カテゴリ:本(SF・ミステリ)( 122 )
「自生の夢」 飛浩隆
このエントリーを含むはてなブックマーク
a0030177_1934855.jpgまたすごいのきた。「NOVA 1 書き下ろし日本SFコレクション」に収録、飛テイスト全開の google-twitter 言語SF。もう好きすぎて好きすぎてとにかくひたすら好きです。ノスタルジックな昭和の香り、液体金属的(?)なビジュアルイメージ、抑制のきいた官能性と残虐性。とてつもなくおいしい。今回もごちそうさまでした。


読ませるだけで人が死ぬ殺人言語をあやつる作家、言語によるカタストロフィ、というとネタ的には幻詩狩りみたいですが、読んだ感触では「自生の夢」は「象られた力」の系列に並ぶ作品のような気がします。ラストはなんとなくグランヴァカンスのうさぎのエピソードを連想。わずか一文で心をえぐられる。文章うまいなあ。

作中に出てくる思考言語化支援ツールは、twitterの超すごい版。それを蓄積する巨大情報検索ライブラリはグーグルのすごい版。これらのツールによってこの世のありとあらゆるものが言語化・関連付け・描写される世界の中では、情報知性体が生まれ、死んだ人間の仮想人格までもが自在に再現される。……とかいうところまでいくとちょっと空想的すぎるかもしれない。でも、仮に実際にそんな高機能な言語ツールがあったらどんなことが起こりうるか、それほどのツールをもってしても言語化できないものがあるとしたらそれは何か、っていう考えは面白そう。特に後者はその存在を忘れられてしまいがちな気がするので、こうしてちゃんと拾ってくれる作品は貴重かも。

たとえばあるテクノロジーが普及したせいで使われなくなり忘れられてしまった感情や意識の一部があった場合、それは消滅したわけではなく単に起爆待ちの状態にあるだけかもしれない。ひょっとしたらtwitterやgoogleに慣れすぎた人類は何かヤバイものをうっかり忘れてしまい、あとで困った事態に陥らないともかぎらない。技術革新の際の忘れものには気をつけましょう。

あと、余談だけどウェブサービスに知性が宿るという発想がらみで思い出したのがいつぞやのgoogle叛乱ネタ。
Rauru Blog ≫ Blog Archive ≫ 人工知能の叛乱
もしグーグル先生に自分で考える機能を与えたら、彼は人間をどんなふうに認識するのか。ひょっとしたらデータベースの質を下げるようなふるまいをするだけの「消せるなら消したいノイズ源」としかみなさないんじゃないか。それはもう雪風のジャムに近い存在だ。googleが思いつく殺人プランとかリアルに考え出すとかなり怖いです。

─────
[画像] Amazing Artwork from GRRM’s A Song of Ice and Fire
「氷と炎の歌」の風景画4点。キングズランディングの町並の圧迫感がいい感じ

「ムダヅモ無き改革」 公式ホームページ
監督:水島努、脚本:大和田秀樹。完成の暁には海外の視聴者の反応がどうなることやら

グレッグ・イーガンの「アバター」評
少々皮肉なコメント。「話はお粗末だけど現時点でのCG技術の到達点を見たい人はどうぞ」ということらしい。

更新: VIZ Haikasoru 英訳日本SF 刊行予定タイトル
伊藤計劃「ハーモニー」が追加されました。できればギブスン-黒丸風文体はギブスン調に逆翻訳してくれるといいな。そんなことできるのかどうかわかりませんが。他に野尻抱介「ロケットガール」、林譲治「ウロボロスの波動」、乙一「夏と花火と私の死体」も。
[PR]
by umi_urimasu | 2009-12-16 21:20 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「息吹」 テッド・チャン
このエントリーを含むはてなブックマーク
a0030177_2344934.jpgやっぱすげえええええ!翻訳で読んであらためて感動。美しいです。ほんとに、テッド・チャンはテッド・チャンにしか書けない小説しか書かないな。

内容に触れている人をあまり見かけなかったので、ちょっと詳しく紹介してみます。慎重に書いたつもりですが微妙にネタバレかもしれません。一応ご注意ください。

「息吹」 (原題: Exhalation)

すべてが機械仕掛けのその世界では、「空気」が生命の源とされていた。機械の身体をもつ住民たちは毎日、もよりの〈給気所〉で空になった「肺」を新しい空気の詰まった肺に換装し、一日分の空気を補充する。この世界の果ては巨大なクロムの壁に閉ざされていて、壁の外がどうなっているかは誰も知らない。
あるとき、その世界にちょっとした異状が発生した。世界中の水銀時計が、ほんのわずかながら、徐々に早まり始めているという噂が広まったのだ。その知らせに危惧を抱いたとある解剖学者は、自分で自分の脳を解剖しようと決意する。実験の目的のひとつは、積年の謎である記憶と思考のメカニズムを解明すること。そしてもうひとつは、時計の遅延の原因についての手がかりをつかむこと。しかし解剖学者が明らかにした世界の真実は、この上なく無慈悲なものだった……。
あらすじはこんな感じ。機械世界の牧歌的な生活がかもし出す寓話的な雰囲気、脳解剖シーンの機械曼荼羅的なイメージ、そして残された切なる祈り。たった13ページでこれだけ揺さぶられる作品も稀ですね。

作品のテーマは、いってみれば「存在賛歌」でしょうか。「宇宙は滅ぶ。しかし君よ嘆くなかれ。なぜならここにいた我々の存在自体がすでに奇跡なのだから」みたいな。
この物語の中で、宇宙の滅亡はあまりにも当然の原因からくる当然の結果として訪れます。「孤立閉鎖系においてエントロピーは増大の一途をたどり、やがて平衡状態に達する」というあの法則によって。空気の気圧差を活動源とする機械人たちにとって、密閉された世界から出ることもかなわず、気圧の差がゼロになる日をただ待つことしかできないと悟るのはどれほどやるせなかったことか。

