なぜか唐突に、「たまにはラノベっぽいラノベでも読んでみるか」という波がやってきました。で、何冊か読みあさってみました。そしたら以前よりさらに苦手の度合いがひどくなっていて、自分の嗜好がこういうものから完全にかけはなれつつあることを痛感するはめになって意気消沈しちゃったという話。
「少年テングサのしょっぱい呪文」 牧野修 典型的ジュヴナイルにグロコメディ風の味つけ。でも変態っぽさが全然ない。物足りない。牧野修なのに。ティーンズ向けだからって手加減しないで傀儡后や楽園の知恵やMOUSEみたいなギタギタの変態SFをやっちゃえばいいのに。というのは無責任な読み手の的はずれな要求であって、ラノベを読んで変態度が足りないと不平をいうのは、たぶん八百屋の軒先で魚が売ってないとごねるようなものなんでしょう。 「ANGEL+DIVE〈1〉STARFAKE」 十文字青 ハーレム、魔法、超能力、中二病の黄金方程式。忍耐心の折れる音が聞こえたような気がした。登場人物の胸ぐらをつかんで「いったい何が言いたいんだこの野郎」とどやしつけたい衝動にかられてしまう自分も大人げないですが。それにしても300ページ以上もこれといった大事件が起こらずキャラ紹介的な日常が延々とつづく展開は、ノリが合わない身にはきつい。いくらつづきものだからとはいえ、ちょっと悠長すぎやしないか。 「迷宮街クロニクル1 生還まで何マイル?」 林亮介 現代日本を舞台にしたウィザードリィ青春群像劇。細かく作ってるわりにいいかげんな設定が気になりました。迷宮探索者の一日の収入が平均4万円で、死亡率が14%とかどういうことでんねん。仮にそんなのが一般的な職業として成立する架空の日本がありえたとして、わざわざ好んでそんな仕事につく人はたとえ死んでも完全に自業自得なわけで、いくら悲しそうに死なれても同情のしようがない。しかし、この程度の理不尽さをスルーできない人はそもそもラノベ読みに向いてないんだといわれればそれまで。 「化物語(上)」 西尾維新 「美少女とオタク漫才を楽しむ」というストレートな目的のみに特化した小説。なんだか妙な懐かしさを感じます。葉鍵時代の二次創作小説などに近い感触か。ダジャレ半分オタネタ半分のおしゃべり文章芸だけで何十万部も売れる本というのは出版業界広しといえどもほんの一握りのはずで、じつは相当すごいことなのかもしれない。個人的に戯言シリーズのころはまだ抵抗感も少なく読めていたような記憶があるけど、もう無理。まるで受けつけられなくなってる。 「オイレンシュピーゲル壱 Black&Red&White」 冲方丁 マルドゥック・スクランブルの見てくれをよりラノベ向きにした修正版という感じ。社会悪の犠牲になった不幸な少女たちが命がけの戦いをへてトラウマを克服し、残酷な世界で生きぬく意志を育てていく、というパターンは共通。ただし主人公は元気でパンクな不良少女風、衣装やガジェットもかなり狙ったデザインに。コスプレだパンツだと扇情的な描写がくどいのは話の背景のへヴィさにそぐわない気もしますが、そういうギャップこそがラノベらしさか。あと、ヴェロシティ文体はやっぱり読みにくいです。慣れるまでがたいへん。 こうしてほうほうの態でラノベ界から逃げ戻り、バランスをとろうと小川一水「天涯の砦」を読み始めました。そして驚愕。なにこの居心地のよさ!圧倒的な安心感!自分がこれほどまでにSF体質になりきってしまっていたとは。この傾向が今後自分の読書人生にどんな影響を及ぼすのか、漠たる不安をおぼえます。年をとるにつれて好きなもの以外読めなくなり、どんどん許容範囲がせばまっていくんじゃないかと。まあ今でもすでに十分狭すぎるくらいですが。これ以上狭くならないように、苦手なものでも我慢してときどき読むことを自分に課すべきかな。むむむむ。 ───── ハイルブロンの怪人 - Wikipedia プラヴォ・ヤズディ - Wikipedia ホントにあったウソみたいな架空の犯罪者ネタ。世界警察史うっかり大賞にノミネートしたい
by umi_urimasu
| 2009-11-27 20:52
| 本(others)
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