『空の境界』
といっても昔のネット版しか読んだことないんですけど。 その限りで評するなら、いわば"裏"月姫でしたね。月姫を、ほぼ同じ素材を流用して再構成したようなもの。 個人的にはシンプルな分だけこちらの方が月姫よりも好みです。萌えキャラやアクションをどっさり詰め込んだせいか今いち均整の取れてなかった月姫に比べて、空の境界ではそれぞれの要素があくまで控え目に、抑制されて配分されている。こういう無駄のない構成の方が、基本的にはエンターテインメントとして適切だと思うのです。ただし上で述べた通り、素材、内容ともに本質的には月姫とほとんど一緒。書かれた順番はどちらが先か知りませんが、真に新しい何かを求めるというわけにはいきません。 内容において月姫との差をあげるなら、複合人格者や感覚異常者の心理を多少丁寧に描こうとしている点でしょうか。殺人嗜好症の少女や無痛症のPK少女などに対して「家系のせい」「事故のせい」という原因の提示だけで終わらせずに、「そういう人格が実際にあったとして、彼らは何を考えどのように振舞うのか」がわりとあからさまに語られています。 もちろん我々は骨の髄まで常人ですが、少なくともそうした特異なパーソナリティをもつ彼らの情動を想像しようと試みることはできる。頭を使う必要はありますが、モテモテ主人公がきったはったの大活躍っ的な月姫などよりは多少手強い分面白い読み物といえるでしょう。 ただし、エセ科学やオカルト的な説明の浅薄さは正直勘弁して欲しかった。月姫でも同じ浅さを感じましたが、雑学・教養的な興味を全く喚起してくれません。伝奇ものでこういう詳細設定に固執したいのなら、せめて帝都物語ぐらいまで徹底して欲しいと望むのは贅沢か。もちろん造語のセンスなどは凄いと思うんですけどね。 というわけで、「次の作品こそ読んでみたい作家」脳内リストに入れておきます。 ただし、幾ら何でも愛蔵版9800円は横暴ぞなもし。
by umi_urimasu
| 2004-06-24 16:14
| 本(SF・ミステリ)
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