カテゴリ:本(SF・ミステリ)( 122 )
「赤朽葉家の伝説」桜庭一樹
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a0030177_22291054.jpgあったらいいな、忙しい現代人のための「ライトノベル式『百年の孤独』」。
だがそんな便利なものがあるわけ……あった!
重厚長大な家系神話小説ならではの、あの果てしない郷愁を、あの途方もない愉楽を、可能なかぎり手っとりばやく。東京から名古屋まで1時間半、日本からアメリカまで10時間で行けてしまうこの時代に彼女は、桜庭一樹はついに大河幻想小説の時間をもちぢめてしまったのでしょうか。嬉しいような寂しいような、微妙な悲哀を味わえる一冊です。

物語は戦後から21世紀までの日本史を俯瞰しつつ、三人の女の人生を昔語りスタイルで描いてゆく「一族の歴史」譚。千里眼の祖母・万葉から漫画家の母・毛毬へ、そしてニートの瞳子へと視点を引きつぎながら、嘘くさくも懐かしい奇妙な昭和の時間が、時には幻想的に、時にはマンガ風に、立ちあらわれては流れ去ってゆきます。その流れが行き着く果てにあるものは、さて何だろう。

手法として面白いと僕が思うのは、この作品全体が桜庭一樹自身が通過してきた「フィクショナルな体験」の再話になっているらしいこと。

  万葉: 1960年代、おばあちゃんの昔話。神話と現実は一体でした。
  毛毬: 1980年代、不良少女コミック。神話の代わりが成長漫画でした。
  瞳子: 2000年代、ライトノベル。軽い。実がない。こころもとない。どうしよう。

万葉の時代の描写には、どこかしら夢の中のような、でも実際あってもおかしくなさそうな、半幻想的(マジックリアリズム風?)な表現が頻出します。自分が生まれる前の、しかも人から聞く話なんて、大概はこんなふうに身近なリアリティと不釣り合いに突飛なイメージのキメラみたいなもの。宙に浮かぶ男の幻影やたたらの時代の遺風を感じさせる黒々しい溶鉱炉、万葉の初夜の描写などもすばらしいですが、鉄砲薔薇の咲き乱れる渓谷におびただしい数の箱が打ち捨てられ、その中に死蝋人形が収められているシーンが圧巻。

80年代は漫画の全盛期。少女漫画のことはよくわかりませんが、子供のころの自分の脳内のかなりの領域は、確かにこれに近い漫画の世界のことどもに占領されていました。フィクションのフィルターを通して見る不良や暴走族たちは、まさしくこの通りの、刹那的で荒唐無稽な暴力や恋愛や死の世界の住人だったのです。個人的にはこの第二部がいちばん笑えるパートでした。

そして2000年代。僕はライトノベルにも疎いけど、この第三部がどう見たってラノベそのものだということぐらいはわかります。絵に描いたようなライトミステリ空間は、荒涼とした現実から逃げ込むためのもっとも安心できる避難所。そこはとても手触りのよい、底なしの無気力と諦観と甘えに満ちています。

素直に読んでいくと、第三部のラノベミステリモードはどうにも取ってつけた感が強くて、作品全体の統一感をそこねているように感じられます。しかし、拠りどころとすべき神話をもたない世代である瞳子が迷ったり悩んだりしながらとにかく一歩を踏み出そうとする姿を描くために、これは必ず通らねばならない道だった、という好意的な解釈もありうる気はする。だからってわざわざミステリにしなくてもいいのにとは思いますが。
ちなみに第三部は、純粋な探偵ものとしては凡庸もいいとこです。キーパーソンとか最初からバレバレだし。「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」でもそうでしたが、桜庭さんという人はどうしてこう、そのままで綺麗にまとまりそうな話に要らぬミステリ要素を足そうとするのでしょう。

余談。
本作は日本推理作家協会賞を受賞。直木賞候補にも挙げられました。これの次の「私の男」で」リベンジ受賞して、今の桜庭氏は時の人です。あと、「赤朽葉家」は「SFが読みたい!」2008年版にもランクインしたそうな。勝手にSFにされてしまいました。SF者という人種は何でもかんでもSFSFと言い張るので、よく一般人からうざがられます。なんという俺俺。気をつけよう。

余談2。
実際の飲食物で作中に登場する架空のおやつ「ぶくぷく茶」に近いものとしては、出雲・松江の庶民食「ぼてぼて茶」というのがあるらしいです(一本足の蛸)。富山の「ばたばた茶」のほうは、呼び名以外はあまり似てないような気が。

余談3。
トップランナー見のがした…

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心に響く情景スレ付近からのエコー
[画像] 廃墟:坂道
[画像] 風景:海岸
[画像] 廃墟:九龍城砦
[画像] 廃墟:軍艦島
[画像] 建築:発電所

[画像] 福島 廃遊園地 (残存世界)
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by umi_urimasu | 2008-03-07 22:56 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
ベスター「虎よ、虎よ!」新旧カバーアート比較
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比較してみた。きっかけ

a0030177_12454487.jpga0030177_1225291.jpg
旧版        新版

ついでにペーパーバック版(1999)も。何だこのつぶらな瞳は。

旧版の絵師は生頼範義氏。新版は寺田克也氏。

 ・旧版はいかにも宇宙冒険スペクタクルっぽいイメージ。新版はモノトーンでなんとなく陰惨なイメージ。
 ・旧版の背景は宇宙空間、新版はベタ。
 ・旧版はガリヴァー・フォイルの顔のアップで刺青を強調。新版は上半身像でマッチョな肉体を強調。
 ・タイトルは、旧版では赤or黄色で絵の端に。新版では白字で中央に。

寺田版の下を向いたガリー・フォイルの絵はどちらかというと内向き、閉塞的な印象。ポイントは顔の向きと目の描き方。憤怒と憎悪を心の奥にひた隠すフォイルのキャラをあらわしたもの?
生頼版はストレートに「宇宙を股にかけるデカイ男」という雰囲気。上の画像ではわからないかもしれませんが、実物の刺青はけっばけばしい緑色で、ぱっと見だけでもかなりのインパクトです。寺田版は刺青が目立たないのが寂しい。デコのNOMADもよく見ないとわからんぐらいだし。
構図としては、生頼版はガリー・フォイルの顔を真ん中にもってきて強調しているのに対して、寺田版はむしろタイトルのインパクト重視のよう。
個人的にはやっぱり旧版デザインのほうが好きかなあ。

生頼範義という画家についてはさっき初めてぐぐって候。なんとスター・ウォーズや歴代ゴジラのポスターを手がけたという、泣く子も黙る超絶偉人だった。おら、SWとかゴジラとか興味ないもんで今の今まで知らなかっただよ。

文庫の旧版を見てみると、中田耕治氏による訳者あとがき+浅倉久志氏の解説がついています。この解説はベスターの経歴を出生までさかのぼって面白おかしくストーリー風にしたてたもので、なんか作家武勇伝みたいなノリ。細部にいくらか脚色の痕跡が。でも読み物としては楽しいものでした。
今回の新版には何か新しいおまけとか付いてるんでしょうか?

