「剣嵐の大地」(1)-(3) ジョージ・R・R・マーティン
このエントリーを含むはてなブックマーク
a0030177_15221461.jpga0030177_15222675.jpga0030177_15223788.jpg
五百人を超える登場人物が入り乱れる怒涛の戦争譚、血で血を洗う陰謀劇、暴虐と恥辱に彩られたロマンスの狂宴。世界数十ヶ国でベストセラーを記録し、小説賞の受賞歴にいたってはもはや数え切れず――G・R・R・マーティンの〈氷と炎の歌〉という作品は今、この地球上でもっともホットな大河小説シリーズといっても過言ではないでしょう。

しかしどうも、華々しい評価のわりに日本での売れゆきははかばかしくないようです。普通に考えるなら、やはり刊行のインターバルの長さと単行本の価格の高さがハードルになっているのではないかと思われますが。より根本的な理由として、そもそも日本におけるファンタジー系の文芸が寂れ果てたマイナージャンルなため、売りたくても刷れないというのが実情なのかもしれません。

そんな現状を嘆きたくとも、嘆く資格がじつは僕にもなくて、ぶっちゃけ次の「乱鴉の饗宴」は図書館で借りてすませようという魂胆でおります。アイスマンデス。やっぱ、ちょっと値が張るものですからね。邦訳のハードカバー、6000円もするんですよ。うっうー。原書のペーパーバック版なんて900円なのに。日本の出版業界も、単行本と平行でそれくらいの廉価ペーパーバックを出すようなやり方をしてくれたらいいのにな。でなきゃ原書をすらすら読める英語力が欲しい。言っても詮なきことですけれど。

まあ愚痴はさておいて「剣嵐の大地」のことを。
順序としては、これは「七王国の玉座」「王狼たちの戦旗」につづく第三巻に当たります。ネタバレを避けようとするとほとんど何も語れないんですが、これだけは言っておきたい。ストーリーの衝撃度において、「剣嵐の大地」はまちがいなく過去二作を凌駕していると。「王狼」までしか読んでない人が初めてこの「剣嵐」を読んだとき、いかなる狂態をさらすかと思うと、邪悪な笑みがこぼれてしまい周りから白い眼で見られるは必至。そんくらい凄まじいです。おまえらも剣嵐を読んで、絶叫をあげてのたうち回るがよいわ。へー。この俺がそうなったと同じようにな。へー。

〈氷と炎の歌〉は誰が主人公と一概に決められない群像劇形式をとっています。これは裏を返せば、誰を主人公とみなしても作品が成立するということでもあります。もちろん、十分な描写密度がなくてはこうはいきません。実際、視点人物は全員が堂々と物語の主人公を張れるだけの克明な描写をなされていますし、視点人物でなくても主役級の人物にはこと欠きません。いうなれば、「ほぼ全キャラが主人公」みたいなものなのです。これがあながち誇張じゃないってのが恐ろしいとこなんですが。ひとおとり物語を消化したあとは、好きなキャラのマンウォッチングでもしてみて、彼らの人となりをときほぐしてみるのもまた一興でしょう。

あとひとつ、「剣嵐」の余計なお楽しみポイントについて。この巻、じつは「ミステリ」としても読める展開を含んでいます。もちろんあからさまに推理小説的なスタイルで書かれているわけではありませんが、衆人環視のただ中で事件が起こり、真相を明らかにするヒントはすべて、そこまでの本文中でこっそり示されているのです。あとでちゃんと種明かしもされますが、ミステリ好きな人はまず自力で真犯人とその背後にいる黒幕を推理してみるのも面白いんじゃないかと。

以下、おまけ。
結婚式の場面で出てきた全料理リストです。あまりの凝りっぷりに呆れて書きとめておいたもの。

キイチゴとナッツの入ったハニーケーキ
燻製ハム(ガモン)のステーキ
ベーコン
パン粉をまぶしてかりかりに焼いたヒトデ
秋の梨
タマネギとチーズと火のように辛い胡椒をまぶした卵の輪切り
(以上、ドーン料理)

