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「王狼たちの戦旗」II ジョージ・R・R・マーティン
「王狼たちの戦旗」II ジョージ・R・R・マーティン_a0030177_23112756.jpg戦雲渦巻く七王国を舞台に、野望と愛憎の人間ドラマを圧倒的なディテールで描く〈氷と炎の歌〉シリーズ、第二巻第二分冊。徹底したキャラクター等価主義にもとづくサドンデス作劇はあいかわらず健在です。
今度はあの人と、あの人と、そしてあの人が……! うおおおん。


SFや幻想小説や異世界ファンタジーを読むとき、僕はどちらかというとさっぱりした簡潔な文章よりも度がすぎるぐらいに饒舌で濃厚な文章を"旨い"と感じる場合が多いです。これは僕に、「現実にはないビジュアルを想像したがる」癖があるからかなぁ、とか思ってるのですが。ジョージ・R・R・マーティンという人は、そういう意味ではまさに願ったりかなったりの作家さんです。なにしろ言葉数がめっぽう多い。たとえば「王狼たちの戦旗」II のなかの一節、進軍中のレンリー・バラシオン公の陣幕をケイトリン・スタークが訪れる場面を引用してみると、こんな感じ。
何千もの炊事の煙で空には薄青い霞がかかっていた。馬の列だけが何リーグにもわたって続いていた。旗印をつける高い竿をつくるために、きっと森ひとつが切り倒されてしまったことだろう。薔薇の道の端の草地に、巨大な攻城兵器が並んでいた。大投石機、城門破壊用の投石機、馬に乗った人間よりも丈の高い車台に乗った移動破城槌。鋼の槍の穂先が、まるですでに血塗られたかのように、日光を受けて赤く光っていた。一方、草地には絹の茸が生えたように、騎士や貴族のパビリオンが乱立していた。槍を持った兵士、剣を持った兵士、鉄兜に鎖帷子を着た兵士、愛想を振りまく従軍売春婦、矢に矢羽根を付けている弓兵、荷馬車を動かす御者、豚を追う豚飼い、使いに走る小姓、剣を研ぐ従者、乗馬馬に乗る騎士、気難しい馬を引く馬丁などの姿が見えた。
いやあもう、しゃべるしゃべる。口から先に生まれてきたのかってぐらいよくしゃべる。
もちろんこれはほんの一部です。他にも王侯貴族たちの晩餐の場面など、人物と料理の紹介だけで軽く2、3ページを費やしたり、なんてケースが「七王国」や「王狼たち」にはごろごろ出てきます。まったく、筆を惜しむという概念を知らないのでしょうかこの人は。
そしてこの物量攻撃的なディテール描写が、西洋の歴史文化にうとい僕のような読者にとってどれほど助けになってくれていることか。マジ助かってます。

僕自身も含めての話ですが、ゲーム世代の読者のなかには西欧ファンタジーと聞くと、とりあえずFFとかDQみたいなカラフルで小奇麗な世界がまっさきに頭に浮かんでしまうという人がけっこういるのではないでしょうか。ゲームの影響かどうかはともかく、どうも僕らはファンタジーの世界に対して、現実以上に清潔で快適なイメージを求める傾向が強いような気がします。それがダメってわけじゃない。そういう世界観もあったっていい。でもやっぱり、物語がいつもいつも綺麗ごとばかりではつまらないと思うのです。そして物語的なTPO(?)を考えるなら、へヴィな話の土台にはそれ相応にリアルな舞台を据えてやらなきゃいけないだろうと。

で、そこで〈七王国〉ですよ。
この不潔感、この重量感、人物の体臭まで匂ってきそうなこの生なましさ。これは売れ線のゲームやティーンエイジャー向けのライトノベルなどではまず味わうことはできません。そしてこれだけの生なましさがなくては、戦火の中を必死こいて生き抜こうとあがくキャラクターたちの生の実感やあっけない死の重みを、傍観者である僕たちがこれほどまでに強く、痛く感じることもできないに違いありません。
決して、単なる作家の筆の遊びとか水増し目的でここまで書き込まれているわけじゃないんです。たぶん。いや、わからんけどおそらく。


どうかこの作品が、「俺って生きてんだなぁ」と思えるファンタジー小説にまだ出会ったことのない人たちに、ひとりでも多くのそんな人たちに、深い驚きをもって読んでもらえますように。
とか思う今日この頃であった。



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「王狼たちの戦旗」II はデーナリスではじまってシオン・グレイジョイで終わります。シオンのターン久しぶりです。ちょっと忘れかけてた。わりい。

あと驚いたのが、サンサに対してサンダー・クレゲインフラグ(!)が立ちそうなこの流れ。な、なにィィ。そうきたか。サンサ、惚れっぽい子だからなあ。
サンサの愚かさとアリアの聡明さの対比は作中でよく強調されますが、僕はおバカさんなサンサもアリアと同じぐらい心配してます。頼むから生き延びてー。そのためにも怪しい男にすぐのぼせる癖を何とかしてくれ。命がいくつあってもたりんぞ。

それにしても、主観キャラクターを次々とクロスオーバーさせていくこの群像劇スタイルの快楽度はちょっと異常だ。なんでこんなに引きこまれるんだろう。


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by umi_urimasu | 2007-05-15 23:17 | 本(others)


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