あと、ユニバーサルで映画化という話はその後いったいどうなっとるのでしょうか?

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「Tiger! Tiger!」各国語版カバーアート集(究極映像研究所)
日本人の好みには日本の絵が合うものらしい。

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[ニコニコ] 組曲『ニコニコ指輪物語』
誉めよ、讃えよ、これなる歌を!なんという指輪愛。作者の詩才はビルボ級。もし私があなたなら、ちょっとだけ寄り道をして、この神動画を見ないではゆかれませんが!

[ニコニコ] [MAD]∀ガンダム 最終話中心に編集 「月の繭」ほか3曲※セリフ付
あふれるターンエー愛、細やかな編集。あの感動が鮮やかに甦る。でもサンライズものは要注意

[ニコニコ] GunParadeM@ster 765小隊 シナリオS 3話
アイマス×ガンパレードマーチ。明日はきっといい日ですうっうー

[ニコニコ] 【アイドルマスター】ユキボインパクト 明日からがんばる編【祝SP1】
祝ニコニコ動画(SP1)開始。で、最初に見た動画がこれ

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[画像] メキシコの平安京、巨大な格子状の都市ネツァワルコトヨル (らばQ)
(the frightening grid of nezahualcoyotl)
異様に直線的な町並み。まっすぐすぎてなんか落ち着かない…
[画像] 世界の星型城塞都市 (deputydog)
[画像] 世界の風変わりな家々 (HEMMY.NET)
あああ落ち着かない
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by umi_urimasu | 2008-03-02 13:50 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「ダイヤモンド・エイジ」p2 ニール・スティーヴンスン
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a0030177_2325253.jpga0030177_233365.jpgひとことでいうとサイバーパンク版「母をたずねて+小公女」!
というふうな安直なたとえ方で済ませられる作品ではもちろんないのですが、膨大な情報の奔流の中に少女の成長物語というシンプルな糸が目立つように通してあったので、とりあえずそのへんにすがりつきながら読んでみました。それでも、小さなノミで巨大な岩塊をひとかけらずつ削っていくような根気の要る作業でしたが。
その他、緻密に構築された近未来テクノフィクションとして読むもよし、奇抜な通信プロトコルのアイデアにもとづいて世界の変貌を描く情報SFとして読むもよし、子供向けのおとぎ話の体裁でチューリングマシンの原理を説明してくれる「しょうがくいちねんせいからの並列計算」テキストとして読むもよし、国家なき未来の中国に再燃するヴィクトリア思想と儒教思想の激突を描く社会シミュ小説として読むもよし。読み手の興味や資質に応じてさまざまな楽しみ方ができる、非常に懐の深い(多い?)小説だと思います。いずれの読み方にしても相当ハードな歯ごたえを感じられる力作かと。

第一部までの感想はこちら

久しぶりにサイバーパンクっぽいのが読みたいという気になったそもそもの契機はニューロマンサー映画化のニュースでしたが、この本を買う直接のトリガーになってくれたのはこちらのエントリ。
[プチ書評]『ダイヤモンド・エイジ』(ニール・スティーヴンスン/ハヤカワ文庫)(三軒茶屋別館)

ここで疑問が呈されているように話が「破綻」したりはしていないと僕は思いますが、主筋であるネルやハックワース以外の部分、たとえばストーリー半ばでお役ご免になったサブキャラの出番とかがかなり豪快にぶった切られているのは事実です。フェードアウトなんてもんじゃない、投げっぱなしジャーマンって感じでぽーいと。こういうところが構成上アンバランスであるという評価なら頷けます。そういえば僕も、第一部で活躍した芳判事や常警部の出番が後半まったくなかったのにはちょっと消沈しましたね。芳判事お気に入りだったんだけど。

成長物語というくくりでいえば、なにもかも円満に収まるよりも少々冷酷すぎるくらいな締め方のほうが僕の好みに合うようで、読後感はすっきり良好でした。ラストはさっぱり盛り上がりませんが、個人的にはあれもアリです。少なくとも、むりやり盛り上げようという作為的な仕組みがみえみえなのよりは、淡白でも理にかなった展開の方が僕は好きっぽい。あくまでも成長物語の枠内で、ですが。


「本が現実に対してなにやらしでかす」という着想が、そのものずばり「本」という媒体を用いているところの小説によくなじむためか、そういうことを題材にした小説作品は古今を問わずたくさんあるようです。僕の知ってるうちで「本ネタ本」の比率の高そうな作家というと、まず皆川博子かなあ。筒井康隆は本ネタにかぎらずメタフィクション比率の高い人ですが、これはいちいち言うまでもないか。あと、古川日出男だと「アラビアの夜の種族」、川又千秋の「幻詩狩り」も印象に残っています。最近読んだものでは乙一のジョジョ本もそうでした。指輪物語やはてしない物語のように、装丁のデザインまで作中の本に合わせてあったりすればなお良しです。
ちなみに「ダイヤモンド・エイジ」の場合、作中でネルが読んでいる〈プリマー〉の文章でフォントを変えて作中作であることを示してはいるものの、本の装丁に関してはあんまりそれっぽくありません。単行本も文庫版も、一応〈プリマー〉をモチーフにしたデザインにはしてあるけど。できればもうちょい、見た目〈プリマー〉ぽいほうが嬉しかったですー。

