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「エンディミオン」(下) ダン・シモンズ
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「エンディミオン」(下) ダン・シモンズ_a0030177_0482816.jpg小説に対し、「どこを楽しむか」「何を期待して読むか」という読み手のスタンス、事前の心がまえによって、同じ小説でもその読み心地はまるで別の作品かと思えるほどに変化する。そんな経験を、本好きならば誰しももっていると思います。僕もこれまでに何度となくそういうことをくり返してきました。多くの場合、それは見当ちがいな方向に期待をかけてしまって空振りをかまして消沈する、というネガティブな形ででしたが。その結果得られた教訓が、

「大抵の小説は、あらかじめ期待したものとはかけ離れている」
「続編を読むときは前作と比べるな」

思えば、今回「エンディミオン」の上巻を読み始めたときも、僕の胸中は「もう一度ハイペリオンと同じ感動を!」という狭い期待感でいっぱいになっていました(→上巻の感想)。おかげでハイペリオンのような重層性をもたないシンプルなストーリーに対して、無用の不満をもてあますはめになってしまったわけです。その反省から、この下巻を読むにあたってはとにかく素直に、描かれるままを受け入れよう、もし上巻のように定石通りの冒険活劇に徹した内容なら、こちらもそれに応じてハリウッドアクションばりに脳ミソ空っぽにして楽しんでやろう、というのを心がけてみました。結果は上々。
かつて星から星へ一瞬にして人々を運び、銀河連邦の繁栄を支えた驚異のテクロノジー、星間転移ゲート。連邦の崩壊以来、数百年もの間沈黙していたそれらの門が今、ひとりの少女を通すためだけに次々と開きはじめた。誰が、どこへ、何のために、彼女を導こうとしているのか。尽きせぬ謎を抱えたまま一行は旅をつづける。だが彼らはまだ気づいていなかった。あの〈シュライク〉すらしのぐ力をもつ恐るべき暗殺者が背後に迫ってきていることに――。
てな感じのノリで、さまざまな自然の驚異に満ちた星々を、ロール、アイネイアー、A・ベティックの三人組は手づくりの筏で乗り越えてゆきます。そこにハリウッドライクな意味で期待通りな試練が次から次へと、まるでわんこそばのように投入されると。中でも一番凄かったのがアレですね。あのターミネーター子さん。なんかもう、プッチ神父のメイド・イン・ヘブンとディアボロのキング・クリムゾン能力を両方かねそなえたT-2000みたいなやつでした。どないやねん。それがアイネイアーの首を刎ね落とそうって追っかけてくるの。シュライクとかひとひねりなの。

いやほんと、ハリウッド顔負けでしたわ。べつに皮肉じゃなくて、エンタメの王道って意味で。

ちなみにこの「エンディミオン」は、前作までを読んでいない人でも一応は大丈夫なように配慮して書かれているようです。しかしあくまで一応です。人類を滅ぼそうとしているらしい超AI群=〈テクノコア〉の真の目的とか、さらにその上位にいるらしい謎の存在とか、めったやたらに張りまくられた伏線は「エンディミオン」の中では何ひとつ、まったく何ひとつとして回収されません。いさぎよいほどのまる投げっぷりです。もちろんこれは構成が半端なのではなく、「エンディミオン」と「エンディミオンの覚醒」は単に製版の都合で上下巻に分かれただけのひとつづきのお話であり、すべては「覚醒」でケリをつける(はず)、という意味です。この点は前作を読んでいる人なら了解済みでしょう。

僕が初めてハイペリオンを読んだときはそういう事情をまったく知らなかったので、とにかく驚きましたが。ここで切れてるのかよ!って。あのときの衝撃は、たとえるなら、目をつむって断崖絶壁から踏み出してしまったときの落下感にも似たような……。いや、誇張じゃないと思う。それぐらいの勢いで落ちた気がする。

もうあんな思いはしたくないのう。

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『図書館戦争』と”不気味の谷” - 三軒茶屋 別館
言いたいことの方向性はわかるけど、「不気味の谷」のアナロジーはちと苦しいような気が…。

[ニコニコ] タグ検索 めるりP
自分で巡礼用。今までずっとぬるりPだと思ってました

サイバーパンクの傑作ってなんですか?:アルファルファモザイク
72 名無しは無慈悲な夜の女王 :02/10/21(月) 18:16
すっごい先行していた埋もれた名作『神鯨』を推す。/
ベスターの霊がスクリプトを書いたジブリ作品みたいな。/
深海から引き上げられた自動販売機(牝)が主人公を誘惑する場面とか、
ネット上の定期人気投票で、5票を割ると追放される社会とか、
神鯨のセンサである鋼鉄三葉虫のこどもが、肉体労働系の巨人ロボットに
「機械としてのしあわせ」について諭されるシーンとか、/
公園を散策したときの、料金の単位が「526フットプリンツ(足跡)です」とか
T・J・バス「神鯨」、すごく読んでみたくなった。探そう。

皆川博子講演会 @同志社大学
もう明後日ですね(あ、いま6/12)。にしても、5時間て!どんなプログラムだ。僕は行けないので詳細レポをあげてくれる人の出現を切に望む。

『Answer Songs~作家と科学者の対話が生んだ短篇~』がスタート
飛浩隆 『はるかな響き Ein leiser Tone』 6/20(金)
円城塔 『さかしま』 6/27(金)

感動の前に塗りつぶされる敗北の事実――『とある飛空士への追憶』感想
(注)ネタバレあり。絶賛派と否定派があのラストをそれぞれどう評価したか。コメント欄でクリティカルな議論がなされています。
by umi_urimasu | 2008-06-10 01:48 | 本(SF・ミステリ)


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