「METAL GEAR SOLID GUNS OF THE PATRIOTS」伊藤計劃
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a0030177_21325845.jpg遺伝子に書き込まれた死の運命に敢然と立ち向かい、世界を救おうとする老英雄のラスト・ミッション。伊藤計劃にとっては長編第二作となるノベライズです。原作「メタルギアソリッド4」に完全準拠(たぶん)したストーリー、ちりばめられたマニアックなMGSネタなど、ゲーム版シリーズのファンには広く深く歓迎されそうなリスペクト精神にあふれた作品。

ただ、「虐殺器官」や「From the Nothing, with Love」の方角から入ってきた人は注意が必要かもしれません。これまでの伊藤計劃は、現実と虚構や自己と他者についての思索を展開するにあたって無理のない程度の、そこそこにリアリスティックでやや淡白な感じのプロットやキャラクターを用いてきました。それがまた、行き着く世界の閉塞感とか諦観らしきものによくマッチしていて、なんというか、たとえるなら「村上春樹風サイバーパンク」(?)みたいな、独特の雰囲気を形づくっていました。しかしその雰囲気こそ伊藤計劃の持ち味と評価していた人が、同じものを期待して「ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」を読んだとしたら、ひどく面食らうことでしょう。何よりもその徹底的な「ゲームくささ」に。

今回出てくるシチュエーションは「現実じゃありえないけどゲームではお約束」なものばかりだし、スネークはいくら瀕死で戦闘不能になっても次のミッションまでにさくっと回復してくるし、リキッドは何から何まで芝居がかってて超クドイし、戦闘シーンは主役補正かかりまくりだし、キャンベルやナオミは聞いてもいないのに「説明しよう」とばかりにしゃべり始めるし、説教するつもりじゃないのかもしれないけど結果的になんとなく説教くさい話になってるし。

こういった、いわば「ゲーム的な親切さ」に最適化された物語は、たぶんリアリズム志向の読者には向きません。でもMGSのプレイヤーにとっては「これぞMGS」と感じられるはずで、伊藤計劃もまさにそれを狙って書いたのだと思われます。そのためにおそらくゲーム用のシナリオをほとんどいじらずに使い、伊藤計劃は文章を補うだけに徹しようとしたのではないか。と推測していたんですが、作者あとがきにもやっぱりそのようなことが少し書いてありました。
設定やプロットを借りるだけでなく、MGSをプレイすることで味わえる「ゲーム体験の感じ」までそうやって再現しているという点では、普通の小説よりもむしろゲームのリプレイとかに近い性質の作品といえるかも。


作品のテーマとかメッセージとかについては、みんな書いてそうだしいいかなあ。と思いつつ少しだけ。
人間は消滅しない。ぼくらは、それを語る者のなかに流れ続ける川のようなものだ。人という存在はすべて、物理的肉体であると同時に語り継がれる物語でもある。スネークの、メリルの、ここに集う兵士ひとりひとりの物語を誰かが語り続けるかぎり、ここにいる誰ひとりとして消えてしまうことはない。
その言うや善し。人がまさに死ぬそのときに語ったことは、単なる言葉ではない。それはぼくという存在に根を張って、未来に向け枝を伸ばしてゆく生命の一部なのだ。
語り手であるオタコンを通してしつこいくらい何度も強調されるのが、「物語について物語る」意義についてのこの考えかたです。人生で大切なのは人から人への伝達なんだ。という、「虐殺器官」をネガポジ反転させたみたいな人生賛歌。僕はいわゆる人生論っぽいものにはあまり摂動を受けない方だと思うんですが、自身も難病と闘ってきた経験をもつ伊藤氏が書いたのだと思うとなんか襟を正さないといけないような気に……。実際にそういう境地に立った人ならではの迫力みたいなものだろうか。うーん。

余談。アーセナルに乗り込む場面で心中「DARPA人間砲弾!」と叫んだ人は北斗世代まちがいなし。DARPAってやはり「楽しい軍事開発」がモットーみたいなイメージありますよな。

余談2。リボルバーオセロットと岸和田博士はそっくりさんである。
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by umi_urimasu | 2008-06-27 20:47 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
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