やっぱすげえええええ!翻訳で読んであらためて感動。美しいです。ほんとに、テッド・チャンはテッド・チャンにしか書けない小説しか書かないな。
内容に触れている人をあまり見かけなかったので、ちょっと詳しく紹介してみます。慎重に書いたつもりですが微妙にネタバレかもしれません。一応ご注意ください。 「息吹」 (原題: Exhalation)あらすじはこんな感じ。機械世界の牧歌的な生活がかもし出す寓話的な雰囲気、脳解剖シーンの機械曼荼羅的なイメージ、そして残された切なる祈り。たった13ページでこれだけ揺さぶられる作品も稀ですね。 作品のテーマは、いってみれば「存在賛歌」でしょうか。「宇宙は滅ぶ。しかし君よ嘆くなかれ。なぜならここにいた我々の存在自体がすでに奇跡なのだから」みたいな。 この物語の中で、宇宙の滅亡はあまりにも当然の原因からくる当然の結果として訪れます。「孤立閉鎖系においてエントロピーは増大の一途をたどり、やがて平衡状態に達する」というあの法則によって。空気の気圧差を活動源とする機械人たちにとって、密閉された世界から出ることもかなわず、気圧の差がゼロになる日をただ待つことしかできないと悟るのはどれほどやるせなかったことか。 物語の語り手が書き残した手記は、いつかこの滅び去った世界の廃墟を訪れるかもしれない、どこか別の宇宙からの探検者へのメッセージでしめくくられています。 「我々の宇宙は、静かなしゅっという音だけを残して平衡状態に達したかもしれない。しかし、この宇宙がこれだけの豊富なものを生み出したという事実こそが奇跡だ。それに匹敵するものがあるとしたら、あなたがたの宇宙があなたがたを生み出したという奇跡くらいのものだろう。」もし我々のこの宇宙も閉じた系なのだとしたら、やはりエントロピーは無慈悲に単調増加をつづけ、いつかは滅亡のときがくるでしょう。しかし、終状態がひとつでも、そこに達するまでの経路には無限のパターンがありうるのだそうです。その無限の道すじのうちの一本をたどって、この僕たちが現に今ここにこうして生きているわけで、よく考えたら、いやよく考えなくても、そりゃちょっとすごいことなんじゃねーの。と、ここに至って宇宙生滅の流れの中に自分ごときの人生がなぜかしっくりはまってしまうこの驚き。そこであなた、タイトルが「息吹」ですよ。まったく、イイ話じゃありませんか。 グレッグ・イーガン「クリスタルの夜」も同じ雑誌に収録されていたので読みました。 こちらは「順列都市」の補足的な作品。AIが進歩していけばいずれ、人間なみの知性を持つときがくる。そうなったときに、彼らを仮想空間上で育てている人間が「進化の促進のためにはしかたないことだからメンゴメンゴ」といいながらAIたちにひどい苦痛を与えたり、非人道的(非AI道的?)な仕打ちをしたりすることも、まあ確実に起こるだろう。それって許せると思う?どうよキミ?という、AI倫理問題についての問いかけ。まああれですな、いつものイーガンの裏返しのような感じですな。お得意のネタにしては地味な作品という印象をうけましたが、オチが少々おとなしかったせいでしょうか。もはや、宇宙をつくったり潰したりするぐらいでは驚きすらされず地味とかいわれてしまうイーガンさん。 以上、どちらの作品もSFマガジン創刊50周年記念号に掲載されてます。その囲み記事に書いてあったんですが、テッド・チャンの次の新作は「商人と錬金術師の門」の前から書いていたAIものの中篇で、すでに完成まぢかだって。楽しみすぎる。 ───── 2009-12-05 - 題材不新鮮 SF作家 飛浩隆のweb録 近日発表の新作は「零號琴」「自生の夢」。空の園丁は、空の園丁はいつですか…… 芦名星が主演!初映画化「七瀬ふたたび」 また七瀬か。いつかはガスパールや夢の木坂にも映像化チャンスがめぐってくると信じたい 伊藤計劃のハーモニーがSF大賞(も)受賞したそうで。おめでとう、と言いたいけどやっぱり早世が惜しまれる。 森見登美彦『四畳半神話大系』TVアニメ化 監督は湯浅政明。奇人変人いっぱいの不条理劇的平行世界がどう描かれるか、ちょっと楽しみ
by umi_urimasu
| 2009-12-01 23:15
| 本(SF・ミステリ)
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