カテゴリ:本(SF・ミステリ)( 122 )
「スプーク・カントリー」をなでなでしたい
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a0030177_2149668.jpgここ数日、ウィリアム・ギブスンの新作「スプーク・カントリー」を読んでいます。ものすごくちんたら読んでます。なんというか劇的な要素に乏しい小説で、ディテールはすごく堪能できるんだけどストーリーを追う意欲がさっぱりわかないのです。別につまらないわけではないんですが。

これはたとえば、端正な美術工芸品(壺とか碗とか)を愛好家がなでなですりすりする心境に近いのかもしれません。いかにもギブスンらしいサイバーポエムな言い回しや、秘密めいたやっかいごとの匂いをはなつ断片群(まさにフッテージ)はそこに在るだけで美しく、そしてそれらを愛でるのに性急さはあまり必要ない。いつ中断してもいいし、いつ再開してもいい。映画や音楽ならそれで興奮がさめてしまうこともあるけれど、壺や茶わんの鑑賞にタイムリミットはないんだからかまわないではないか。という感じで読んでは休み、読んでは休み、とかやってます。そら進まんわ。

しかし、ギブスンをここまで読みあぐねた経験はこれが初めてですね。最近のギブスン作品は昔のと比べてあまりにも読み心地がちがいすぎる。スプロールシリーズの頃って、もっとすごくベタな感じの、サービスサービスな作風じゃなかったっけ。と思って、久しぶりに初期の本を引っぱり出してきてみました。やっぱりそうだ。ニューロマンサーは暗黒街喧嘩伝説だし、カウント・ゼロでは1ページ目からいきなりPOV人物が爆死&蘇生するし、モナリザ・オーヴァドライブではヤクザのお嬢さま、巨大ロボット、ヴードゥー・アイドル、超擬験シンデレラが入り乱れてる。そう、存分にエンタメしている。
これがヴァーチャルライト、あいどる、フューチャーマチックではだいぶおとなしくなり、派手なイベントや過剰にドラマチックな色づけをされたキャラクターがいなくなる。さらにパターン・レコグニションやスプーク・カントリーになると、もはやドラマ性そのものが希薄で、ほとんどただの現代文化メモみたいになってくる。別々に読んでたから実感がなかったけど、じつはけっこう大きく作風が変わってたってことでしょうか。

最近の作品はドラマが地味な代わりに作品世界の解像度はめちゃくちゃ上がっていて、これはこれで刺激的です。でも好みでいったらやっぱり昔のエンドルフィン多めなやつの方がさ。なんかこの、男の子のロマンがさ。などと少年時代を懐かしみつつ古い本たちをぱらぱらめくっているうちにいつしか夜も更けていた。そして今夜もスプーク・カントリーは進まない。

余談。
そういえば僕、一度リアル千葉市を訪れたことがあります。ありふれた街並とモノレールの高架が合体した奇妙な景色が、なんかサイバーパンク的だな~と感心したおぼえがあります。カプセルホテルにも泊まったよ。

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スプーク・カントリーにもARネタが出てきて自分にタイムリーな記事。
現実世界をiPhoneでタグ化するSekai Camera
まだまだしょぼい。でも10年後が楽しみな技術。いつか電脳メガネをかけて街を歩いてポップアップの山に埋もれる体験をしてみたい……というのはさておいて、実際には車のドライバー用の危険察知・事故予防とかに役立てられることを期待しています。

荒山徹の「柳生陰陽剣」と山風版「八犬傳」をついに入手しました。読みたすぎる。でも読むなら全力で読みたい三冊なのでパワー出すタイミングをはかっとく。

ここだけ全員、突然気持ち悪い日記を書き出す女
コピペじゃないとしたら凄い才能

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今川泰宏監督によるマジンガー新作「真マジンガー 衝撃!Z編」テレビ放送決定
マジンガーよく知らないけど今川作品ということで期待。GロボやGガンみたいに賑やかなやつプリーズ

対談 京極夏彦×平山夢明 『愛と「キクチ」』 ロングヴァージョン
愛がうざいので気のすむまで愛叩きをしてやろうという趣旨の……結果的にそんな趣旨の対談。ギャグ多め

製作費28万円、「ロード・オブ・ザ・リング」の前日譚を描く自主制作映画の予告編
アラゴルンのゴクリ探索の旅を題材にしたものだそうですが、PJ映画のテイストを笑っちゃうほど忠実に再現しています。ネットでフリー配布予定。あっぱれな振り込めない詐欺だ。

[ニコニコ] タクティクスオウガ風に アイドルマスター 「団結」
これは神ドットすぎる……僕にマイリスしろというのか

伊藤計劃さんのブログがしばらく更新されないので心配になってきた。大事なければいいんですが
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by umi_urimasu | 2009-02-24 22:41 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「暗黒整数」グレッグ・イーガン
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天上天下数学無双でした。ノーパソ一個で宇宙滅亡とか、いったい何食えばここまで豪快なSFが書けるの。
ルミナスの事件から十年後、「境界」の彼方側と極秘裏に通信をつづけていたブルーノたちに、先方への領域侵犯を検知したとのメッセージが届いた。こちら側の何者かが、〈不備〉領域にまでたどりつくほどの計算を実行したためらしい。ブルーノはその犯人をつきとめ、彼方と此方のこじれかけた仲を修復しようと試みるも亀裂は埋まらないまま、ついに未曾有の危機が……。
隣人と意思疎通する唯一の手段が、同時に致命的な攻撃手段でもありえた、だから永遠に封じるしかなかった、というのはとても皮肉な話に思えます。なんと不幸なファーストコンタクトだったのだろうと。

でもこういうことは、あらゆるコミュニケーション手段に必ずつきもののリスクなのかもしれないですね。対話という行為が対話者を傷つける可能性は、対話をやめないかぎり決してゼロにはならないから。普通は言葉をかわしたぐらいで世界が滅びたりはしないのですが、相手がたまたま宇宙そのものをささえている数学を通じてしか話せないようなひとだったら、対話はいきおい緊迫したものにならざるをえないでしょう。突きつけあった銃口を手旗信号がわりに振って通信するようなもので、これは疲れるにちがいない。でももし数学が危なくてつかえないとしたら、他の手段はもうないのか。この宇宙に絶対安全なコミュニケーションの方法はひとつも存在しないのだろうか。あきらめないで探してみてはどうだろう。ひょっとしたらそれはそれでSF的に面白い問題にならないでしょうか。虐殺言語の反対で温和言語なんつって。

