天賦の言語能力によって非モテ京大生の大いなる妄想世界を文章化した、痛々しくも面白おかしい半現実/半幻想失恋小説。百年遅れてきた明治の文豪かおまえは、とツッコミたくなる古風な文士調でいつ果てるともなくつづく自分語りがついに尽きても、結局そうたいしたことは起こらない。まるで投げっぱなしの空気投げ。だがそれがいい。
これは笑える。あまりのスケールの卑小さにわが身を顧みて笑わずにはいられない。
何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。
なぜなら、私が間違っているはずがないからだ。
しかし全編にあふれるユーモラスな自虐は、人一倍傷つきやすく自尊心の強い青年の煩悶の深さをカムフラージュしようとする必死の迷彩でもある。愛する人から永久に拒絶された事実に向き合い、その悲しみを受け入れるのにほとんど全身全霊をかけて妄想と奇行のかぎりを尽くさなければならなかったとは、この主人公、いったいなんというナイーブなおのこのこ。
これは泣ける。あまりのいじらしさにわが身を顧みて目頭を押さえずにいられない。
何かしらの点で、彼らは根本的に間違っている。
そして、まあ、おそらく私も間違っている。
君よ知れ、たとえ喪男であろうとも、否、喪男だからこそ美しく終わる恋のあることを。むろん妄想の中の話だが。妄想して何が悪いか。 妄想なめんなよ。
ガラスの心臓をかばいながら冷酷非情な現実に抗いつづける若者たちのアンセムとして後世に語りつぐべき珠玉の青春小説、第15回日本ファンタジーノベル大賞受賞、定価よんひゃくえん。しんちょうぶんこ。
おすすめですー。
ちなみに森見登美彦氏のはてなダイアリーは
「この門をくぐる者は一切の高望みを捨てよ」。才能の無駄づかいとはこのことだ。タダで読んじゃっていいのかなこれ。