カテゴリ:本(SF・ミステリ)( 122 )
「ねじまき少女」 パオロ・バチガルピ
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ねじまき少女 上 (ハヤカワ文庫SF)

パオロ・バチガルピ / 早川書房


堪能しました。エネルギー資源不足と環境汚染にあえぐ近未来都市バンコクの混沌、そこに暮らす人々の悲哀や怒りや欲望を複数POVで緻密に描いていく、亜熱帯ムード満点の群像劇。「最近の小説でギブスンっぽいやつを読みたいんだが」という人には、まずおすすめの一品かと。

記録的な勢いでSF賞をとりまくった米国でのヒットに比べて、日本での反応はやや戸惑いまじりのようにも見えますが、これは宣伝文句(「グレッグ・イーガンとテッド・チャンを超える云々」)に語弊があるのかもしれません。実際に読んでみたら、イーガンやチャンのような論理SF?的な方向性の小説ではまったくありませんでした。ひきあいに出すなら、やはりギブスンあたりがよいでしょう。都市の底辺層を顕微鏡的に観察していく視点や、先端技術と妙な日本観のまじりあったおかしな東洋的エキゾチシズム。いかにもサイバーパンクっぽい香り。

しかし、往時のサイバーパンクを髣髴とさせつつも、描かれている世界は今日的な感覚によるものだと思います。けっこうテクノロジーのすすんだ未来の話なのに、すさまじいばかりのジリ貧感! 石油は枯渇し、工業動力源はゾウや人力でゼンマイにためるエネルギー。もちろんコンピュータも電話も手回し式。政治は腐敗しきり、経済はカロリー企業に牛耳られ、難民はしいたげられ、水位上昇、環境汚染、新種の疫病……明るい要素が何ひとつ、何ひとつない。

世の中はこれからどんどん不便になり、衰退していくのではないか。このご時世に、多くの人が抱えているであろうリアルな危機感を、バチガルピは遠慮なくずけずけと突きつけてきます。彼の短編「第六ポンプ」などを読むと、「ねじまき少女」のバンコクすら天国かと思えるほどグロテスクな、ダメダメすぎる未来風景にぞっとします。こういう下降未来観はバチガルピの芸風なんじゃろか。(「ねじまき少女」についてはキャラクターがみんなタフで、生きるためなら「殺すと思った時には実際に殺っちまっている」的なスタンスのせいか、それほど頽廃的な雰囲気はないですが。)

あと、些細なことながら、エミコの描写などにみられる日本観についての疑問がひとつ。ニューロマンサーやブレードランナーに似たトンデモ日本文化的な面白さが、もちろん「ねじまき少女」にもふくまれています。これはおそらく意図的なパロディだと思うのですが、問題は、トンデモ描写の対象が日本だけなのかどうかです。本作の場合、ほぼ全編がタイの描写であるため、日本描写が明らかにトンデモな感じだと、他のアジア描写の信憑性までちょっと疑わしく思えてきてしまうわけでして。

バチガルピ氏は大学で東アジア学と中国語を専攻し、中国に住んでいたこともあるそうです。でもだからといって、作品で素直に自然なアジア文化を描いてくれる保証はない。もしかしたら僕が気づかなかっただけで、「ねじまき少女」は全編トンデモタイパロディの嵐だったかもしれない。まあそんなことないらしいけど。
もし、タイと中国の描写に不自然さは皆無だとすると、それはそれで別の疑問がわいてきます。なんでわざわざ日本だけトンデモ風にしたの?っていう。やっぱりネタとしておいしいからかなあ。サイバーパンク的な意味で。


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山田風太郎「忍術…デタラメ結構」 直筆手紙見つかる
風太郎は甲賀忍法帖のタイトルをつけるときに「忍術帖」と「忍法帖」のどちらにするか、相当悩んだといいます。当時は「忍術」という語が一般的で、「忍法」は新語っぽい感覚だったらしい。今だとどっちも同じように使いふるされて感じるけど。今後、忍術でも忍法でもない新たな呼び名が生まれて広まることはありうるのだろうか。

「シカに注意」「クマに注意」あたりはわかるけど、流石つくばだわ……... on Twitpic
つくば市民は未来に生きておるな

Togetter - パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』感想について、上田早夕里先生によるtweet、リツイートを中心にまとめ。
ノワール的魅力を力説

防衛省が開発した「空飛ぶ球体」がすごいと話題に
完全に電脳コイルだこれ。

ガイギャックスとトールキン
D&D創始者のぶっちゃけトーク。指輪物語は好きじゃないのに表層的に指輪っぽくしたのはトールキン読者をとりこむためだったとか。なんて正直な。

もしトールキンが指輪物語を書かなかったらファンタジー文学はどうなっていたか
長編シリーズよりもこじんまりした作品が増えるのではないか。SFに従属する形になるのではないか。世界構築は重視されないのではないか。エピックファンタジーよりも剣と魔法もの(マッチョ剣士がヒャッハー的な?)が主流になるのではないか、等々。日本への影響はどうだろう。代わりにダンセイニ-ラヴクラフトの系統が大ブームになってたりして。

「鬼哭街」から「沙耶の唄」「魔法少女まどか☆マギカ」までミッチリ質問攻め! 虚淵玄氏&中央東口氏のロングインタビュー
虚淵玄というペンネームからしてキング作品にあやかってつけたほどのキング好きらしいんだけど、具体的にどこらへんに影響を受けてるんだろう。まだよくわからない。

レッツ乙嫁クッキング! 森薫と作るかんたんおいしい中央アジア料理
岸辺露伴タイプの人だ。「料理も作っておこう」「馬も乗っておこう」「解剖書もみておこう」
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by umi_urimasu | 2011-06-01 20:46 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
「友を選ばば」 荒山徹/「痩せゆく男」 S・キング/「大暗室」 江戸川乱歩/他
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一ヶ月分の感想文をまとめて。

友を選ばば (100周年書き下ろし)

荒山 徹 / 講談社


三銃士、柳生、クトゥルー神話というオタンチンな組み合わせで笑いをさそう中世冒険活劇。荒山先生あいかわらずですね。しかしあっさりすぎる語り口のせいか、僕は今ひとつ乗りきれませんでした。ケルト伝奇ネタも、自家薬籠中の朝鮮ものの濃さに比べると、若干表層的な印象。やはりヨーロッパが舞台だと、日朝史ほど自由には伝奇れないのでしょうか。いや、あきらめるのはまだ早い。徹ならやってくれるはず。待て、しかして希望せよ!
ちなみに、作中では謎の剣士ウィロウリビング(笑)が日本式の剣術をつかう明確な描写は見あたりません。ということは、普通に西洋剣術をつかっているのか。でもせっかくヨーロッパ柳生をやるなら、日本刀VS西洋剣ならではの立ち合いなども読んでみたいです。そのあたりもふくめて次に期待。


痩せゆく男 (文春文庫)

リチャード・バックマン / 文藝春秋


健康そのものだった大食漢がジプシーの呪いに冒され、どんどん痩せさらばえていく。いかにもキングらしい、シンプルでしつこい恐怖を堪能。ディテールに凝りまくったアメリカ東海岸の行楽地描写もすばらしい。
ところで、リチャード・バックマン名義で発表された本作には「スティーヴン・キングの小説みたいな云々」という会話場面がありましてな。ベストセラー作家としての名を伏せ、別人のふりをして小説を書きながら、そこにぬけぬけと自分の名前を登場させるとき、はたして作者はどんな心境だったのでしょうか。してやったりとほくそえんだか、あるいは覆面のはがれる日の近いことを予感して複雑な思いでいたのか。結局、本作がベストセラーになって追求をかわし切れなくなり、とうとうバックマンの正体はキングだと認めるにいたったのだそうです。まあ、そうと知っていて読むとけっこうバレバレな気もしますが。


