「ダイヤモンド・エイジ」p2 ニール・スティーヴンスン
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a0030177_2325253.jpga0030177_233365.jpgひとことでいうとサイバーパンク版「母をたずねて+小公女」!
というふうな安直なたとえ方で済ませられる作品ではもちろんないのですが、膨大な情報の奔流の中に少女の成長物語というシンプルな糸が目立つように通してあったので、とりあえずそのへんにすがりつきながら読んでみました。それでも、小さなノミで巨大な岩塊をひとかけらずつ削っていくような根気の要る作業でしたが。
その他、緻密に構築された近未来テクノフィクションとして読むもよし、奇抜な通信プロトコルのアイデアにもとづいて世界の変貌を描く情報SFとして読むもよし、子供向けのおとぎ話の体裁でチューリングマシンの原理を説明してくれる「しょうがくいちねんせいからの並列計算」テキストとして読むもよし、国家なき未来の中国に再燃するヴィクトリア思想と儒教思想の激突を描く社会シミュ小説として読むもよし。読み手の興味や資質に応じてさまざまな楽しみ方ができる、非常に懐の深い(多い?)小説だと思います。いずれの読み方にしても相当ハードな歯ごたえを感じられる力作かと。

第一部までの感想はこちら

久しぶりにサイバーパンクっぽいのが読みたいという気になったそもそもの契機はニューロマンサー映画化のニュースでしたが、この本を買う直接のトリガーになってくれたのはこちらのエントリ。
[プチ書評]『ダイヤモンド・エイジ』(ニール・スティーヴンスン/ハヤカワ文庫)(三軒茶屋別館)

ここで疑問が呈されているように話が「破綻」したりはしていないと僕は思いますが、主筋であるネルやハックワース以外の部分、たとえばストーリー半ばでお役ご免になったサブキャラの出番とかがかなり豪快にぶった切られているのは事実です。フェードアウトなんてもんじゃない、投げっぱなしジャーマンって感じでぽーいと。こういうところが構成上アンバランスであるという評価なら頷けます。そういえば僕も、第一部で活躍した芳判事や常警部の出番が後半まったくなかったのにはちょっと消沈しましたね。芳判事お気に入りだったんだけど。

成長物語というくくりでいえば、なにもかも円満に収まるよりも少々冷酷すぎるくらいな締め方のほうが僕の好みに合うようで、読後感はすっきり良好でした。ラストはさっぱり盛り上がりませんが、個人的にはあれもアリです。少なくとも、むりやり盛り上げようという作為的な仕組みがみえみえなのよりは、淡白でも理にかなった展開の方が僕は好きっぽい。あくまでも成長物語の枠内で、ですが。


「本が現実に対してなにやらしでかす」という着想が、そのものずばり「本」という媒体を用いているところの小説によくなじむためか、そういうことを題材にした小説作品は古今を問わずたくさんあるようです。僕の知ってるうちで「本ネタ本」の比率の高そうな作家というと、まず皆川博子かなあ。筒井康隆は本ネタにかぎらずメタフィクション比率の高い人ですが、これはいちいち言うまでもないか。あと、古川日出男だと「アラビアの夜の種族」、川又千秋の「幻詩狩り」も印象に残っています。最近読んだものでは乙一のジョジョ本もそうでした。指輪物語やはてしない物語のように、装丁のデザインまで作中の本に合わせてあったりすればなお良しです。
ちなみに「ダイヤモンド・エイジ」の場合、作中でネルが読んでいる〈プリマー〉の文章でフォントを変えて作中作であることを示してはいるものの、本の装丁に関してはあんまりそれっぽくありません。単行本も文庫版も、一応〈プリマー〉をモチーフにしたデザインにはしてあるけど。できればもうちょい、見た目〈プリマー〉ぽいほうが嬉しかったですー。

ニール・スティーヴンスンの邦訳長編としては他に「スノウ・クラッシュ」「クリプトノミコン」があって、どちらもスタイルとしては「ダイヤモンド・エイジ」とよく似た情報過剰型の小説らしいです。気に入ったぞこのやろう。いずれ読んでみます。

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とりあえずビールPズンバラリ-小烏丸庫の筆先さんらしい
ぐーぐるよ今夜もありがとう
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by umi_urimasu | 2008-02-18 23:36 | 本(SF・ミステリ)


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