「楽園の知恵―あるいはヒステリーの歴史」牧野修
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a0030177_1652443.jpgひとことで言うなら「言語実験と幻想ホラーの度胸合体大乱交パーティ」みたいな短編集。毒性の高さ、容赦のないブラックユーモア、悪夢や狂気の黒ぐろしさ、哀れな死者たちに向けるやさしい視線、まるで往年の筒井康隆のようなオールラウンダーぶりです。日本SF大賞受賞の「傀儡后」もすばらしい作品でしたが、あの戦慄的なテクノゴシック・イメージの洪水ですら、牧野修がたくわえている武器弾薬の総量からすればほんの一部分にすぎないらしい。ということが、ようやく僕にもわかってきました。でもって、最高傑作と名高い「MOUSE」を読むのがめちゃくちゃ楽しみに。

ところで、約15年という長い期間の中から拾いあげられた作品群にもかかわらず、こうして一冊にまとめたときにまったく散漫な感じがしないというのはなにげに凄いことのような気がします。筆運びがじつに危なげないというか、基礎をがっちり固めた上で悠揚として言語実験に挑んでいる風にみえるというか。
この「楽園の知恵」には比較的尖った作品ばかりが選ばれているようですが、長編「屍の王」(1998年)なんかはごくオーソドックスなホラーだったし、Wikipediaによれば牧野修はバイオハザードやかまいたちの夜などの映画やゲームのノベライズもたくさん手がけています。その手の定石的・典型的なものを誰にでも読みやすい形で書きこなせる安定した技術的土台をもっていることが、そこからどれだけ逸脱したものを書いてもとっちらかった印象を与えずに済む理由なのかもしれません。

ちなみに牧野氏はプロ作家になる前は同人誌「ネオNULL」の常連だったそうで。なるほどさもあらん。あの筒井っぽさはただごとじゃねーと思ったんだよ。

以下、印象深かった収録作寸感。

「演歌の黙示録 エンカ・アポカリプシス」
オカルト昭和演歌史パロディ。アイドル演歌歌手が紅白歌合戦で突如「ふんぐるい~」と歌い出して触手で観衆を狩りはじめます。ドアホすぎる。こういうの大好きだ。たとえるなら筒井康隆「イチゴの日」+荒俣宏「帝都物語」+菊地秀行「妖神グルメ」。参考:薔薇十字団

「インキュバス言語」
猥語変換SF。やってることはエロ小説のガイドラインとあんま変わらない。とはいえ、やはりプロの小説家が書いたものはそれなりのクオリティです。

「逃げゆく物語の話」
物質化されたテキスト〈テキスティック〉で造られる「人形をした書物」〈ラングドール〉。彼らは人間そっくりに喋り、思考し、動くことができ、今では本に代わるコレクションの対象となっていた。しかし表現規制法の激化により、公衆良俗に反するホラーやポルノのラングドールの廃棄処分が決定される。彼らは当局に追われながらも〈約束の地〉――いずこかにあるという、ドールたちのための大図書館――を目指そうとするが、仲間が次々と殺されてゆき……。
設定だけならこれがいちばん好きかも。ブラッドベリ「華氏451度」のバリエーションみたいなディストピア話ですが、こちらは燃やされる本のほうが主人公という変わり種です。言語の消失といえば「残像に口紅を」なんかが思い浮かぶけど、まあさすがにそこまでのことはなく。

「夜明け、彼は妄想より来る」
公衆便所で意味もなく刺されたホームレスの女が孤独な死の間際にみる夢。どちらかというと物語よりも絵的なインパクト先行の収録作品が多いなか、ストーリー性の高い一篇。

「踊るバビロン」
バイオテクノロジーの暴走によって生まれた家具人間たちが住む異形の世界〈屋敷島〉の見聞録。捏造言語文化の不条理パロディ的面白さと生理的嫌悪感のダブルアッパー。

「バロック あるいはシアワセの国」
時間=神と定義した王国の興亡を描くドラッグの神話。なんかボルヘスにこんな話あったよね。ネットスラング文体ならではの都市伝説的恐怖の演出がいい感じ。

「ドギィダディ」
キリスト生誕の逸話をぎったぎたのウルトラ・グロテスクに変換。そこまでするか。

その他、「いかにして夢を見るか」「憑依奇譚」「或る芸人の記録」「召されし街」「中華風の屍体」「付記・ロマンス法について」。計13篇、バラエティ豊かな秀作ぞろいの一冊。SFに格別のこだわりのある読者でなければ、「傀儡后」よりもまずはこっちをおすすめしたいです。あと、筒井好きは必読ですね。

[アイヨシ][プチ書評] 『楽園の知恵』 (三軒茶屋 別館)
僕のよりずっと濃い書評。筒井「虚人たち」や酒見賢一「ピュタゴラスの旅」への言及もあり

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ETV特集 21世紀を夢見た日々~日本SFの50年~ (NHK教育 10/21)
見忘れないようにしよう
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たまってた電脳コイル消化。第20話のアクションが痛快でした。後のラミエルだな。

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[画像] A Smoke Angel  あんまり嬉しくない煙の天使
[画像] 廃船
[画像] Shooting the stars  美麗なボディペイント
[画像] Tiny puffer fish  てのりフグ。かわゆす
[画像] 凄いことになっている世界中の奇妙な木 (らばQ)

画像系サイト、Best Pic Ever これはいいところだ。
Staten Island: Boat Graveyard  これもいい。廃船写真がたくさん
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by umi_urimasu | 2007-10-13 21:28 | 本(SF・ミステリ) | Comments(2)
Commented by Mr.Parrot at 2008-10-10 00:54 x
牧野修はホントウいいですよね。オイラは「いつか、僕は」と「憑依奇譚」、「逃げゆく物語の話」が好きです。
小説の技巧的に「踊るバビロン」が一番かもですが、「いつか、僕は」のアレが地図になってヒトデナシの国をさがすっていうアイデア、「逃げゆく物語の話」のラングドールという魅力的なガジェットが読んでてたまらなく気持ちよかったです。
そんで「憑依奇譚」は最後のシメが超絶うまくて、なんというか短篇のワントリック&それの着地法だぜっていうことの妙味を堪能した気分でした。
牧野修は、小説の愉楽に浸れる数少ない作家のひとりだとオイラは思います。
Commented by umi_urimasu at 2008-10-10 12:47
この人の、常に新しいグロテスク言語的なことばをひねり出そうとするこだわりには相当なものがあるようですね。
「楽園の知恵」がよかったので、古本屋などでちょこちょこと他の作品も集めはじめています。とりあえず「アロマパラノイド」と「呪禁官」が安かったのでゲット。
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