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「フリーランチの時代」小川一水
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「フリーランチの時代」小川一水_a0030177_1854730.jpg気鋭のハードSF作家、2004年以降の5篇をおさめた短編集。
SFとしての純度は高く、それでいて非常に読みやすい作品がそろっています。敷居の低さでいえば、おそらく「老ヴォールの惑星」よりもさらに入門向け。今の日本で「ジュニア向けハードSF」という分野をまかせられそうな若手作家といったら、もうこの人ぐらいじゃないでしょうか。ほんとうに貴重な人材だと思います。

「フリーランチの時代」
たまたま遭遇したエイリアンによって不老不死にされちゃった人類の軽い困惑。生きるために生きる必要がなくなり、個人に関するあらゆることについてするか/しないかを自由に選択できる、そんな時代がもし来たら我々は人として(人?)何をすればいいのだろう。まあ何万年でもゆっくり考えればいいよね。みたいな話。
不死や人類の進化を扱ったSFというとシリアスで悲壮なイメージがありますが、本作はとことん軽いです。これぐらい飄々としたノリの方が、妙な感傷とかがまといつかない分、人間の定義を考えるような話には向いてるのかも。楽観的すぎてイヤだという人もいるでしょうが、これはむしろバカネタSFの範疇だからこれでいいのだ。

「Live me Me.」
脳に対する情報入出力をチップを通して人形のボディとつなぎ、ほぼ脳死状態の患者に感覚と「体」を与えて健常人と変わらない日常生活を実現する新技術、HSコンビナート。その被験者となった主人公の目を通して、意識と社会、それぞれの面から人間の定義について考えていく物語。記号→画像→仮想空間→全身義体へと感覚の領域を広げてゆく過程を描いた前半がすばらしいです。ただ、その過程の堅実さに比べるとオチの理屈はやや乱暴だったか。

「Slowlife in Starship」
22世紀なかば、宇宙にひきこもるニートの増加が社会問題に……なってなかった。太陽系をふらふら漂う孤独で気ままなくらしに満足していた青年の小さな決心とは?山も谷もないだらっとした話ですが、それはそれでニート話らしいような。こうした宇宙ニート出現の背景には、太陽光のみで半永久的に人間を生かしておける居住モジュールが量産されたという設定があります。実際、将来的に宇宙開発の過程でそういうものが作られる可能性は十分ありうるのではないでしょうか。笑いごとではありませぬ。

「千歳の坂も」
お役所いわく、すべての国民は法律の定めるところにより不老不死の義務を負います。延命処置を受けたくない人は老化税をはらいなさい。そんな奇怪な時代がきても、生きるか死ぬかを自分で選ぶことにこだわろうとする人々がいた。どことなく「千年女優」っぽいなつかしさもある、時間を超越した逃避行ストーリー。ただしちっともファンタジーっぽくはない。

「アルワラの潮の音」
好評を博した時間SF「時砂の王」の外伝。時をさかのぼりながらつづく人類存亡をかけた大戦争の一幕を描いています。ミクロネシアの島々を舞台にした恋あり泣きあり活劇ありの成長物語で、本編が好きな人ならこちらも満足できるでしょう。あいかわらず童話ネタがナイスアクセントでした。

近頃はアイデアSF的な短編に精を出している小川一水さんですが、そろそろまた「復活の地」や「第六大陸」みたいなプロジェクトX型の超大作をガツンとかましてほしいと期待している読者はかなり大勢いるのではないかと思います。この次か、次の次あたり、そういうのがまた来ないかな。いや、たぶん来るだろう。きっと来るはずだ。そう思ってると待つのが楽しいのでそう思うことにしておこう。

「風の邦、星の渚 レーズスフェント興亡記」 小川一水
最新作。ネットでは「そこそこ手堅い出来」という感想が多い気配。買うかどうか迷い中。

朝日新聞に「ライトノベル学校で必要か」という投書が掲載される。
おまえら子供の煽りぐらい多めにみてやれよ。と思ったけどカトゆーとかに載ってしまうともうね。蔵書の選定については各学校側の裁量だし、そもそも作品によるとしか。ただ、最近のラノベは確かにポルノまがいのが多そうなイメージもある。偏見でしょうか。

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A Feast for Crows 読了。あいかわらずみんな悲惨な目にあってて安心しました。表面的なストーリーの追跡には慣れてきたけど、それ以外ではかえって横着になったというか、歴史や陰謀などの複雑な情報はどうせわからないからと読み流すクセがついてしまったかも。駄目じゃん。マーティン先生、全領主家の家系図(ツリー表記)がほしいです……

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氷と炎の歌・乱鴉の饗宴 改訂問題wiki

グレッグ・イーガン 日本オリジナル選集「TAP」 11/25 発売
けいかくどおり
by umi_urimasu | 2008-10-06 19:28 | 本(SF・ミステリ)


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