大暗室 (創元推理文庫)

江戸川 乱歩 / 東京創元社


怪奇と幻想に毒々しく彩られた、二人の美青年による因縁の対決。連載時の挿絵と宣伝文句も併録されていて、戦前通俗小説の雰囲気にひたりながら読めるのがうれしい。宣伝文というのは、たとえばこんな感じです。
 「見よ! 待望の巨篇、流石は江戸川氏苦心の大作である。その構想の雄大なる、驚くべきこのプロローグ……。満を持したる矢はきつて放れたのである。新年号如何なる場面が飛び出すか? ゼヒ御期待下さい、お知友の江戸川フアンに御吹聴下さい。」
 「奥底知れない悪魔の魂胆! 奇怪! 戦慄! 全く意外だ、全く素晴しい! と『大暗室』は満天下破れるやうな人気です。作者も亦非常なる意気込です。次号更に御期待あれ。」
 「〈読者通信〉 可哀さうな真弓さんを助けろ! 今の彼女は、すでに生死の境界線に起つてゐるのだ、否むしろ死に近いといつていゝ位だ。有村青年何をしてゐるのだ。早く真弓さんを助けろ! 正義のために堂々と戦ひ進め! 超悪人間大曾根竜次を倒せ! 最後に江戸川先生の御熱筆を感謝します。」
このかび臭さがたまらないのだぜ。


忍びの卍 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

山田 風太郎 / 角川書店(角川グループパブリッシング)


神技すぎて脱毛した。これほど凄絶な結末を、なぜこうもさらりと書ける……。 そこそこ馴れたつもりになって、今さら忍法帖でそんなに感動することもあるまいと思っていました。甘かった。やっぱり山風は人類の規格外だ。


奴らは渇いている〈上〉 (扶桑社ミステリー)

ロバート・R. マキャモン / 扶桑社


初マキャモンです。大都会にはびこる吸血鬼どもを神様がこらしめてくださるよー。という、かなりあからさまにキリスト教っぽいお話。怖さもありがたさも、僕にはいまいちわかりかねました。ハリウッド映画然とした派手な見せ場やテンプレ通りのやられフラグなど、ベッタベタなホラー要素は「あるある」という感じで非常に楽しかったですが。個人的にはこれのお手本である「呪われた町」のほうが、派手さにたよらない重たい迫力を感じるので好き。


天冥の標 3 アウレーリア一統 (ハヤカワ文庫 JA)

小川 一水 / 早川書房


これが噂のハヤカワおちんちんランド。艦長がえろかわいい男の娘だったり、宇宙が舞台なのにやたら大時代的な騎士団がいたりといったラノベっぽい?設定に対して、律儀にひとつひとつSF的な説明を用意してくれるところが小川一水らしい、のかなあ。文体もややラノベ寄りなようです。ハヤカワ文庫でハートマークつきのセリフとか初めて見た。

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[画像] 子供たちにクトゥルー神話の怪物を描いてもらった
これはこれでけっこう怖いような気もする


華竜の宮 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

上田 早夕里 / 早川書房


まだ読みかけですが、手ごたえあり。自然災害につきものの人間同士の醜いいさかい、その仲裁に奔走する誠実な外交官、ドラマのころがし方は小川一水とかに似たものを感じる。ただし、この設定だとどうあがいても人類絶滅する。もうハローワールドなオチしか予想できない。こういう完全滅亡系のSF特有の寂しさって、なんか久しぶりに味わうな。
→ (4/4) 読了。登場人物がみんなやけに善人アピールの激しい、いい人ばかり出てくるような話は、いくら主義主張が立派でもあまり好みでないんですが、そんなことはこのスケールの壮大さとネタの膨大さの前ではもうどうでもよくなった。とにかくSFでお腹いっぱい。ツキソメのデータや擬似人間のことなど、重要そうなネタのわりにスルー気味の扱いになっていた部分を拾う方向で、できればもう一作お願いしたい。


「映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ 天使たち~」
見てまいりました。すごかった。泣かせ力が半端ねえ。やっぱリルルはええ子やなあ。

[画像] エオウィンの画像貼ってけ
ロヒアリムの乙女の、細づくりながら鋼の刃のように、美しいが凄絶なことよ。

スクライド10周年プロジェクト始動! スクライド オルタレイション
オリジナルに満足してる人が多くて、リメイクの要望はあまりなさそうな気がしてたので意外。カズマの声とか大丈夫なのかな。PVではちょっと無理してる感じ。

ファイアボール チャーミング
これだけは見たい今期アニメ。これがもし年単位でつづく長寿作品だったらどんなにか嬉しいだろう

『ペルソナ4』のTVアニメ化が決定! メインスタッフ&キャスト公開
ひゃっふ! ところでP5発売はまだかのうアトラスさんや。

Hobbitish - Worldwide illustrated Hobbit editions
「ホビットの冒険」の各国版表紙・挿画を紹介しているサイト。コミック版もあるの、初めて知った

[youtube] The Hobbit: Peter Jackson's First Video Blog from the Set
映画ホビットの10分におよぶメイキング映像。To be continued...となってるのでつづきが楽しみ

NHK 青春アドベンチャー : 『魔岩伝説』(全15回)
ウェーイ。荒山作品の他メディア展開は、これが初?

SBR完走!ジョジョ第8部「ジョジョリオン」は杜王町が舞台
ジャンプ誌上でジョジョの新章の導入を読むときの、子供心に味わうわくわく感は異常だったわい…… と懐古にひたりつつ、次は杜王町ものと聞いてまたウヒャホ! 三つ子の魂百まで。

故伊藤計劃さんの小説に特別賞 米P・K・ディック賞
そもそも翻訳されないことには読んですらもらえないわけで、ハイカソルの存在意義はすごく大きい。良質な日本製SFの海外輸出を、コンゴトモヨロシク

[youtube] サイバーパンク武侠片『鬼哭街』PV
これ見て久しぶりにヤザンボイスの網絡蟲毒さんを聴きたくなって家捜しするも、ドラマCD行方不明。しょんぼり。もうリメイク版買おうかな。
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by umi_urimasu | 2011-03-27 22:24 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
日本人はなぜクトゥルーを怖がらないのか
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ラヴクラフト全集 (1) (創元推理文庫 (523‐1))

H・P・ラヴクラフト / 東京創元社


最近、ちまちまとラヴクラフト全集を再読しているのですが、あらためて強く意識させられるのが、恐怖感についての日米文化の違いです。たとえばラブクラフトがさも自明のごとく使う「冒涜的」という表現の、いったい何がどう冒涜的なのか、まるでぴんとこないこと。また、クトゥルーや南極の〈古きもの〉がさほど怖いとも思えず、それどころか、むしろちょっとかわいいじゃん。などと愛着に近い感情すらおぼえてしまったりすること。こういった反応、恐怖の感じ方がひどく違うことについて、どこまでが個人の感性でどこまでが文化の差異によるものか、きちんと切り分けができたら面白かろうなあ、と思いながら読んでいます。