ニール・スティーヴンスンの邦訳長編としては他に「スノウ・クラッシュ」「クリプトノミコン」があって、どちらもスタイルとしては「ダイヤモンド・エイジ」とよく似た情報過剰型の小説らしいです。気に入ったぞこのやろう。いずれ読んでみます。

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とりあえずビールPズンバラリ-小烏丸庫の筆先さんらしい
ぐーぐるよ今夜もありがとう
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by umi_urimasu | 2008-02-18 23:36 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
「ダイヤモンド・エイジ」ニール・スティーヴンスン
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a0030177_22112080.jpgついに、と言うべきか。今さら、と言うべきか。少し前にウイリアム・ギブスンの「ニューロマンサー」の映画化が報じられました。心は千々に乱れども、とにかくやっちまってくれい、というのが正直な気分です。子供のころから幾度となく夢にみた、「空きチャンネルに合わせたTVの色」の空の下に広がる千葉シティの風景。きらめく無窮のサイバースペース。中世の迷宮じみた軌道衛星都市。なんだかんだ言っても、やっぱり本音はあの世界をこの目で見てみたくてしかたないのです。
しかしいざサイバーパンクを映画にしようとすると、記憶屋ジョニイが「JM」になっちゃったり攻殻の子がマトリックスになっちゃったりと、なかなか期待通りの尖ったピカレスクに仕上がってきてくれないのも確か。なのでどうしても楽観的にはなれない。そういう複雑な気持ちが、「とにかくやっちまってくれ」という投げやりとも取れる反応となって表れるというわけで。

a0030177_2254312.jpgまあそんなヨタ話はおいといてですね。ニューロマンサー映画化と聞いて久しぶりに軽くサイバーパンク方面のスイッチが入って、えいやと選んできたのがこのニール・スティーヴンスン「ダイヤモンド・エイジ」です。読み始めてみたらこれがまさに欲していた通りの代物で、もうウハウハムヒョヒョといった感じでございまして。やれやれ。その話をいたしましょうか。

まずカバーには「『ニューロマンサー』の“近未来”に『ハイペリオン』の“叙事詩”をリミックス」という叩き文句。でも前半を読んだかぎりでは、たとえにハイペリオンというのはちょっと違うんじゃねーかなという気もしました。もしかしたら後半でハイペリオンぽくなるのかもしれないけど。
僕が思い浮かべたのは「モナリザ・オーヴァドライヴ」+「ディファレンス・エンジン」+牧野修の「傀儡后」、という取り合わせですね。ギブスン黒丸訳ほどの言葉の鋭さはなく、ストーリー展開もやや鈍重な印象なのですが、その代わりに膨大、雑駁、グロテスク&カオティックなテクノカルチャー描写が呆れかえるほどゴテゴテと盛り込まれていて、舞台となる世界の解像度の高さがハンパじゃない。この物量攻撃的スタイルが「傀儡后」っぽいと感じる所以です。いや、「っぽい」どころか、これに比べれば傀儡后がかわいらしく見えてしまうほどの凶悪な装飾過剰ぶりです。こうした情報過密な小説が好きな人にはそれこそウハウハな作品でしょう。逆に、そんな趣味のまったくない人にはかなりきついかもしれません。近未来テクノジャーゴンの奔流を200ページほど耐えしのぶことができれば、世界観が大方把握できて一気に読みやすくなってくるんですが。

時は21世紀なかば、場所は上海。物語の発端は、新舟山の都市国家に属するナノテク技師が、さるネオ・ヴィクトリア貴族の依頼をうけてとある発明品を生み出したことでした。彼は愛娘のためにその品の違法コピーを作ろうと画策し、貴族からも当局からも目を付けられてしまいます。彼を巻き込んで展開する陰謀劇と、貧民街に住む幼い少女の成長物語にからんで、いくつもの勢力、さまざまな登場人物が入り乱れ、複雑なドラマを織り上げていくことになります。

そして、その劇中でもっとも重要な役割を果たすキーアイテムが問題の発明品、〈若き淑女のための絵入り初等読本〉、または単に〈プライマー〉と呼ばれるものです。教育用インタラクティブ・デバイスとしての驚くべき能力を秘めたこの発明こそ、まさに科学が生んだ「魔法の本」。これはSF的にも物語的にも非常に魅力的な存在で、このガジェットのアイデアなくしては本作のヒューゴー&ローカス両賞受賞もありえなかったのではないかとすら思えるほどです。

この〈プライマー〉、見た目はただの本ですが、その正体はナノテクの粋を集めた超はいてくデバイス。周囲の環境を認識し、所有者の子供と会話し、その心をデータとしてマッピングする機能をもっています。そして集合的無意識のカタログとでもいうべき膨大な普遍的概念群をシンボル化し、子供の置かれたそのときどきの状況に即した「お話」のかたちで提示することにより、所有者の心身の成長を助け、その子の身を危険から守り、親に代わって、否、実の親にすら望むべくもないほどの教育を行ってのけるのです。すげえよこの本!スタンド並の代物っすよ。

偶然〈プライマー〉を手に入れた少女・ネルが、劣悪な家庭環境から脱出したあと、いったいどんな体験をしてゆくことになるのか?〈新アトランティス〉と〈天朝〉、ふたつの勢力に挟まれて二重スパイに仕立てあげられてしまった〈プライマー〉の開発者、ハックワースの運命は?つづきは後半のお楽しみ。僕もまだ第一部までしか読んでいないんです。ということで、第二部の感想はまたのちほど。


そうそう、あとひとつ。単なるサイバーパンク小説とは一味ちがう本作のユニークなポイントとして、作中作に当たるおとぎ話のパートの存在ってけっこう重要な気がします。この作品、水と油みたいな関係のはずの「童話」と「サイバーパンク犯罪劇」をむりやり合体させたような構成をもってるんですが、〈プライマー〉の機能によって物語と物語内物語が互いにフィードバックし合うことで、格好だけでなく作品そのものがサイバーパンクとおとぎ話の融合と言ってもいいような不思議なものになりかけてるような気がするんですね。もしこの方向性のまま行き着くとこまで突き進んだらいったいどうなるんだろうかと。なんかヘンなもんが出来あがりそうだぞ。そんなふうにもちょっと期待してみたり。

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[ニコニコ] アイドルマスター タグ[マンタP]
巡礼用。今夜はブロリーナイトだぜー