物語の語り手が書き残した手記は、いつかこの滅び去った世界の廃墟を訪れるかもしれない、どこか別の宇宙からの探検者へのメッセージでしめくくられています。
「我々の宇宙は、静かなしゅっという音だけを残して平衡状態に達したかもしれない。しかし、この宇宙がこれだけの豊富なものを生み出したという事実こそが奇跡だ。それに匹敵するものがあるとしたら、あなたがたの宇宙があなたがたを生み出したという奇跡くらいのものだろう。」
もし我々のこの宇宙も閉じた系なのだとしたら、やはりエントロピーは無慈悲に単調増加をつづけ、いつかは滅亡のときがくるでしょう。しかし、終状態がひとつでも、そこに達するまでの経路には無限のパターンがありうるのだそうです。その無限の道すじのうちの一本をたどって、この僕たちが現に今ここにこうして生きているわけで、よく考えたら、いやよく考えなくても、そりゃちょっとすごいことなんじゃねーの。と、ここに至って宇宙生滅の流れの中に自分ごときの人生がなぜかしっくりはまってしまうこの驚き。そこであなた、タイトルが「息吹」ですよ。まったく、イイ話じゃありませんか。


グレッグ・イーガン「クリスタルの夜」も同じ雑誌に収録されていたので読みました。
こちらは「順列都市」の補足的な作品。AIが進歩していけばいずれ、人間なみの知性を持つときがくる。そうなったときに、彼らを仮想空間上で育てている人間が「進化の促進のためにはしかたないことだからメンゴメンゴ」といいながらAIたちにひどい苦痛を与えたり、非人道的(非AI道的?)な仕打ちをしたりすることも、まあ確実に起こるだろう。それって許せると思う?どうよキミ?という、AI倫理問題についての問いかけ。まああれですな、いつものイーガンの裏返しのような感じですな。お得意のネタにしては地味な作品という印象をうけましたが、オチが少々おとなしかったせいでしょうか。もはや、宇宙をつくったり潰したりするぐらいでは驚きすらされず地味とかいわれてしまうイーガンさん。

以上、どちらの作品もSFマガジン創刊50周年記念号に掲載されてます。その囲み記事に書いてあったんですが、テッド・チャンの次の新作は「商人と錬金術師の門」の前から書いていたAIものの中篇で、すでに完成まぢかだって。楽しみすぎる。

─────
2009-12-05 - 題材不新鮮 SF作家 飛浩隆のweb録
近日発表の新作は「零號琴」「自生の夢」。空の園丁は、空の園丁はいつですか……

芦名星が主演!初映画化「七瀬ふたたび」
また七瀬か。いつかはガスパールや夢の木坂にも映像化チャンスがめぐってくると信じたい

伊藤計劃のハーモニーがSF大賞(も)受賞したそうで。おめでとう、と言いたいけどやっぱり早世が惜しまれる。

森見登美彦『四畳半神話大系』TVアニメ化
監督は湯浅政明。奇人変人いっぱいの不条理劇的平行世界がどう描かれるか、ちょっと楽しみ
[PR]
by umi_urimasu | 2009-12-01 23:15 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「煙突の上にハイヒール」小川一水
このエントリーを含むはてなブックマーク
a0030177_8151561.jpg「ちょっと未来の道具で始まるちょっといい話」をとりそろえた作品集。もともと技術系ハードSFを得意とする小川一水ですが、これはそっち系の読者のためではなく、あくまで広く一般人向けに書かれたもののようです。物語は日常ドラマから逸脱せず、出てくる機械もカメラや介護ロボットといったわかりやすいものばかりで、読後感はすっきり爽やか。話題は平凡なOLやさらりまんの恋愛、仕事、趣味のことまで。科学の話は深入り禁止。

そういう趣旨の本なので、硬いSFを主食にしているような人にとっては張り合いがないと思います。でもそんな人たちのことを気づかってくれたのかどうか、一応「白鳥熱の朝に」というガチSFな作品もひとつ収録されています。これはパンデミック後に生き残った人々の苦悩を描く、いわばプチ「復活の日」。実際に近い将来の世界的大流行が懸念されている新型インフルエンザ(H5N1型)を題材としており、想定される蔓延のプロセスからポスト・パンデミック期の社会問題などにまで目くばりが効いていて、ちょっと考えさせられる内容です。僕も思わず真剣に読んでしまいました。明日はわが身ということも十分ありうる話だ。くわばら。

ところで、表題作「煙突の上にハイヒール」に出てくる「Mew ミュウ」、これはプロペラのついたランドセルを背負って空を飛ぶ一人用ヘリコプターみたいなものなんですが、じつはそれっぽい道具はすでに実用化され、販売もされているみたいですね。もちろん燃料電池式じゃなくてガソリンエンジンだけど。
GEN CORPORATION
自転車感覚で乗れる1人乗りヘリコプター
メーカーは日本のゲン・コーポレーションというところ。なんでも社長の趣味の延長で開発されたらしい。見た目は少々もっさいし騒音もきついですが、最大高度1000m、時速90km、飛行時間30分と、性能はMewと比べても見劣りしません。というか、むしろこちらがMewの直接の元ネタではあるまいか。ただし、スペックが足りていても種々の法規制がかかるため、日本では自由に飛びまわるなどもってのほかだそうで。

─────
テッド・チャン インタビュー 「地獄とは神の不在なり」を巡って
これは貴重!宗教と科学、神の存在、自由意志と決定論などのテーマを、それぞれの作品でどのように扱っているか、チャン自身が懇切丁寧に語ってくれています。作家志望者へのアドバイスとして、「なぜ物語を書くのか」というモチベーションについての考え方も披露。
『僕たちは未来がわからない。問題ないね』『ただ一人自分のみ語ることのできる物語というのは、ほんとうにわずかしかない』『作家にとってもっとも必要なものは、自分自身に忠実であること』とかかっこいいセリフ連発でちょっと笑える。意外と熱い人なのかな。

[ニコニコ] ゴンドールの大将が踊る「キラメキラリ」
今度はボロミアです。モデルのクオリティ異常すぎます。すばらしい笑顔だ

[画像] Hotel Ukraina in Moscow
ヒプノシスのジャケットみたいな不穏さが印象的な写真
[PR]
by umi_urimasu | 2009-11-15 08:19 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「順列都市」グレッグ・イーガン
このエントリーを含むはてなブックマーク
a0030177_10475741.jpga0030177_1048848.jpg今さらすぎて恐縮だが、ありのまま起こったことを話すぜ……
「仮想空間で宇宙のシミュレーションを走らせていたと思ったらいつのまにか自分の宇宙の方が逆にシミュレートされていた」
だいたいこんな話。だったよね?

