戦国時代を舞台に流れ者の用心棒と孤児の少年との交流を描いた本格時代劇アクション。手描きのすごいアニメということで評判がよさそうだったので、どれどれと見てみました。確かにすごかった。剣戟が。ストーリーやキャラクターは時代劇の定型文をおとなしく守っていて、こちらも「はいはい時代劇時代劇」という態度で見ていくのですが、バトルシーンになったとたん、動きに対する入れ込みぐあいが音を立てて変わります。「これがやりたかったんだろうなあ」というのがほんとによくわかる。めんどくさい抽象的観念的な議論とかいらんからチャンバラアニメのかっこよさを満喫させれ!という動物的な欲求を存分に満たしてくれる作品でした。
でもこういうのは、技術的な質の高さのわりには地味に見えてしまうので商業的にはあまり受けなさそう。 監督は安藤真裕。劇場版カウボーイビバップでタワーの格闘シーンとかを描いてた人だそうです。あー、あのすげー痛そうな……。ああいうものを見るとつくづく、アニメーターってすごいもんだなあと思います。ビバップのモップカンフーとか回し蹴りとか、今でも印象に残ってる。ああいう動きはいったいどうやって描くんだろう。実際に人間がそれらしく演技したものを撮影した映像からコマ送りで絵に写していく、とかならまだわかるけど、それじゃあ全然あんな「アニメの動き」にはならない気がするし。何か素人には想像もつかない謎の技術、そのとほうもない熟練によって、白紙の状態から描き出されているとしか思えない。不思議。 ストーリーについては、よくいえば王道で安心、悪くいえばありきたりです。とある理由で中国から来た暗殺者集団に追われる少年を、とある理由で不殺の誓いをたてたイケメン牢人が助け、だんだん二人のあいだに友情が芽ばえていき……というもの。乗馬の練習とか、連れションしたりとか、ほのぼのとした生活場面が丁寧に描写されているのがいいです。少年の愛犬の存在をクッションにしてへらず口を叩きあいつつ仲よくなっていくのも、オーソドックスながらうまい手口。斬新さはないけど、こういう丁寧さは好きですね。ここらへんの印象が強いおかげで、後々、刀をしばってある紐をついに切るシーンがうまく感情的なクライマックスのきっかけになりえていた気がします。あそこは絵的な勢いもいっしょになって、ぐっとくるところでした。 ただし、二人と一匹のほほえましい友情がメインテーマとはいえ、そこ以外はむしろ非情にすぎるほど戦国時代的リアリズムを優先させた話づくりがされていて、結果だけみるとかなり血なまぐさいことになってます。スカッと爽快に終わってみたものの、振り返れば死屍累々。現代の常識ではなく、あくまで乱世における大団円として見るのがふさわしい話だったかも。 アクション的に最大の見せ場は、やはり名無しVS羅狼の櫓上でのアクロバット対決でしょうか。身をひねりざまに剣を回転させて斬撃をはなつ、あのスピード感、重みをのせて剣を“振ってる”感がすごい。実写時代劇での黒澤明のような適度に泥くさい殺陣も、勝新座頭市や雷蔵の眠狂四郎のような様式美的な殺陣も、それぞれに好きですが、これはこれでまた別腹というか。アニメならではのスタイリッシュネスを愛でたい。 僕は近頃とんとアニメを見なくなってしまいましたが、映画なら長くても一発2時間ぐらいなので、気が向いたときにこうしてなんとか手が出せています。TVシリーズだとこうはいかない。トータル数十時間という尺の長さに一定のペースを維持してつきあうだけの根気が、もう枯れてしまったらしい。ターンエーのTV版、カレイドスター、それにスクライドとリヴァイアスあたりは、できればもう一度じっくり見直してみたい作品なんですが。いつかいつかと思いながら、結局今年も何もできなかったなあ。 おまけ。関連リンクをいくつか。 『ストレンヂア 無皇刃譚』 安藤真裕監督インタビュー 『ストレンヂア 無皇刃譚』のDVDが好評発売中!安藤真裕監督インタビュー YouTube - ストレンヂア作画集 ───── 曹操の墓キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ッ!! - 枕流亭ブログ まだ本物かどうか断定はできないかもしれない、らしいですが。真贋はともかく、頭蓋骨から曹操(仮)の顔の復元はやってみてほしい。 ここから2010年: まうすまうす。かしこみかしこみいんすまうす。例年にもましてぐうたらな正月を満喫いたしておりました。今年もここは今まで同様ぼちぼちいく所存でございます。そして今年こそは氷と炎の歌の第5部が出てほしい。出ますよね。さすがに。あと廃園の天使の続編も。待ち遠しおすなあ。 [画像] 1910~1950年代にかけてのジプシーたちの写真 ここここ光速で保存した
by umi_urimasu
| 2009-12-29 15:21
| 映画
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