ラブクラフト作品での「冒涜的」という形容は、宗教上の教義と相容れないものごとだけでなく、普通でない、なじみがない、理解できない、ありえない、と語り手が感じる対象ことごとくに向かってつかわれます。キリスト教文化圏では、何を考えるにも常にキリスト教の神を超越者・絶対的存在としていちばん上に置くというものの見方が根底にあるから、それに合わないものにでくわすと、神の絶対性をおびやかす → 神をないがしろにしている → けしからん → 冒涜だ、となっちゃうんでしょうかね。

ラヴクラフトが描く恐怖の核心、いわゆる「宇宙的恐怖」は、キリスト教的なものの見方をベースにしているといわれます。それは、キリスト教の神が絶対ではなく、はるかに古い強大なものが他にいること、そいつらはもうアホらしくなるほど桁ちがいな存在で、人間など歯牙にもかけない、人類ごときには理解も想像もおよばないものだ、という認識によって喚起される怖さです。この神の絶対性の否定が、キリスト教的世界観になじんだ西洋人をいたく不安にさせるらしい。

ここが、僕には感覚的にどうしてもわからないところです。たぶん大方の日本人は、そこであんまり不安になったりはしないんじゃないかと。日本人の場合、神も仏も混ぜこぜに、かつあいまいに信じていて、絶対的な何かを世界観のよりどころにしていないからでしょうか。八百万の神がいるなら、その中にクトゥルーみたいなのがいたって別におかしくないし、「ああ、そういうどえらいのもいるんだ、そらすげえなあ」で済んでしまう。人智を超える強大な存在に対する恐怖はあっても、それは荒らぶる自然に対する畏怖と同じ性質のもので、崇めたり鎮めたりしつつ付き合っていくものだ、というふうにとらえるでしょう。

ともあれ、そうした文化的理由でクトゥルー神話を本来あるべきように怖く感じられないのだとしたら、やはりちょっと残念です。アメリカ人はほんとうに、日本人よりも怖さを感じているのだろうか。それとも「いや別に、全然怖くねーよ」という感覚なのか。アメリカ人に直接聞いてみないことにはどうにも。

ちなみに、魚介類を食べるのがあたりまえな島国文化圏の人からすると、アメリカ人のタコ嫌いというのは、それこそ冒涜的なまでに理解を絶する感覚ですね。まあ小説みたいにリアルで超巨大タコ人間に襲われたりしたら、どこの国の人だろうと発狂してしまうかもしれませんが。ラヴクラフト自身は知人宛ての書簡で、「海産物は説明できないほどのこのうえない激しさで嫌い」と書いています。なんぞ子供時代にトラウマになる経験でもしたんだろうか。

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[画像] カレッジ・ヒルをさまようもの Part I
ラブクラフトがありったけの愛着を込めて描写したプロヴィデンスの古い街並を、実際におとずれて撮影・紹介した写真のページ。HPL作品の舞台が、風景としていまいち想像しにくいとお困りの方はぜひ参考に。

「氷と炎の歌」第5巻 A DANCE WITH DRAGONS 刊行日発表
GRRM自身により7月12日とアナウンスされました。今度こそは本当に待ったなしの雰囲気。もう端役の登場人物とか完全に忘れてる…… そろそろ読み直すべきときか。

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バックマン・ブックス〈4〉死のロングウォーク (扶桑社ミステリー)

スティーヴン キング / 扶桑社


100人の少年が、どこまでも歩くだけ。ただし、歩くのをやめた子はその場で銃殺。生き残りたければ最後の一人になるまで歩きつづけるしかない。徐々に奇妙な友情のようなものでむすばれてゆく子供たちが、死の瞬間に見せる生々しい人間の姿が心をえぐります。この痛み、なんというか虚航船団的な痛み、久しぶりに味わったかも。そしてこんなにえげつない話なのに、少年たちがとばすくだらないジョークやなにげない天気の描写に、一種叙情的なものを感じてしまう。不思議な味わいでした。


[youtube] 映画ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団~はばたけ 天使たち~ 予告動画
大長編ドラで一番好きな原作だから見に行きたいけど、映画館でちびっ子にまじってアニメ見るのは恥ずかしい。レイトショーとかもなさそうだし。悩ましい

(03/13)
募金情報まとめ - 平成23年東北地方太平洋沖地震
おこづかいレベルの募金程度のことしかできぬ身ですが。

『鬼哭街』全年齢版としてリメイク決定
めでたやな

ピーター・ジャクソン監督「ホビット」ようやく撮影開始
二部構成というと、どこで二つに分けるんだろう。闇の森でクモと戦うあたりか

スティーブン・キング作品を原作とした映画のベスト5&ワースト5
ほとんど未見だった。キングの文章は具体的な映像をとてもイメージしやすくて、それで満足してしまうせいか、あまり切実に「映画で見たい」と感じない。
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by umi_urimasu | 2011-03-03 00:24 | 本(SF・ミステリ) | Comments(12)
「異星人の郷」 マイクル・フリン
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異星人の郷 上 (創元SF文庫)

マイクル・フリン / 東京創元社


異星人との交流を「徹底的に中世人の視点から」描く異色のファーストコンタクトSF。ゲームなどにありがちなナンチャッテ中世じゃない、リアル中世の暮らしってどんな感じなのか、SF分を補給しつつその雰囲気だけでも味わえたらと手にとった本が、まさかここまで完璧に期待通りの内容とは。うれしい誤算でした。

マイクル・フリンの紹介や著作歴についてはこちら。↓
嶋田洋一/マイクル・フリン『異星人の郷』訳者あとがき
作者の得意ジャンルはハードSFらしいのですが、「異星人の郷」ではそうした要素はひかえめで、中世ヨーロッパの科学観・宗教観や地道な異文化交流をこつこつ描き込むことに重きがおかれています。ぶっちゃけ、物語の結構としては非常にありきたりなもので、展開もひたすら地味です。

しかし、思うにその点こそがこの作品のいいところではないかと。中世を忠実に再現し、目新しいSFアイデアや派手なドラマを排したおかげで、「リアル中世人がもし宇宙人と出会ったらどう接したか」を当時の人々の日常感覚にすごく近いポジションで読めるようになってる、と思うので。彼らの言うことなすことには、現代人には理解しがたいところもあれば、まったく今と変わらないところもあります。ドラマ性が悪目立ちしないから、そういった差分がとてもはっきり見える。
そして、すべてをまたたく間に滅ぼしてゆくペストのむごさも、気のきいたうまいドラマなどないからこそ、日常性と地つづきの救いがたい絶望感をもって迫ってきます。題材的にウィリスの「ドゥームズデイ・ブック」などを思い起こさせる作品ですが、手法がちがえばこんなにも味わいが変わるんですね。

あと、個人的にたぶん一番おいしかった部分が、膨大な中世描写から受けるプチ・カルチャーショック。「え、これマジ? 中世ってほんとにこうだったの?」っていう小ネタの量がとんでもない。作者のあとがきによれば、「14世紀中期のラインラント地方の状況をできるだけ正確に描くようつとめた」「二つの例外を除いて、作中で言及した歴史的なできごとや人物はすべて実在のもの」とのこと。大きな歴史の動きだけでなく、村のもめごとを解決する裁判はどんなんだったとか、宴会のときに何を食べるか、騎士の叙勲式では何をするのか、冠婚葬祭のようすがどんなふうか、といった実生活のことまでほんとうに細かく書かれていて、一文一文が驚きの連続でした。この本だけで、自分の中の中世ヨーロッパのイメージがずいぶんゆたかになった気がします。中世知識がたまりつつ読み物としても面白いネタ本として、ぜひ本棚に常備しておきたい一品。

