかったことにされてしまう、この宇宙がそこまで不確かなものだとは。

でもまあ仕方ないよね。そういうふうに出来てんだから。

冷たい結論ですが、虚無主義ではないと思います。たとえ現実と虚構の区別が意味をなさないとしても、一瞬ごとに可能性の世界を殺し続けなければならないとしても、我々はきっと我々が選んだ唯一の日常を生きるしかない。そもそも、別に多元世界でなくたって、人は皆いつだって不確かな現実を生きているはずではないか。他人に迷惑をかけまくりながら。

そんなわけで、エピローグを読み終えたあと、目に映る現実のものがやたら新鮮に見えてしまいました。良質のファンタジーを読んだときに抱くのとよく似た感覚かも。
イーガンの作品を読むといつも、普段は気にかけてもいない平凡な日常の重さがずしりと肩にのしかかってくるなあ。
でもそれは、怖いけど心地よい重さだと思うのですよ。

この本は決して、手品のような論理ゲームで口うるさい科学好きを喜ばせるだけのマニアックなSFではありません。人間誰しもがもつ悩みや望みを的確に突き、自分はいったい何者なのか、自分が世界とどういう関係にあるのかを問い直させる、一種の人生哲学書に近いものです。
タイトルやあらすじからは到底そうは思えないでしょうけど、ホントです。いやホントに。

───
余談。
ふと思ったんですが、「宇宙消失」に登場する〈アンサンブル〉の力って、モロに「レクイエム」+「キング・クリムゾン」じゃないですかね。ジョジョの奇妙な冒険の。テーマ的にもジョジョ第五部とこの作品はかなり近い所を狙っている気がする。
ん、これもネタバレなのかな。まあイーガン作品のレビューなんて何をどう言ってもネタバレになってしまうので、もうネタバレ回避自体をあきらめてますが。ごめん未読の人。
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by umi_urimasu | 2005-08-03 00:55 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)