ありがたきもの、それはコンパクトな小川一水作品。
安定して高品質なSFを発表してくれているのに、なぜか媒体は文庫ばかりという印象のあるこの人ですが、今回もまた文庫書き下ろし。よく見にいく書評感想系サイトなどの評判では「コンパクトにまとまった良質の時間SF」という意見が多いようです。肯定。僕もまったくその通りだと思います。話がそつなくまとまりすぎていて、かえって「ここが読みどころだ」って強調するポイントが思いつかないぐらいでした(褒めてます)。 西暦248年、不気味な物の怪に襲われた邪馬台国の女王・卑弥呼を救った「使いの王」は、彼女の想像を絶する物語を語る。2300年後の未来において、謎の増殖型戦闘機海軍(ET)により地球は壊滅、更に人類の完全殲滅を狙う機会群を追って、彼ら人工知性体たちは絶望的な時間遡行戦を開始した。そして、3世紀の邪馬台国こそが、全人類の存亡を懸けた最終防衛線であると──。(カバー裏紹介文より)ボリュームは総計280ページ弱。これだけコンパクトに収まった理由としては、やはりディテール描写の削減による効果が大きかったのでしょう。小川一水が好んで描く「みんなで力を合わせてひとつの目標に向かってがんばろう。おー!」という物語の方向性は、「第六大陸」や「復活の地」の頃からここまでおおむね一貫しています。しかし本作では、かかげた目標を達成するために皆でよってたかって行うひとつひとつの行為をいちいちずらずら書きつらねていくという手法がとられていません。描写対象はほぼ主人公とヒロインの交流のみに限られ、さらにその中でも大願成就に至るドラマの起承転結に必要な最小限のアイテムを選んでストーリーが構成されているという感じです。結果として、小川一水作品の持ち味であるプロジェクトX的なノリは今まで通り維持しつつ、ボリュームは劇的に縮小できたと。 一進一退しながらじわじわ目標達成に近づいていくプロセスの描き込みが少ないことに対して、まさに小川作品のその部分が生み出す盛り上がりを楽しんでいた読者(僕もその口です)は多少寂しさを感じるかもしれませんが、軽量化によってこれまでよりも圧倒的に読みやすい作品として仕上げてくれた点については、これはこれで大いに歓迎したい流れです。評判を聞いてこれから小川一水の小説を読んでみようかという方には、この「時砂の王」か「老ヴォールの惑星」のどちらかがおすすめな気がしますね。 でも個人的には、「復活の地」みたいにたっぷり文庫三巻ぐらいかけてディテールを描き込みまくったバージョンを読んでみたかった、という未練もやはり振り切りがたい。題材がおいしく、拡張性も高いと思えるだけになおさらです。くそー、食い足りん。いい意味で。 以下余談。時間SFとしての私的評価。 上のあらすじにもあるように、物語の主役である人口知性体「メッセンジャー」たちの努力目標は、人類史をその発祥までさかのぼり、無数に分岐した平行世界のすべてにおいてインベーダーを一匹残らず殲滅するという壮大なものです。この手の話で風呂敷が壮大なのはもちろんいいことなんでしょう。ただ、すでに山ほど存在する時間SF小説のなかでアイデア的にいくらかでも新味があるのか、といわれるとどうかな。個人的にはさほど斬新という気はしませんでした。タイムパラドックスも簡単な説明ひとつでスルーしておしまいだし。とはいえ、いかにも小川一水らしい扱いかたではあったと思います。ラストの伏線回収なども非常にベタで、あざといくらい泣かせようという意図がみえみえなのにまんまと乗せられてしまいました。我ながらなんと安い読者なんだろう。もちろん作品に罪はありません。 そういえば「天涯の砦」は単行本だった。僕は未読でした。野尻抱介の「太陽の簒奪者」みたいな謎ときSFっぽい味つけが多少でもあれば読みたいんだけど、巷ではポセイドンアドベンチャーだのタワーリングインフェルノだのいわれてますね。そっちかい。うーん。まあいずれ読んでみよう。少なくとも早川書房ではハズレはなさそうだし。 ───── 言い忘れ。毎回毎回しょうこりもなく言ってますが。どなたか復活の地をアニメ化してけろー。 ───── スクライド 5.1ch DVD-BOX (期間限定生産) 欲しい! でもちょっぴり高い。余計な特典とか付けずにもっと低価格にしてくれたほうがありがたかった…。 ───── [ニコニコ] 【手描き】L5伝説トミタケ 雛見沢に舞い降りた時報【ひぐらし】 第3期はぜひこの絵柄で。 ───── 魍魎の匣の映画がすでに公開中なのですね。僕はグロ系苦手なので映画館にまで見にいくことはたぶんないと思いますが、この先もまだ映画化企画がつづくとしたら次はどれだろう。絡新婦の理あたりだったら絵的にも映えるし、僕でも大丈夫そうかな。
by umi_urimasu
| 2007-12-27 12:48
| 本(SF・ミステリ)
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