とまあ、個人的には大当たりな作品でしたが、万人におすすめとはいいがたいかもしれません。派手なアイデアSFが読みたい and/or 歴史にまったく興味ないという読者にはあんまり向かないかも。


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ここからキング話。
いま読んでいるのは「シャイニング」なんですが、その巻末の出版書籍一行紹介の欄をなにげなく眺めていたら、キングのラインナップが、紹介文からして面白すぎてですね。こんなのとか。
「季節はずれの山中の別荘。妻を緊縛してセックス遊戯にふけるはずだったジェラルドは急死、床に転がっている。バンザイの恰好で両手をベッドポストにつながれたまま取り残されたジェシーを、渇き、寒さ、妄想が襲う」
ジェラルドのゲーム (文春文庫): スティーヴン・キング
うむ。これはひどい。文春文庫のキングのラインナップはこんなんばっかりのようです。じつにひどくてよろしい。年代順に読むならそろそろ「スタンド」や「IT」にも挑戦すべき頃合いだけど、踏ん切りがつくまでこういう一冊ものを読み漁っておくのもありではないか。と思う今日このごろ。あ、ちなみにシャイニング巻末の解説は桜庭一樹でした。でも全然解説してなかった。

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ロシア人科学者による14万語におよぶ指輪物語の「モルドール視点バージョン」がファンの手で英訳公開
なんと、ようやるなあ。1999年に Eskov Kirill により書かれた「The Last Ring-Bearer」は、指輪物語における善悪の位置づけを反転させてモルドール/サウロン視点から語りなおした作品だそうです。英語版全文は こちら。とりあえずなんというか、乙。


シャイニング〈上〉 (文春文庫)

スティーヴン キング / 文藝春秋


読了。記憶にあるキューブリックの映画版とあまりにも印象がちがうんでびっくりしました。原作はこんなにヒューマンな、イイ話っぽい物語だったのか。
シャイニング (映画) - 原作との違い
いろんな意味で恐ろしい逸話集。ヒステリックな演技をさせるために女優を意図的にいじめたっていうのが(事実だとしたら)いちばん怖いっす。

京極堂「サザエ鬼?」タラヲ「です」
無駄に出来のいい京極夏彦パロディ二次創作小説。思わず全部読んでしまった。文体だけでなく民俗学的うんちくや推理=憑き物落としの流れまでしっかり作り込んであり、サザエさんネタを活かしたオチも見事。ストーリーはけっこう陰惨なので苦手な人は要注意です。


シャイニング 特別版 コンチネンタル・バージョン [DVD]

ワーナー・ホーム・ビデオ


小説がひきがねになって映画の方も久しぶりに見なおしてみました。ウームこわ美しい。キングからは「エンジンを積んでない豪華なキャデラック」と酷評されたそうですが、これはエンジンをとっぱらって美的インパクトを追求した観賞用キャデラックなのだと思えば。

[ニコニコ] 第6回MMD杯本選
あにょわ~

『SFが読みたい! 2011年版』「ベストSF2010」ランキング
「華竜の宮」は読んどこうかな。

質問: あなたが何度も読み返してしまうSF/FT/ホラー小説は?
バチガルピさんの回答はデューン、銀河市民、クリプトノミコンですって。なんでもアリアリな大河小説っぽいのが好きということであろうか。

[画像] ‘Snow monsters’ of Japan
クトゥルーちっく?美しくもどこか不気味な樹氷写真

Togetter - 「SFタイトルをラノベ調にしてみた まとめ」
「ゼロの伯爵」とか「モナリザオーバーラン!」とかそんな感じですか。

「スティーヴン・キングの魅力」:冲方丁さん & 白石朗さん
うぶちんは後期派らしい

Togetter - 「中つ国テーマパークで楽しい一日を!」
個人的にはアトラクションとかより、建物や道具の再現展示をメインとした野外博物館っぽいのがあったらいいなと妄想。明治村やリトルワールドみたいな方向性でしょうかね。

ショーン・タンの「The Lost Thing」 アカデミー賞受賞
おめっとさんでやんす。この評価を追い風に「The Arrival」も映像化されたりするとなおうれしい。
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by umi_urimasu | 2011-02-02 22:32 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
テッド・チャン インタビュー [2010.07] "On Writing"
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つい昨日、テッド・チャンの直近のものらしきインタビューが Boing Boing にアップされました。昨年の来日時のインタビューの翻訳 「 「地獄とは神の不在なり」を巡って」の倍近いボリュームがあるようです。以下、特に面白そうな中盤の部分を少しだけ個人的に日本語訳したものを載せてみようかと思いますが。時間と自由意志、最新作 "The Lifecycle of Software Objects" の動機について語っているあたりです。あと、日本での妙なチャン人気の理由とか。


あなたの作品の多くは未来予知に関係するものごとを扱っています。時間の性質の何があなたの心をとらえるのでしょうか?
自由意思の問題。タイムトラベルのすべての面白さの根本にあるのは自由意思だと僕は思っている。 僕のいうタイムトラベルには、未来から情報を受け取ることも含まれる。それは本質的にだれかが未来から旅してくるのと同等のことだから。タイムパラドックスを作り出せるというアイデアは、自由意思の存在を前提としている。複数の時系列をあつかうアイデアの場合であっても、どれをとるかの選択は行えるので自由意志の存在が前提となる。僕たちに自由意思はあるのかどうかという哲学的な議論は昔からあるが、通常それはやや抽象的なものだ。タイムトラベルや未来予知は、この問いをとても具体的にしてくれる。 もし未来に何が起こるか知ることができたとして、あなたはそれを避けることができるだろうか? たとえ「できない」という物語であっても、「できるはずだ」という気持ちからは感情的なインパクトが生じるんだ。

日本にはあなたのファンが多いようですが、なぜでしょう?
わからない。そうと知ったときはとても驚いた。おかげで、ある作品を他の作品よりも翻訳に適したものにする要素は何かということについて考えさせられた。特定の文化的なものの見方に深く根ざした物語を完全に理解するためには、その文化を熟知している必要がある。そういう物語はおそらくうまく翻訳できないんだと思う。僕の作品が哲学的なフィクションであるかぎり、それはアメリカ文化にあまり強く依存しないので、翻訳向きなんじゃないだろうか。これで日本語に翻訳された理由の説明にはなるかもしれない。こちらよりもあちらで人気がある理由の説明にはならないかもしれないが。米国ではグレッグ・イーガンの小説はほとんどが絶版なのに、日本では彼のことは神格化されているようだ。光栄にも僕の仕事をイーガンにたとえてくれる人々もいる。このことは、日本のSF読者がアメリカの読者ときわめて異なった嗜好をもっているという考えを裏付けてくれるだろう。