[ニコニコ] 【MAD】スクライド+英雄(doa)
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by umi_urimasu | 2008-01-25 22:41 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「人類は衰退しました」田中ロミオ
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a0030177_17513399.jpgはるかな未来、落ちぶれた人類に代わって地球の支配者の座についた「妖精さん」たちと、緩慢に滅びゆく旧人類とのかぎりなくローテンションな交流ぶりをかぎりなくローテンションな筆致で描いた、なんとなく異文化交流SFのような、べつにそうでもないような、というよりもはや単なる雑談のような、飄々としてなんだかよくわからない方向性を目指すファンシー・シムアース的ライトノベル。田中ロミオはこれが小説デビュー作だとか。

個人的には何から何までまるっきり肌に合わない作品でした。が、こういう拒絶反応が出るのは自分の普段の好みからいって予想の範囲内でもありました。以前に涼宮ハルヒ、ゼロの使い魔、ROOM NO.1301あたりにトライしたときもほとんど瞬殺というていたらくだったので、あるいは今回もそのパターンではないかと。
でも乙一や桜庭一樹のように、先入観からずっと敬遠していたものが当たってみたらホームランだったということもあります。なので、五冊や六冊読んでみて好みに合わないからといって「このジャンル苦手」と切り捨ててしまうわけにもいきません。どんなジャンルでもそうだけど、欲しいものをゲットできるかどうかは探す人の根気によるところが大きいのでしょう。というわけで、ある程度の距離はとりながら、これからもラノベ方面の開拓は地道につづけていこう。という思いを新たにしつつ、とりあえずこの作品はこれっきりということで。

あと、文体についてちょっと。僕がこの作品を読んでいちばん新鮮/奇異に感じたのは、物語でも世界観でもなくて文体でした。ほとんど、というか完全に、ノベルゲームの文体そのまんまなんですね。一文一文の短さ、情景説明的な一人称、読み手に話しかけているのか自己ツッコミなのかはっきりしないオタ語り口調、会話文の多さ、ネット言語のパロディ、等々。おそらく田中ロミオの本職(?)であるノベルゲームのシナリオのスタイルでそのまま書いただけなのだろうと思うのですが、それを普通の小説として読むことに僕の方が慣れてなかったせいか、かなり妙な読み心地でした。みんな気にならないのかな。それとも今のラノベではもう普通なんだろうか、ああいうノベルゲーム的文体は。

以下、おまけのようなもの。
「ラノベには疎いけど気が向いたら読んでみようかな」ぐらいのポジションにいる未読者のための判断材料として、作中に出てくる妖精さんたちのセリフを少しばかり列挙しておきます。こういう表現に対してどう反応するかで作品と読み手の親和性が試せる、リトマス紙みたいなものだと思ってもらえれば。
「にんげんさまは、かみさまです? です?」「しかしとても……おおきいです?」「わー」「おー」「んー」「あー」「ごみやま、かえるです?」「にんげんさま、ここでまたしつもんです」「ぼく、いつうまれました?」「なんと」「さー?」「な……まえ……?」「ねーむだ、ねーむ」「ねーむとはなまえのことだ」「ぺんねーむでいい?」「……よくおもったらなかったです」「なるほどぼくら、なまえ、ありませなんだ」「かもしれないです」「……にゅあんすで」「さようですか」「すいませんなさい」「ちんしゃします?」「おいしくたべられます?」「なんだよ」「いのちびろい?」「かくごしなくてもよかった?」「にんげんさんのちにくになります?」「ばかな」「そんなことが?」「かちぐみやんけ」「いっそたべて」「うそだた」「だたね」「よかた」「にんげんさんにほんろうされるです」「ねがいます」「きゃぷー」「ときめくごていあんですな」「そーきたかー」「かんたんのはんたい」「……にんげんさん、ごていあんです」「じぶんでなまえ、きめたいです?」「さー・くりすとふぁー・まくふぁーれん」「だめ?」「がんばるますー」

これはやっぱり、ある程度「了解済み」としてオタク文化圏内のものを消化できる読者限定という感じですかね。こういう空気を気軽に吸えて、わりと素直に愛でられる人になら、たぶん本作をおすすめしても大丈夫でしょう。こりゃちょっときついわ、と感じた場合は多少用心が必要でしょう。「反吐が出そうだ!」という人はもう買わないほうがいいです。
ということで、参考までに。

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「倒立する塔の殺人」皆川博子
おお、野上晶翻訳作品!ミステリYAというジュニア向けのレーベルから出ています。子供たちよ騙されるな、その本は偽物なんだ。
内容はやはりドイツものらしいですね。「死の泉」と関連づけたギミックが施されていたりしたらさらに楽しめそうなんですが、どうかなあ。

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2007年もそろそろ終わり。おかげさまで、今年も人様の感想や評判を頼りにいろんな小説と出会うことができました。直接的・間接的に名作・傑作をプッシュして読む気にさせてくれた方々に感謝です。個人的年間ベストワンはやっぱりジョージ・R・R・マーティン〈氷と炎の歌〉かな。もう一生ものの宝物ですよ、これは。

エキサイトのブログサービス自体がそろそろやばそうな気配なので、もしかしたら来年あたりもっとまともなサービスに引っ越すかもしれませんが、移転作業がめんどいのでぎりぎりまでここで粘ってる可能性大。ということで今後ともよろしくお願いいたします。

