「聖家族」古川日出男
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a0030177_1946359.jpgごろり。どすん。メメタァ。擬音であらわすならそんな本。書き言葉よりも肉声の語りに近い倒置文体はまるで弾丸のよう。枉げぬ、倣わぬ、まつろわぬ、これが俺の言葉だ文句あるか、と言わんばかりの熱い文章が、ニ段組730ページにぎっしりと刻まれています。物語は時系列や人物の視点が錯綜していて全貌の把握は困難なのですが、それでも読み終えたときの「途方もなくでかい世界に立ち会った」という満腹感はすさまじいものがありました。

この作品を、作者自身がキャリアの集大成にしようと意図して書いたかどうかはわかりません。でも実際のところ、わりと素直な「古川日出男総まとめ」になってるんじゃないかと思います。たとえばここには「13」のような、幻想にしては現実的な(マジックリアリズム的?)異能者たちがいるし。「ベルカ、吠えないのか?」のような異族の目線からみた歴史、動物たちの怒りもあるし。「アラビアの夜の種族」のようなどぎつさ、滑稽さもあるし。「サウンドトラック」」のような都市型アウトサイダーの描写もあるし。僕が買っておいてきちんと読み終えていない本の中からも、「沈黙/アビシニアン」のように大河サスペンスっぽい話やロマンスっぽい話、「gift」のように攻撃的でシュールで妙に笑える(?)話、「ハル、ハル、ハル」のようにスピード感あふれる文体――「ハル、ハル、ハル」の文体はもうほとんど「聖家族」そのままといってもいいかな。そんなふうに、それぞれの作品から何かしら「聖家族」に取り込まれている要素があるように思えます。やっぱり最初から、一切合財ぶち込んだらー!というつもりで書かれたのかもしれない。もっと細かく各作品と比較してみたらなんか面白い発見があるかも。

「聖家族」は伝奇・異聞集的な物語の性格上、各エピソードが断片的で、人物の総入れ替えや作中時間の前後が頻繁におこります。なのでぼんやり読んでいると何日もしてから「これ誰だっけ」「今どこだっけ」と混乱してしまうおそれが少なからずあります。そういうときは適宜公式サイトなどを活用して情報を整理するとよいのではないかな。と読み終わったあとで思ったが遅きに失した。とりあえず公式の人物相関図はけっこう役に立ちそうです。

読了後、作家の読書道: 古川日出男などをまた見ていたら、「言葉って体からできてくるから、体を鍛えたらどんな文体になるのかと思って格闘技をはじめてみた」という発言がありました。本当にやってたんかい。「聖家族」で異彩を放っていた戦闘描写も、あるいはそういう実体験が下敷きになってるんだろうか。

余談。将棋まめちしき。
「聖家族」の作中には、山奥の断崖の岩の上で将棋を指す場面が出てきます。そこでは「麒麟」「鳳凰」「猛豹」など、普段あまり聞かない駒が使われています。はじめは作者の創作かと思ったんですが、そうじゃなかった。昔の将棋には中将棋とか大将棋とかいろいろな種類があって、麒麟や鳳凰の駒も実際に使われていたらしいのですね。日本将棋のルーツは、もともと中国から朝鮮を経由して伝わったと長いこと考えられていたのが、最近では東南アジアにもっとよく似たゲームがあることがわかってきて、こちらの方が先に日本に伝わり広まったという説が有力である、という話も出てきました。
参考:
   山形県天童市 将棋資料館
   江戸時代以前の将棋
   盤上遊戯の世界

むむむ。ゲームの歴史も奥が深いのお。と感心したことである。
古代ゲーム史の研究ってのもなんか楽しそうですね。将棋やチェスは現代までほぼ原型を残したまま伝わっていて、文献もたくさんありそうだけど、歴史の闇に埋もれて忘れられてしまった幻のゲームとかがじつはたくさんあったりして。例の古代ローマのサイコロだって、祭祀用でないとすれば何かのギャンブルゲーム用のものだろう、ということまでは容易に想像できても、詳細なルールとなると専門家でもわからないらしいですしね。

余談の余談。サイコロ - Wikipedia を読んだら100面体ダイスとか球面ダイスとか何それってのがいっぱいあってびっくりした。奥が深い。

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「エンジン・サマー」ジョン・クロウリー 復刊
飛浩隆氏もおすすめのようなので読んでみる。TAPはあとまわしにしよう。

上橋菜穂子原作・アニメ「獣の奏者 エリン」(NHK教育)
1月10日~放送予定 全50回 制作:Production I.G。見るかもしんない

続々・桜庭一樹 読書日記【第8回】(2/3)
>皆川博子先生が先月、新作の取材旅行でアラン島に行かれたらしい
もうそろそろ80歳ぐらい?なのに。タフだ。アイルランドもので聖女の島みたいなガールズバトルで中世史っぽい話とか読んでみたいです

[画像] Trouble in Paradise
ちょっとグラン・ヴァカンス風?

アニメ映画「サマーウォーズ」2009年夏公開予定
時かけスタッフ。夏休み公開の青春アニメは夏休みの話にしないといけない決まりってやっぱりあるのかな

ニトロプラス原作「ファントム」TVアニメ化決定
監督・真下耕一。ノワールでヤンマーニなアニメができあがりそうな予感

スウェーデンの研究者、「人体入れ替わり」の錯覚実験に成功
電脳化しなくてもシムステイムみたいなものは実現できるってことか。
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by umi_urimasu | 2008-12-04 20:11 | 本(others) | Comments(2)
Commented by ub7637 at 2008-12-29 00:25 x
「アラビア〜」にも似たのがあったような気もしましたが、スタイリッシュ(?)な文体と方言の組み合わせが斬新でした。

今年は、やたらの分厚い作品に傑作が目白押しだったみたいですね。これと、舞城の「ディスコ探偵」は、集大成的な作品としてものすごかったです。「テンペスト」とか「新世界より」とか、他にもいろいろ読みたいんで、時間があれば挑戦してみたいところです。
Commented by umi_urimasu at 2008-12-29 16:52
「ディスコ探偵」「テンペスト」「新世界より」
どれもいずれは読んでみたいですね。そのためにも、自分の本を読むスピードがやたら遅いのをなんとかしたいです。ほんとうに。
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