最新作 'The Lifecycle of Software Objects' を執筆した動機は?
主として、ほとんどのSFにおける人工知能の描かれ方への回答だ。SFでのAIは大抵、忠実で従順な執事として表現される。スイッチを入れれば電源が入ってすぐ命令をきく態勢になる。僕はそこにあるはずの、AIの創造に関する膨大な物語がごまかされてしまっているような気がする。これは人間の脳と同じほど賢いソフトウェアの技術的詳細のことじゃない。大半のSFは奇跡的なテクノロジーの進歩を前提としているけれど、それを説明する必要はない。ただ僕はAIに対して、このソフトウェアに人間の脳並みの賢さをもたせ、執事並みに役立つように育てることのできる誰かがいた、という二番目の奇跡が仮定されているように思う。
現在のコンピュータはいまだ新生児の脳の能力にさえ何光年も及ばない。もしそこにたどりつけたとしても、有能な執事に育てるにはまだ不十分だ。たとえばアーサー・C・クラークの2010年で、HAL9000が起動後に発した最初の言葉はたぶん「おはようございます、チャンドラー博士、授業をはじめてください」だった。これは新生児のセリフじゃない。 その下には、その単純な文章の基礎となった一生涯にわたる経験があるはずだ。その経験はどこからきたのか? もしそれがプログラムされる式のものなら、HALにはまったく授業など不要だったろうに。いったい彼はどうやって英語を学んだのか? 彼は授業のための準備をするということが何を意味するのかを、どのようにして知るのか? 人間を役に立つ使用人にするには何年もかかる。より有能な使用人が欲しければ、それだけ長い時間がかかる。 使いたいすべてのAIについて、それぞれ同じ過程を繰り返す必要はないかもしれない。ひとつのAIを一度訓練すれば、あとはコピーをつくるだけでいいかもしれない。でもやっぱりだれかが最初のひとつを育てなければならず、それは困難でじつに手間がかかるだろう。ほとんどのAI描写は、このステップが不要であるか、容易なものとみなすけれど、僕の考えるAIではこれを技術的な奇跡とは完全に別個の奇跡として仮定している。

その二つのAIの奇跡の実現可能性はどの程度ありうると思いますか?
実際問題としては、AIについてはかなり疑問視している。不可能ではないと思うけれど、きわめて困難で、なぜ皆がかかずらおうとするのかわからない。 今のGoogleはとてつもなく便利だが意識なんてもってないし、そんな方向に向かってもいない。もし50年前にだれかがgoogle並に便利なコンピュータをSF小説の中に出そうと試みたなら、それはある種の意識を持つものとして描かれただろう。でも今は、コンピュータは便利であるために意識をもつ必要などないということがわかっている。普通のソフトウェアで僕たちの目的には十分だ。 僕の予想ではこれはずっとそのままで、今までのソフトウェアは「覚醒」などなしにその利便性を高めていくと思う。
一方で、初歩的なAIソフトの一形態で驚くほどの人気があるのがバーチャルペットだ。「シムズ」が史上最高のベストセラーPCゲームになるとだれが予測したろう? ソフトウェアとの感情的な関係は人々を強く惹きつけるものだということがわかった。だから、意識をもつソフトウェアを進歩させる最もありそうな理由は、便利さよりもその楽しさからではないかと思う。それは実際に意識をもつソフトが、意識をもつ生物のふりをするだけのソフトよりも「楽しいかどうか」のみにかかっているだろう。もしそうなら、次には本当に人々が時間をかけて役に立つAIを訓練しようという気になるかもしれない。


…とりあえず訳したのはここまで。これでも全体からすればほんのわずかです。このあとさらにAIの身体性についての突っ込んだトークがつづくのですが。自分が読めればまあいいかという程度の志の低さゆえ、ヘボ訳なのはご容赦。問題なしだといいんですけど。

(追記)
テッド・チャン・インタビュー 前編 - P.E.S.
テッド・チャン・インタビュー 後編 - P.E.S.
ありがたいことに残りの部分を訳してくれる方登場。お疲れ様でございます。

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「ジェイクをさがして」 (ハヤカワ文庫SF): チャイナ ミエヴィル
日本版の表紙どえりゃーかっこいいがね。絵師はペルディードストリートステーションと同じく鈴木康士氏。
今週の本棚:若島正・評 『ジェイクをさがして』 チャイナ・ミエヴィル著
書評を読んでさらに買いたい度アップ

[ニコニコ] 動画検索 第5回MMD杯予選
回を追うごとに大規模になっていくお祭り。また全部見切れない予感

[ニコニコ] 【第5回MMD杯予選】 BLUE SKY
なんかすごいPVが上がってた。これもMMDなのか

シグルイのススメ
覚悟+シグルイな豪快すぎるネタ漫画。混ぜるな螺旋!ぎゃばらば

[画像] Shorpy Historic Photo Archive
19世紀末~20世紀初頭アメリカの風物を撮影した歴史的な写真を大量に集めているサイト。かなりの高解像度で、芸術的、資料的価値も高そうなもの多数。見てると時間がふっとびます。これのヨーロッパ版がどこかにないものか。
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by umi_urimasu | 2010-07-23 21:48 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
時代小説、SF、ボーイズラブ、大食死 あとゾンビ
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ちかごろ読んだ本の話。

薄桜記 (新潮文庫)

五味 康祐 / 新潮社


赤穂浪士の討ち入りの陰で、心ならずも敵対する二人の剣士の友情と破滅を描く五味康祐代表作のひとつ。やっぱ五味作品はいいなあ。泣けるし燃えるし笑えるし。隻腕の剣士・丹下典膳、もうありえんぐらいカッコイイです。読んでいるあいだ、僕の脳内典膳イメージは完全に市川雷蔵になってました。で、いま検索してみたら1959年に雷蔵主演で映画化されているというではないですか。ぐぶあ!俺歓喜。落ちつけ。とりあえずレンタル探してこよう。見て気に入ったら、あらためて買い求めよう。

ちなみに文庫新装版の巻末解説は荒山徹です。以前購入時にもちょっと触れたけど、いつも以上にひど……もとい、五味愛あふれる楽しい解説文となっています。だってしょうがないじゃない。徹だし。

この作品の後半で、五味康祐はストーリーを一時中断させ、かなりの分量を割いて、赤穂事件当時の文献の記述をもとに、いわゆる「忠臣蔵」の美談的イメージを排除した吉良上野介や赤穂浪士たちの実像についての考察を披露しています。しっとりと美しく統一された人情劇の中で、このパートは正直かなり浮いてみえます。「これさえなければ最高傑作だったのに」という批判もあるかもしれません。でも、個人的にはこういう横暴(?)な構成はわりと嫌いじゃない。なんでかよくわからんけど。どうもこの「我慢できなくてつい言いたい放題言っちゃった」っぽい感じがですね。大人げなくもかわいげがあるというか、妙な親しみをおぼえるというか。史実と虚構の差異をいじくりまわしてネタ扱いせずにはいられないという、伝奇脳な人種の同族意識みたいなもんでしょうかな。


魚舟・獣舟 (光文社文庫)

上田 早夕里 / 光文社


さまざまな形の「執着心」(が、通じないSF的な事態)を描いた話が多く収められた中短編集。SFとして表題作の世評が高いのは納得です。ただ、僕には「くさびらの道」の方がインパクトでかかったかも。感染すると体が茸に侵食されて死に至る奇病の蔓延により壊滅しつつある日本。その新種の茸は、ヒトの脳に作用する化学物質を出し、家族や恋人を理想化した幻覚を見せ、誘いよせた人間を新たな苗床に……。なんちゅうおぞましい設定。さぶいぼががが。
「魚舟・獣舟」は陸地の大半が水没し、遺伝子操作により生まれた双子は必ず片方が人間に、片方が魚舟になるという未来の物語。設定はやや無理すぎな気もするけど、元・人類な存在とのディスコミュニケーションを描いて人間の定義をゆさぶる系の話はSFの定番で、定番のおいしさ。あと、この短さにこれだけのものを詰めてあるコンパクトネスがすごいと思います。むしろSFよりそっちの技の方が驚き。


