はるかな未来、落ちぶれた人類に代わって地球の支配者の座についた「妖精さん」たちと、緩慢に滅びゆく旧人類とのかぎりなくローテンションな交流ぶりをかぎりなくローテンションな筆致で描いた、なんとなく異文化交流SFのような、べつにそうでもないような、というよりもはや単なる雑談のような、飄々としてなんだかよくわからない方向性を目指すファンシー・シムアース的ライトノベル。田中ロミオはこれが小説デビュー作だとか。
個人的には何から何までまるっきり肌に合わない作品でした。が、こういう拒絶反応が出るのは自分の普段の好みからいって予想の範囲内でもありました。以前に涼宮ハルヒ、ゼロの使い魔、ROOM NO.1301あたりにトライしたときもほとんど瞬殺というていたらくだったので、あるいは今回もそのパターンではないかと。 でも乙一や桜庭一樹のように、先入観からずっと敬遠していたものが当たってみたらホームランだったということもあります。なので、五冊や六冊読んでみて好みに合わないからといって「このジャンル苦手」と切り捨ててしまうわけにもいきません。どんなジャンルでもそうだけど、欲しいものをゲットできるかどうかは探す人の根気によるところが大きいのでしょう。というわけで、ある程度の距離はとりながら、これからもラノベ方面の開拓は地道につづけていこう。という思いを新たにしつつ、とりあえずこの作品はこれっきりということで。 あと、文体についてちょっと。僕がこの作品を読んでいちばん新鮮/奇異に感じたのは、物語でも世界観でもなくて文体でした。ほとんど、というか完全に、ノベルゲームの文体そのまんまなんですね。一文一文の短さ、情景説明的な一人称、読み手に話しかけているのか自己ツッコミなのかはっきりしないオタ語り口調、会話文の多さ、ネット言語のパロディ、等々。おそらく田中ロミオの本職(?)であるノベルゲームのシナリオのスタイルでそのまま書いただけなのだろうと思うのですが、それを普通の小説として読むことに僕の方が慣れてなかったせいか、かなり妙な読み心地でした。みんな気にならないのかな。それとも今のラノベではもう普通なんだろうか、ああいうノベルゲーム的文体は。 以下、おまけのようなもの。 「ラノベには疎いけど気が向いたら読んでみようかな」ぐらいのポジションにいる未読者のための判断材料として、作中に出てくる妖精さんたちのセリフを少しばかり列挙しておきます。こういう表現に対してどう反応するかで作品と読み手の親和性が試せる、リトマス紙みたいなものだと思ってもらえれば。 「にんげんさまは、かみさまです? です?」「しかしとても……おおきいです?」「わー」「おー」「んー」「あー」「ごみやま、かえるです?」「にんげんさま、ここでまたしつもんです」「ぼく、いつうまれました?」「なんと」「さー?」「な……まえ……?」「ねーむだ、ねーむ」「ねーむとはなまえのことだ」「ぺんねーむでいい?」「……よくおもったらなかったです」「なるほどぼくら、なまえ、ありませなんだ」「かもしれないです」「……にゅあんすで」「さようですか」「すいませんなさい」「ちんしゃします?」「おいしくたべられます?」「なんだよ」「いのちびろい?」「かくごしなくてもよかった?」「にんげんさんのちにくになります?」「ばかな」「そんなことが?」「かちぐみやんけ」「いっそたべて」「うそだた」「だたね」「よかた」「にんげんさんにほんろうされるです」「ねがいます」「きゃぷー」「ときめくごていあんですな」「そーきたかー」「かんたんのはんたい」「……にんげんさん、ごていあんです」「じぶんでなまえ、きめたいです?」「さー・くりすとふぁー・まくふぁーれん」「だめ?」「がんばるますー」 これはやっぱり、ある程度「了解済み」としてオタク文化圏内のものを消化できる読者限定という感じですかね。こういう空気を気軽に吸えて、わりと素直に愛でられる人になら、たぶん本作をおすすめしても大丈夫でしょう。こりゃちょっときついわ、と感じた場合は多少用心が必要でしょう。「反吐が出そうだ!」という人はもう買わないほうがいいです。 ということで、参考までに。 ───── 「倒立する塔の殺人」皆川博子 おお、野上晶翻訳作品!ミステリYAというジュニア向けのレーベルから出ています。子供たちよ騙されるな、その本は偽物なんだ。 内容はやはりドイツものらしいですね。「死の泉」と関連づけたギミックが施されていたりしたらさらに楽しめそうなんですが、どうかなあ。 ───── 2007年もそろそろ終わり。おかげさまで、今年も人様の感想や評判を頼りにいろんな小説と出会うことができました。直接的・間接的に名作・傑作をプッシュして読む気にさせてくれた方々に感謝です。個人的年間ベストワンはやっぱりジョージ・R・R・マーティン〈氷と炎の歌〉かな。もう一生ものの宝物ですよ、これは。 エキサイトのブログサービス自体がそろそろやばそうな気配なので、もしかしたら来年あたりもっとまともなサービスに引っ越すかもしれませんが、移転作業がめんどいのでぎりぎりまでここで粘ってる可能性大。ということで今後ともよろしくお願いいたします。 ───── あけめで。吉報でござる。アルフレッド・ベスター「虎よ、虎よ!」(ハヤカワ文庫)が復刊される由。ゴーレム効果なのかな? こいつは春から縁起がいいでござる。中古価格が高くてスルーしていた人はこの機会にぜひゲットされたし。それと円城塔「Boy’s Surface」も1月に。黄色の次は何色だろう。
by umi_urimasu
| 2007-12-30 17:55
| 本(SF・ミステリ)
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