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あけめで。吉報でござる。アルフレッド・ベスター「虎よ、虎よ!」(ハヤカワ文庫)が復刊される由。ゴーレム効果なのかな? こいつは春から縁起がいいでござる。中古価格が高くてスルーしていた人はこの機会にぜひゲットされたし。それと円城塔「Boy’s Surface」も1月に。黄色の次は何色だろう。
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by umi_urimasu | 2007-12-30 17:55 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
「時砂の王」小川一水
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a0030177_115106.jpgありがたきもの、それはコンパクトな小川一水作品。
安定して高品質なSFを発表してくれているのに、なぜか媒体は文庫ばかりという印象のあるこの人ですが、今回もまた文庫書き下ろし。よく見にいく書評感想系サイトなどの評判では「コンパクトにまとまった良質の時間SF」という意見が多いようです。肯定。僕もまったくその通りだと思います。話がそつなくまとまりすぎていて、かえって「ここが読みどころだ」って強調するポイントが思いつかないぐらいでした(褒めてます)。
西暦248年、不気味な物の怪に襲われた邪馬台国の女王・卑弥呼を救った「使いの王」は、彼女の想像を絶する物語を語る。2300年後の未来において、謎の増殖型戦闘機海軍(ET)により地球は壊滅、更に人類の完全殲滅を狙う機会群を追って、彼ら人工知性体たちは絶望的な時間遡行戦を開始した。そして、3世紀の邪馬台国こそが、全人類の存亡を懸けた最終防衛線であると──。(カバー裏紹介文より)
ボリュームは総計280ページ弱。これだけコンパクトに収まった理由としては、やはりディテール描写の削減による効果が大きかったのでしょう。小川一水が好んで描く「みんなで力を合わせてひとつの目標に向かってがんばろう。おー!」という物語の方向性は、「第六大陸」「復活の地」の頃からここまでおおむね一貫しています。しかし本作では、かかげた目標を達成するために皆でよってたかって行うひとつひとつの行為をいちいちずらずら書きつらねていくという手法がとられていません。描写対象はほぼ主人公とヒロインの交流のみに限られ、さらにその中でも大願成就に至るドラマの起承転結に必要な最小限のアイテムを選んでストーリーが構成されているという感じです。結果として、小川一水作品の持ち味であるプロジェクトX的なノリは今まで通り維持しつつ、ボリュームは劇的に縮小できたと。

一進一退しながらじわじわ目標達成に近づいていくプロセスの描き込みが少ないことに対して、まさに小川作品のその部分が生み出す盛り上がりを楽しんでいた読者(僕もその口です)は多少寂しさを感じるかもしれませんが、軽量化によってこれまでよりも圧倒的に読みやすい作品として仕上げてくれた点については、これはこれで大いに歓迎したい流れです。評判を聞いてこれから小川一水の小説を読んでみようかという方には、この「時砂の王」か「老ヴォールの惑星」のどちらかがおすすめな気がしますね。

でも個人的には、「復活の地」みたいにたっぷり文庫三巻ぐらいかけてディテールを描き込みまくったバージョンを読んでみたかった、という未練もやはり振り切りがたい。題材がおいしく、拡張性も高いと思えるだけになおさらです。くそー、食い足りん。いい意味で。


以下余談。時間SFとしての私的評価。
上のあらすじにもあるように、物語の主役である人口知性体「メッセンジャー」たちの努力目標は、人類史をその発祥までさかのぼり、無数に分岐した平行世界のすべてにおいてインベーダーを一匹残らず殲滅するという壮大なものです。この手の話で風呂敷が壮大なのはもちろんいいことなんでしょう。ただ、すでに山ほど存在する時間SF小説のなかでアイデア的にいくらかでも新味があるのか、といわれるとどうかな。個人的にはさほど斬新という気はしませんでした。タイムパラドックスも簡単な説明ひとつでスルーしておしまいだし。とはいえ、いかにも小川一水らしい扱いかたではあったと思います。ラストの伏線回収なども非常にベタで、あざといくらい泣かせようという意図がみえみえなのにまんまと乗せられてしまいました。我ながらなんと安い読者なんだろう。もちろん作品に罪はありません。

そういえば「天涯の砦」は単行本だった。僕は未読でした。野尻抱介の「太陽の簒奪者」みたいな謎ときSFっぽい味つけが多少でもあれば読みたいんだけど、巷ではポセイドンアドベンチャーだのタワーリングインフェルノだのいわれてますね。そっちかい。うーん。まあいずれ読んでみよう。少なくとも早川書房ではハズレはなさそうだし。

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言い忘れ。毎回毎回しょうこりもなく言ってますが。どなたか復活の地をアニメ化してけろー。

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スクライド 5.1ch DVD-BOX (期間限定生産)
欲しい! でもちょっぴり高い。余計な特典とか付けずにもっと低価格にしてくれたほうがありがたかった…。

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[ニコニコ] 【手描き】L5伝説トミタケ 雛見沢に舞い降りた時報【ひぐらし】
第3期はぜひこの絵柄で。

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魍魎の匣の映画がすでに公開中なのですね。僕はグロ系苦手なので映画館にまで見にいくことはたぶんないと思いますが、この先もまだ映画化企画がつづくとしたら次はどれだろう。絡新婦の理あたりだったら絵的にも映えるし、僕でも大丈夫そうかな。
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by umi_urimasu | 2007-12-27 12:48 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
「ひとりっ子」グレッグ・イーガン
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a0030177_23321417.jpgかかってこいや量子論、やらせはせんぞ宇宙改変。と、ようやくまたイーガンに挑める程度に気力ゲージがたまってきたので読んでみました。どうやら僕の場合、純正のイーガン分補給は半年に一回ぐらいがちょうど身体に、もとい、お脳にいいような感じですな。できればもう少しくだけた感じの、やわらかイーガン的な作品もセットで読めたらいいなという気もするんですが。あのイーガンではいかんせん。

と思っていたのですが、聞くところによると、「Schild's Ladder」あたりまでひたすら難解路線だったイーガンが2006年の「Riding the Crocodile」(鰐乗り?)ではなんかがらりと作風を変えてきたらしいですね。これは(物理学的な意味で)今までよりずっとやさしい、いわゆる普通に壮大なハードSFっぽい内容になっているのだとか。うおお楽しみだ。邦訳刊行はまだはるか先でしょうが、期待していようかと。

さて、これで一応、既刊のイーガン邦訳単行本は「順列都市」をのぞいて全て読み終えました。「万物理論」だけ感想を書いてないのがちょっと心残りですが。あれはいろいろてんこ盛りな作品で、感想を書きあぐねてしばらく放置しているうちに細かいことを忘れてしまったので。えーと、ホモが宇宙を救う話?だっけか?ああー。いずれ再読してもう一度ちゃんと感想を書こう。その日までさらば、さらば万物理論。