月光のイドラ

野阿 梓 / 中央公論社


「バベルの薫り」からSF分と女っ気を抜いて、美少年同士の耽美Hと政治サスペンスに特化したような作品。たぶん、いわゆるボーイズラブ小説の区分に入れてよかろうと思います。しかし意外にも、バベルのときにあれほど笑い転げまくった熱狂が嘘のようにさばさばと読み流してしまった。少なくとも半分の要素はバベルとかぶっているにもかかわらず。やっぱり僕はただのBLには興味ない人間なのかな。エロい描写にしても、バベルの鍼術秘孔レズとか黄泉戸喫ふたなりとかいった変態プレイに比べればてんでノーマル。もはやこの程度では飽き足らぬ。もっともっとむちゃくちゃな野阿作品求む。


あと千回の晩飯 (朝日文庫)

山田 風太郎 / 朝日新聞社


日常、人生、そして独特の闊達な死生観を飄々と語る山風晩年のエッセイ。やはり面白いのは、古今の著名人の死にざまの話ですね。壮絶なのが正岡子規。なんでも余命一年もない重病人にありえざる超大食だったとか。夕食にいわし十八匹とか間食に菓子パン十個とか、文字通り「桁がちがう」メニュー。その鬼気迫る再生への執念をして「やはり子規は一種の魔人であった」と山風は嘆じています。んー。我々凡人から見たら山風先生も娯楽作家として十分魔人レベルですよ。

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グレッグ・イーガン Zendegi - JGeek Log
こんなふうに英語の小説をさくさく読めるようにわしもなりたい。ぼちぼち訓練しよう……指輪と七王国で。ちなみに zendegi はイラン語で「人生」とかそんな意味らしい。読み方は「ゼンデギ」?

筒井康隆「銀齢の果て」映画化 - 笑犬楼大通り 偽文士日碌
お年寄り惨殺シーン特盛りな作品なのですが、やるならR-15指定か。


WORLD WAR Z

マックス・ブルックス / 文藝春秋


マックス・ブルックス 「WORLD WAR Z」にとりかかってみました。おお。噂は本当だった。生理的に怖がらせることを主眼とした普通のホラーじゃなく、パンデミックSFに近いテイストだ。たぶん人生で初めて、「ゾンビものってちょっといいかも」と思えてきた。新しい扉を開きかけてる感がある。期待しつつ先を読みます。
→ やばいおもろい。戦後インタビュー集という形式のメリットが活用されまくってる。世界のゾンビ状況がじわじわ見えてきた。イランとパキスタンは核で消滅。ロシア連邦がいつのまにか神聖ロシア帝国に。日本はどうなってるんだろう。
→ つづき。「世界をめぐり、さらに上空へ」の視点拡大がすばらしすぎる。国際宇宙ステーションから地上のゾンビ群を観測! 原潜ネタはもしかしたら「復活の日」へのオマージュかな。微妙にとんちんかんな日本描写も、いかにも米製エンタメのお約束という感じでほほえましい。
いやあ、ゾンビっていいもんですねえ。
→ 読了。まさに飢えたゾンビのごとくむさぼり読み尽くす。そしてひとりの新たなゾンビファンが誕生した。
ホラー映画はまだ怖い。映像的なグロにはかなり抵抗ある。でも小説なら大丈夫。どこかに「SF好きなゾンビ初心者におすすめのゾンビ小説○冊」というピンポイントな紹介記事などはないもんでしょうか。


SF作家ジェイムズ・P・ホーガン 逝去|お知らせ|東京創元社
ゴッドスピード。もう重鎮の訃報が毎年恒例みたいになってきています
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by umi_urimasu | 2010-07-04 12:31 | 本(SF・ミステリ) | Comments(5)
一生に一度は行ってみたい空想都市
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昔から「幻想都市」というものが妙に好きです。現実世界の都市はすみずみまで合理的にできていて、おおむね「なるべくしてそうなった」形態になってるんですが、幻想の都市にはそうした制約がありません。だから現実の街にはない奇妙なところが多分にあってもかまわない。むしろ奇妙であればあるほどおいしい。ただし空想的なら何をやってもよいというわけではなくて、わざとらしさが過ぎてもいけません。現実にはありえない、それでいて実際に住めそうな現実味があること。魅惑的な幻想都市とは、そんな一見相反する条件をクリアし、なおかつ目に美しい景観をもそなえているのが望ましいであろう。と勝手に思っています。
ビジュアルイメージとしては、まあたとえばこんな感じのとか。
The Rock City by Sergey Skachkov
Perdido St Station by Alberto Gordillo
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12.jpg

2chのSF板だとこんなスレがありました。
一生に一度は行ってみたい空想都市
ラピュタ、ゴーメンガースト城、タネローン、ダイアスパー、コニシポリス、順列都市、広くとらえてファンタージエンやナルニアなどなど、いろんな例が挙げられていました。生身では行けないところや一度行ったら帰ってこられないところもありますが。オンブリアなんかはヨーロッパの古都や城塞都市系が好物な人間にはたまらないものがありましょう。

上で挙がってなかったところで思いつくものを挙げてみると、中つ国の定番でミナスティリス。ギブスンの千葉シティ、橋三部作のベイブリッジ。電脳空間もありなら「スノウ・クラッシュ」に出てくるメタバース内のストリート。クトゥルーなら「狂気の山脈にて」の南極の巨大廃都とか無名都市とか。
幻想小説の方では、僕はあんまり詳しくないですが、山尾悠子だったら「夢の棲む街」みたいな。ゲームの舞台まで含めれば、「ICO」の廃城も行ってみたい場所です。写真撮りに。

a0030177_20114556.jpgそして最近読んだ小説でたまげたのが、チャイナ・ミエヴィル「ペルディード・ストリート・ステーション」。鈍器にもなりそうな分厚い本の中身の大半が、ストーリーそっちのけで架空都市〈ニュー・クロブゾン〉のディテール描写についやされているという、ほとんど空想の街への執着だけでできちゃったみたいな作品でした。あらすじ的には他愛のない冒険譚だけど、街の描きこみが正気じゃないレベル。じつはここしばらくこのブログの更新が滞っていたのも、必死こいてこの本を読んでいたからなのです。いやはや。くたびれましたわ。

a0030177_20155497.jpgあと、洋書の絵本で大好きな一品として、オーストラリアのイラストレーター Shaun Tan(ショーン・タン?)の「The Arrival」も挙げておきたい。
これはマジで神絵本。
作者のHPでサンプルが見られます。 Picture books - The Arrival
ご覧になったことのない方はぜひ。

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「からん」の高瀬雅に見る「シグルイ」流れ星理論の話
雅のあまりに計算づくな「腹黒的いい人」ぶりには常々危ういものを感じていましたが、どうやら第5巻あたりで(満を持して?)問題が表面化しそうな気配らしいです。楽しみだ。盛大に炎上し、しかるのちまるく収まってほしい。

