なんでと言われても困るのですが。ときどき、身の周りのなにげない言葉や道具の起源が無性に気になってたまらなくなることがあるのです。スメアゴル症候群とでもいいましょうか。で、いったいどこまで遡れるのかやってみようと思い立っていつものようにぐーぐる先生にお伺いを立ててみたという。
そもそもポワワ銃とは何か たぶんこういうモノのことです。その名の通り「ポワワワ」という感じの怪音と共にリング状の謎のビームを発射する架空の銃器類。実例を知らなくても語感だけでなんとなく理解できてしまうあたりが秀逸なネーミングといえましょう。 このユニークなSFガジェットの概念自体はかなり古くからありました。にもかかわらず、これを広義の「光線銃」の亜種として区別する一般名称はごく最近まで存在しなかったらしい。なぜかはわかりません。みんなどうでもいいと思っていたのかもしれません。実際どうでもいいことではあるし。 ともあれ、日本では21世紀になってから漫画「ゲノム」(古賀亮一)において「ポワワ銃」と表現されたのが、確認できる最初の言及例のようです。ポワワ銃的なガジェットを端的に形容するこれ以外の名称が一般名として広まった例は、少なくとも検索で調べた範囲内には見つけられませんでした。さすがは古賀亮一。 英語名としては光線銃一般を意味するray-gunやbeam-gunなどの用語がありますが、これらにはむろんポワワ的でないものも含まれています。 ポワワ銃の概念はいつごろ確立されたか ここから本題。ポワワ銃がフィクションの歴史の表舞台に登場し始めたのはいったいいつごろのことなのか。残念ながら、ぐーぐる先生の力をもってしてもはっきりと「これが最古の作品だ」と特定できるような証拠は見つけられません。とりあえず、1950〜60年代のアメリカ製カートゥーンや特撮ドラマなどには頻繁に見られたようです。また20世紀初頭、アメリカのパルプSF雑誌においてもすでに典型的なポワワ銃が数多く描かれています。 Flash Gordon Conquerors The Universe (1940) Captain Future Handbook AN INSIDE LOOK AT CAPTAIN FUTURE これらのポワワ銃器類が活躍する典型的なスペースオペラ、「フラッシュ・ゴードン」「キャプテン・フューチャー」「バック・ロジャース」などの作品が人気を博したのは1930〜50年代。遅くともその時期までには、ポワワ銃の明確なイメージが普及していたと考えてよいでしょう。 最古のポワワ銃? さらに古い例としては、1896年にJohn K. Bangsが著した"The Bicyclers and Three Other Farces"所収のBicyclersという作品に「KI-YI gun」なる道具が登場しています。このkI-YI gunにみられるラッパ型の形状やトンデモアイテム的な扱いから、後のポワワ銃の面影が見てとれなくもないような、そうでもないような。しかし、ポワワ銃の原型の成立に直接的な関連があると言い切るには心もとないサンプルと言わねばなりません。これより古い手がかりは今回、発見できず。 ちなみに、ジョン・K・バングズが生み出した作品世界はそのままフィリップ・ホセ・ファーマーをはじめとする後代のファンタジー・冒険SFの作家たちにまで引き継がれているそうで、少なくとも「近い畑の産物であったらしい」ということだけは言えそうな感じです。 結局、19世紀末のプレ・SF的ガジェットデザインがどのようにして生まれ、つづくガーンズバック世代の未来的SFデザインにどんな影響を与えたか、という実にどうでもいい問題を解明するためには、ぐーぐる先生はまだ少々力不足なようでした。がんばれぐーぐる。 現代に残るポワワ銃 現代の映画やコミック界では、ポワワ銃にかぎらずレトロSF的なガジェットは「時代遅れ」という負のイメージをもたれやすく、マニア向けの懐古主義的な作品やパロディ的なものをのぞいてほとんど姿を消しています。 ・OVA ジャイアントロボ THE ANIMATION (1992-1998 日アニメ) ・スカイキャプテン (2004 米映画) ・Project BLUE 地球SOS (2006 日アニメ) せいぜいこのくらい? こういうネタに関しては、大規模な類似画像検索エンジンがあればもっと楽に探せそうなんですが、実現はまだまだ先の話のようで。 しかしポワワ銃ひとつでこれだけくだらない情報が引き出せるとは。ネットは広大ですな。 最後に参考というかおまけ。 Magazine Cover Art from Amazing Stories|Vintage Magazines 昔のSF雑誌などの表紙を集めたサイトです。レトロ風味なイラストが満載で、眺めてるだけでもけっこう楽しい。いま流行のアニメ雑誌の表紙の絵なども、100年、200年後の人々の目には浮世絵のような奇妙な古美術として映るのかと思うと、なんとも不思議な気分ですね。 ───── [ニコニコ] 常磐津節 in 題名のない音楽会 大江戸の火消し(smoke on the water) [ニコニコ] 常磐津節 in 題名のない音楽会 We Will Rock You [ニコニコ] 常磐津節 in 題名のない音楽会「監獄ロック」改め 伝馬町総踊 混ぜるとすごいことになるロックと和楽。一聴の価値あり。 [ニコニコ] アイドルマスター 千早のツァラトゥストラはかく語りき 地球人の技術ではあれほど平らな物体はつくれないそうです [ニコニコ] アイドルマスター おひょー さんの 公開マイリスト 半自分用 ───── 富野ゼリフの作り方 「富野ゼリフ」はなぜ生まれるのか (ひびのたわごと) 宮崎アニメでは絵がぶんぶん動くってとこにしか目が行かないけど、富野作品を見てると演出の「不自然さ」が面白くて、絵づらよりもそれをあやつる仕組みのほうに気が向いていっちゃうことがよくあります。あれはもともとそういう方法論で作られてるからなのかなあ。
by umi_urimasu
| 2008-01-18 22:36
| まぞむ
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