読んでてわかんなかったところ:
1、キャンベルの領地越えは実際にどういうことをやってたのか?ゲラルドトフートとやらのモデルでプランクスケールがどうこうって話をしてたけど、それがでかい計算にどう影響するんだっけ。
2、閉じた壁をつくるために境界面をなめらかにしたりとかいろいろしてたけど、形にどういう意味があるのか?数学定理空間の遠近や連続不連続って実際にはどういうことなの。
3、4096ビットの整数計算ってどのくらいでかいのか?最小サイズがプランクスケールだとして宇宙のサイズもぶっちぎれる?
ヒマと気力があったら再読したり調べたりするかも。

余談。
パニック・スペクタクルな展開もイーガンらしくて楽しめましたが、それはそれとして、〈不備〉の境界をひたすら数学的につつきまわしてるだけのような話も読んでみたかった。夫婦喧嘩とかはもういいや。
暗黒整数がとても理系な話だったので、TAPはもうしばらくいらんかなという気になってきました。ハードSFは肩がこるのお。

「暗黒整数」はSFマガジン2009年3月号に掲載されてます。

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マンガ:これならわかる人工知能入門(人工知能学会監修) PDF注意
駄目なAIが相手でも人間はそこそこ感情移入してほどほどに付き合えてしまうような気がします。ガンパレのAIはアホだけどなんか親しみがもてたな。

[画像] 画像で見る世界各国の本屋さんいろいろ
日本ではみられないタイプの豪華な本屋、ユニークな本屋がたくさん
関連: 人類の叡智の宝庫、世界中の美しい図書館20

[画像] メタルバンドのCDのジャケットって異様にダサいけど
何だか知らんがとにかくよし!

[画像] 海外アーティストの画集紹介 『Structura: The Art of Sparth』
HPにも多数画像あり→sparth construct - illustration
緻密で雄大なSF絵の数々。眼福でござる
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by umi_urimasu | 2009-02-06 19:49 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
「ハーモニー」伊藤計劃
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a0030177_291754.jpg21世紀後半のある日、全世界でまったく同時刻に、互いになんの関係もない6582人の人間が突如自殺をはかった。人類の大半が接続している医療ネットワークを通じ、不可解な方法で大量自殺を引き起こした謎の存在――その目的はいったい何なのか。WHOの生命監察官・霧慧トァンは、かつて自分と共に自殺をこころみて死んだはずの親友・御冷ミァハが事件にかかわっていると睨み、捜査に乗り出すが……。

虐殺器官」につづく伊藤計劃のオリジナル長編第二作。内容は「虐殺器官」をセルフリメイクして、「From the Nothing, with Love」の意識ネタを応用、ついでに百合成分5%配合、といった感じでした。内省的スパイサスペンス風の構成は「虐殺器官」から一貫したこの人の芸風(?)のよう。

人間の意識や意志や感情は、それが生存のために有利だったから獲得された機能にすぎない。だったら、生存上必要のない環境下では意識なんかなくたってかまわない。いや、むしろないほうがしあわせになれる。その環境とは、全人類がただひとつの絶対的な価値観――生命至上主義――を共有し、互いに協調しあい、他人を思いやり、誰と争うこともなく、あらゆる病気も根絶された、究極の健康社会である。そんな社会を実現させる、もとい、人間の方を理想の社会に合わせてチューニングするプログラムがついに書けたよ。これでもう意識なんて必要ないね。じゃあ消しちゃおう。ぽちっとな!

と、あらましを書いてしまえばわりとシンプルな話なのですが、作中ではそれを補強するもろもろの理屈、未来の医療社会やヒトの意識の仕組みについての説明・問答にかなりのリソースが割かれていて、そこが読みどころでもあります。「虐殺器官」同様、いかにも「理屈を楽しむ小説」という印象です。
ただし、ロジック重視な姿勢が強くあらわれている反面、ドラマの方はおざなりというか、劇的な場面でも人物の喜怒哀楽の反応など妙にテンプレ的な気が。なにやらゲームのイベントでも見ているような白々しさがありました。これは作者が人間ドラマを「らしく」描くのが苦手なのか、それともわざと擬似イベントっぽくしているのか、ちょっとわかんない。ときどきハルヒとかナウシカとかオタネタの寒いパロディを入れてくるのも、ひょっとするとあれでキャラクターやストーリーへの感情移入を意図的に阻害しようとしてるのかもしれない。理由は想像もつかないけど。

以下、小ネタや気づいたことなど。多少ネタバレしてるかもです。

文体で特徴的な、文中にはさまれているHTML風のタグ。あれはもちろん単なる飾りではなくて、ちゃんとSF的な仕掛けにもなっています。意外なトリックというよりは、その結末ならば当然あってしかるべき自明なものとして。ところどころ微妙に不統一のような気がしたけど、そういうのも何か意味があるんだろうか。

疑問文に疑問符を使わず「……」であらわすのは明らかに黒丸ギブスン文体の模倣。でも正直、あんまりかっこいい感じにはなってないと思います。ただ純粋に好きだからマネしただけなのか、それともなにか他に狙いがあってのことなのかは不明。あれはやっぱり、ギブスンの文体だからこそあれだけ映えるんだと思うなあ。

ミァハ、ヌァザ/トァン、キアンなど、日本系の名前らしからぬ登場人物のネーミングはケルト神話が元ネタらしい。何か作品についての暗示的な符号になっていたとしてもケルト神話の知識がないので「へー」としか反応できないけど。

バラードの「未来は一言で『退屈』だ」は、Andrea Juno and Vale “J. G. Ballard Interview” Re/Search #8/9 (1984) を引用した山形浩生「バラード:欲望の磁場」からの又引きみたい。

伊藤計劃の作風として、人物描写にあまり注意をはらわない傾向はもともとあったと思うけど、ガブリエル・エーディンの性格なり容姿なりについての描写がただの一語もなかったのにはちょっと驚いた。キャラに人間としての最低限の特徴を付与する労すら省いたのかと。ほんとうに理屈だけに徹していて他はどうでもいいっていう主義なのかな。個人的には、もう少しうるおいのある方が小説としては好きですが。

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[画像] 機械仕掛けの巨大蜘蛛
フランスのグループによる野外人形劇。なんかSF的だ。「スルタンの象」とは別のところ?

