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「射雕英雄伝4」金庸
「許嫁? 靖さん、許嫁がいたの? そんなこと、一度も聞いたことがないわ!」
「言おうと思ったんだけど、どうしても言い出せなかったんだ。それにおれもあまり思い出さなかった」
「許嫁のことを思い出さないの?」
「分からない、でもずっと妹のように思っていたんだ。これは大カーンさまがお決めになったことで、その時は大カーンさまの言いつけだから、それでいいと思った。でも今は阿蓉がいるからちがう」
「じゃあ、どうするの?」

「分からない」

「射雕英雄伝4」金庸_a0030177_22224577.jpgって、待てやコラ郭靖。

わからんてことがあるかい。まったくこの男は……いかに中国広しといえど、黄蓉以上に料理上手で武巧も超一流で郭靖に全身全霊ラヴーな完璧娘がそう何人もいると思っているのでしょうか。その黄蓉にあれほど一途に慕われておきながら、いざ生涯の伴侶を選ぶ段になって正妻はコジン姫、黄蓉は心の妻などとどの口で言うつもりですか。てめえこのやろう。なんてうらやまし。じゃない、せめてどっちか一人にしろと言いたい。

で、そんなどっちつかずな郭靖の本音を聞いた、黄蓉のレスポンスがこれ。

「靖さんがずっと私のことを思ってくれるなら、別に奥さんがいてもいいわ……、でもやっぱりいやね、靖さんがずっとほかの女の人といっしょなら、私その人を殺してしまうかもしれない。そしたら靖さん怒るでしょ?」

てめえこのやろうてめえこのやろう!

こんなストロベリーオーラ全開な方向性の小説でしたっけ? 射雕英雄伝て。
いや、まあ、こんな小説だった気もするが。

えー、そんなわけで第4巻。はるばるモンゴルからやってきた許嫁・コジンと現地妻(?)の黄蓉がついに鉢合わせしてしまいます。しかも武林最凶のお義父さんの前で、どちらの娘と結婚するか選ばされるという面白、ゲフゲフ、恐ろしい状況に。黄薬師、殺る気満々だ。さあ、冗談でもコジンと答えようものなら即死確定のこの危機を、郭靖はもちまえの愚鈍さでどう切り抜けるのでしょうか。
じつはここは切り抜けるっていうか……なんですけどね。ま、そこはそれ、郭靖だし。郭靖ですから。

次回最終話「蒙古、襲来」。ちがう。「サマルカンドの攻防」。

ええ!? 次、もしかして攻城戦っすか!?
さすが金庸、俺たちにできないことを平然とやってのける……。


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余談。
楊康のヘタレ度が半端でない件について。
この楊康という男、出生の設定をほどほどに活かせば容易に"因縁の好敵手"になれるはずのキャラクターでありながら、なぜか作者の金庸はそのメリットをあまり活用していません。物語もそろそろ終盤だというのに、そのチンケな卑劣漢ぶりに改善の兆しは見えず、むしろますますダメ度に磨きがかかってくる始末。このような楊康の扱いについては、僕はちょっと金庸の意図をはかりかねているのですが。もともと、単に好漢郭靖にいじわるするだけのダメ男という位置づけの人物だったのでしょうか。うーん。でもそのわりに、妙に出番多いのはなぜ。

まあ射雕英雄伝の場合、「楊康、いたの?」状態でも物語上はなんの不都合もないわけで、些細なキャラクターバランスの不均衡にこだわって深読みしたりする意味はあんましなさそうなんだけど。なにしろ主人公すらさしおいて、強烈な老人キャラたちが大陸せましと暴れまくってるような話ですからなあ。

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余談+α。
中国では「人の尊卑の基準として善悪よりも器量の大小を重んずるべし」的な考え方が昔からあるのでしょうか? 黄薬師のむちゃくちゃな唯我独尊ぶりを見てたら、ちょっとそんな疑問が湧いてきました。曹操やチンギスハーンや、それに水滸伝の梁山泊なんかがフィクションの中で英雄として描かれたりするのは、あるいはそういう思想が根底にあるせいなのだろうかと。
いや、単なる思いつきなんですが。もっと中国の文化についての知識をたくわえて、注意深く読まなきゃいかんかなあ。とオモタ。マル。

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余談+β。
黄蓉萌へ。天衣無縫、天空海闊、そして小悪魔でちょっぴり残虐姫。1950年代に書かれたキャラクターとは思えん。金庸すごいよ金庸。
by umi_urimasu | 2007-04-20 22:28 | 本(others)


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