「倒立する塔の殺人」皆川博子
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a0030177_0182821.jpgそろそろ80歳になられる方だというのに、この文章にあふれるみずみずしさ、圧倒的なまでの少女らしさはいったい何なのでしょうか。「女性はいくつになっても少女である」などと世間では言いますが、これほど繊細で鋭い十代の感性を保ちながら、そこに老境の気品と熟成された幻想力が加わればもはや最強無敵ではないか。
こうして皆川博子無敵伝説がまた1ページ。

皆川作品については、いざ語ろうと思っても、好きだー!皆川さん、愛しているんだ!とゲイナー君のような恥ずかしい告白にしかならない自分の語彙の貧しさに絶望して、いくら感動しても感想文を書くまでに至らないことが多かったのですが、久しぶりにがんばって何か書いてみようと思います。この作品の場合、狂気と倒錯どっぷりな内容でありながらもジュヴナイル的な爽やかさが適量含まれていて、皆川作品ではなかなか珍しいタイプのような気がするので。

物語は太平洋戦争末期から終戦直後の頃、東京のミッションスクールで起きた殺人の謎をめぐる少女たちの友情や愛憎を描いています。少女たちが回し書きをしたノートの中に、さらに作中作として物語があり、虚実が錯綜して読み手を幻惑するという皆川博子お得意の入れ子スタイル。入り組んだ虚構を解きほぐし、ミステリとしての真相に到達しても、それによって幻想美がまったく失われないあたりが彼女らしいです。

出版元のミステリーYA!というレーベルは対象年齢が小学生くらいからだそうで、幻想小説好きの気はあるけれども、まだ皆川博子作品の味を知らないという子供たちに入り口としてすすめるのには、これはかなりよい本かもしれません。小学生向けとしてはあまりにインモラルすぎる部分もありますが。しかし、作中でも書かれている通り、子供が自分で選んで読む本に大人が勝手に決めた年齢制限などは本来なんの意味もないものです。(図書室でアンリ・バルビュスの「地獄」を借りようとした三輪小枝に向かって「まだ早くないかしら」という司書に対し、小枝の答えは「早すぎる本って、ないと思います」。)そうだそうだ。早すぎる本なんかないわい。

これは学園ミステリとしてももちろん楽しい作品なのですが、僕はどっちかというと、トリックなどよりも少女の戦争手記としての部分をおいしく味わいました。終戦当時に主人公の女学生たちとほぼ同年齢だった作者の実体験がどこまで反映されているのかはわかりませんが、日常のなんでもないディテール描写の中に、はっとするようなリアルな感触があります。食糧難のひどさ、工場のつらい労働、家族や友人の悲惨な死、ヒステリックな軍国主義者たち。それらのものが思春期の少女の眼にどんなふうに映ったかが、淡々とした語り口に込められた純粋さ、幼さ、辛らつさ、呑気さなどの奇妙なバランスにあらわれているようでした。

それと、作中に出てくる当時の唱歌、軍歌、流行歌。これらがなんというか、それぞれにめいっぱい少女的なものが込められていて、もうとにかくすばらしい。しかもこのたくさんの歌は、一つを除きすべて作者の記憶にもとづくものだとか。皆川さん記憶力すごすぎます。

表紙カバーイラストはジャスミンの花につつまれた、無垢とも残酷ともとれる表情をした少女たちの絵柄。イラストレーター(佳嶋氏。HP:echo)は皆川さんご自身による人選らしいです。そしてカバーを取ると、本体も作中に出てくるノートと同じ孔雀模様のデザインが。皆川さんのこだわりマジ最高!