というわけで、前置きが長くなりましたが「ひとりっ子」についての話を。今回の目玉はやはり「ルミナス」、「オラクル」、そして表題作「ひとりっ子」あたりでしょうか。

「ルミナス」は風呂敷の大きさを誇るイーガンの面目躍如というべきビッグ・ワンアイデアSF。宇宙開びゃくより今まで一度も人類にその存在を認識されることなく、我々とは別の自然法則にしたがって人類とこの宇宙を共有してきた知的生命体――その見えざる異種族を、スーパーコンピュータ「ルミナス」によってはからずも発見してしまった数学科の学生とそのものたちとの間で、いま「宇宙の法則書き換えメタ定理なわばり戦争」の危機が勃発する。決戦か、それとも和解か?人類の命運、このキーボードの一打にあり!
「自然法則を書き換える」なんて、なんちゃってSFや魔法の出てくる小説ではありきたりな言い草ですが、口先だけじゃなくガチで書き換えはじめるのがイーガンのイーガンたる所以です。宇宙改変という人類未踏の地平まで部屋から一歩も出ないまま連れていってくれるという、出不精な人間にはなんともありがたいお話。「数学的生命体」のアイデアには、「ディアスポラ」の〈ワンの絨毯〉に通じる「その発想はなかったわ」的驚きもあり。よく思いつくなあこういうの。

「オラクル」は、C・S・ルイス(っぽい人物)とアラン・チューリング(っぽい人物)が人工知能論争をくりひろげる歴史改変もの。現時点でイーガン唯一の「過去」の物語であるばかりでなく、タイムトラベルによって過去に飛んだ人間が歴史を変えようとするという、イーガンの全キャリア中でもきわめて異例なタイプの作品です。「ひとりっ子」とキャラの一部が共通しているのも、彼にしては珍しい仕掛け。なんとなくだけど、2000年ごろから少しずつ、彼は定番的な古典SFの要素を自身の作風の中に取り込もうとしはじめているような気がしないでもないような。
作品集としての配置順にややひねりがあって、最後の「ひとりっ子」を読んではじめて、ようやくこの作品にも感無量な気分が味わえるという構成になっています。ぼけっと読み流してるとちょっと損します。

そして今回もいつものように表題作が最後にくるパターンで、「ひとりっ子」。平行世界の「ありえた他の分岐をたどったすべての自分」に対する責任感とか罪悪感とかを、究極の方法でクリア(でも反則?)しようとする両親とAI娘の話です。量子論で「愛」の行き届く範囲が広がったりするもんだろうか?するよ。あたりまえじゃん。という、イーガンならではの鋭利な問題意識とすばらしいSFアイデアの輝きをあわせもった作品。数学と量子論が「自己」の定義を拡張するという考えかたは「宇宙消失」やその他多くのイーガン作品に通底する彼のメインテーマともいえますが、そこにAIの自我問題を交じえてさらに人間的な領域へ踏み込んだ感があります。これは傑作でしょう。

ですがこれ、もう少しわかりやすい書き方にならなかったのかなあ……。せっかくの華麗な発想が、量子論に親しみのない読者にとってはその厳密さの効果がまるきり不発なまま終わってしまう、というリスクをイーガンのほとんどの作品は抱えていて、しかも彼は、年を経るにつれて読み手の理解度に対するハードルを上げていっているようにすら見えます。「量子論を理解せずんばイーガンを読むべからず」と割り切ってるんならそれはもうしかたがないけど、こういう作品が研究者とSFオタと哲学オタぐらいにしか読まれないんじゃ、やっぱりなんかもったいないよ。サルでもわかる量子論ぐらいのわかりやすさで、なんとか手打ちってことにできないもんだろうか。

この点では、僕は最新作「Riding the Crocodile」に単なる新作という意味以上の期待をかけたい気持ちです。学術用語の頻用による混乱を避けつつ、でも厳密さは可能なかぎり損なわず、彼の着想や論理展開のおもしろさに枷をはめずに済むような作品になっていたらベストだよなあと。こういうのってたぶん、実際に人間を量子論的に定義しなきゃいけなくなる前の、21世紀の小説家にしかできない言葉の使いかたなんじゃないでしょうかね。

その他の、いわゆるいつものアイデンティティものの短編については詳細割愛。基本的に感情制御ツール使ってひどい目に遭ったぜふひい。という話がほとんどです。

余談。
読んでて、これマジで実用化してくれと思った技術。視神経かどこかに細工して、眼をつぶったままの状態で、いわゆる「まぶたの裏で」テキストが読めるようになるの。イェアーなんという寝読み上等テクノロジー!もし、いつでもどこでもどんな体勢ででも、手ぶらで本が読めたなら。しかも学校のテストとかカンニングし放題じゃん。まあそんなふざけた目的よりも優先して応用すべき、実益にかなった分野が他にたくさんあるでしょうけど。
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by umi_urimasu | 2007-11-20 23:52 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
「壊れかた指南」筒井康隆
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a0030177_2311573.jpgライトノベル「ビアンカ・オーバースタディ」の連載開始が報じられてまたまた話題の人となっている筒井康隆、現時点での最新短編集。正常に見えた精神が、一歩道を踏みはずしたばかりに果てしなくトチ狂っていく……そんな滑稽で恐ろしい「壊れ」話をがっつり詰め込んだ怒涛の三十篇です。夢、虚構、超虚構、幻想、諧謔、風刺、ホラー、怪談、時代劇、童話、エログロスカトロ、老人小説などなど、品ぞろえがとんでもなくバラエティ豊富なのはいつもの通り。

断筆解除したばかりのころの「エンガッツィオ司令塔」「魚籃観音記」などに比べると、血の気の多い作品が短編集に占める割合はやや減ってきているようにも見えますが、そうかといって油断はできません。スラップスティックの手法に取って代わったのが、より深く朦朧とした虚実混淆の表現であるというだけのことだからです。いうなれば、攻撃のしかたが壮年のものから老年のものへ、一撃必殺の剣からじわじわ責める鈍器へと代わっただけで、筒井作品の攻撃力の実体である虚構性の強さは減っていないよということ。(前のエントリを引用してくれたy_arimさんは「壊れかた指南」に対して「『老い』を感じた/人生回想モードに入ってる」と嘆かれていますが、僕は上のような考えなのでとくに落胆や失望を感じていません。老人には老人の戦い方があるんだなあと感心はしたけれど。)実際にこの作品集をちゃんと読んでもらえれば、少々悲観的になっている古参の信者たちもきっと安心するでしょう。

