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「壊れかた指南」筒井康隆
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「壊れかた指南」筒井康隆_a0030177_2311573.jpgライトノベル「ビアンカ・オーバースタディ」の連載開始が報じられてまたまた話題の人となっている筒井康隆、現時点での最新短編集。正常に見えた精神が、一歩道を踏みはずしたばかりに果てしなくトチ狂っていく……そんな滑稽で恐ろしい「壊れ」話をがっつり詰め込んだ怒涛の三十篇です。夢、虚構、超虚構、幻想、諧謔、風刺、ホラー、怪談、時代劇、童話、エログロスカトロ、老人小説などなど、品ぞろえがとんでもなくバラエティ豊富なのはいつもの通り。

断筆解除したばかりのころの「エンガッツィオ司令塔」「魚籃観音記」などに比べると、血の気の多い作品が短編集に占める割合はやや減ってきているようにも見えますが、そうかといって油断はできません。スラップスティックの手法に取って代わったのが、より深く朦朧とした虚実混淆の表現であるというだけのことだからです。いうなれば、攻撃のしかたが壮年のものから老年のものへ、一撃必殺の剣からじわじわ責める鈍器へと代わっただけで、筒井作品の攻撃力の実体である虚構性の強さは減っていないよということ。(前のエントリを引用してくれたy_arimさんは「壊れかた指南」に対して「『老い』を感じた/人生回想モードに入ってる」と嘆かれていますが、僕は上のような考えなのでとくに落胆や失望を感じていません。老人には老人の戦い方があるんだなあと感心はしたけれど。)実際にこの作品集をちゃんと読んでもらえれば、少々悲観的になっている古参の信者たちもきっと安心するでしょう。

ただ、僕は「ベラス・レトラス」「銀齢の果て」は未読なので、今年に入ってどうなったかはわかんない。風評ではあいかわらずのぶちかましっぷりみたいですけどね。

以下、ショートショート以外の収録作寸感。

「漫画の行方」
 昔の記憶を反芻していると、いつしか夢現の境が曖昧になっていく。「夢の木坂分岐点」のような時空のトワイライトゾーン。
「余部さん」
 作家の職業的悪夢をネタにした理不尽メタフィクション。こういうのはもうお手のものって感じ。
「稲荷の紋三郎」
 ドタバタ妖怪もの。京極堂ネタ吹いた。本人お得意のパターンであることを利用したメタオチ。
「御厨木工作業所」
 狂い切ったシュールな会話が哀れを誘う。分類するなら「ヨッパ谷への降下」タイプかな。
「迷走録」
 夢特有の強迫観念的な恐怖。巨大猫らめえ
「建設博工法展示館」
 理不尽な、それでいて奇妙に安らぎも感じさせるこの恐怖はまさに夢のそれ。さすがです。
「大人になれない」
 夢と現実を区別できない現実逃避オタクの狂気。本領発揮! パプリカの時田+千葉ペアのシャドウ?
「優待券をもった少年」
 リアルなる理不尽。マルケスの言う「本当らしく見える限界」の路線かも。
「犬の沈黙」
 他人と喋るのがこれほど苦痛なら、いっそ動物に変身してしまったほうが……と思ったら負け。ただし人によっては負けるが勝ち。登場人物のモデルが現実にいそう。
「出世の首」
 映画の撮影現場での虚実混交ブラックユーモア。
「二階送り」
 謎ルールに追いつめられる系。んー、「熊の木本線」タイプ?
「空中喫煙者」
 煙草を吸うと宙に浮いてしまうお爺さん。ユーモラスだが実際夜中に出くわしたりしたら超怖い。
「鬼仏交替」
 罵詈雑言と丁寧語がコロコロ切り替わる、おなじみ文体遊戯。強いデジャヴを感じるんだけど、筒井作品にはこういう系列のが多すぎてもうどれがどれだか。
「耽読者の家」
 今回の個人的ベストワン。膨大な本の山に埋もれてただ本だけを読みふけって生きていけるという本好きの天国みたいな家の話。「岩窟王」や「宇宙戦争」の子供向けでないバージョンが断然すばらしげに書かれていてそそられまくりです。
「狼三番叟」
 老役者の憂鬱な日々。最近の筒井康隆の老人描写からは、もはや完全にこれを自家薬籠中のものにしたというような自信を感じる。「敵」あたりがターニングポイント?
「店じまい」
 レストラン閉店の最後の夜、平凡な会話ににじむ悲嘆。会話描写うめぇ
「逃げ道」
 雪国レ・ミゼラブル。惨めな現実から逃げ出したその果てに天国はあるのか。

さて、ビアンカ・オーバースタディでは鬼が出るか蛇が出るか。「唯野教授のラノベ批評」みたいなやつだったら楽しそうだなあ。


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by umi_urimasu | 2007-11-13 00:14 | 本(SF・ミステリ)


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