以下、ラストの解題を少し。ネタバレになるので文字色反転します。
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第6章の章末少し手前の〈FIN〉の箇所までを、設楽久仁子がまず書いた。ベー様とサーちゃんが読んだのはここまで。その後、設楽久仁子は二人には見せない(了)までの部分を書き足して、雫石郁にわたした。自分が犯した罪だけでなく、胸中に秘めた虚無まで暴き出したその結末を読み、ほどなくして郁は服毒死をとげた。これはいってみれば、久仁子が間接的に郁の自殺をあと押ししたようなものです。久仁子は郁の死により、「創作が現実に人の生死を左右する」ことの重さに耐えられず、小説家になる夢をあきらめた、とも推測できます。

郁のかかえていた情念と絶望を、久仁子もまたかかえていた。だから彼女だけが真相にたどりつけた。そして彼女は、その真相を郁だけに読ませるつもりで書いたにちがいない。それは憧れていた上月葎子を殺した女への、純粋な復讐心からの行動だったのではないか。
こんなふうに久仁子の暗黒面を想像してみると、ラストをかるく読み流した場合の読後感ほどには爽やかな話ではありません。つーかドス黒い。真っ黒ですよジダラックちゃん。

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言葉だけでなく小説の構造で狂気をあらわす。その狂気の構造に読者をも引きずりこむ。この華麗な手口こそ皆川博子の真骨頂ではないかと僕は思う。そこが好きだー!愛して(ry

あと、そういえば、鏡で発狂するという着想はやっぱり乱歩の鏡地獄へのオマージュなのかな。どうでしょう。

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沙耶の唄がアメコミ化される
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[画像] ドラゴン卿(?)をガン見してるレイストリン(赤)
油っぽいドラゴンランスのイラスト。詳細不明。小説のカバーアートか、D&Dのゲーム関係の絵とかだろうか。背景の竜はカイアン・ブラッドベイン?右上の端が切れてる人物は、ん~、アリアカス卿か?
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by umi_urimasu | 2009-07-01 01:02 | 本(SF・ミステリ) | Comments(4)
Commented by ub7637 at 2009-07-06 21:01 x
> やる夫ブログ やる夫のペルソナ3
最初の方だけちょっと読みましたが、筋は原作に沿ってますね。快適なP4をやっちゃうと、P3を最初からやるのはしんどいので、ネタバレ覚悟で正解かと。

> 「セカイ、蛮族、ぼく。」公開

うちのブログでも紹介させていただきました。食パン加えた女子高生に、いいんちょと、ラノベのテンプレとか記号的キャラに対する皮肉ですね。「やれやれ。ぼくは○○した。」で吹きました。

> 僕は昔から富士見文庫版

この濃さは、たまらんですな。時代の流れとはいえ、今風のイラストになるのは残念です。
Commented by umi_urimasu at 2009-07-06 22:47
やる夫のP3は結局全部読んでしまいました。面白かったです。後半ではオリジナル分もわりと多かったみたいですよ。

> 「セカイ、蛮族、ぼく。」
ああした皮肉りかたは、いかにも伊藤計劃らしく思えますね。ブラックユーモア全開の短編も、もっとたくさん読んでみたかった。亡くなられたことがほんとに残念です。

絵柄の変化は我慢するとして、つばさ版ランスのイラストは、作品の設定をけっこう豪快に無視してそうなのが旧版ファンとしてはちょっともやもやしてしまいます。少しでも売れそうな見た目にしたい、ということなんでしょうけれどもね。
Commented by naijel at 2009-07-09 12:05 x
> 「セカイ、蛮族、ぼく。」
伊藤氏はプライヴェートではかなりオモシロな人だったようで、こいつ自体もお笑いで書かれている可能性がたぶんにあります。友人との馬鹿話で「ドキッ★政治家だらけの聖杯戦争(当然全員女の子)」でやっぱり最強は角栄だよな、などといだすニンゲンの底なんてとてもとても。
「戦慄のマッド軍団」関連で伊藤P伝説がけっこう読めます。
Commented by umi_urimasu at 2009-07-09 21:12
> お笑いで書かれている可能性がたぶんにあります。
もちろんそうでしょうね。パロディは笑いをとってなんぼですし、実際これは笑えますしね。
政治家Fateネタは第二位相で読みました。ほんとに小説にしてくれないものかと、ちょっと期待してました。
亡くなられてからは、実生活の痕跡が見えやすい逸話などを読むのは他人事とはいえ多少気が重くて、それらしい情報はあまり見ないようにしています。とりあえず時間の流れにおまかせしたいかなという感じです。
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