ただ、僕は「ベラス・レトラス」「銀齢の果て」は未読なので、今年に入ってどうなったかはわかんない。風評ではあいかわらずのぶちかましっぷりみたいですけどね。

以下、ショートショート以外の収録作寸感。

「漫画の行方」
 昔の記憶を反芻していると、いつしか夢現の境が曖昧になっていく。「夢の木坂分岐点」のような時空のトワイライトゾーン。
「余部さん」
 作家の職業的悪夢をネタにした理不尽メタフィクション。こういうのはもうお手のものって感じ。
「稲荷の紋三郎」
 ドタバタ妖怪もの。京極堂ネタ吹いた。本人お得意のパターンであることを利用したメタオチ。
「御厨木工作業所」
 狂い切ったシュールな会話が哀れを誘う。分類するなら「ヨッパ谷への降下」タイプかな。
「迷走録」
 夢特有の強迫観念的な恐怖。巨大猫らめえ
「建設博工法展示館」
 理不尽な、それでいて奇妙に安らぎも感じさせるこの恐怖はまさに夢のそれ。さすがです。
「大人になれない」
 夢と現実を区別できない現実逃避オタクの狂気。本領発揮! パプリカの時田+千葉ペアのシャドウ?
「優待券をもった少年」
 リアルなる理不尽。マルケスの言う「本当らしく見える限界」の路線かも。
「犬の沈黙」
 他人と喋るのがこれほど苦痛なら、いっそ動物に変身してしまったほうが……と思ったら負け。ただし人によっては負けるが勝ち。登場人物のモデルが現実にいそう。
「出世の首」
 映画の撮影現場での虚実混交ブラックユーモア。
「二階送り」
 謎ルールに追いつめられる系。んー、「熊の木本線」タイプ?
「空中喫煙者」
 煙草を吸うと宙に浮いてしまうお爺さん。ユーモラスだが実際夜中に出くわしたりしたら超怖い。
「鬼仏交替」
 罵詈雑言と丁寧語がコロコロ切り替わる、おなじみ文体遊戯。強いデジャヴを感じるんだけど、筒井作品にはこういう系列のが多すぎてもうどれがどれだか。
「耽読者の家」
 今回の個人的ベストワン。膨大な本の山に埋もれてただ本だけを読みふけって生きていけるという本好きの天国みたいな家の話。「岩窟王」や「宇宙戦争」の子供向けでないバージョンが断然すばらしげに書かれていてそそられまくりです。
「狼三番叟」
 老役者の憂鬱な日々。最近の筒井康隆の老人描写からは、もはや完全にこれを自家薬籠中のものにしたというような自信を感じる。「敵」あたりがターニングポイント?
「店じまい」
 レストラン閉店の最後の夜、平凡な会話ににじむ悲嘆。会話描写うめぇ
「逃げ道」
 雪国レ・ミゼラブル。惨めな現実から逃げ出したその果てに天国はあるのか。

さて、ビアンカ・オーバースタディでは鬼が出るか蛇が出るか。「唯野教授のラノベ批評」みたいなやつだったら楽しそうだなあ。


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by umi_urimasu | 2007-11-13 00:14 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」桜庭一樹
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a0030177_22122214.jpgまずは反省。「本を見かけで判断しちゃダメ」といういい教訓でした。出版レーベルや文庫版の装丁などから勝手に先入観の壁をつくって今まで読もうとしなかったこと、かなり後悔しています。もしこの作品がハードカバー化されず、いかにもライトノベルっぽい体裁のままで売られていたとしたら、僕はたぶん決して自分から手に取ろうとはしなかったでしょう。なんというもったいないおばけ。食わず嫌いベリーよくない。なんでもトライしてみるもんですね。

どんな小説かひとことで紹介しろ、と要求されると言葉に詰まるんですが、「青春暗黒ミステリー」と言ったところで未読の人に伝わるのかな。もっとわかりやすくぶっちゃけると、愛していた親に殺される子供とただ傍観することしかできなかった子供の物語です。世の中は無力な子供が生きやすいようには全然できてなくって、運悪く死ぬ子がいれば運よく生き残る子もいる。そんな残酷な世界で、親や学校の庇護という建前の皮をかぶせられて逃げることも抗うこともできないままあがきつづけ、斃れていく少女たちを「実弾を持たない兵士」にたとえた、レクイエムというかゴッドスピードというか、まあそういった小説であると。

少女と大人の世界の対比の残酷さもさりながら、僕にとって珍しい方向からの衝撃だったのは、およそ停滞というものの感じられないそのスピードでした。ラノベの文庫一冊分に収まる必要最小限の登場人物とイベントに絞りこみ、成長と通過儀礼のドラマパターンから美しさとむごさだけを抽出した無駄のなさ。痛みにおびえて立ち止まるには、この小説はあまりにも短すぎ、あまりにも読みやすすぎるのです。こういうところを「ライトノベル的」なスタイルとみなしていいかどうかはわかりませんが、この作品のインパクトの幾分かは確かにその短さと読みやすさに負っているように思えます。
しかし、文庫版のファンシーなイラストといい、いかにも甘ったるそうなタイトルといい、そもそもこんな過激な作品が剣と魔法でぴよぴよ系のラノベレーベルから出ていることといい、なにかトラップめいたものを見てとってしまうのは邪推なんだろうか。

僕の場合、典型的なライトノベルというものにいろいろとネガティブなイメージを抱いていたせいかもしれませんが、文章が端正でおかしな癖がないのは非常に助かりました。思春期の少女相応の繊細さの表現にかなり気をつかっているらしい点も好印象です。一人称文体の中に、主人公のリアリストぶりを示す語り口のそっけなさと、美男のくせにひきこもりの兄を貴族にたとえたり海野藻屑の奇言奇行を「砂糖菓子の弾丸」と形容したりするちょっと詩的なセンスが同居していて、「13歳」というキャラクター性が強烈に立っていたりとか。「平易な文章」がかなり上手い人だと思います。

この少女心理描写の巧みさだけで、個人的にはもう十分元を取らせてもらいました。あえて瑕を探すとすれば、「この話、ミステリ要素要らないのでは?」という突っ込みぐらいか。野暮かな。「富士ミスだから」という実もフタもない理由だとしたら文句を言ってもしかたないし。ただ、この作品を読むかぎりでは、桜庭一樹というひとはあんまりミステリが得意分野ではなさそうな印象でした。一応ジュニアミステリがメインの人らしいんだけど。