難解で理屈っぽいというイメージをもたれがちなイーガンですが、じつはこの順列都市はけっこう「笑える」小説なんじゃないかと思います。特に終盤、飼ってた虫に「あんたらの宇宙論ないわー」と否定されたせいで宇宙崩壊!逃げるぞ急げ!いやじゃわしはここで死ぬんじゃ!と大騒ぎしてるあたりとか。登場人物にとってはシリアスな状況だけど、見ようによってはパニックコメディみたいにも見える。そして話のスケールがあまりにもでかすぎ。それが水も漏らさぬ論理展開の帰結だからよけいおかしみを誘う。そんなふうに感じる僕がおかしいのかな。

塵理論についてはどうも理解があやふやでした。でも、
グレッグ・イーガン自身による塵理論の問答集
Q2 最終状態が同じなら記憶も同じ、コピーは違いを認識できない。ダラムの実験の意味なくね?
A ないよ
Q3 発進とかいらなくね?
A いらないよ、でも、人間だもの by みつお
このQ2とQ3で「なんだそうか、まあいっかこれで」と思えてしまったので再読は当分なし。ネットで軽くおさらいする程度で妥協しようかと。

あと、関連しそうな用語や話題のリンクを少し拾ってきました。イーガン読むならこのへんの周辺知識はあればあるほどよいでしょう。
セル・オートマトン - Wikipedia
エデンの園配置 - Wikipedia
シミュレーテッドリアリティ - Wikipedia
強いAIと弱いAI - Wikipedia
スーパーコンピューターでネズミの脳活動の再現に成功

以下おまけ。イーガンスレで見かけたディアスポラのポエム。ヤチマはかわいい。これは数学的真理だ。

661 : 名無しは無慈悲な夜の女王[sage] : 2007/05/28(月) 00:44:46
デブリニモマケズ

デブリニモマケズ
宇宙線ニモマケズ
トカゲ座ニモコアバーストニモマケヌ
丈夫ナポリスヲモチ
身体的慾求ハナク
決シテ気ヲソラサレズ
タイテイコウザンニモグッテイル
星ヾノ光ト
星間ガスト少シノ宇宙塵ヲタベ
アラユルコトヲ
シュカンニトラワレズニ
ヨクカンソクシリカイシ
ソシテワスレズ
銀河ノ外レノ恒星間ノ
ナニモナイ空間ニタダヨイ
東ニ病気ノヤドカリアレバ
心ノ中デハゲマシ
西ニツカレタイノシロウアレバ
ソノ悲シミヲ負イ
南ニ死ニソウナ肉体人アレバ
移入ヲコワガラナクテモイイトネンジ
北ニポリス間ノセイリョクアラソイアレバ
ツマラナイカラヤメロトオモイ
ヒデリヲミタラナミダヲナガシ
肉滅ノトキハオロオロアルキ
ミンナニデブリトヨバレ
ヤクニモタタズ
ジャマニモナラズ
ソウイウモノニ
ワタシハナリタイ

662 : 名無しは無慈悲な夜の女王[sage] : 2007/05/28(月) 07:38:32
いけない価値ソフトでも使ったの?

─────
[ニコニコ] 【MikuMikuDance】ミクトラセブン
[ニコニコ] 【MikuMikuDance】ミクトラマン【フルVer.】
何よりもその巨大感の表現に、民家の撮りかた次第でこんなにも絵になる画面がたくさん作れることにびっくり。エヴァもウルトラマンからこの方法を借りてたのか

世界が期待する「人喰いの大鷲トリコ」について,上田文人氏にそのこだわりを聞いてみた
あとで読む → 読んだ。今回はやはり動物表現に凝っているらしい。早くやってみたい。

Amazon.co.jp: 「爆撃聖徳太子」 町井登志夫
これが気になってます。題名のひどさ、表紙のひどさ、共によし。「すごい努力をして『京都の料亭に出してもおかしくない広島風お好み焼きを作った』ような」本、という評もあり。でもじつは伝奇分はそれほどでもなさそう?どうも方向性がよくわからない。念のため、もう少し人の評価を見まわってからにしよう。

[youtube] アニメ そらのおとしもの 第2話ED(HD)
世界平和を願い生命を讃えるという清らかで気高いメッセージが込められたよいED

“描き込み魔”森薫、新作「乙嫁語り」の制作過程をお届け
こ、こまか……。人間のりんかく線などをさっとひと筆で決める人もいるんだろうけど、森薫はほんの少しずつコリコリ線を重ねていくタイプ。さらにあの病的なまでの服飾描写。時間かかるのも納得
[PR]
by umi_urimasu | 2009-10-10 10:57 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
サイバースペースの民俗学: 日本人とメタバース
このエントリーを含むはてなブックマーク
a0030177_10203567.jpg柾悟郎の「ヴィーナス・シティ」を読んだら、現在のネット文化についてかなり的確に予言している箇所がいくつも出てきて驚きました。特に興味をひかれたのが、仮想空間やネット社会における日本人の民族性についての考察です。(作品のタイトルにもなっているヴィーナス・シティとは、ユーザーが自己のアバターを操作してネット上の仮想都市の住人として生活を送ることができる娯楽サービスのこと。仮想現実の技術が今より進んだメタバース的なもの。)

ヴィーナス・シティの日本人ユーザーの大半は、欧米人のようにアバターとして自分自身のイメージを使わず、おおむね白人タイプの、またはマンガやアニメやゲームのキャラクターに似せたイメージを使っています。これは現実でも、たとえばMMOとかでよくみられる現象です。セカンドライフなど実際のメタバースではどうなのか、僕は入った経験がないのでそこはなんともいえないんですが。
こうしたことの原因を、明治時代からつづく外人崇拝の風潮、白人コンプレックスに求めるという考え方もあるようです。ただ、「ヴィーナス・シティ」ではそれについては論じられていません。代わりといってはなんですが、「日本人はなぜ本来の自己のイメージとかけ離れたアバターを選ぶのか(なぜ仮想空間で別人になろうとするのか)」について、面白い考察がなされています。すなわち、ヴィーナス・シティは日本人にとっての「異界」だからだと。

