「From the Nothing, with Love」伊藤計劃 (SFマガジン2008年4月号掲載)。
うわ面白。メタルギアソリッドのノベライズの刊行はまだしばらく先なんですが、虐殺器官につづいてこんなのを書かれるともう、出る前から傑作認定したくなってしまいます。読んでよかった。素直にそう思う。 例えるなら私は書物だ。いまこうして生起しつつあるテクストだ。のっけから円城塔ライク、というより神林長平オマージュな言上ですが、中身はSF+哲学+推理サスペンスの要素を融合させたスパイ小説。スタイルはやはり「虐殺器官」によく似ています。 主人公は、意識をデータ化してバッククアップをとる技術により、何度死んでも別の人間の脳に再生されて任務をこなしつづける英国スパイ。彼がふとしたことから自己の意識の存在そのものについて疑いを抱き、絶望に落ちてゆく過程が、ミステリでいう犯人探しのストーリーラインにうまくシンクロしながら描かれていきます。 己の意識の不在証明を眼前に突きつけられたとき、哲学的ゾンビの生き証人(?)たる彼はどのように苦悩し、あるいはしないのか。イーガンをはじめSF界隈ではわりと今さらな題材なのですが、この作品では「人間は多くの行為をじつは意識に依らずに行っている」ところに話を立脚させているのがミソでしょう。ベンジャミン・リベットの実験のくだりとか、僕などは脳内へえボタン連打しまくりでした。 「虐殺器官」にしても、この「From the Nothing, with Love」にしても、基幹となるアイデアだけを見るならずば抜けて斬新というわけではありません。僕がSF的なスリルを感じるのは、どうも支援ロジックの使いかたとかそのあたりのようです。「思考の装飾」の部分とでも言ったらいいのかな。たとえばウィリアム・ギブスンがありふれた風景やガジェットをまったく異質な言葉で言い換えることによって新しいイメージを生みだす、いわば言語のコラージュ作家だとするなら、伊藤計劃はある考え方を別のさまざまな考え方の組み合わせに置き換える技に長けた、「思考のコラージュ作家」とでも言いましょうか。そこらへんが僕の場合はすごくアンテナに反応するらしい。 あと、伊藤計劃作品といえば広範にわたる元ネタ探しも楽しみどころのひとつですね。今回は舞台と話のカラーに合わせてか、アガサ・クリスティ、モンティ・パイソン、ウィリアム・ブレイク、007シリーズなどなど、かなりイギリスネタに統一されているようです。人格コピーネタが、同じキャラクターの設定なのに主演俳優が変わると姿が別人になってしまう映画の007シリーズのメタパロディになってたりとか皮肉すぎる。 ちなみにこの作品が掲載されているSFマガジン2008年4月号には、円城塔の「The History of the Decline and Fall of the Galactic Empire」も載っています。こちらはガイドラインコピペのパロディです。 あえて言おう、テラバカスww そんなこんなで、伊藤計劃でしんなりして円城塔でコーヒー吹いて後味すっきり。一粒で二度おいしい、よき読書体験でした。 ところで、この「From the Nothing, with Love」とほとんど同ネタで、テッド・チャンも行為が意識に先んじるアイデアを用いた「予期される未来」という作品を書いています(SFマガジン2008年1月号)。こいつがまた、たった2ページの掌編なのに超ド級の傑作なのですが。テッドチャン天才だろ。この日曜天才作家め。せめて発表ペースを半年に一作ぐらいにしてくれと言いたい。 ───── [画像] コナミゲームブックシリーズ メタルギア これはなんたるむくつけきスネーク 書いた内容を検索可能で、どこに貼ったのかもわかる付せん紙「Quickies」 - GIGAZINE 何か、何かすごいことに使えそうな予感。何かわからんけど。 日本語の弱点ってどこだと思う?:VIPPERな俺 これだからいいんですよ、これが [画像] 深海生物ダンボ・オクトパス http://blog-imgs-11.fc2.com/n/e/w/news23vip/uporg874056.jpg かわい…いのかかわいくないのか? 20cmという微妙なサイズ [ニコニコ] 菊地真のボンバヘッ! 補完キタ [ニコニコ] im@s Unkou Survival Championship だいたい15秒決勝 補完待望
by umi_urimasu
| 2008-04-29 00:35
| 本(SF・ミステリ)
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