[画像] ヴァイキングの炎の祭典 ウップヘリーアー
イギリス・シェトランド諸島のお祭り。千年ほどタイムスリップした気分になれそう

[画像] concept ships
架空の飛行機や宇宙船の画像いろいろ。重いので注意。未来的なのもいいけど少々緑が足りないか。あとで探索してみよう

a0030177_1456735.jpg「バットマン ダークナイト」のDVD、レンタルで再見。劇場公開時にも見たけどやっぱり好きでした。バットマンムカつく。いらいら。これはもう買わざるをえない。同じ監督の前作「バットマンビギンズ」も、未見だけど楽しみ。一回借りてみて、気に入ったらいっしょに買おう。
あと、本は津原泰水「奇譚集」と荒山徹「十兵衛両断」とジェフリー・フォード「白い果実」。それでも足りねば皆川博子かダン・シモンズあたりの積本崩し。年末年始はそんな感じです。

「やる夫家康」シリーズ読了@大晦日。お、おもしろかった……。

[画像] Cool Creative Architectural Designs for the Future
未来都市の想像図いろいろ

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新年あけおめ。
バットマンビギンズもダークナイトほどではないですが非常に楽しんで観ました。バットマンの映画はみんなこうなんだろか?それともクリストファー・ノーラン監督だから?このシリーズ以前にティム・バートンが監督したシリーズもあるらしい。そっちもチェックせねば。

↑このあと風邪でぶっ倒れて三日三晩正体なし。1/5、ようやく蘇生。ひどい正月休みでした。

a0030177_231755.jpg1/7。かぜの治りが悪い……。ぐったりしたままティム・バートン版のバットマンを鑑賞。ノーラン版に比べると、いわゆる能天気なアメコミのイメージにより近い感じですかね。ファンシーホラーっぽい美術はなかなか印象的。ジャック・ニコルソン演じるジョーカーも、ノーラン版のようなリアルな迫力はないものの、ピエロ的な気持ち悪さがよく出ていてこれはこれで面白い。ただ、ストーリーは退屈でした。勧善懲悪としてのお約束以上でも以下でもないって感じ。あと、シンボルとして蝙蝠を選んだ理由が説明されないとか、ヒロインがいらない子だとか、ガンアクションがショボいとか、いろいろと物足りなく思うところも多く。個人的にはノーラン版バットマンのほうが好きです。
またダークナイトが見たくなってきた。
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by umi_urimasu | 2008-12-26 02:43 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
「エンジン・サマー」ジョン・クロウリー
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a0030177_13225561.jpgいつも思うのですが、廃墟というやつはなぜあんなにもSF的なのだろう。

「何か大きなものが終わった後、人のいない風景を描くのにSFほどふさわしいジャンルはない」とは飛浩隆氏の言ですが、確かにSFには、人類滅亡や文明崩壊後の世界を描いた作品が山ほどあります。その中に出てくる朽ち果てたビルやハイウェイやショッピングモールを想像するとき、僕はいつも、寂しさや切なさや懐かしさや、いろんな感情をひっくるめたなんとも言いがたい気持ちになります。いつの日か人類が黄昏の時代を迎えたとき、かつての栄光をしのぶモニュメントとなる物たち。それらに対する、奇妙に厳粛な祈りにも似たあの感じ。現実の廃墟の写真や絵に惹かれるのも、その感じをできるだけリアルに味わいたいからなのかな、と思うことがあります。あれはいったいどういう心理なんだろう。

ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』特設ページ (大森望)

作品のタイトルでもある「エンジン・サマー」は当然ながら、インディアン・サマーのもじりのようです。しかし、はるか未来に小春日和のことがそう呼ばれるようになったいきさつは作中では明らかにされません。冬のはじめにささやかな夏がしばらく戻ってくることを、だれも知らない理由で「機械の夏」と呼ぶ――もしかしたらそれは、大昔に文明を滅ぼしたという大災厄となにか関係があったのかもしれない。自然現象ではなくて、放棄された気候制御システムの故障とかそういったようなことから「機械」のつく呼び名が生まれたのかもしれない。登場人物にも読者にも真相はわからない。わからないけれども、むしろわからないからこそ、失われたものへの郷愁と想像はかきたてられます。この作品にはそういう、本来の意味を失ったかわりに魔法のような響きを得た言葉がたくさん出てきます。長い年月のためにいびつに変型してしまった、どこかなつかしく、悲しげでもある言葉。まるで廃墟を描写するために自らも廃墟的な美しさをそなえるに至ったかのような言葉。人類の黄昏の時代を語るのに、これほどふさわしい言葉が他にあるものでしょうか。まあ、訳文ではその雰囲気をなんとなく察することぐらいしかできないんですが、それですらかくも美しい……。

独特のリリカルな文体のほかにも読みどころはいっぱいあって、たとえば少年が少女の愛を「二重の意味で、永遠に」失う成長と喪失の物語としても美しいです。また、文明崩壊時代の神話やアメリカインディアンとエンジン(インディアン)・サマーというタイトルの符合など、暗示的に示されるものも多いし、猫とか箱とか、婉曲にしか語られないSF設定もいろいろあります。いろいろありすぎて、一読しただけではとても咀嚼しきれない。いずれ二度三度と読み返して、とことんまで浸ってみたいものです。

追記:「Hello, world」 ニトロプラス のころから廃墟好きについては折にふれこねくりまわしてました。むしろ昔のほうがよく把握してるかも。劣化した?