日本という国は文化的にも人種的にもきわめて単一的であり、社会全体がその単一性を維持しようとするため、まわりと異なる存在は厳しく排斥される。日本人の日常生活は、それ自体が希釈された宗教的儀礼の連続のようなもので、日常生活に組み込まれたしきたりが宗教と同じほどの同化力と排斥力をもつ。集団の和を乱す行為は些細なものでも許容されにくい。そこで安全弁として一種の「異界」が必要となる。ヴィーナス・シティのような匿名環境は、厳密な社会秩序のガス抜き機構として、一種の電子的な無礼講の場として機能する。

作中での考察はだいたい上のような感じでした。僕なりにこれを補うとすれば、日本人にとって娯楽目的の仮想空間は、文化的拘束からの開放願望を安全に満たすために日常(現実)から切り離された非日常、おおげさにいえばハレの場のようなものであり、アバターに別人の姿を選ぶのも日常と非日常の区別をはっきりさせるためではないか、と考えるのがしっくりくるように思います。上の話はあくまで架空の技術にもとづく架空のネット論ですが、実際のネットのあり方にも通じるところがあるんじゃないでしょうか。あと、この話は「日本人はなぜ三人称視点ゲームが好きなのか」問題とのかかわりも期待できそうです。
ただし、「ヴィーナス・シティ」が書かれた1990年代ならともかく、現在ではネットの中もリアルとさして変わらないほど社会的な空間になってきています。なので、ガス抜き効果については誰もそんなの期待していないというのが実情かもしれません。

ネットでのハレといえば、かつては共同体ぐるみで行う「村祭り」がになっていた若者のガス抜きとコミュニティ結束のシステムが都市化・核家族化により崩壊し、現代ではネット上で発生する突発的な祭りがそのはたらきを一部代行している、みたいな話をどこかで読んだおぼえがあります。若者が安全にお祭り騒ぎをやれる場は、もうネット上にしか残されていないんだろうか。う~ん。本当なら由々しき問題かもしれぬが。ニコニコ動画のアイマスや初音ミクのように適度な活性化状態が長期間つづくコミュニティも、ある意味「終わらない祭り」といえなくもない。そういうネットのブームの中にも日本的なものって含まれてるのかな。
なかなか、容易にはわからんことが多いですね。

ちなみに「ヴィーナス・シティ」が出版されたのは1992年、奇しくもニール・スティーヴンスンの「スノウ・クラッシュ」刊行と同じ年です。日本とアメリカでほぼ同時期に、仮想空間上に構築される「もうひとつの社会」を描いたSFが発表されていたわけか。先見の明があったんだなあ。

─────
VIZ Haikasoru 英訳日本SF 刊行予定タイトル
小川一水「The Next Continent (第六大陸)」、京極夏彦「Loups-Garous (ルー=ガルー)」、山本弘「The Stories of Ibis (アイの物語)」、桜坂洋「Slum Online (スラムオンライン)」の刊行がどうやら決定のようです。めでたい。若年層向けには悪くないラインナップかも。第六大陸の洋題が The Sixth Continent じゃないのは、やはり一般的には南極の意味になるから?

「人喰いの大鷲トリコ」 SCE公式サイト
TGS2009のプロモーション映像が見られます。尻尾のうねりとか足で耳の裏を掻く動作とか、モーションの自然さがすごい。ICOやワンダのファンの期待にこたえてくれる作品になると信じてる。

伝奇マニアが本を読まない彼女に荒山徹を軽く紹介するための10冊
なんて無謀な。手っとりばやく向き不向きを見きわめたいなら、踏み絵として「柳生陰陽剣」か「柳生大戦争」あたりを読ませてみるのも一手かと思ゆる。

古川日出男は、ヒゲむしると妹になるよ。
円城塔のtwitterより、ナゾの一文。何かの暗号か符牒なのでは。

∀ガンダム - Wikipedia
これによると、富野監督はインタビューで新訳ターンエーを作りたいと発言していたそうです。見てえ。放送された年から数えて20年後というと、2020年ごろか。嬉しい話だけど現実味はうすいかも。もし制作されるとしたらロボットはオールCGがいいな。ミードメカはかなりCG映えするはず。

「へうげもの 9服」山田芳裕
読みまいた。「痛うございます 早う」が……なんの飾りもない利休最期の言葉が突き刺さる。この作品で今後これ以上の山場が描けるのか、先が心配になってしまった。

Team ICO、『ICO』や『ワンダと巨像』がPS3に移植される可能性について語る
嬉しいこと言ってくれるじゃないの。これはほんとに実現してほしいです。

上田文人氏のゲーム哲学は? 『人喰いの大鷲トリコ』開発者インタビュー
リアルから情報を取捨選択してCGをつくるときに、何を選べばリアルでないものがリアルらしく見えるか。そのへんでクリエイターのセンスが問われるらしい。MMD動画とか見てるとなるほどと思うところがある。

[画像] スティーヴン・スピルバーグ監督「エイリアン」
ハートウォーミン……グ?
[PR]
by umi_urimasu | 2009-09-27 12:56 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「ザ・ロード」コーマック・マッカーシー/他
このエントリーを含むはてなブックマーク
最近読んだ本など。ゲームにかまけて長文感想を書くタイミングを逸してしまいましたが、どれもよいものでした。

a0030177_23284213.jpg「ザ・ロード」コーマック・マッカーシー
もしヘミングウェイが西暦2050年生まれだったら、あるいはこんな小説を書いていたかもしれない。文明崩壊後のアメリカをあてもなく彷徨する父子の旅をこまごまと、それはもうこまごまと描いた作品で、世界が「終わった」実感、未来のなさ、寂寥感がすごいです。徹底して心理描写を排除し、句点とかぎ括弧をまったく使わない文体が印象的。滅亡SF好きにはこたえられない逸品かと。分類としてはSFよりも主流文学の方に入りそうですが。


a0030177_2330492.jpg「血と暴力の国」コーマック・マッカーシー
いっぷう変わった犯罪小説。出来心で大金を盗んだ男にかかわった人々がそれを追う殺し屋の手にかかって次々と殺戮されてゆき、老保安官が社会の変化を嘆くという、一見ノワールのお手本っぽい話なんですが……。普通の悲劇形式の物語では、登場人物がどういう行動をするにしろ、なんらかの形で行為に対する帳尻合わせがなされることによってカタルシスが生まれます。しかしこの作品では無辜の人々がなんの意味もなく惨殺されて、ほんとにそれっきり。一切のフォローなし。純粋なる理不尽。まるでアンチ古典悲劇のモデルケース。「ひでえ!最悪すぎる話だ!」と心底ぐったりしたあとで、人間の生死についてひとしきり考え込んでしまうこと必定。


