「ラギッド・ガール 廃園の天使II」飛浩隆
a0030177_1611126.jpg今、「日本のSF界で一番期待している作品は?」と聞かれたら、僕は迷わず「飛浩隆の次回作」と答えます。これほど残虐な、それでいて愛らしい小説を、これほどきめ細かいことばで書く同時代の作家を僕は他に知りません。マジベタ惚れです。
「象られた力」から「グラン・ヴァカンス」そして「ラギッド・ガール」までをつないだ快楽度曲線を外挿していくと、次回作「空の園丁」はいったいどんな凄まじいことになってしまうのか!? 考えただけで脳内麻薬が耳穴からあふれてきよるわい。

前作「グラン・ヴァカンス」では、仮想空間のリゾートに住むAIたちと謎の侵略者との熾烈な戦いが描かれました。第二弾となるこの中編集では、裏舞台である現実世界の視点が導入され、仮想世界の背景や設定が徐々に明らかにされていきます。
以下、各篇ごとの読みどころ紹介。

「夏の硝視体」

仮想の楽園〈夏の区界〉の平穏な日々のひとこま。漁師ジョゼに惹かれる少女ジュリーが彼の深層意識に潜りこみ、そこで目にしたおぞましい罪の記憶とは……。背徳感みなぎるAIたちのエロスとタナトス、その意識の闇にひそむものを描く「グラン・ヴァカンス」の圧縮版的な一篇。
ジュリーのエロキュートさは犯罪級。

「ラギッド・ガール」

仮想リゾート〈数値海岸〉開発グループのメンバー、カリン・安奈・カスキは、特殊な感覚記憶能力の持ち主・阿形渓に惹かれ、ついには渓の意識世界の中に取り込まれてしまう。無機質な仮想空間のイメージを生なましい官能性と残虐性で圧倒する、これぞ飛浩隆という感じの一本。現実という枷を脱し得た人間が抱く欲望のありかたをきわめて体感的に、しかも幻想的とすらいえる美しさで表現してみせる文章の技にも脱帽ですが、なにより圧倒的なのは阿形渓の存在そのもの! この女、ヤバすぎる!
今までの「廃園の天使」シリーズ中、文句なく最強にして最凶の作品と言っていいでしょう。

「クローゼット」

変死した女が仮想現実の中から脳ハックをしかけて来る、サイバーサイコサスペンスSF。「象られた力」の「デュオ」に近い感触かなあ。多重現実テクノロジーが浸透した未来の生活感の生っぽさに、ちょっとウィリアム・ギブスンを思い出す。映像的な雰囲気はキューブリック風味?

「魔述師」

〈数値海岸〉を訪れる人が唐突に途切れた謎の事件〈大途絶〉の真相を、現実と仮想世界の両側から描き出した中編。中欧の古風な城砦都市を模した区界〈ズナームカ〉のたたずまいや、区界から区界へと泳ぎわたる〈鯨〉たちのイメージがすばらしい。仮想現実の中にのみ存在して生きる人間があらわれ始めた時代のAI人権問題なども扱われていて、実存SFとしても刺激的です。もちろん、ほのかなボーイ・ミーツ・ガール的甘さをノーモーションでぶち壊す飛浩隆らしい極悪さは健在。表題作の次に好きなのがこれ。

「蜘蛛の王」

〈夏の区界〉を壊滅させた最強のAI・ランゴーニの誕生にまつわるエピソード。巨大な樹上世界に人々が住む区界〈汎用樹〉の王として生まれた彼は、やがて愛する〈父〉のコピーと滅ぼし合い、区界に大破局をもたらすことになる。ランゴーニはいったいどこへいったのか? 〈父〉の物理実体って結局誰? ダキラの原型はガウリがたがねに渡した蜘蛛? 〈非の鳥〉と〈天使〉の関係は? などなど、謎はまだまだ尽きません。「空の園丁」が待ち遠しくていてもたってもいられなくなる、罪な一本。


以上五篇、すべてが傑作。マジで傑作。未読の人はぜひ、じかにその文章に触れて凶悪な切れ味を感じてみてください。ほんと凄いから。


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ところで以前にグラン・ヴァカンスの感想を書いたとき、僕は「SFとみなす必要なさげ」なんて言ってましたが、すみません。あれは撤回します。見捨てられた楽園、人間と変わらないAI、自我意識の境界を侵すようなコミュニケーション、そういったものが「なぜそういうふうなのか」、グラン・ヴァカンスでは完全に伏せられていた理由をラギッド・ガールがきわめてSF的に説明してくれたので。一見安易で浅薄に見える設定でも、その下に阿形渓のようなバケモノが隠れていないとはかぎらないんだよなあ。
油断大敵ですね。
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by umi_urimasu | 2007-01-22 23:27 | 本(SF・ミステリ) | Comments(0)
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