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「兇天使」野阿梓
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「兇天使」野阿梓_a0030177_23585454.jpg飛浩隆の激賞に後押しされて購入。元ネタであるシェイクスピアのハムレットはずいぶん昔に挫折してそれっきりでしたが、これは予備知識がなくてもがんがん読める。神話の中の神々や天使たちが、人類史のあちこちに時空を越えて顕現しては壮絶な戦いをくり広げ、どろどろの愛憎劇に溺れながら史実と虚構が混濁してゆくという、途方もないスケールのメロドラバトルSFです。どこがハムレットですかこれ。というか、演目はハムレットなのに上演されたのは「百億の昼と千億の夜」じゃねーかこんちくしょうもっとやれみたいな感じですか。

もともとは1986年に発表された作品で、今回のは新装版とのこと。これを「80年代っぽい」と言っていいのかどうかはよくわかりませんが、メタリック&インモラルな官能の匂いが強烈に香るこの「いけないSF」感は、個人的にもっていた80年代SFのイメージそのものです。こういう麗々しくて淫靡な80年代娯楽SFのイメージをイメージでしかもってないのは、僕がその頃はまだ年齢的に子供すぎた(したがって読んでもいなかった)からか。時期的にはこれよりもしばらく後、80年代末ごろからようやく僕も色気づいてきて、アキラとかファイブスターとかのちょっとあぶない描写でフンガーとかなっていた覚えがあるのですが。

ともあれ、そのようなイメージが形をとって現前したこの「兇天使」。不貞、背徳、禁忌、頽廃、その他もろもろの美しくも反倫的なものをぶち込んで煮込んだ闇鍋のような、悪の魅力がたっぷり詰まった小説です。もちろんいうまでもなくエロス全開です。地上界に降りた天使の化身たる超絶美丈夫、美少年たちが、切なげにくんずほぐれつ手とり足とりアッー的な場面が全編これてんこ盛り、あふれ飛び散る汁また汁。
汚れ、狂い、堕ちつづける追跡劇の果てに、かの天使はいったい何を得、何を失い、何者になったのか。ラストも熱いです。あちち。というかこれ、ある意味BL万歳小説だよなあ。

神や天使が現世に乱入して黙示録的なバトルを演じたり、黒皮ジャンパーの美貌の天使にモンスターバイクがよく似合ったりするような、そんな世界観をもし漫画作品にたとえるなら、近しいのはたとえば萩原一至とかでしょうか。中身はともかくビジュアルイメージはけっこう似合いそう。少年愛要素についてはやおいとか少女漫画の得意分野なのかもしれませんが、僕はその方面にうといのでよくわかりません。やっぱり流派竹宮惠子とか?

巻末の解説にもちょっと書かれているように、歴史小説、推理小説、演劇などのスタイルを継ぎあわせたメタフィクションっぽい構成も読みどころのひとつです。もちろん、ただの文章遊戯ではなくて、天使の人間化と虚実の融合をひとつの物語にまとめる目的のために取られた手法なのでしょう。うまいことを考えるものです。少々やりすぎっぽい箇所も一部あるものの、それはそれでネタとして笑えたのでよしと。ちょっとくらいの統制の乱れなど問題にもならないほどに作品全体が大規模で破天荒だからこそ、そんなやりすぎができるのかもしれませんが。

ごった煮小説としての食いごたえ、カオティックな面白さ、耽美性に関しては、ボリュームもインパクトも十二分な作品でした。おなかいっぱいだ。

この「兇天使」を読んだ昨日の今日で、ちょうど魔王さんがハムレットを読まれていたようで。
原典の知識なしで読む人と、元のあらすじを知ってから読む人とでは、たぶんメタ部分の見え方がかなりちがってくるのでしょうね。僕はいまだに、どこまでが史実でどこからがハムレットでどこが「兇天使」オリジナルなのかいまいち把握してません。わからんほうが楽しいんじゃい。というのがハムレ読まない言い訳。

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by umi_urimasu | 2008-05-12 00:08 | 本(SF・ミステリ)


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