a0030177_2329362.jpg「柳生非情剣」隆慶一郎
徳川治世のもとで剣のみに生きた、太平の世の剣鬼とでもいうべき男たちの生きざまを描いた短編集。柳生厳勝、宗冬、義仙など、小説では十兵衛や宗矩にくらべて脇役的なポジションを振られることの多い人々が想像だにしなかった魅力的な顔を見せてくれてもうウッハウハでした。これぞ歴史伝奇の愉楽というもの。特に「跛行の剣」はシグルイの「出来る 出来るのだ」というあのナレが似合いそうな奇剣で、殺陣シーンがむちゃくちゃカッコイイ。あと、「柳枝の剣」は漫画「SAMON」の原作ですね。これは純愛悲劇なのに笑えてしょうがない話。仮に一石を現在の10万円とすれば、尻ひとつで100億円だ。家光スゲー。


a0030177_23291491.jpg「青年のための読書クラブ」桜庭一樹
「百年の孤独」+「マリア様がみてる」といえば、当たらずとも遠からじ。お嬢様学園社会を舞台にライトノベルっぽいおかしな名前をもつ少女たちがくり広げるドタバタの歴史を、その時代ごとの読書クラブ部員がノートに書き残して後世に伝えたクラブ史、という体裁の物語です。ノート方式で女学院ものでメタでミステリというと皆川博子の「倒立する塔の殺人」なんかも思い浮かびますが、あんなに優雅&淫靡な雰囲気ではなくて、コメディ少女漫画のパロディのような、一歩ひいた笑いのテイストを常に含んでいるあたりが桜庭一樹っぽい。


a0030177_23294490.jpg「オルタード・カーボン」リチャード・モーガン
いま読んでるやつ。サイバーパンク仕立てでオーソドックスな冒険小説をやってみた、という感じ。SF的な新味はあんまりなさそうです。設定を細かく作りこんだ近未来が舞台の「探偵もの」を読みたい、それ以上でも以下でもなくていい、というのが望みなら、十分に満足できる内容だろうと思うけど。クローン技術と意識のデジタル化によって肉体の取り替えが利くという設定は一応SF。あとはダイハードなタフガイがセックス、バイオレンス、ガンファイト、ガンファイト。なんというか、いかにも映画向きな内容ですね。実際に映画化の企画も進んでいるらしい。

─────
[ニコニコ] 中学星 予告編+本編
なんでかクセになって何度も見てしまう。厳密な秒区切りで進むあのテンポのせいか。

a0030177_2329042.jpg爪バトルが見たくて、久しぶりに映画館に詣でて「ウルヴァリン X-MEN ZERO」を観賞して参り候。まあ期待通りの内容でした。でもなんか妙に物足りない。で、帰ってからわざわざ第一作目を見直してしまいました。う~ん、満足だ。やっぱり一作目が一番好きだ。CGもワイヤーアクションも今の技術に比べたらてんでショボいし、話も地味だし、二作目以降と比べてそんなに突出した出来ってわけでもない気がするんだがなあ。自分の満足度の基準がどうもよくわからん。

[画像] シドニー・インターナショナル・フード・フェスティバル
各国の食べ物でそれぞれの国旗を表現した広告。BENTO BOX ARTにも通じるものがある

[ニコニコ] フロドが「キラメキラリ」を踊ったよ
アマンの地ではイスタリとのこうした団欒はよくあること

[画像] トールサイズ版「ニューロマンサー」の表紙
ついに新しくなるもよう。なんか白くなりましたな。サイバーというよりも歯車や内燃機関っぽいイメージか。
[PR]
by umi_urimasu | 2009-09-12 00:16 | 本(SF・ミステリ) | Comments(6)
「TAP」グレッグ・イーガン
このエントリーを含むはてなブックマーク
a0030177_072846.jpg「へー、こんなホラーとかも書いてたんだ」という驚きは、しかしそれ以上の深い感動に育たず、「いつものイーガンおくれー」という欲求やみがたし。そういう意味では、一番最後の表題作がもっとも「いつものイーガン」的な作品でした。人間の定義を変えてしまうような技術と道徳の競合についての精密な考察。これよこれ。こういうのが読みたかった。

TAPのような完璧な言語が使えるようになったとき、感情や感覚に今まで同様ただ身をゆだねるだけでよしとするか、それともその仕組みのすべてを完全に解析・理解し、人間性などと呼ばれていたブラックボックスを今後一切なくしてしまうか。人間にとって、どちらがよりしあわせなんだろう。もしTAP言語が実際に使えたとして、さらに僕に子供がいたとして、「あなたのお子さん、どちらの言語で育てられますか」と聞かれたら、まず即答は無理だろうなあ。TAPインプラントがいつでもどこでも着脱自由だったら、あんまり悩まなくてもすみそうなんですけど。まあ、それはできないってあらかじめ作中で説明されてるんですけど。

ところで、イーガンという人はどうも、探偵とか空き巣とか潜入捜査とか、こっそり忍び込んで秘密を調べる的なストーリーに(必要以上に)したがる傾向があるみたいですね。今回の収録作品だと「TAP」と「銀炎」がそう。最近の作品だと「暗黒整数」もそう。昔の長編、「宇宙消失」や「万物理論」もそう。すぐには思い出せないけど、既刊の短編集にもいくつかあったかも。読者の方からすれば、正直イーガン作品にその手のサスペンスはあまり求めてないから体裁とかどうでもいいよ、っていう人が多いのではないかと思いますが。何かよほどのこだわりでもあるんでしょうかな。じつは大の探偵ドラマファンだったとか。ないよなあ。

以下おまけ。「TAP」で特に気に入ったくだりをちょっと抜き書きさせてもらいます。
「グレイスさんは、自分の頭の中に景色を書くこともできたんだ。どこの一千万ドルの夜景だっておそれ入るようなやつをね」
「なぜそうしなかったのかしら?」
「グレイスさんが“現実”をどう定義していたか、知っているかい?」
「いいえ」
「ほかのあらゆるものが存在しないと立証できても、それでも立証できずに残る一万ビット」
もうひとつだけ。
「もし、本をひらくたびに、書いた人のいっていることをなにもかも鵜呑みにしなくちゃならないとしたら、どう思う?文の途中で読むのをやめて、『これは……でたらめだ』って思えないとしたら。一語一語を自分の頭の中で論証する能力がなくなっちゃったら」
「そんなのはごめんだわ」
ミックはいった。「それがVRの未来なんだよ。もしTAPがなかったら」
これよこれ!いやあ、イーガンってほんとにいいもんですね。

