理想のSFーー山田風太郎の世界
甲賀忍法帖

凄え。
週刊海燕さんの強力なレビューにつられて初めて読んだのですが、完腐なきまでにぶちのめされました。例えるなら、サップに秒殺された曙の心境。全くもって解説無用です。面白いものを「面白い」と指摘するだけの解説ほど無益なものもないでしょう。

でも、無益と知りつつやっぱり書くだけは書いてみる。

これはある意味、純性の「SF」と言ってよい作品ではないかと思います。理由は、とあるシンプルなルールに従って非常に堅固な架空の歴史を作り上げた小説だからです。
もちろん嘘っぱちの歴史には違いありません。しかし、歴史というものは例外なく嘘っぱちです。学校で教わる史実は細部にわたって矛盾なく成立する因果関係を要求しますが、それが本当に正しいかどうかは、時を遡る術がない以上厳密には誰にもわからない。一方で、SFはある仮定に従って嘘の世界を構築し、その世界と現実世界との間に生じるギャップの意味を問うものです。この意味では、極言すれば歴史はSFであると言ってもいい。
ただし、SFは歴史のように現実的な事物だけを扱う必要はありません。SFは作品の中に何らかのルールを設け、それに従うのみです。そして山田風太郎作品の世界を縛るルールは「大衆娯楽たる事」であり、「甲賀忍法帖」は完璧に、それはもうため息が出るほど完璧に、このルールに従っているのです。いかに荒唐無稽であろうと、いかに史実と食い違っていようと、風太郎ワールド的には一片の矛盾もありません。文体も設定もストーリーもキャラクターも、作品を構成するあらゆる要素がこのルールに従い、妖術と怪異に彩られた闇の日本史を作り上げるために最大級の貢献をしています。そこにはどんな小さな不純物も含まれません。
娯楽の醍醐味を余さず注入した、娯楽だけが支配する日本史のダークサイド。科学も宇宙も出てきませんが、これは「娯楽」というキーワードで世界を捉えるという思考実験の非常にスマートな成果と呼べるのではないでしょうか。

ちなみに、SF嫌いな人でも全然大丈夫ですよ。この作品をSFとみなす必要などこれっぽっちもないので。
我々が確かに言える事はおそらく唯一つ、

「面白いから読め」

これだけです。
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by umi_urimasu | 2004-06-25 18:12 | 本(others) | Comments(0)
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