恋多き男シオドア・スタージョンが、四度目の結婚にトリガーされて書きまくったという12篇を収めた作品集。ひとことで言うと、あれだ。調子に乗ってる風。いや、もちろんいい意味でね。
スタージョンを読んでいてときどき考えるのは、「これSFか?」ということです。 僕が読んできたスタージョン作品はその半分ぐらいが、愛と理解を渇望してやまぬ人間の孤独をテーマにしたものでした。残りのほとんども、人生になんらかのジレンマを抱く人間心理に焦点をあてたもの。それも除いた残りが、アイデア系ショートショート。 スタージョンとはそういうタイプのもの書きさんです。発想のはしばしにSFっぽい要素があることは否定しませんが、内容をしてSFと呼ぶにはいささか無理のある作品が多いのではないかと思わせる、それがスタージョン。僕はどっちかというと、こういうのは「人間小説」という枠に入れておきたい気がしますが。 太古の昔より、創作文芸の最大のテーマは他ならぬ人間自身であり、小説家とはつまり人間を文章で表現することを生業とする人々のことを言いました。僕自身の分類ではスタージョンもそのメインストリームに属する一人です。世間的にはSFという「なんでもあり」のサブジャンルに放りこまれているものの、彼の特異な文体が表現しようとする対象は、つきつめてゆくと、目が二つに口がひとつある「ただの人間」というじつに平凡なものではなかったのかな。 というのが、三冊ほどの作品集から得た個人的な印象。 僕がスタージョン作品に対する驚きをあまり「SF的」とは感じられなかった理由も、まずそのへんにあります。SF的とかセンスオブワンダーとかいう言葉は、たとえば、見慣れた風景をまったくの異世界みたいに感じさせるような、「ものの見かたを変える」発想をしてそう呼ぶのではなかったか。しかしスタージョンの描く人物たちには、そうした根源的な違和感がないのです。彼はあまりにも小説上手で、人間を人間らしく描きすぎてしまうから。別にSFを読まなくたって身のまわりにいっぱいいるんですよ、スタージョンの登場人物っぽいやつは。 まあ、ほんとうはジャンルの定義とかは僕にはどうでもよくて、どんな方向性であれ作品が面白ければ一読者としての僕は満足してしまい、それ以上は望みません。 なのでこの話はここでおしまい。 ───── ライトノベルの定義論争とか新ジャンルがなんたらとか、ありとあらゆる流行に新しい呼び名を付けたがる病的な風潮にひとこと苦言でも呈してやろうかと思っていた矢先にSFだかなんだかよくわからないスタージョンを読んだら上のような話になってしまった。とかく定義論争というものはわかりきった不毛な結末を迎えがちです。 収録作短評。 「ここに、そしてイーゼルに」 妄想にふりまわされる若い画家が彼に絵を描いてほしいと願う女性に恋をするまでを描いた中編。ストーリーよりも語り言葉そのものに快楽を求めるようなフェチ読者にとってはまさに天上の美味ともいえる作品でしょう。しかしそうでない読者も多いわけで、冗長すぎるという不評もあり。どちらにせよ、微妙に万人向けじゃないスタージョンの特性がとてもよく出ている気がします。 「時間のかかる彫刻」 "愛=盆栽!" なんかジョジョのアオリ文句みたいだが気にしない。ひとことで言うと、ATフィールドを張り合っている男と女がちょっとした紆余曲折をへてくっつく話。スタージョン流の恋愛哲学論とでもいいましょうか。二作つづけてラブラブエンドな恋愛ものにぶつかって、この人根はかなりのロマンチストなんじゃないかと思い始めた契機。 「箱」 宇宙船が墜落し、取り残された子供たちのサバイバルと犠牲と成長。残酷なまでの簡潔さにつらぬかれ、10数ページという短さのわりにインパクトの大きかった作品。スタージョンすげえと思うのは、こういう超短編がむちゃくちゃテクニカルなとこ。 その他、あいかわらず種々雑多な短編群が入り乱れてます。三冊めのスタージョンとしてはまずまずのお買い得。ただし、アベレージは高いけど「輝く断片」や「海を失った男」に比べるとややおとなしめかも。
by umi_urimasu
| 2006-11-22 01:42
| 本(SF・ミステリ)
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