「マルドゥック・スクランブル」新情報解禁トークショー - GIGAZINE
[youtube] マルドゥック・スクランブル 予告編
陰影のきつい映像。ちょっと川尻善昭チックかも。「圧縮」とあるのでアニメも三部作構成なのかな

a0030177_2082559.jpg「製鉄天使」 桜庭一樹
ひとことでいうと、劣化赤朽葉? 「赤朽葉家の伝説」の不良少女パートのさらに一部分を、大筋はそのままにキャラ名だけ変えて、よりコミカル、ファンシーなタッチで仕立て直したもの。でもプロットがほぼまんまなのでインパクト全然ないです。マンガ的な描写でマンガ的な世界を作ってる感じの文章はまあ面白かったけど。あまりガチな期待をしないで、赤朽葉のセルフパロディ的なネタ作品と思って読むが吉ではないかと。

Ted Chiang, The Lifecycle of Software Objects
キターーー! テッドチャンの作品としては過去最大のボリュームという新作。めちゃ面白そう。 Subterranean Press から7月発売予定

SFマガジン2010年5月号をぱらぱら流し見。マルドゥック新長編のタイトルは「マルドゥック・アノニマス」ですと。えー。もしかして名もなきキャラの話なんだろか。
津原泰水氏は生まれつき目がお悪い、という話は初めて知りました。味覚や嗅覚方面の喚起力がやたら鋭いあの文章にそんな理由があったとは……

「はヤぶさ」に知能?「さむい」「なう」とつぶやく
まあ確かにかわいいが。そして大気圏突入時の「あつい」「なう」で号泣と

あいうえお順「元号・西暦対応年表(江戸時代編)」 - 平民新聞
世の歴史小説好きたちのためにと親切な方がつくってくれました。ありがたや。

上田文人氏、『ICO』のPS3移植や映画版『ワンダと巨像』についてコメント
移植については「興味がある」と発言。トリコの反響次第ではもしかしたら?
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by umi_urimasu | 2010-03-25 22:01 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
「年間日本SF傑作選 超弦領域」/他
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最近読んだ本など。

a0030177_20555742.jpg「年間日本SF傑作選 超弦領域」 大森望・日下三蔵編
科学、幻想、ホラー、忍法帖、短歌、漫画、伝記など、いろんなジャンルが節操なくつめこまれたゴタまぜ感の強いアンソロジー。知らない作家・作品との思いがけない出会いが期待できるという意味では、こういう本が定期的に出るのはとてもありがたいです。でも収録作からお気に入りをピックアップしてみると伊藤計劃、円上塔、津原泰水、小川一水と、普段の自分の好みの範囲内から結局一歩も出てなくてしょぼん。


a0030177_20561151.jpg「徳川家康 トクチョンカガン」(上・下) 荒山徹
荒山徹による「影武者徳川家康」の本歌取り。先達の偉業を手あたりしだいにファックしまくるこの愛深き蛮行がいつまで許されるかわかりませんが、いちファンとしては彼のやりたいようにやってほしいと思うばかりです。ただし、今回はすでに細部まで隙なく組み立てられた先行作品があるためか、読む側からしてみるとどうも窮屈な感じでした。隆慶解釈へのカウンターとして、どうしても妥当性とかを比べてしまう。すると純粋にホラ話として楽しみにくくなる。いっそのこと影武者はじつは十人ぐらいいたとか、二郎三郎その人が朝鮮妖術師だったとか、大坂城にゴモラが出現とか、比べようがないほどむちゃくちゃな話にしてくれた方が僕にとってはよかったかもしれない。まあそれだといつもの荒山徹と何も変わらんけど。


a0030177_20564222.jpg「からん」 木村紺
最近の注目漫画。第1巻の冒頭で人物を大量に登場させ、誰が何者なのかわざと把握しきれなくしてしまうことで、入学卒業シーズンの学校に特有のあわただしさ、誰もがとぎすまそうとする人の第一印象に対する鋭敏さ、みたいなものまであらわしていそうなのを見て、「こやつできる!」とにらみました。スポーツ漫画としての足場を固めていきつつも、そこにはたらく女子校的な政治力学をほの見える程度に見せるさじ加減も絶妙。絵もうまいし、京都弁のセリフまわしも新鮮です。大切に追いかけていきたい作品。

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オンライン書店ビーケーワン:竹島御免状
新刊は久しぶりに朝鮮妖術×裏柳生で荒山先生大暴れだそうでござる。期待大。

「ペルディード・ストリート・ステーション」 チャイナ・ミエヴィル
ダークスチームパンクファンタジーアドベンチャー?よくわからんがそそられる。そのうちトライしてみる

海外版『人喰いの大鷲トリコ』発売日予想?
今年の11月ごろではないかという説が。発売を急ぐよりも十分に時間をかけて完成度を高めてくれるほうが嬉しいけど、一日も早くやりたいという気持ちも強い。待ち遠しいなあ

ハーラン・エリスンに「ドゥームズデイ・ブック」の宣伝文を頼んだらこんな返事が来たんだけどどうしたらいいの
「オレの意図とちがう意味に変更したら先祖もろともブチ殺してやる」といいつつ、ものすごく微妙なスペリング。(resistable は大昔の用法で、現代英語では普通 resistible を使うらしい)。これは悩むわ。引用がらみの裁判沙汰については数々の伝説をもつエリスンならではのネタでした。

[画像] 魔法使い出没注意
ガンダルフ印の道路標識。この道路はほかでもない、闇の森を通るその道なのです。

[ニコニコ] 【MMD】F.S.S.3D化計画 その3 ~踊る破裂の人形~
みんな大好きバングドール

氷と炎の歌 TVドラマシリーズ制作公式決定
めでたい
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by umi_urimasu | 2010-02-25 21:17 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
「ユダヤ警官同盟」 マイケル・シェイボン
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a0030177_18501327.jpga0030177_18501996.jpgヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、堂々のトリプルクラウンなのにどこが面白いのかさっぱりわからない。一応自分ではSF好きなつもりでしたが、この良さがわからないのはちょっと悔やしい。もともとユダヤ人問題への関心も知識もろくにないのだからそこを突いた作品の勘どころがつかめないのは無理ないかな、という気もしますが、我ながら言い訳くさい。現代人の心得としても、そんなような社会問題への無関心は誉められた態度じゃないんでしょうけれども。
とりあえず、ユダヤ人の宗教と文化についてある程度の理解がないとけっこう手強いしろものだ、ということは認めるしかない。あとジャンルSF的な要素は期待しちゃダメだった。だてに新潮文庫から出てないわ。

イスラエルが存在しない代わりにアラスカにユダヤ人居住区があるというだけの地味な歴史改変もので、実際にはSF分はからっきしといってもいいくらい。それでいて三大SF賞を総なめ。いったいどこがそんなに評価されているのか、賞の選評とか読んでないので推測するしかないのですが、おそらくユダヤ人のみならず民族問題というものは、海外の方では誰でも肌でわかってしまうぐらい自明かつ普遍的かつ重大なテーマであって、その扱い方がうまいので受けている、ということかと思います。
訳者あとがきの指摘にもあるように、作品の結末では「ユダヤ人は領土国家を目指すのではなく、流浪の体験から得た民族と文化を横断する力をアイデンティティーの柱とすべきだ」みたいな考え方が提示されています。ふむふむ。実際にそうすべきかどうかは僕には判断しかねる問題だし、有史以来国土を脅かされた経験がほとんどない日本人一般にとっても民族的アイデンティティについてシリアスに考える機会などあんまりないし、そういう主張をぶつけられてもとっさには「はあ、どうぞ」ぐらいの超他人事な反応しかできないかもしれません。でも多民族国家のアメリカとかでは、やっぱりこういうことは問題意識としてすごく切実なものなのでしょう。たぶん。ちっともSF気のない小説がSF三冠賞をとってしまうぐらいには。

