つるくるシーツでウルトラC・ムーンサルト合体!(死
久しぶりに再読。つってもこれしか読んだことないんですが。 やはり名うての技巧派、読ませ方がやたら上手いです。最後の最後まで全貌を掴ませず、何度読んでもそのたびに「あれ?」とページを繰り直してしまう。この「かわし・焦らし・ほのめかし」のテクニックはもはや芸術の域。 しかし、全体的には丁寧に作り込まれつつもおとなしめの短編が多い中、タイトル作品のヤバさは群を抜いて目立ちます。どーぶつがアレ代わりなんて、ぶっちゃけありえな〜い!調の攻撃的文体、そして放送禁止用語が乱れ飛ぶきわどさ爆裂の内容。お子様には少々刺激が強すぎる。ただし、主人公の少女が負っているモラル観や問題にされている男権思想にはそれほど新しさも独自性も見受けられません。 今読んでもなお衝撃的なのは、テーマの直截さよりもむしろ、読み手を自在に引っぱり回せる高い技術力の故ではないでしょうか。コニー・ウィリスやティプトリーといった女性SF作家たちの作風に対していつも感じるのは、「情報操作」への執着とそのテクニックの洗練です。与える情報量を巧みに制御し、舞台装置や仕掛けについて明確な説明を避け、タネ明かしまでじわじわと引っぱる手法が多く見られる気がするのです。冒頭の数行だけではどういう文脈なのか全く予想できず、最後まで読んでさえ今イチぴんと来ない、ということもしばしば。そこに一種の耽美主義というか婉曲性嗜好というか、何やら女性的なものを嗅ぎ取れるような気もするのですが、どんなもんでしょう。 短編の多彩さをみてもわかるとおり、コニー・ウィリスという人は非常に器用な作家です。「我が愛しき娘たちよ」のような尖った作品からハードな終末SFやふざけたコメディまで、何でもサクサクさばいてしまいます。女性的な感性が露わな作品には男としてちょっと読み疲れを感じてしまう時もあります(なので実際にリピートした回数はそれほど多くない)が、それでもやっぱりこの手際は見事だと思う。数年に一回ぐらいのペースなら、何回読んでも永遠に飽きが来なさそう。 収録作品はいずれ劣らぬ佳作揃いですが、個人的ヒットは「鏡の中のシドン」。とある娼館を舞台に、他人の人格をコピーする超能力者のピアニストと、はかなげな美しさをもつ盲目の娘とが織りなす甘く残酷な悲劇の顛末。淡々とした描写の中に愛憎が絡み合う官能的な雰囲気に、切ないラストが泣かせます。 しかし、この磨き抜かれた技術をもって書かれたウィリスの長編作品を未だに読む機会がありません。「ドゥームズデイ・ブック」など太鼓判付きの長編も、いつか読もうと楽しみにしてはいるのですが、その気になるのはいつの日か。
by umi_urimasu
| 2004-08-08 19:03
| 本(SF・ミステリ)
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