ジョージ・R・R・マーティンという稀代のストーリーテラーは今、文字通り空前にして絶後の小説を筆一本で創造しつつあります。いまだかつて、ひとりの人間によってこれだけの規模の異世界戦史劇がこれほどの堅密さで書かれたためしがあったでしょうか。げに恐るべきはマーティンの化け物じみた生産力。
このひと、ほんとに単独作家なんだろうか?じつは総勢30人ぐらいの覆面作家チームとかなんじゃないの? 七王国の覇権をめぐる骨肉の闘争をつぶさに描く大河ロマン〈氷と炎の歌〉は、ある意味では「王狼たちの戦旗」の完結をもってようやく真のスタートラインにたどり着いたといえます。信じがたいことですが、ここまで文庫にして10冊分を費やした凄絶な物語は、あれでもまだプロローグにすぎなかったと思わなければなりません。たぶん、この作品が本当に凄くなるのはここから先。 次巻「剣嵐の大地」では、王家の末裔デーナリスと彼女の竜を乗せた船団がついに七王国にやってくるでしょう。また、マンス・レイダー率いる野性人の大軍が夜警団の守る北の防壁へと攻め寄せてくるでしょう。その中には〈異形人〉の謎に迫るためにあえて造反したジョン・スノウの姿もあるでしょう。矮躯の策略家ティリオンと狡猾な女王サーセイは、今度こそ鉄の玉座と互いの命をかけた陰謀をめぐらし合うことになるでしょう。新たに〈王の手〉となったタイウィン公のラニスター軍と北の若き狼ロブ・スタークの対決は避けられず、さらなる殺戮を重ねてゆくことになるでしょう。王都脱出を夢みるサンサ、故郷を目指す幼いアリア、傷心のケイトリン、裏切り者のシオン・グレイジョイ、魔女メリサンドル、その他何十人もの登場人物の、今まで別々の道に分かれていた運命の糸が一気につながり、もつれ合い始めることでしょう。そして、遠からずほんとうの冬がやってくるでしょう。 機は熟しました。善悪、美醜、愛憎、生死、この世界で意味らしい意味をもつあらゆるものを描ききる用意は整いました。以後、読者としての僕は評価することを放棄し、物語を味わう悦びと苦痛の奴隷となります。この偉業の担い手と同じ時代に生まれたタイミングのよさを、トト神と、ギレアンと、菅原道真と、その他すべての書物の神々に感謝しつつ。 ありがたやあ。 ところでここをわりと読んでくれてる人で、氷と炎の歌が未読っていう人、います? なら提言しよう。今すぐ買いにいけ! 千円札数枚とひきかえに、新しい人生が十個買えるぞ。ついでにエロい幼女もついてくる。 ちなみにネットの風評によると、「剣嵐の大地」はスケールでもテンションでも前二作を軽々と上回っているらしいです。冗談じゃありません。僕の想像力のおよぶ限界を完全に越えています。これより上位の領域なんてもの、僕にはどうしても理解できないんですが。 ───── 余談。 サンサはサンダー・クレゲインフラグ立てすぎだと思うんだ。もう結婚しちゃえおまえら。癇癪王子の方はめでたく破談になったんだからいいだろ。 とかいってほんとにくっついたら笑い話ですむんだけど、たぶんどちらか、あるいは二人とも、物語の最後まで生きてはいられないだろうなあ。
by umi_urimasu
| 2007-09-02 17:08
| 本(others)
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