─────
a0030177_2301632.jpg柴田ヨクサル「ハチワンダイバー」11巻。あいかわらずむやみにテンション高くて楽しい。エキサイトしすぎて互いに相手の頭をぶん殴り合いながら指すとか、盤を100枚一列に並べて100面指しとか、盛り上げ方がむちゃくちゃすぎて笑える。もっとも、プロ棋士になるとリアルでも、素人相手の50面指しや100面指しを余芸としてこなすぐらいの腕前は普通にもってるらしい。うへえ。現実が漫画のようだ。

[ニコニコ] エヴァンゲリオンがわかる動画【前編】
ソラユニPのセンスが炸裂。とてもわかりやすい

私たちの銀河には高々 10 以下の知的文明しか存在しない?
いうまでもなく地球文明はその10個のうちに含まれない下等文明です。とほほ。日本語訳記事にはミスがいくつかあってコメント欄で指摘されてる。
関連: ドレイクの方程式 - Wikipedia
はっきり決まらないパラメータばっかり。宇宙広すぎ萎えた…

萌え絵で読む虚航船団
しばらく見ないうちに新作が大量に追加されてた。このホチキスならツンケンされても許せる。
そういえばずーっと昔、葉のホワイトアルバムか何かのキャラで虚航船団ネタをやってる絵チャ漫画みたいなのをどっかで見かけたような気がするんですが、あるいはこの方の作だったのかもしれない。思いちがいだろうか。記憶が非常にあいまいだ。
[PR]
by umi_urimasu | 2009-07-31 01:15 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
【ミカるんX】 臍矢さんはセコかわいい
このエントリーを含むはてなブックマーク
暑さで脳がへたり気味なのか、本を読み終えても長文感想を書く気力が出てこない……。

a0030177_23485731.jpg宇月原清明「信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」。半分は伝奇、残り半分はオカルト検証本みたいな作品でした。「織田信長は両性具有だった」という仮説にしたがって古今東西の文献を関連づけていく、そのこじつけ力がものすごい。電波を電波として受け流すか、まるごと呑み込むか、どちらにしろ読む側にある種の錬度が要求されそう。ホイホイついていくのをためらわせる電波の強さは、コリン・ウィルソンの「賢者の石」とかにも似た感じ。

a0030177_23491170.jpg今読みかけているのはイーガンの「TAP」。これも少し消化不良気味。いかにも残り物くさい昔の作品ばかりを集めたもので、ありきたりな発着点に収まってる話が多いような気がします。強烈な宗教・疑似科学批判も、怒りたい気持ちはわかるけど肩がこる。わしゃもっと暴走列車で数学殺法なイーガンが読みたかったんじゃ(泣)。でも物理や数学ネタが全然出ばってこないこういう作品集は、いつものイーガンがダメな人には逆にいいのかもしんない。

a0030177_23502023.jpg漫画の方面で最近見つけたお気に入りは高遠るいの「ミカるんX」。ウテナ+ウルトラマン+バキ+エヴァンゲリオン+覚悟のススメあたりのパロディ集合体みたいな特撮活劇で、覚悟の零式野球ネタをやってたのが目について購入に至りました。臍矢さんがナイスキャラすぎる。金の亡者でありながら、じつは本人の意に反して本性はけっこうお人よしで友達思いなあたりがこう、なんですか、あれはいいものだ、うん。

a0030177_12442084.jpgかれこれ10数年ぶりに読み直しているル=グウィンの「夜の言葉」。やっぱすごいキレ者ですわ。それに、フィクションに対して非常に真摯で、言葉の力に対して非常に慎重な人。自分にとって「ファンタジーとは何か」ということを言葉でいうのはとても難しいんですが、いつかは彼女のように、借り物じゃなく自分で探してつかんだ言葉でいえるようになりたいものです。「闇の左手」の批評もすばらしい。目から鱗が吹っ飛びます。

─────
やる夫シリーズの傑作は? 無題のドキュメント
作品数が多すぎてどれを読んだらいいかわからない人はここらへんで探そう。
汎用物語パーツとしての共有しやすさ、パロディ性の強さなど、AAは表現手法としての方角からもっと語られてもいいんではにゃーかしら。

Amazon.com: The Lord of the Sands of Time: Issui Ogawa
小川一水の「時砂の王」は英訳が発売されたばかり。紹介文には「第六大陸」も2010年にHaikasoruから出るって書いてあります。めでてー。

Sランク大学の授業風景
最後の67がかっこよすぎる

[画像] 祖父の撮った写真@従軍中
史料的価値はないっていうけど、こういうものは一枚のこらず人類の遺産といってもいいもんじゃないかと。2chに貼れば誰かが拾っておいてくれる。そうやって情報は伝わり生き残っていく。

[画像] 三船敏郎 as 菊千代@七人の侍
永遠のスタア、値段のつけられない笑顔。サインもカッコイイ

[ニコニコ] 逆転裁判春香 第2話「逆転花嫁」1日目探偵B
クオリティ高すぎて思わず拝む。ありがたやありがたや

[ニコニコ] [MMD]物理演算でバー・鬼・演奏
物理演算でRPG発射のつづき。スネーク渋いです。けいおんこわいです

あなたの人生140字(ついったー蔵出し8) - 安寿土牢 - ファック文芸部
「受け手の脳内に光景を展開させて、それに対して『なんじゃこりゃ』と思わせることができたらそれは SF です。従って日本語 SF の最小単位は 1 ワードです」「例を挙げてよ」「理論的に存在を推測したので続きは実験物理学者、いや実作者の仕事です」
そのりくつはおかしい。しかし、1単語で光景まで描けるSFってなんかあるかな。「関節話法」とか「蟹光線」とか「平面人」とか?いまいちだ。「量子婚」とか「量子葬」とかは。意味がわからない。かなり難しいぞ。
[PR]
by umi_urimasu | 2009-07-25 01:50 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
「倒立する塔の殺人」皆川博子
このエントリーを含むはてなブックマーク
a0030177_0182821.jpgそろそろ80歳になられる方だというのに、この文章にあふれるみずみずしさ、圧倒的なまでの少女らしさはいったい何なのでしょうか。「女性はいくつになっても少女である」などと世間では言いますが、これほど繊細で鋭い十代の感性を保ちながら、そこに老境の気品と熟成された幻想力が加わればもはや最強無敵ではないか。
こうして皆川博子無敵伝説がまた1ページ。