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津原泰水 『綺譚集』、文庫化
ママ、マジッすかー!うおおおん!やったよー

専門家「?」、考古学調査で「スイス製腕時計」出土―広西 (Ak
わろた。誰だよ埋めたの

[画像] 廃棄されたパラボラアンテナ (アメリカ海軍研究所)
SF的な廃墟の好例。もとはハイテクの粋だったであろう物体だけに、よりいっそうの哀愁が。

[画像] 超巨大雲 by Karen Titchener
これは全力で逃げていいクラス
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by umi_urimasu | 2008-12-13 13:43 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
「クリプトノミコン 〈1〉 チューリング」ニール・スティーヴンスン
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a0030177_0362442.jpg暗号を解くということは素因数分解と同じだ。という計算理論の基本的な考え方は、ニール・スティーヴンスンのサイバーパンク小説「ダイヤモンド・エイジ」の中にもネタの一つとして出てきますが、こちらはタイトルからしてそのものずばり、暗号(クリプト)をメインテーマにした作品です。邦訳は文庫で全4巻。ローカス賞とってます。僕はまだ第1巻を読んだだけなので、そのかぎりでの印象をつれづれに語ってみようと思うのですが。

まず「クリプトノミコン」がどういうジャンルに属するのか、ということについては、分類の無意味さを承知で「ノンジャンル」とでも答えるしかないでしょう。少なくともSFとかスパイものとかいった既存のジャンルにきちんと収めるのは無理っぽい。この作品は冒険小説であり、戦争小説であり、企業小説であり、歴史小説であり、コンピュータ小説でもあります。物語がすすめば、さらにラブストーリーや友情ドラマやその他有象無象の小説要素がどんどん投入されてくるはずです。読者はその巨大な複合体から、なんでも好きなジャンルの成分を切り出して自分の流儀で楽しめばよろしい。膨大な量のディテールと思索とジョークを込めた、しかも読みやすい語り口がそれを可能にしてくれるでしょう。ただし、物語の中でもいちばん重要そうなポイントに打ち込まれた礎石のようなものが一応は存在していて、それがあらゆる計算方法の基礎原理、「チューリングマシン」についての概念です。
こういった、それによって全体に一本の筋を通すようなキーアイデアを小説の核と考えるなら、この大作を、たとえば「計算娯楽小説」という新ジャンルの一例と考える手もありではないかなと。
そんな嗜好の僕が第一巻で個人的にいちばん喜んだ箇所は、アラン・チューリングが漕いでいる自転車をアナロジーとして用いてエニグマ暗号機の基本原理を説明するところでした。これよこれ、こういうのを期待してたのよ。もうどんどんやってくれといいたいですね。

チューリングが何した人かよく知らないという人には、手始めに下↓のページあたりがお役に立つかと思います。
  チューリングの悲劇 ~毒リンゴを食べた天才~
  チューリングの遺産 ~エニグマ暗号とTM~
  チューリングマシンの原理
ゴシップなども含めて伝記風に書かかれており、Wikipediaよりもやや下世話で娯楽的な読みものになってます。

暗号とか人工知能とかいったものは、本質的に「解きにくい計算問題」=「めんどくさい素因数分解」だとみなすこともできるので、暗号ミステリやAIネタのSFなども計算エンターテインメントとは袖をふりあう間柄といえます。暗号小説の領分(?)だと、日本が誇る巨匠・江戸川乱歩もなかなかの暗号マニアだったようで、コンピュータの概念すらない時代に「二銭銅貨」などの巧みな暗号トリックを用いた推理小説をいくつも書いていました。もし乱歩並に淫靡で妖奇な、しかも同時にニール・スティーヴンスン並にサイバーパンク的でユーモラスな計算小説がこの世にあったとすれば、それはもう吐血しかねないほど僕好みな作品かもしれない。どっかにそういうのがないものかな。

話がそれました。戻す。
「クリプトノミコン」における物語のタイムラインは、第二次大戦期から現代までです。そこにアラン・チューリングなど実在の人物を配置し、その時代にないテクノロジーは一切使わず、もっともハイテクなものでもせいぜいWindows95が関の山(原著の出版は1999年)。要するにかなり現実そのままの世界設定です。そういう縛りの下ではSFらしさを出すことも難しそうに思えるのですが、それでもどこかしらサイバースペース的な遊離感覚を感じさせずにはおかないのがじつに不思議なところなので。そこがポストサイバーパンクの代表とされるこの作家のオリジナリティ、ということなんでしょうか。わからん。わからんが嫌いじゃない。

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クリプトノミコンとはまったく無関係なネタですが、ノミコンつながりで傑作な事典パロディのページがかかりました。
UnBooks:初めてのネクロノミコン - アンサイクロペディア
とりわけ「抜粋」の項目がひどい。こんな感じです。
ディックはよみます。くねくねした ふるいかみさまの ほんをよみます。
よみます よみます よみます。ディックはよんで、よみます。
ディックはよびます。ふるいあんこくのかみさまの じゃあくななまえをよびます。よびます、ディックは、よびます。
ツァトゥグァ! クトゥルフ! ヨグ=ソトース! ばんぶつのおう アザトース!
ディックは アザトースがみているものをみます。アザトースは めがみえない まぬけなかみさまです。ディックは にんげんがしってはいけない くるってしまうほどの うちゅうのこんとんにふれます。ディックは うちゅうのことわりを しったのです。
ちちなるダゴン! ははなるハイドラ! イタカ! ハスター! イア! イア! シュブ=ニグラス!
シュブ=ニグラスは、せんびきのこどもをみごもった もりのくろやぎです。やぎ やぎ やぎ。
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ひとつ終わった。 桜庭一樹オフィシャルサイト Scheherzade - Diary
>赤朽葉のスピンオフ作品のタイトルが「バリバリ毛毬伝説」に決まる
これ、まさか本気とは思ってなかったけどもしかしてほんとにやるんだろうか?
↓には「あいあん天使」のプロットつくったと書いてあるし。
予告広告。箱買い。あいあん。特設ページ…。

「スプーク・カントリー」ウィリアム・ギブスン
クリスマス刊行予定。パターン・レコグニション路線の作品らしいので期待はしてるが渇望まではしていない。
昔の自分の感想を見てみたらおぞ気が立つほど高慢ちきで恥ずかった。二度とあんなふうに書くものか。

