「砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない」桜庭一樹
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a0030177_22122214.jpgまずは反省。「本を見かけで判断しちゃダメ」といういい教訓でした。出版レーベルや文庫版の装丁などから勝手に先入観の壁をつくって今まで読もうとしなかったこと、かなり後悔しています。もしこの作品がハードカバー化されず、いかにもライトノベルっぽい体裁のままで売られていたとしたら、僕はたぶん決して自分から手に取ろうとはしなかったでしょう。なんというもったいないおばけ。食わず嫌いベリーよくない。なんでもトライしてみるもんですね。

どんな小説かひとことで紹介しろ、と要求されると言葉に詰まるんですが、「青春暗黒ミステリー」と言ったところで未読の人に伝わるのかな。もっとわかりやすくぶっちゃけると、愛していた親に殺される子供とただ傍観することしかできなかった子供の物語です。世の中は無力な子供が生きやすいようには全然できてなくって、運悪く死ぬ子がいれば運よく生き残る子もいる。そんな残酷な世界で、親や学校の庇護という建前の皮をかぶせられて逃げることも抗うこともできないままあがきつづけ、斃れていく少女たちを「実弾を持たない兵士」にたとえた、レクイエムというかゴッドスピードというか、まあそういった小説であると。

少女と大人の世界の対比の残酷さもさりながら、僕にとって珍しい方向からの衝撃だったのは、およそ停滞というものの感じられないそのスピードでした。ラノベの文庫一冊分に収まる必要最小限の登場人物とイベントに絞りこみ、成長と通過儀礼のドラマパターンから美しさとむごさだけを抽出した無駄のなさ。痛みにおびえて立ち止まるには、この小説はあまりにも短すぎ、あまりにも読みやすすぎるのです。こういうところを「ライトノベル的」なスタイルとみなしていいかどうかはわかりませんが、この作品のインパクトの幾分かは確かにその短さと読みやすさに負っているように思えます。
しかし、文庫版のファンシーなイラストといい、いかにも甘ったるそうなタイトルといい、そもそもこんな過激な作品が剣と魔法でぴよぴよ系のラノベレーベルから出ていることといい、なにかトラップめいたものを見てとってしまうのは邪推なんだろうか。

僕の場合、典型的なライトノベルというものにいろいろとネガティブなイメージを抱いていたせいかもしれませんが、文章が端正でおかしな癖がないのは非常に助かりました。思春期の少女相応の繊細さの表現にかなり気をつかっているらしい点も好印象です。一人称文体の中に、主人公のリアリストぶりを示す語り口のそっけなさと、美男のくせにひきこもりの兄を貴族にたとえたり海野藻屑の奇言奇行を「砂糖菓子の弾丸」と形容したりするちょっと詩的なセンスが同居していて、「13歳」というキャラクター性が強烈に立っていたりとか。「平易な文章」がかなり上手い人だと思います。

この少女心理描写の巧みさだけで、個人的にはもう十分元を取らせてもらいました。あえて瑕を探すとすれば、「この話、ミステリ要素要らないのでは?」という突っ込みぐらいか。野暮かな。「富士ミスだから」という実もフタもない理由だとしたら文句を言ってもしかたないし。ただ、この作品を読むかぎりでは、桜庭一樹というひとはあんまりミステリが得意分野ではなさそうな印象でした。一応ジュニアミステリがメインの人らしいんだけど。

いつぞやライトノベルから一般文芸への越境現象がどうのこうのと話題になってましたが、あれはまさにこういうもののことを言ってたのか!とこれを読んでようやく合点がいきました。なるほど確かに越境してきてる。これなら読む。僕だって喜んで読む。あんまりラノベっぽすぎなければもっといい。そんなわけで直木賞候補作「赤朽葉家の伝説」が期待度急上昇中。

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by umi_urimasu | 2007-10-18 23:11 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
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