独特の湿度と空虚さを纏うサイコミステリ風連作短編。作者の乙一氏はジョジョ第4部のノベライズも手がけているそうです。わかるわかる。この人なら文章で吉良吉影を描けそうだ。
世の人が目をそむけ耳をふさぐ猟奇的な事件の記録を蒐集するという、いささか常人ばなれした趣味をもつ主人公「僕」とクラスメイトの森野夜。バラバラ殺人、ペット惨殺、リストカッター……倫理や良識の及ばない人間の心の暗部へ、彼らはこともなげに踏み込んでゆく。殺人という反社会的な形でしか現われない闇を、そのありのままの姿を観察し解剖するために。 普通の人から見れば、こんなのは到底理解しがたい悪癖と映るでしょう。 でも、もし「僕」の立場に立ってこの世界を眺めたなら、あるいはそれが人の死を見ないでは一日たりとも耐えられないほど虚しいものであることに気づいて、我々は慄然とするかもしれない。いったいどんな気分なのだろうか。死と破壊によってしか他者との接点を知覚できない人生を、死ぬまで猫をかぶって生きていくというのは。 その絶望的な空虚を思えば、猟奇事件に首を突っ込む程度で我慢している「僕」などはまだ普通の感性の持ち主なんじゃないのか? てかむしろ、聖人君子と讃えられてもいいぐらいじゃないのか?という気さえするのです。 なんてな。 ともあれ、そういった底なしの虚無感を当事者の視点で淡々と、あくまで淡々と語らせているのが本作の怖さであり面白さ。 そして、これだけ残酷な猟奇ネタが満載なわりに、どのエピソードも読後感はそう悪くないというのが本作の摩訶不思議。何なんでしょうねいったい、この奇妙な味は。 「GOTH」は形式上はミステリでもあって、毎回主人公の身辺で異常殺人事件が起こり、その謎を解いていくという筋立てになっています。しかしいくらなんでも頻繁に事件が起こりすぎなため、読んでるとだんだん可笑しくなってきます。死体発見率が異常に高い妹とか出てくるし。妹ありえねー。作品自体はまじめな調子なのでよけいに笑えます。狙ってるとしか思えません。 一方、パロディではなく純粋にミステリとして見た場合、これがまたなかなかどうしてさらりと巧い。「犬」や「声」みたいに一人称文体を利用した叙述トリック的などんでん返しが奇麗に決まると拍手とかしたくなっちゃいます。形式的なミステリ性にこだわりすぎだという批判もあるようですが。まあ人それぞれかと。個人的にはこのバランス感覚は凄いと思う。 さらに、この「GOTH」はもともとライトノベルとして発表された作品で、そのように読まれてもいるようです。ジャンルのことはよくわからんけど、無愛想属性の森野夜がじつは神山樹ラブなとことかが、ラノベ方面から評価を受けている理由の一端かもしれない。 ちなみに森野夜(夕)は単なる萌えキャラとして見てもかなり高性能です。毎回あやうく殺されかけてるのに、自分では決してそのことに気づかないあたり特に。そのうえ双子属性+リスカ経験者ときた。 これでラノベっぽくないラノベが書けるとは、もはや別の意味で凄い乙一。 ──── [画像] 腕立て伏せするハーラン・エリスン ネビュラ賞の式典会場にて。なにやってんだよお。コニー・ウィリスも一緒にいます。 [ゲーム] ひぐらしのなかせ方4:「ひぐらしのなく頃に」製作ロングインタビュー第4弾 作品のテーマや製作秘話、「祭囃し編」のヒントなど、興味深い話がいっぱい。ネタバレ注意。 そしてひぐらしの展開先フォルダにBGMがすべてmp3で揃っていることに気づいた。これはよいものだ。そのまんまサントラとして利用可。「you」「Birth and Death」がいい感じです。
by umi_urimasu
| 2006-06-02 09:50
| 本(SF・ミステリ)
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