SCI FI Channel、「ダイヤモンド・エイジ」を6時間のシリーズ化
HBO、「氷と炎の歌」パイロット版の制作決定
アメリカのケーブルTV局では現代SFやファンタジーのドラマ化など大して珍しくもないようで、うらやましいかぎりです。日本はその方面はもう全然。

氷と炎の歌 予想キャスティングリスト (スタークラニスターバラシオン、他多数)
これだけ数が多いと一部はほんとに当たるかも

TVアニメ「ホワイトアルバム」設定画
調子に乗って痕もアニメ化されたりしないかなあ。

伊藤計劃「ハーモニー」近刊情報きたー
〈生府〉を基盤とする医療福祉社会は、ある衝撃的な事件を機に崩壊の危機に瀕した。WHOの監察官・霧慧トァンはその背後に自殺したはずの親友の影を見るが……『虐殺器官』に続く待望の第2作
医療サスペンスっぽい話なのだろうか。とりあえずわくてか

[ニコニコ] im@s雀姫外伝 エンディング
「ムダヅモ無き改革」アニメ化への布石

小川一水「第六大陸」漫画化 (FlexComixネクスト)
Webコミックだそうで。なんかえらくゆるいイラストが載ってるけど大丈夫かな。
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by umi_urimasu | 2008-11-13 01:23 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
「フリーランチの時代」小川一水
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a0030177_1854730.jpg気鋭のハードSF作家、2004年以降の5篇をおさめた短編集。
SFとしての純度は高く、それでいて非常に読みやすい作品がそろっています。敷居の低さでいえば、おそらく「老ヴォールの惑星」よりもさらに入門向け。今の日本で「ジュニア向けハードSF」という分野をまかせられそうな若手作家といったら、もうこの人ぐらいじゃないでしょうか。ほんとうに貴重な人材だと思います。

「フリーランチの時代」
たまたま遭遇したエイリアンによって不老不死にされちゃった人類の軽い困惑。生きるために生きる必要がなくなり、個人に関するあらゆることについてするか/しないかを自由に選択できる、そんな時代がもし来たら我々は人として(人?)何をすればいいのだろう。まあ何万年でもゆっくり考えればいいよね。みたいな話。
不死や人類の進化を扱ったSFというとシリアスで悲壮なイメージがありますが、本作はとことん軽いです。これぐらい飄々としたノリの方が、妙な感傷とかがまといつかない分、人間の定義を考えるような話には向いてるのかも。楽観的すぎてイヤだという人もいるでしょうが、これはむしろバカネタSFの範疇だからこれでいいのだ。

「Live me Me.」
脳に対する情報入出力をチップを通して人形のボディとつなぎ、ほぼ脳死状態の患者に感覚と「体」を与えて健常人と変わらない日常生活を実現する新技術、HSコンビナート。その被験者となった主人公の目を通して、意識と社会、それぞれの面から人間の定義について考えていく物語。記号→画像→仮想空間→全身義体へと感覚の領域を広げてゆく過程を描いた前半がすばらしいです。ただ、その過程の堅実さに比べるとオチの理屈はやや乱暴だったか。

「Slowlife in Starship」
22世紀なかば、宇宙にひきこもるニートの増加が社会問題に……なってなかった。太陽系をふらふら漂う孤独で気ままなくらしに満足していた青年の小さな決心とは?山も谷もないだらっとした話ですが、それはそれでニート話らしいような。こうした宇宙ニート出現の背景には、太陽光のみで半永久的に人間を生かしておける居住モジュールが量産されたという設定があります。実際、将来的に宇宙開発の過程でそういうものが作られる可能性は十分ありうるのではないでしょうか。笑いごとではありませぬ。

「千歳の坂も」
お役所いわく、すべての国民は法律の定めるところにより不老不死の義務を負います。延命処置を受けたくない人は老化税をはらいなさい。そんな奇怪な時代がきても、生きるか死ぬかを自分で選ぶことにこだわろうとする人々がいた。どことなく「千年女優」っぽいなつかしさもある、時間を超越した逃避行ストーリー。ただしちっともファンタジーっぽくはない。

「アルワラの潮の音」
好評を博した時間SF「時砂の王」の外伝。時をさかのぼりながらつづく人類存亡をかけた大戦争の一幕を描いています。ミクロネシアの島々を舞台にした恋あり泣きあり活劇ありの成長物語で、本編が好きな人ならこちらも満足できるでしょう。あいかわらず童話ネタがナイスアクセントでした。

近頃はアイデアSF的な短編に精を出している小川一水さんですが、そろそろまた「復活の地」や「第六大陸」みたいなプロジェクトX型の超大作をガツンとかましてほしいと期待している読者はかなり大勢いるのではないかと思います。この次か、次の次あたり、そういうのがまた来ないかな。いや、たぶん来るだろう。きっと来るはずだ。そう思ってると待つのが楽しいのでそう思うことにしておこう。

「風の邦、星の渚 レーズスフェント興亡記」 小川一水
最新作。ネットでは「そこそこ手堅い出来」という感想が多い気配。買うかどうか迷い中。

朝日新聞に「ライトノベル学校で必要か」という投書が掲載される。
おまえら子供の煽りぐらい多めにみてやれよ。と思ったけどカトゆーとかに載ってしまうともうね。蔵書の選定については各学校側の裁量だし、そもそも作品によるとしか。ただ、最近のラノベは確かにポルノまがいのが多そうなイメージもある。偏見でしょうか。

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A Feast for Crows 読了。あいかわらずみんな悲惨な目にあってて安心しました。表面的なストーリーの追跡には慣れてきたけど、それ以外ではかえって横着になったというか、歴史や陰謀などの複雑な情報はどうせわからないからと読み流すクセがついてしまったかも。駄目じゃん。マーティン先生、全領主家の家系図(ツリー表記)がほしいです……