いつぞやライトノベルから一般文芸への越境現象がどうのこうのと話題になってましたが、あれはまさにこういうもののことを言ってたのか!とこれを読んでようやく合点がいきました。なるほど確かに越境してきてる。これなら読む。僕だって喜んで読む。あんまりラノベっぽすぎなければもっといい。そんなわけで直木賞候補作「赤朽葉家の伝説」が期待度急上昇中。

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メタフィクションという「技法」
メタフィクション特有の快楽を存分に味わいたければ、普段はむしろ非メタ的なフィクションにこそ漬かってたほうがよさそうだな。という気がする。

[ニコニコ] 【エヴァンゲリオン】 『 使徒ラミエル : ? 』
笑い死ぬかと思った。実写パートが神すぎる

[ニコニコ] 朝比奈ミクルの冒険(ハリウッド版)
T2+ハルヒ。このくだらなさこそ手製MADの醍醐味
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by umi_urimasu | 2007-10-18 23:11 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「楽園の知恵―あるいはヒステリーの歴史」牧野修
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a0030177_1652443.jpgひとことで言うなら「言語実験と幻想ホラーの度胸合体大乱交パーティ」みたいな短編集。毒性の高さ、容赦のないブラックユーモア、悪夢や狂気の黒ぐろしさ、哀れな死者たちに向けるやさしい視線、まるで往年の筒井康隆のようなオールラウンダーぶりです。日本SF大賞受賞の「傀儡后」もすばらしい作品でしたが、あの戦慄的なテクノゴシック・イメージの洪水ですら、牧野修がたくわえている武器弾薬の総量からすればほんの一部分にすぎないらしい。ということが、ようやく僕にもわかってきました。でもって、最高傑作と名高い「MOUSE」を読むのがめちゃくちゃ楽しみに。

ところで、約15年という長い期間の中から拾いあげられた作品群にもかかわらず、こうして一冊にまとめたときにまったく散漫な感じがしないというのはなにげに凄いことのような気がします。筆運びがじつに危なげないというか、基礎をがっちり固めた上で悠揚として言語実験に挑んでいる風にみえるというか。
この「楽園の知恵」には比較的尖った作品ばかりが選ばれているようですが、長編「屍の王」(1998年)なんかはごくオーソドックスなホラーだったし、Wikipediaによれば牧野修はバイオハザードやかまいたちの夜などの映画やゲームのノベライズもたくさん手がけています。その手の定石的・典型的なものを誰にでも読みやすい形で書きこなせる安定した技術的土台をもっていることが、そこからどれだけ逸脱したものを書いてもとっちらかった印象を与えずに済む理由なのかもしれません。

ちなみに牧野氏はプロ作家になる前は同人誌「ネオNULL」の常連だったそうで。なるほどさもあらん。あの筒井っぽさはただごとじゃねーと思ったんだよ。

以下、印象深かった収録作寸感。

「演歌の黙示録 エンカ・アポカリプシス」
オカルト昭和演歌史パロディ。アイドル演歌歌手が紅白歌合戦で突如「ふんぐるい~」と歌い出して触手で観衆を狩りはじめます。ドアホすぎる。こういうの大好きだ。たとえるなら筒井康隆「イチゴの日」+荒俣宏「帝都物語」+菊地秀行「妖神グルメ」。参考:薔薇十字団

「インキュバス言語」
猥語変換SF。やってることはエロ小説のガイドラインとあんま変わらない。とはいえ、やはりプロの小説家が書いたものはそれなりのクオリティです。

「逃げゆく物語の話」
物質化されたテキスト〈テキスティック〉で造られる「人形をした書物」〈ラングドール〉。彼らは人間そっくりに喋り、思考し、動くことができ、今では本に代わるコレクションの対象となっていた。しかし表現規制法の激化により、公衆良俗に反するホラーやポルノのラングドールの廃棄処分が決定される。彼らは当局に追われながらも〈約束の地〉――いずこかにあるという、ドールたちのための大図書館――を目指そうとするが、仲間が次々と殺されてゆき……。
設定だけならこれがいちばん好きかも。ブラッドベリ「華氏451度」のバリエーションみたいなディストピア話ですが、こちらは燃やされる本のほうが主人公という変わり種です。言語の消失といえば「残像に口紅を」なんかが思い浮かぶけど、まあさすがにそこまでのことはなく。

「夜明け、彼は妄想より来る」
公衆便所で意味もなく刺されたホームレスの女が孤独な死の間際にみる夢。どちらかというと物語よりも絵的なインパクト先行の収録作品が多いなか、ストーリー性の高い一篇。

「踊るバビロン」
バイオテクノロジーの暴走によって生まれた家具人間たちが住む異形の世界〈屋敷島〉の見聞録。捏造言語文化の不条理パロディ的面白さと生理的嫌悪感のダブルアッパー。

「バロック あるいはシアワセの国」
時間=神と定義した王国の興亡を描くドラッグの神話。なんかボルヘスにこんな話あったよね。ネットスラング文体ならではの都市伝説的恐怖の演出がいい感じ。

「ドギィダディ」
キリスト生誕の逸話をぎったぎたのウルトラ・グロテスクに変換。そこまでするか。

その他、「いかにして夢を見るか」「憑依奇譚」「或る芸人の記録」「召されし街」「中華風の屍体」「付記・ロマンス法について」。計13篇、バラエティ豊かな秀作ぞろいの一冊。SFに格別のこだわりのある読者でなければ、「傀儡后」よりもまずはこっちをおすすめしたいです。あと、筒井好きは必読ですね。

[アイヨシ][プチ書評] 『楽園の知恵』 (三軒茶屋 別館)
僕のよりずっと濃い書評。筒井「虚人たち」や酒見賢一「ピュタゴラスの旅」への言及もあり

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ETV特集 21世紀を夢見た日々~日本SFの50年~ (NHK教育 10/21)
見忘れないようにしよう
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たまってた電脳コイル消化。第20話のアクションが痛快でした。後のラミエルだな。

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画像系サイト、Best Pic Ever これはいいところだ。
Staten Island: Boat Graveyard  これもいい。廃船写真がたくさん
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by umi_urimasu | 2007-10-13 21:28 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)