いつも思うのですが、廃墟というやつはなぜあんなにもSF的なのだろう。
「何か大きなものが終わった後、人のいない風景を描くのにSFほどふさわしいジャンルはない」とは飛浩隆氏の言ですが、確かにSFには、人類滅亡や文明崩壊後の世界を描いた作品が山ほどあります。その中に出てくる朽ち果てたビルやハイウェイやショッピングモールを想像するとき、僕はいつも、寂しさや切なさや懐かしさや、いろんな感情をひっくるめたなんとも言いがたい気持ちになります。いつの日か人類が黄昏の時代を迎えたとき、かつての栄光をしのぶモニュメントとなる物たち。それらに対する、奇妙に厳粛な祈りにも似たあの感じ。現実の廃墟の写真や絵に惹かれるのも、その感じをできるだけリアルに味わいたいからなのかな、と思うことがあります。あれはいったいどういう心理なんだろう。 ジョン・クロウリー『エンジン・サマー』特設ページ (大森望) 作品のタイトルでもある「エンジン・サマー」は当然ながら、インディアン・サマーのもじりのようです。しかし、はるか未来に小春日和のことがそう呼ばれるようになったいきさつは作中では明らかにされません。冬のはじめにささやかな夏がしばらく戻ってくることを、だれも知らない理由で「機械の夏」と呼ぶ――もしかしたらそれは、大昔に文明を滅ぼしたという大災厄となにか関係があったのかもしれない。自然現象ではなくて、放棄された気候制御システムの故障とかそういったようなことから「機械」のつく呼び名が生まれたのかもしれない。登場人物にも読者にも真相はわからない。わからないけれども、むしろわからないからこそ、失われたものへの郷愁と想像はかきたてられます。この作品にはそういう、本来の意味を失ったかわりに魔法のような響きを得た言葉がたくさん出てきます。長い年月のためにいびつに変型してしまった、どこかなつかしく、悲しげでもある言葉。まるで廃墟を描写するために自らも廃墟的な美しさをそなえるに至ったかのような言葉。人類の黄昏の時代を語るのに、これほどふさわしい言葉が他にあるものでしょうか。まあ、訳文ではその雰囲気をなんとなく察することぐらいしかできないんですが、それですらかくも美しい……。 独特のリリカルな文体のほかにも読みどころはいっぱいあって、たとえば少年が少女の愛を「二重の意味で、永遠に」失う成長と喪失の物語としても美しいです。また、文明崩壊時代の神話やアメリカインディアンとエンジン(インディアン)・サマーというタイトルの符合など、暗示的に示されるものも多いし、猫とか箱とか、婉曲にしか語られないSF設定もいろいろあります。いろいろありすぎて、一読しただけではとても咀嚼しきれない。いずれ二度三度と読み返して、とことんまで浸ってみたいものです。 追記:「Hello, world」 ニトロプラス のころから廃墟好きについては折にふれこねくりまわしてました。むしろ昔のほうがよく把握してるかも。劣化した? ───── 津原泰水 『綺譚集』、文庫化 ママ、マジッすかー!うおおおん!やったよー! 専門家「?」、考古学調査で「スイス製腕時計」出土―広西 (Ak) わろた。誰だよ埋めたの [画像] 廃棄されたパラボラアンテナ (アメリカ海軍研究所) SF的な廃墟の好例。もとはハイテクの粋だったであろう物体だけに、よりいっそうの哀愁が。 [画像] 超巨大雲 by Karen Titchener これは全力で逃げていいクラス
by umi_urimasu
| 2008-12-13 13:43
| 本(SF・ミステリ)
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