氷と炎の歌関係で役に立つかもしれないページ:
【氷と炎の歌】簡易年表 (日本語)
氷と炎の歌 - ターガリエン家の家系図 (英語)
House Targaryen - Wikipedia
NationMaster - Encyclopedia: A Song of Ice and Fire - Houses and surnames
氷と炎の歌・乱鴉の饗宴 改訂問題wiki

グレッグ・イーガン 日本オリジナル選集「TAP」 11/25 発売
けいかくどおり
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by umi_urimasu | 2008-10-06 19:28 | 本(SF・ミステリ) | Comments(9)
〈氷と炎の歌〉を原書で読んでみよう
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a0030177_22212378.jpgG・R・R・マーティンの〈氷と炎の歌〉第4部、「乱鴉の饗宴」 (A Feast for Crows)を読みはじめています。といっても日本語版ではなく、例の翻訳問題から派生したオリジナルへの興味もあって、今回は思いきって原書にチャレンジしてみました。うわさ通り非常に平易な英語で書かれていて、思ったより読みやすいです。それでも最初は一文ごとに辞書で調べたりしていましたが、くり返し出てくる単語が多いので、先へ進むにつれてスピードアップしてきました。とりあえず三日で100ページほど消化。今では1ページにつき数ヶ所ほど、不安なところを確認する程度でなんとかしのげるようになってきてます。まあ、案ずるより読むが易しって感じですか。やはり普通の日本語の小説を読むのに比べると時間はとられるけど、好きな作品だから別段苦でもないし。

このマスマーケット版(ペーパーバックの中でもボロっちいバージョン)、価格はAmazonで900円。本のサイズは京極夏彦のノベルスと同じぐらいですが、中は文章がびっしりで1100ページ近くあります。紙は悪いが、とにかく安い、そして量が多いのがとりえ。
〈氷と炎の歌〉は好きだけど第4巻の和訳は評判がいまいちで購入をためらってるという人、キャラクターのしゃべり方や雰囲気などが翻訳者の交代で大きく変わってしまったのがイヤな人、とにかく安あがりに済ませたい人……そういう人たちなら一度はこれを試してみても損はないのではないかと。なにしろ安いですから。あと、本国で新刊が出るたびに邦訳出版まで何年も待たされる経験を重ねてきて、もう疲れたよナイメリア……という人にもおすすめかもしれません。次の第五巻「A Dance with Dragons」はどうやら今年中にも出そうだともっぱらの噂です。むむむ。いいタイミングではないですか。夏の終わりの今こそ、この銘言を唱えるべきときだ。“冬がやってくる”。

おまけについて。
■おまけ①
マスマーケット版だけの付録なのか、他のハードカバー版などでも同様なのかわかりませんが、巻頭に雑誌や新聞のレビューや紹介記事からの抜粋を集めたページがあります。広告効果を狙ってのことなんだろうけど、本を開いた1ページ目からいきなり宣伝全開というのがいかにもアメリカンビジネスっぽい感じがしてちょっと新鮮でした。大河ファンタジーつながり(?)でロバート・ジョーダン、アン・マキャフリイ、マリオン・ジマー・ブラッドリー、レイモンド・E・フィーストなどからの賛辞も。
■おまけ②
各家人名リスト完備。基本、しかし重要。それぞれの家の紋章の図柄も付いています。
■おまけ③
巻末に、スペシャルプレビューとして第五巻「A Dance with Dragons」の本編が少しだけ載ってます。少しといっても軽く一章分くらいあります。お得。(これとは別の章もマーティン本人のサイトでサンプルとして読めるようです。GRRM - Ice & Fire Sample 4巻終わったら読んでみよう。)

それにしても、こうしてオリジナルを読んでいると「日本語ではどうなるのか」が常に気になりますね。いま読んでいるのはアリアがブラーヴォスにやってきたあたりなんですが、Yorkoという人物がいて、これが男で名前の表記がヨーコではやはりちょっと落ち着かない。邦訳版ではヨルコ?とかになってるんだろうか。

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日々雑景 - 氷と炎の歌 訳語メモ
第3部「剣嵐の大地」までから第4部(乱鴉の饗宴)への、地名の訳語変更リスト。これはありがたい。しかし多いなあどうも。早川も何もここまでしなくてもよかったんじゃね。エイコーン・ホール→穀斗城館とかゴールデン・グローブ→黄金樹林城とかけっこう微妙。

文学やネットの世界では、なぜ猫の支持率が高いのか? | R25.jp
そもそもその前提がうさんくさいんだけど。ただ、犬猫小説うんぬんを別にすれば「人は不意を突くものを好む」という冲方丁のあたりまえな指摘には普通に納得。

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第39回星雲賞に図書館戦争、電脳コイル、20世紀少年他
最近では「これが星雲賞受賞作か!よし読んでみよう」みたいなわくわく感をあまり感じなくなってしまった。でもアレステア・レナルズ作品には一度くらい手を出してみたいかも。啓示空間以外で。

ビアンカ・オーバースタディ
http://blog-imgs-26.fc2.com/t/u/r/turenet/20837.jpg
われらオナンの末裔!いつも通りすぎてワロタ 単行本になったら読ませてもらいます。
(追記) そうだったfc2は画像直リンはねられるんだった。リンク先変更+URL付記。

ドバイの発狂計画についてリストアップしてみる。
まさしく暴走都市。

「赤い星」 高野史緒
早川の新刊リストを眺めていてちょっと惹かれた一冊。紹介文から察するに江戸+帝政ロシア+サイバーパンク+パラレル現代もの、という珍妙な組み合わせの話らしい。そういえばこの人の「ムジカ・マキーナ」や「アイオーン」もどこかの評を見て気になってはいたんだった。どれかひとつ読んでみようかな。
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by umi_urimasu | 2008-08-23 22:49 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
「ダンシング・ヴァニティ」筒井康隆
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a0030177_20162492.jpg「ビアンカ・オーバースタディ」がもうすぐお披露目だそうなので、すべり込みで読んでみました。