皆川作品については、いざ語ろうと思っても、好きだー!皆川さん、愛しているんだ!とゲイナー君のような恥ずかしい告白にしかならない自分の語彙の貧しさに絶望して、いくら感動しても感想文を書くまでに至らないことが多かったのですが、久しぶりにがんばって何か書いてみようと思います。この作品の場合、狂気と倒錯どっぷりな内容でありながらもジュヴナイル的な爽やかさが適量含まれていて、皆川作品ではなかなか珍しいタイプのような気がするので。

物語は太平洋戦争末期から終戦直後の頃、東京のミッションスクールで起きた殺人の謎をめぐる少女たちの友情や愛憎を描いています。少女たちが回し書きをしたノートの中に、さらに作中作として物語があり、虚実が錯綜して読み手を幻惑するという皆川博子お得意の入れ子スタイル。入り組んだ虚構を解きほぐし、ミステリとしての真相に到達しても、それによって幻想美がまったく失われないあたりが彼女らしいです。

出版元のミステリーYA!というレーベルは対象年齢が小学生くらいからだそうで、幻想小説好きの気はあるけれども、まだ皆川博子作品の味を知らないという子供たちに入り口としてすすめるのには、これはかなりよい本かもしれません。小学生向けとしてはあまりにインモラルすぎる部分もありますが。しかし、作中でも書かれている通り、子供が自分で選んで読む本に大人が勝手に決めた年齢制限などは本来なんの意味もないものです。(図書室でアンリ・バルビュスの「地獄」を借りようとした三輪小枝に向かって「まだ早くないかしら」という司書に対し、小枝の答えは「早すぎる本って、ないと思います」。)そうだそうだ。早すぎる本なんかないわい。

これは学園ミステリとしてももちろん楽しい作品なのですが、僕はどっちかというと、トリックなどよりも少女の戦争手記としての部分をおいしく味わいました。終戦当時に主人公の女学生たちとほぼ同年齢だった作者の実体験がどこまで反映されているのかはわかりませんが、日常のなんでもないディテール描写の中に、はっとするようなリアルな感触があります。食糧難のひどさ、工場のつらい労働、家族や友人の悲惨な死、ヒステリックな軍国主義者たち。それらのものが思春期の少女の眼にどんなふうに映ったかが、淡々とした語り口に込められた純粋さ、幼さ、辛らつさ、呑気さなどの奇妙なバランスにあらわれているようでした。

それと、作中に出てくる当時の唱歌、軍歌、流行歌。これらがなんというか、それぞれにめいっぱい少女的なものが込められていて、もうとにかくすばらしい。しかもこのたくさんの歌は、一つを除きすべて作者の記憶にもとづくものだとか。皆川さん記憶力すごすぎます。

表紙カバーイラストはジャスミンの花につつまれた、無垢とも残酷ともとれる表情をした少女たちの絵柄。イラストレーター(佳嶋氏。HP:echo)は皆川さんご自身による人選らしいです。そしてカバーを取ると、本体も作中に出てくるノートと同じ孔雀模様のデザインが。皆川さんのこだわりマジ最高!

以下、ラストの解題を少し。ネタバレになるので文字色反転します。
──────────
第6章の章末少し手前の〈FIN〉の箇所までを、設楽久仁子がまず書いた。ベー様とサーちゃんが読んだのはここまで。その後、設楽久仁子は二人には見せない(了)までの部分を書き足して、雫石郁にわたした。自分が犯した罪だけでなく、胸中に秘めた虚無まで暴き出したその結末を読み、ほどなくして郁は服毒死をとげた。これはいってみれば、久仁子が間接的に郁の自殺をあと押ししたようなものです。久仁子は郁の死により、「創作が現実に人の生死を左右する」ことの重さに耐えられず、小説家になる夢をあきらめた、とも推測できます。

郁のかかえていた情念と絶望を、久仁子もまたかかえていた。だから彼女だけが真相にたどりつけた。そして彼女は、その真相を郁だけに読ませるつもりで書いたにちがいない。それは憧れていた上月葎子を殺した女への、純粋な復讐心からの行動だったのではないか。
こんなふうに久仁子の暗黒面を想像してみると、ラストをかるく読み流した場合の読後感ほどには爽やかな話ではありません。つーかドス黒い。真っ黒ですよジダラックちゃん。

──────────
言葉だけでなく小説の構造で狂気をあらわす。その狂気の構造に読者をも引きずりこむ。この華麗な手口こそ皆川博子の真骨頂ではないかと僕は思う。そこが好きだー!愛して(ry

あと、そういえば、鏡で発狂するという着想はやっぱり乱歩の鏡地獄へのオマージュなのかな。どうでしょう。

─────
フランスのオンラインSF誌「ActuSF」による日本人作家メールインタビュー:
円城塔、 牧野修、 大原まり子、 貴志祐介

[ニコニコ] [MMD]物理演算でダルマおとし
衝撃のラストにでんぐり返った。デフォ子の運命やいかに

「やる夫シリーズ」とケータイ小説の表現的類似など
魔王14歳さんに質問の儀。ネット文芸の明日はどっちだ

やる夫ブログ やる夫のペルソナ3
やる夫ブログ やらない夫のペルソナ4
なんか妙に気に入ってしまって最初から読み崩し中。P3未プレイだけど、もうネタバレ覚悟で。

環望「ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド」 TVアニメ化決定
よかよか。しかし時期的にやりづらい表現が多い作品です。とりあえず服を着せないと話がはじまらん。

「虚航船団」の消しゴムによく似てる、ダイアナ妃使用の消しゴム
消しゴムの天皇、もとい、大公妃の消しゴム。一応「FOR BIG MISTAKES」と印刷されてる

[画像] 角川つばさ文庫版ドラゴンランス 廃都の黒竜 (上) カバーイラスト
ラノベ世代の子供層に向けて化粧直しされました。僕は昔から富士見文庫版のこってりした絵に馴染んでいるので、新しいのはやっぱり違和感きつい。