金色のボウルに入った、バターで炒めた蝸牛とマッシュルームのクリームスープ
豚肉と松の実と卵を詰めたパイ
スウィートコーンのフリッター
砕いたナツメヤシの実とリンゴとオレンジを入れて焼いた熱いオートブレッド
野生の猪のリブ
砕いたアーモンドの衣で揚げた鱒料理
鷺のローストとチーズとタマネギのパイ
火のように辛い東方の香料で煮た蟹
ニンジン、干しブドウ、タマネギと一緒にアーモンドミルクで煮込んだ細切れの羊肉を山盛りにした大きな木皿
竈から出したばかりで、火傷するほど熱い魚のタルト
蜂蜜と生姜で味をつけた鶉
腹にナツメヤシの実を詰めた、羽毛つき孔雀の丸焼き
ブランディソリー(牛肉のスープと蜂蜜で甘味をつけた熱いワインを混ぜたものに、湯剥きしたアーモンドと去勢鶏の厚切りを入れた料理)
豆のバターいため
砕いたナッツ
銀の食器に入ったサフランと桃のソースで煮た白鳥
焼きたてのブラッドソーセージ
熟したブルーチーズを詰めたヘラジカ
シナモン、クローブ、アーモンドミルクで味付けした豚肉の薄切り
直径二ヤードの香料入り鳩のパイ・レモンクリームがけ


なんじゃこれ。と思うでしょ。ワンシーンでここまでするかな普通。
あいかわらずの筆の贅沢というか、アホみたいに豪勢な文章書く人だ……。

(追記)
剣嵐まで未読の方は、以下のハヤカワ公式サイトの乱鴉の紹介文を読まないことを推奨します。
かなりネタバレされてますので。
乱鴉の饗宴 上:ハヤカワ・オンライン
乱鴉の饗宴 下:ハヤカワ・オンライン
コメント欄で教えていただいた情報ですが、人物名のカタカナ表記に少なからず変更が加えられているようですね。まあ訳者が替わればそんなこともあろうさ。でも地名や漢字表記の言葉まで同定できないくらい変更しまくってたりしたら、さすがにやだな。

(追記2)
マーティンスレに名称表記変更についての酒井昭伸氏のmixiの文章が転載されました。
7/22付、 更新分(抜粋?)
邦訳読者の大半は発音が正確かどうかなんてどうでもよく、日本語として親しんできた名前の語感とそれに支えられたイメージが損なわれることに憤ってるわけで、この説明では不満が解消されるわけもないでしょうけど。発売されたらますますブーイングが強まりそうな予感。
しかし、ブリエンヌ→ブライエニーか……はぁ

─────
 創作神話について調べています。 - 人力検索はてな
>『ペガーナの神々』『クトゥルー神話』『シルマリルリオン』『天界と地獄』…等に比肩し得るような魅力的で充実した体系を持つ創作神話をご存じでしたらお教え下さい
成長に期待。網羅的なリンク集が欲しいと常々思っていました
↑そういや、マルケスのマコンドものの作品群とかはどうなんだろうな。あれも一種の神話体系といえないこともないような気がするんだけど。はっきりした「神」が出てこないものは除外か。

あの歌が頭の中でループしてつらいので描いてみた
てすかとりぽか 『崖の上のポニョ』 クトゥルー神話
ちょっと観に行きたくなってきた

「カウボーイビバップ」に米国で実写映画化企画が浮上?
やるんだったら「天国の扉」みたいなシリアスなのよりも、データ犬争奪戦の話とかキノコでラリっぱなしの話みたいに笑えるやつにしてほしいと思う。
[PR]
by umi_urimasu | 2008-07-19 15:46 | 本(others) | Comments(2)
Commented by がちゃ at 2008-07-19 18:37 x
はじめまして!
「乱鴉の饗宴」を楽しみに待つ者です。
ハヤカワオンラインに、最近日参しては、《氷と炎の歌》HPが充実していくのに一喜一憂しております。
他の方のサイトで知りましたが、名前の略が変わるようですね。
ジェイムがジェイミーとか、ケイトリンがキャトリンとかデーナリスがデナーリスとか。訳者さんが代わられたのでしょうがないなんでしょうが。。

ものすごい量のごちそうでしたねぇ。
これらが全部、悲劇を彩るお料理だったんですよね。

わたしも図書館派です。^^
図書館で、購買依頼というか、予約をお願いしました。
6000円は、やっぱり高いですね。
Commented by umi_urimasu at 2008-07-19 21:02
本当だ。

ベイロン・グレイジョイ(Balon) 
タイレル(Tyrell)
ドーラン・マーテル(Doran)
デナーリス(Daenerys)
キャトリン(Catelyn)
ジェイミー(Jaime)

とかいわれてる。より源語の発音に正確に表記しようとした感じなのでしょうか?まあ変更されてしまったものは仕方ないので、それで慣れていくほかはなさそうですね。
名前
URL
画像認証
削除用パスワード

※このブログはコメント承認制を適用しています。ブログの持ち主が承認するまでコメントは表示されません。



<< 「乱鴉の饗宴」、固有名詞大改変の件 小説化不可能な作品をあえてノベライズ >>