話の基本フォーマットはハードボイルド刑事もので、僕にとってはこれは思いのほか高いハードルだったようです。無謀な捜査、銃撃戦、拉致監禁されてもすぐ救出、というダイハードまがいの展開になじめず、そもそもこの話ってそんな適当な主人公補正まるだしの活劇に全然ふさわしくないんじゃないの?などと粗探しっぽい思考に流れてしまう。読者としてそっちの素養がまるでないことがよくない風に作用したか。こういうのはある程度、読み手側の慣れの問題なのかもしれない。ミステリとして不本意な不発を食らってしまったのも、慣れの問題だったかもしれない。チェスを知らないのでいい加減に読み流してしまったむくいか、ミステリのオチ部分の意味が結局わからないままなのです。なんでツークツワンクって判明しただけで犯人特定できるの?そんな伏線あったっけ。

でもまあ、こうしてぐちゃぐちゃ言いながらも上下巻を読了できたということは、自分で思ってるほどには苦手な本じゃなかったのかな。少なくとも、どんな発想力で思いつくのかと呆れるような奇抜な比喩がぽんぽん出てくるので文章だけは終始退屈しませんでした。翻訳だとすわりがわるく感じることもあるけど、ネイティブならもっと自然に文章メチャウマだと思えたかも。

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民俗学や神話に興味ある奴まったりと語り合おうず
> インドでは「リンガであるシヴァ神を冒涜している」という理由でバイブ禁止
ほんまかいな。恐るべしヒンズー教のポリティカルパワー

冲方丁の人気SF小説「マルドゥック・スクランブル」の劇場アニメ化が決定
よかったよかった。今度は制作途中でコケませんように。ベルウィング婆は超かっこよく描写してもらいたいな。

[画像] ダカール・ラリー 2010 - The Big Picture
道なき道ってレベルじゃない。まさに地球がレーシングコース。走る方も見物する方も命がけのよう。

ブランドン・サンダースン、「ミストボーン」三部作の映画化に合意
これで日本での全翻訳フラグが立ったっぽい。積んでるけど読んでみようかな。どうしようかな……
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by umi_urimasu | 2010-01-07 21:16 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
「あなたのための物語」 長谷敏司
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a0030177_22494782.jpg読み心地は「めちゃくちゃ鬱入ったイーガン」。
死病に侵された孤独な女性研究者の苦痛と恐怖と怨嗟にまみれた、意識と死についての思索小説です。信仰や感傷といった逃げ場を完全に封じた、むきだしの「死」の無意味さを突きつけられるため、自分にひきつけて読むと猛烈に気がめいる。しかし同時に、そのストレスに釣りあうだけの知的興奮も味わえる。恐ろしくへヴィな作品でした。

あまりにも気分が凹む話なので、僕の頭にもITP制御部がついてて感情コントロールができたらいいのにとすら思いましたが、もちろんそんなことはできません。そこで原始的な代替手段として、できるだけおバカなギャグ作品でも鑑賞してみようということになった。んで、「ニニンがシノブ伝」を久しぶりに見てしまいましたよ。すごい!効果てきめん!おかげでかろうじて精神的健康が保たれた。う~んおっぱい。

読後、ひっかかってる疑問がひとつあります。
作品最大の泣かせポイントともいえる、wanna be の自殺がもたらす感動の正体がいったい何なのか、どうもよくわからないんですね。作中で明記されてたように、生粋のITP擬似人格は肉体をもたないため、「恋愛をしてひとりであることをやめることは個体を失うことと同義」です。つまり、恋イコール死。そのうえ、wanna be にとってはサマンサという唯一の読者が世界のすべてであり、恋愛対象もサマンサ以外になく、そして彼のアイデンティティは道具として彼女の「お役に立つ」こと。ゆえに、じつはサマンサがどうなろうが wanna be に「彼女のために死ぬ」以外の行動はとりえない。それが何か尊い心性の発露のようにみえるのはただの錯覚だし、サマンサの感傷も欺瞞でしかない。彼女自身もそんなことは承知してる。ただしそれでも、死がしあわせなものでありうるという幻想を与えて彼女から「ことばと意味を奪い」、死を待つ時間のうちのいくらかを物語に逃げて過ごさせたのは、確かに wanna be の自己犠牲のおかげであって。
うーん。やっぱりわからん。wanna be の死はあまりにも理にかないすぎてる。身もフタもない言い方をするなら「そうなるように設計された道具だったから」死んだだけでしょう。なのに感動した。ありゃなんだったんだ。

あと、帯の惹句には「イーガン、チャンを経由し伊藤計劃に肉薄する」とあるのですが、むしろこれはイーガン的な問題にとりかかる手前で「死」という絶対的な障壁をぶっ立ててるプレ・イーガン的な位置づけの作品ではないかと思います。人格がデータ化できても死そのものへの恐怖や怒りやなんやかやはどうせ克服できないよ、っていうのが結論ぽいし。いつもイーガンが描いてるのはそこを特異点として避けた先じゃなかったっけ。

(追記)
昨日のひっかかりは、「愛着ある道具を失う」と「恋人が死ぬ」を等価とみなすことへの心理的抵抗だったんじゃないのかなあ、と思いはじめました。これが「虚航船団」だったら、ごく自然にうけいれられるんですよ。虚構性が強いから、かえって思い切りよく感情移入できる。ディズニーとかもたぶん同じ理由でいける。でもこの作品ではひっかかってしまった。ITP人格が、完全に道具でありながらかぎりなく人間に近く、しかも適度にリアリスティックな存在である、そのリアリティのせいで「リアルで死なれてほんとにこうなるの?」と戸惑いをおぼえてしまったのではなかろうか。などとさかしげに自己分析してみた。
長谷敏司『あなたのための物語』 - logical cypher scape
少しネットで探してみたら、こちらのレビューでぽろっと「亜人間の生と自由の問題」について指摘されてました。あのへんが気になったのは僕だけじゃないんだろうと思っておこう。

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美少女と金について1日2時間は考える - 高遠るいDIARY
> やっぱり美少女には軽度のお色気が何よりも求められていて、怪獣とか全裸とか重傷とかじゃないんだってことが身に沁みた
プロの娯楽漫画家が今ごろ何をいっとるんじゃという感じですが、今ごろそんなこと言ってるようだからこそミカるんやシンシア・ザ・ミッションみたいな作品が描けるのだとも考えられる。できれば今のままでいてほしいかも。

[画像] 民俗学っぽい画像をダラダラ貼っていってみる
魅惑の妖異空間。遠野物語、読んでみたいなあ。

コニー・ウィリス インタビュー - 12/21/2009
Blackout と All-clear についてのチョイ話など。昔、初めての作家会議でジョージ・R・R・マーティンに「今このときにSF界に入ってくるとは気の毒な……もう死にかけのジャンルだよ」とかいわれたらしい。ここでは景気のいいこと言ってるけど。まあこの人たちはジャンルがどれだけ斜陽でも自分は超絶技巧でどうとでもしのげるから余裕こいててもよさそう。

↓ ハーモニーの英語版書影。女の子型ハザードマークみたいなのはいいセンスだと思う。
a0030177_1422775.jpg
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by umi_urimasu | 2009-12-23 22:57 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)