ガルシア=マルケスの「エレンディラ」を読み返していたら、あとがきに面白いことが。
「2メートルのミミズにせよ、無数の蝶にすっぽり包まれた女性にせよ、われわれにとっては驚きであっても、そこに住んでいる人たちにとっては、ごくあたりまえの日常的なことでしかない。それを驚異と感じるためには、見慣れてしまって何の驚きも感じなくなっている魂を目覚めさせ、あらためてそれが驚異であることを発見しなければならない。」 (「エレンディラ」訳者あとがき 木村榮一)ここで僕が「あれ?なんか近いこと言ってそうだな」と思ったのが、トールキンの言葉、「馬や犬や羊に目をひらくためにはセントールや竜にであう必要がある」でした。これは「ファンタジーには見なれた現実からいったん距離をおくことによって、本来驚異にみちている現実の姿を再発見させる力がある」というトールキンの考え方を端的にあらわした一言。らしいです。 南米マジックリアリズムを代表する作家たちは、ヨーロッパ大陸に移り住むことで祖国の土地や文化がもつ驚異にあらためて気づき、それがマジックリアリズムの手法を生み出すきっかけになったのだそうです。これって、トールキンの考えるファンタジーの仕組みになんとなく似てないでしょうか。トールキンの場合、ありふれた日常に隠された驚異に気づくためには北欧やケルトの神話や伝承に触れるのが効果的だと考えたわけですが、もしこれを架空の世界に限定しなければ、外国の文化だって初めて体験する人にとっては異世界と大差ないはずです。 つまり、ファンタジーもマジックリアリズムも、なじみのある世界となじみのない世界を相対化する体験から生まれる文芸だと考えれば、創造の動機というか、根っこはわりと近いんじゃないかなあ。という気がしたんだけどあんまり自信はない。とりあえずアイデアとして保留しておこうと思います。 ちなみに日本はどっちかというとファンタジーよりもマジックリアリズムに適したお国柄で、昔から現実と非現実を厳密に区別せずうやむやに受容する精神性があるみたいです。どこにでも何にでも神様や精霊が宿っていたり、なんでもかんでも拝んでしまったり。よく言えばおおらか、悪くいえばなあなあ主義か。日本でファンタジー文芸が育ちにくい理由として、河合隼雄もそんなふうなことを言ってた気が。 余談。「エレンディラ」の訳者あとがきには作家のミルチャ・エリアーデの言葉として、「民衆の記憶に保存されるべき精神的体験は、実在の人や事件としての歴史ではなく、神話的モデルに託されることによってはじめて生きつづけることができる」みたいなことも書かれてました。納得。ターンエーガンダムってまさにこれだ。 ───── G・R・R・マーティン&U・K・ル=グウィン インタビュー The Future of Science Fiction ラジオ音源。「SFはidea(発想?理性?)の文学か否か」という話題で、僕もちょっと聴いてみましたが英語力不足につきギブアップ。とほー Tear Down The Bookshelf Markers, Urge LeGuin and Martin ちょっとだけテキスト起こしされてました 思わず身体を動かして演じてみたくなるような日本語たち 井伏鱒二、筒井康隆、鼓直、柳瀬尚紀などなど。「声に出して読みたい・聴きたい」文体だったら瀬田貞ニ、黒丸尚とかもいいなあ。町田康や古川日出男はインパクトはあるけど耳に心地よいっていう感じじゃない。 [youtube] ローリング・ストーンズ&マーティン・スコセッシ「Shine a Light」予告編 そろそろ日本公開。お元気そうで何よりです。こんな眠い演奏よりも Ladies and Gentlemen の公式DVDをいい加減出してくれ等の愚痴は思っても言わない方向で ───── 引用文を枠線でかこむようにデザイン変えてみた。この方が引用した感がはっきりしてよいかも。自分で勝手に考えたあらすじ文にもblockquote使ってたのでそのへん直したほうがいいかな。いずれそのうち。 [ニコニコ] 喘ぎ声がすごくて夜中使えないエロい洗濯機 家電もついにここまで来たか 東京創元社 | 銀河英雄伝説外伝〈2〉 解説:円城塔 ああいうものに円城氏がどんな解説を書くのかちょっと気になるところ 第29回日本SF大賞に『新世界より』(貴志祐介)と『電脳コイル』 名前はよく見るけどホラーの人というイメージが強くて避けてた。トライしてみようかな。
by umi_urimasu
| 2008-11-26 21:43
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