2009年星雲賞
国内長編部門は伊藤計劃のハーモニー

蛮族同人誌「バルバロイ」に寄稿された伊藤計劃の小説 「セカイ、蛮族、ぼく。」公開
これはラノベ風刺? ちょっと暗喩的なブラックユーモア小説。望まない記号的キャラ付けを強要されるキャラクターにとっては、ご都合主義的セカイも生きづらいことはなはだしい。

沙耶の唄がアメコミ化される
ニトロプラスのライブイベントで発表されたらしいんだが。オーノーだズラ これはないズラ

[画像] ドラゴン卿(?)をガン見してるレイストリン(赤)
油っぽいドラゴンランスのイラスト。詳細不明。小説のカバーアートか、D&Dのゲーム関係の絵とかだろうか。背景の竜はカイアン・ブラッドベイン?右上の端が切れてる人物は、ん~、アリアカス卿か?
[PR]
by umi_urimasu | 2009-07-01 01:02 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
テッド・チャンの最新作「Exhalation」電子版ダウンロード
このエントリーを含むはてなブックマーク
いつまでも凹んでいてもしかたない。
今SFを読んで気分が晴れるかどうかわかりませんが、これでも読んでみようと思います。

Download Ted Chiang’s Hugo-nominated short story, “Exhalation”

英語の小説をきちんと読み切った経験はほとんどないのですが、これは大好きなチャンの新作ということで、また分量も非常に少ない短編ということで、なんとかモチベーションを保てそうです。すべてが金属からなる世界に生きる住人たちの社会とか思想とかを描いた話らしく、チャンならではの視点も楽しみ。すでにヒューゴー賞とイギリスSF協会賞にノミネートされていて、SF読みの評価も上々のようです。日本語訳が出るのはだいぶ先らしいので、とりあえずこれでテッドチャン欠乏症を癒しましょう。

─────
[ニコニコ] アイドルマスター ののワさんの勝手に生きろ!
要約不能。パーフェクト・フリーダム

─────
ペルソナ4に没頭中。ものすごい時間泥棒だこれ。おかげでまったく読書をしていない。

Exhalation は半分ほど読んでサスペンド。とりあえず、金属世界の解剖学者が自分で自分の脳を解剖するという話。英語で読んでも作品から受ける「チャンらしい」感じはまったく一緒で、なんか安心してしまいました。
読んでいて少しつかみづらい言葉がひとつ。"public crier" → 辞書によれば crier は 叫ぶ[泣く]人; (法廷の)廷吏; (布告などの)ふれ役; 呼売り商人; ちんどん屋、などと出てきますが。この作品の場合は宗教的な?新年の祭典とか説教とか朗吟とかいったようなこともする職業らしい。どうもイメージしにくい。坊さんなのか役人なのか。

G・R・R・マーティン〈氷と炎の歌〉第5部がハワード・ウォルドロップとの共作になる
と、マーティン本人がブログで発表しました。
ハワード・ウォルドロップ - Wikipedia
これによって、少なくとも第5部 A Dance with Dragons の刊行時期は早まるぽい。DWDだけに限定したパートナーシップなのか、今後もシリーズをずっと二人体制で書いていくのかについては明言されていません。共作によって作品のテイストが変わってしまうかもしれないという不安はありますが、とりあえずはモノが出されてみないとなんともいえないかな。

4月4日、あいかわらずP4漬け。ここも放ったらかしで少々気がとがめる。でもやめられない。コミュイベントが、中でもクマがらみのコミュが面白すぎる。ウザかわいいとはこういうことか。
あとこのゲーム、ふたまたかけるとどうなるんだろう。バレたら修羅場になるのかな。バレなきゃいいのかな。
→ ふたまた普通にできた。「自分には他に特別な関係になった相手がいるはずだ……」とかいうメッセージが出たけど、単に出るだけみたい。すまぬ雪子よ、俺も男だ。

ギャルゲーブログ 便利な画像ください
ほんとに便利です

ファンタジー世界の脱中世化
その前提からしておかしいのかもしれないけど、それはさておき。ゲームや漫画の分野で、中世っぽい舞台に現代のテクノロジーを平気で登場させるようなファイナルファンタジー的なつくりの作品が昔に比べて増えた、という傾向は一応あるような気がする。理由は……なんでだろう。ここ最近の現象だとすれば、やっぱりFFがバカ売れしてはずみがついたから?とかかな。まあ要因のひとつではあるかもしれない。売れたもん勝ちということで。

ブラックホールに吸い込まれると何が見えるか、という映像
これをわくてか映像といわずして何といおう。黒いところがいわゆる事象の地平面ですかね。空間のゆがみがグリッドであらわされていて、最終的にぐんにょり&ぺちゃんこになるのがわかります。こわ!怖すぎる。

BLOG希有馬屋:今川版“ガンダム”ってのを考えた
SFムーンストーン enziの日記 から。Gガンじゃなくて、ファーストガンダムを今川風にしたらこうなるよ、というもの。これは見たい。

『ワンダと巨像』がハリウッドで映画化決定 - Game*Spark
なんですとー
>プレイ動画でいいよ
って言ってる人がいた。同感だ

─────
4月9日、いまだP4フィーバー冷めやらず。ベアード様を成敗してひとまずのエンディングに到達しました。セーブのタイムスタンプでは累計プレイ時間は110時間ほど(ただし寝落ちなどによりつけっぱなしのまま放置していた時間も含む)。もう三週間近く(!)このゲームやってるけど、なんかちっとも飽きない。驚き。
まだ別の分岐で真エンドルートというものがあるらしいので、次はそっちへ行ってみようかと。

[youtube] アニメ「戦国BASARA」 第2話より 伊達政宗VS真田幸村
戦国時代が舞台なのに戦闘シーンがこのありさま。久しぶりに追っかけてみようかと思うテレビアニメに出くわしました。ちなみにこの場面だけが異常というわけではなく、基本的にいつもこういうノリの作品らしいです

[ニコニコ] 菓動戦士PUNDAM~逆襲のシャア
アンパンマンをガンダムで吹き替え。これはすごい。恐ろしいほど合ってる
[PR]
by umi_urimasu | 2009-03-25 21:53 | 本(SF・ミステリ) | Comments(6)