無数の選択枝をたどってはやり直し、ありうべき人生をわたり歩く男の精神の道程を描くという、「人生をセーブ&ロードしながらガチで生きてみる」をそのまま文章化したような小説。最近の筒井作品に多い、老いと死の気配が濃厚にただよう作品で、スラップスティックがエスカレートするほどに寂寥感もいや増していきます。死にかけている老人の意識に去来する人生の断片、そのすべてが現実なのか、回想なのか、夢なのか、事実なのか、思い込みの偽の記憶なのか、もはや何ひとつ確たるものなき死。虚構ならではの哀れさに満ちた、なんともいえない読後感でした。

こう書くと「暗そうな話か」と誤解されそうですが、否々。説明やサインを完全に排除した純粋なループ表現を用いて、不条理シチュで遊んでみたり、天丼ギャグにしてみたり、セリフの最中にいきなり時間を吹っ飛ばしたり、かなりやりたい放題やってます。しかもあの徹底的なコピペ文体が生み出す尋常でないスピード感ときたら。実際にやられてみてはじめて、これほど多彩なバリエーションが可能だったのかと驚かされ、あらためてこの人の凄さに恐れ入ります。方向性としては「残像に口紅を」や「虚人たち」をはじめて読んだときのような衝撃でした。眼福。文章で眼福っていうのもなんか変ですが。脳福とでもいうべきか。

作中、過去の筒井作品のセルフパロディ的な部分もけっこう目にとまります。時系列の混濁を描く作品だからということで意図的に多めに入れたのかな。無意識下の自殺願望として出てくる縞が消える虎、あれってガスパールのトララから来てるんだろうか。なつかしい。

オタク論好きな人たちの間ではこの作品、参考文献にも挙げられているゲーム的リアリズムの誕生と絡めて語られることも多いようです。「ビアンカ・オーバースタディ」の内容如何によっては、ゲーム的リアリズムも読んどいたほうがいいのかもしれない。今まであまりオタ語り系の話に興味なかったんですが。BOの評判次第かな。

おまけ。
「旅のラゴス」を細田守監督でアニメ映画化するらしいという噂が2chに書かれてた。ソース不明。ガセかもしれないけど、ほんとだったらうれしすぎる。
(追記) 南中高度 唐突すぎる
やっぱガセだったのかな。残念

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マイマスターという角栄 - 伊藤計劃:第弐位相
学園ものを書く、という話になる。こういう話は通常篠房氏とする。
というか篠房氏と話すと大体「こういうの作りたい」という話にしかならない。
今回で言うと、Fateは学園物か、という話になり、
そこから夢が広がりはじめる。
「アーサー王とかじゃなくて、佐藤とか吉田とか角栄とか戦後首相の転生と共闘する、というのは」
「おっさんですか」
「おっさんです」
「生徒会長選とか、政治の戦いになる」
「ミッテランとかドゴールとか外人入れてもいいんじゃね」
というわけで、いい面構えのおっさんが転生した少女と、それを僕に従えた少年が活躍する戦後版Fateというのはどうでしょうか。
書いてくれ書いてくれ。

京極夏彦インタビュー 『幽談』と怪談を語る
僕は常々、小説にはストーリーだのテーマだのはいらないという暴言を吐いているわけで(笑)。
 読み始めたら止まらない、いや、読み終えずとも手に取った人が「読む」という行為をしてくれさえすれば、それでいいと思っているわけです。作者の主義主張なんか邪魔なだけだし、物語の結構性だの描写だの、そういうものだって読んでもらうための手段でしかないですよ。「文字を追う目が止まらない」という状況が生み出せれば、それで本望。それができるなら、起承転結もいらなければ筋もトリックもいらない。感動やら笑いやら怒りやら哲学やら、そうしたものはテキストの中にあるのじゃなくて、読者の中に涌くものなんです。
この小説観がミステリというジャンルの制約下で「犯人なんていませんでした」「事件なんてありませんでした」などのアンチミステリ・叙述トリック的な手法となって表れるのが京極作品。

復刊予定 「ディファレンス・エンジン」上下 ウィリアム・ギブスン&ブルース・スターリング
おお。もしや円城=伊藤効果?

[ニコニコ] 【手描き・ジョジョ+エヴァ】新世紀ストーンオーシャン【完成】
いつもながら凄い出来。二、三周したら次はコマ送りで荒木先生を探してみよう

[画像] 映画版ニューロマンサーのポスターと言われている一枚。ワイヤー少なし歯車多し
それに対する原作者ギブスンのコメント
かいつまむと “初めて見たものだ。映画の仕事にはかかわってない。新作小説にかかりきり。映画での改変には作者として少し好奇心はある”

[ニコニコ] アイドルマスター 春香 SUPER MUSIC MAKER PV風
カクパのご乱心から数日後、そこには元気に動画をあげるわかむらPの姿が。クオリティ高すぎ吹いた
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by umi_urimasu | 2008-08-01 20:52 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
「さかしま」円城塔
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飛浩隆の「はるかな響き」につづく『answer songs』企画の第二弾。いかにも円城塔らしい人を食った作品でした。連続・離散・無限次元とかそのへんからネタを堀ってきた架空の宇宙論文献とでもいうのかな。離散的な無限のほうが連続的な無限よりも大きな宇宙、もしくは論理が宇宙の基本要素であり運動はその論理パッケージ内におさまるものにすぎないような宇宙では、私たち人間はたいへん肩身のせまい思いをしております。みたいな話でしょうか。
しかしあいかわらずネタが狭い。最低限大学で代数・幾何ぐらいかじってないと、文章の意味を書いてある通りに読みとることすら難しそうな感じ。
「本研究は、文部科学どうせ適当に名前をつけたに決まっている省の支援によって現在もこうして継続中です」
それで研究補助金がおりてしまう話になってるあたりが円城宇宙のふざけっぷりを間接的によく示しているともいえる。まったくひどい文××学省もあったものですね。

余談。
Self-Reference ENGINE」しか読まずに円城塔について語る資格などあるまいと思って「Boy's Surface」も一応通読したのですが、読んだら数理系の元ネタをちゃんと説明するくらいでなきゃ感想なんか書いてもなあ、という気がしてきてエントリ化にはいたらず。誰それの作風に似てるとかわからなくても楽しめるとかどうでもいいから、数学的解題が欲しいです。検索しても出てこないので、誰か親切でヒマで数学のできる人待ちか。

そういえば「さかしま」のような文献パロディ風の小説って、あのMITのでたらめ論文自動生成ソフト SCIgen - An Automatic CS Paper Generator とかに近いおかしみがありますね。あれの日本語版欲しい。

「answer songs」の作品群は期間限定配信のもようです。いずれ単行本にもなるそうですが、タダ読みしておきたい人はお早めにチェックよろしう。

(追記)↑自分で読み返してみたら、なんか誉めてる感がさっぱり感じられない文章になっていたことに気づいた。いったいなぜこんなことに。
もちろん「さかしま」はおすすめです!みんな読みにいくです!

