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「孤島の鬼」江戸川乱歩
「孤島の鬼」江戸川乱歩_a0030177_0535442.jpgこれはおすすめ! 超おすすめっ!
まだ乱歩読んだことないって人はすぐさま買いに行くとよいです。いえ、何をおいても買いに行くべきであると断言します。表紙がおどろおどろしいので抵抗感があるかもしれませんが、そこは我慢です。中身の美味さは保証します。僕の読書人生を賭けたっていいぐらいです。万が一、つまんなかったら僕が買い取ってあげます。

ウソです。言いすぎた。
でも実際、凄いよこれは。初めて読んだら美味すぎて涙腺壊れるよ。マジで。


「孤島の鬼」の発表は1929年(昭和2年)。今から80年近くも昔に書かれたものだそうです。しかし……これは、普通に「古い」っていう古さとは、なんか根本的に違う気がする。古いとか新しいとか、そんなレベルを超越した、歴史という大河に打ち込まれた鉄杭のようなものではないか。そんな気がする。

簡潔ながらあでやかな語りことばの文章には、つい音読したくなるなめらかさと、ひそやかな毒があります。ストーリーは推理小説の意外性と冒険活劇のスリルを兼ねそなえ、妖しくグロテスクな伝奇と幻想に満ちています。主人公とヒロインの交流には、純朴な恋愛小説の潤いとすがすがしさがそなわっています。書き出しは異様な、冒頭一頁で強烈に読み手を引き込むミステリアスな幕開けです。物語は探偵ものから伝奇ものへ、恐ろしい近親愛憎劇へ、息づまる冒険活劇へと、多彩なスタイルをきわめて自然に、けれど意外な方法でつなぎ合わせ、片時も読者を飽きさせないように細心の配慮がされています。
伝奇風味あふれる物語のなかでも、土蔵の中で育てられた双生児の美少女による手記のパートにはひときわ強烈なインパクトがあり、倒錯と禁忌の愉悦が読む者の背徳感をいやというほど煽り立てます。
そして最後には涙なくして読めない大団円に、切なさ核爆のエピローグまで付いてくるのです。

まさに完璧だ。娯楽小説として、いったいこれ以上、何を望めと?
すべてが美しい。なにもかもが犯罪級に美しい。自分が今、平成の世にいるのか、大正の世にいるのか、そんなことすらどうでもよくなってしまうほどに。

たぶん僕のこの感動は、初めて甲賀忍法帖と魔界転生を読んだときに受けたのとほとんど同種のものだろうと思います。ていうか、そもそも江戸川乱歩が山田風太郎の師匠みたいなもんなんでしたっけ。ということは、スタイル上の類似はむしろ当然なのだろうか。
でも、それにしたってなあ。師弟そろって神すぎだろ、こいつら。

恐るべし山風! 恐るべし、江戸川乱歩!!


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ところでこの「孤島の鬼」の読後、横溝正史を読みはじめたんですが。
面白いことに、「八つ墓村」のなかには「孤島の鬼」にどことなく似た要素がちらほらと見受けられるのです。地底の迷路に隠された財宝とか、それにまつわる謎の暗号とか、他にもいろいろね。「獄門島」も、舞台装置がやや「孤島の鬼」風味と言えなくもない。田舎社会の近親愛憎ネタは、この手の小説のベースとして必ず入っている基低音みたいなものなんでしょうけど。それに金田一は基本的に純正ミステリ指向らしくて、「孤島の鬼」ほど幻想大爆発な感じではないですけど。
もしかしたら横溝も、この驚異の作品に激しくインスパ、もとい、多大な影響を受けて金田一シリーズを発案したのかもしれませんね。なんてな。


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追憶。まだちっこい子供のころ、僕はそこそこ本好きな子だったのですが、乱歩作品は表紙が怖いというのでかなり力いっぱい避けていたような覚えがあります。今にして思えばなんと愚かな……。まあ小学生で「孤島の鬼」が愛読書だったりしたら、それはそれでちとアレな気もするが。
by umi_urimasu | 2007-04-04 01:03 | 本(others)


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