ブラックユーモア、サイコホラー、ミステリ、SF、メルヘン。様々なタイプの乙一作品が一堂に会したバラエティ豊かな短編集。どの作品もわりとシンプルで、叙述トリックに凝っていた「GOTH」なんかに比べると「ひねりがない」感はあるものの、じゃあ物足りない出来なのかというと決してそうではありません。ボリュームはたっぷりあるし、10篇ぶっつづけで読んでも飽きが来ないだけの多彩さもあるし。基本はホラーだけど、ライトとダークの配分バランスがちょうどいい按配で読みやすいのもありがたい。怖い話にまったく耐性のない読者でも抵抗なく消化できる、守備範囲の広い本と言えましょう。よほどピーキーな趣味の持ち主でないかぎり、これ二冊読めば最低ひとつぐらいは好みに合う乙一作品を見つけられるのでは。
ちなみに僕は八〜九割がたヒットしたのでなんの不満もありません。ごちそうさまでした。 以下、収録作をひとつまみずつ紹介。微妙に順不同。 「カザリとヨーコ」 ママには虐待を受け、学校でも虐められ、ヨーコの毎日は陰惨そのもの。だが心の拠り所だった親切なお婆さんが死んだ日、ついに双子の妹のカザリと入れ替わるチャンスが巡ってくる。かくして惨劇の舞台はととのった。「おっしゃー!」ガッツポーズのヨーコ@カザリ。まあ君がそれでいいならかわまない……のか? 「SEVEN ROOMS」 訳もわからず拉致監禁され、理由もなくただ理不尽に殺される時を待つ姉弟。苦悩の果てに二人がたどりついた、究極の選択とは───。収録作の中でもとりわけヘヴィな一品。話としてはありきたりだけど、だからって精神的なダメージが弱まってくれるものでもないようです。痛いものはやっぱり痛い。人間死ぬときはフトンの上で、子供や孫に見送られて大往生ってのが一番だよ。なあ。 「陽だまりの詩」 メイドロボットに人の死を悼む心は生まれ得るか。はわわ、直球ですー。モロこれっぽい話、To HeartのSSで読んだことある気がするぞ。 「ZOO」 恋人の死を認められず自らを騙しつづけてきた狂人が、動物園の思い出をきっかけに現実に向かい合おうと決意するまでの物語。「グロテスクなのにそこはかとなく癒し系」という、ライトともダークともつかないこのトワイライトな味こそ乙一の絶対支配領域。 「SO-far そ・ふぁー」いわば逆・シックスセンス。 「落ちる飛行機の中で」パニックシチュエーション・コント。 「血液を探せ!」推理コント。包丁刺されて死にかけてるのに超元気な無痛症の爺さんがおもろいというか哀れというか。 「Closet」推理のための推理小説。一種のパロディか。 「神の言葉」どくさいスイッチ+雫。「デスノート」の連載開始当初、こんな方向性の作品になるのかなぁとちょっと期待してました。 「冷たい森の白い家」死体を積み上げて家をつくる孤独な男。グロくて悲しい残酷童話。 「むかし夕日の公園で」あれ? 抜けてた。親の帰りを待つ子の気持ちを描いた掌編。 とまあ、ほんとにいろいろあるのです。ジュヴナイルからお笑いまで華麗にさばくオールラウンドぶりが頼もしいったら。ジョジョ第四部のノベライズも楽しみだ。一向に本にならないようですが。
by umi_urimasu
| 2007-03-15 11:15
| 本(SF・ミステリ)
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