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[ニコニコ] アイマスアドベンチャー
「削除されろ」はこの場合誉め言葉

短編小説「鶫と鷚(つぐみとひばり)」瀬名秀明@TORNADO BASE / answer songs
せっかく無料なのでぱらぱら。パラサイトイブしか読んだことないけど、まあふむふむと。

[ニコニコ] ヤンデレの妹に死ぬほどウザいホームドラマ 俺ヴォイス
久しぶりにランキングを見に行ったらなんと新作が
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by umi_urimasu | 2008-07-01 20:23 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS」伊藤計劃
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a0030177_21325845.jpg遺伝子に書き込まれた死の運命に敢然と立ち向かい、世界を救おうとする老英雄のラスト・ミッション。伊藤計劃にとっては長編第二作となるノベライズです。原作「メタルギアソリッド4」に完全準拠(たぶん)したストーリー、ちりばめられたマニアックなMGSネタなど、ゲーム版シリーズのファンには広く深く歓迎されそうなリスペクト精神にあふれた作品。

ただ、「虐殺器官」や「From the Nothing, with Love」の方角から入ってきた人は注意が必要かもしれません。これまでの伊藤計劃は、現実と虚構や自己と他者についての思索を展開するにあたって無理のない程度の、そこそこにリアリスティックでやや淡白な感じのプロットやキャラクターを用いてきました。それがまた、行き着く世界の閉塞感とか諦観らしきものによくマッチしていて、なんというか、たとえるなら「村上春樹風サイバーパンク」(?)みたいな、独特の雰囲気を形づくっていました。しかしその雰囲気こそ伊藤計劃の持ち味と評価していた人が、同じものを期待して「ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」を読んだとしたら、ひどく面食らうことでしょう。何よりもその徹底的な「ゲームくささ」に。

今回出てくるシチュエーションは「現実じゃありえないけどゲームではお約束」なものばかりだし、スネークはいくら瀕死で戦闘不能になっても次のミッションまでにさくっと回復してくるし、リキッドは何から何まで芝居がかってて超クドイし、戦闘シーンは主役補正かかりまくりだし、キャンベルやナオミは聞いてもいないのに「説明しよう」とばかりにしゃべり始めるし、説教するつもりじゃないのかもしれないけど結果的になんとなく説教くさい話になってるし。

こういった、いわば「ゲーム的な親切さ」に最適化された物語は、たぶんリアリズム志向の読者には向きません。でもMGSのプレイヤーにとっては「これぞMGS」と感じられるはずで、伊藤計劃もまさにそれを狙って書いたのだと思われます。そのためにおそらくゲーム用のシナリオをほとんどいじらずに使い、伊藤計劃は文章を補うだけに徹しようとしたのではないか。と推測していたんですが、作者あとがきにもやっぱりそのようなことが少し書いてありました。
設定やプロットを借りるだけでなく、MGSをプレイすることで味わえる「ゲーム体験の感じ」までそうやって再現しているという点では、普通の小説よりもむしろゲームのリプレイとかに近い性質の作品といえるかも。


作品のテーマとかメッセージとかについては、みんな書いてそうだしいいかなあ。と思いつつ少しだけ。
人間は消滅しない。ぼくらは、それを語る者のなかに流れ続ける川のようなものだ。人という存在はすべて、物理的肉体であると同時に語り継がれる物語でもある。スネークの、メリルの、ここに集う兵士ひとりひとりの物語を誰かが語り続けるかぎり、ここにいる誰ひとりとして消えてしまうことはない。
その言うや善し。人がまさに死ぬそのときに語ったことは、単なる言葉ではない。それはぼくという存在に根を張って、未来に向け枝を伸ばしてゆく生命の一部なのだ。
語り手であるオタコンを通してしつこいくらい何度も強調されるのが、「物語について物語る」意義についてのこの考えかたです。人生で大切なのは人から人への伝達なんだ。という、「虐殺器官」をネガポジ反転させたみたいな人生賛歌。僕はいわゆる人生論っぽいものにはあまり摂動を受けない方だと思うんですが、自身も難病と闘ってきた経験をもつ伊藤氏が書いたのだと思うとなんか襟を正さないといけないような気に……。実際にそういう境地に立った人ならではの迫力みたいなものだろうか。うーん。

余談。アーセナルに乗り込む場面で心中「DARPA人間砲弾!」と叫んだ人は北斗世代まちがいなし。DARPAってやはり「楽しい軍事開発」がモットーみたいなイメージありますよな。

余談2。リボルバーオセロットと岸和田博士はそっくりさんである。
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answer songs 短篇 円城塔「さかしま」配信開始
あとで読もう。しかしあのビューアの不便さはどうにかしてほしい。

UNCHARTED SPACE - MISCELLANEOUS WRITINGS
[今月の雑文]ページにて皆川博子講演会レポート順次追加中。行けなかった身にはありがたいです。

[ニコニコ] 北斗のP ケンシロウプロデューサー 千早「一日署長」
鬼の哭く街と書いて鬼哭街。あいかわらずリアクションのチョイスがすばらしい

山田風太郎が“駄作”とした幻の忍法小説の直筆原稿見つかる
「忍法相伝73」。山風自身が著作のABC自己評価で「P」を付けたほどの作品だとか。それはそれで読んでみたい気もする。ちなみにその自己評価リストは山田風太郎wikiにまとめがあります。大雑把なもので、あまり未読の人の参考にはならなさそうだけど。
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by umi_urimasu | 2008-06-27 20:47 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)