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「メルニボネの皇子」M・ムアコック
「メルニボネの皇子」M・ムアコック_a0030177_18455.jpgぬうう。いつのまにかアリオッチが「アリオッホ」に!
アリオッチ! アリオッチ! 御身の御名が少しまぬけな響きになってしまいましたぞ。
事情はいろいろありましょうが、できればカタカナ表記法は変えないで欲しかった。

とかいうごたくはさておいて。
これが音に聞こえたエルリックサーガの復刻版第1巻です。嘆かわしいことに邦訳は絶版の憂き目に遭っていたようなのですが、結果オーライってことですか。めでたしめでたし。懐かしいなあ。せっかくだから混沌の神様にお布施でもしとくか。ということで購入。

僕の中ではこのエルリック・シリーズは旧版第6巻「ストームブリンガー」で終わったことになっていて、今回「メルニボネの皇子」と一緒に併録された「真珠の砦」(旧版第7巻)は今までずっと未読でした。それが読めるとあって、単なる買い直しよりはちょっと得した気分だったのです。が、実際に読んでみた印象では「真珠の砦」はいささかぱっとしない出来に思えてちょっと意気消沈。僕の方が読み手としてすれてしまったせいかもしれないけれど、旅の剣士が面倒ごとに巻き込まれる型のごくありきたりな小冒険譚にすぎない感がぬぐえませんでした。残念。

だがしかし。そこで「メルニボネの皇子」ですよ。
十何年ぶりに読み直しましたが、やっぱり面白い。
ひ弱でネクラな皇帝だった僕が、魔剣のおかげでみるみるムキムキに! 無根拠な自信もついて、念願の彼女もできました。いじめっ子の従弟とも仲直りできて毎日がバラ色の人生です。今年の夏は、皇帝としての見聞を広めるためにしばらく諸国漫遊の旅に出ようと計画中。
これもみんな、ひとえにアリオッチのおかげ。アリオッチ万歳!

なとという通販のパンフレットのサンプルそのまんまな転げ落ちパターンの人生を歩むエルリックは、内省的で鋭い知性派なのにいつも一番大事な場面で判断を誤るクール・ドジっ子皇帝なのだ。萌え。


補足。
井辻朱美氏によって再訳された本作では、人名などのカタカナ表記がいくつか変更されています。アリオッチ→アリオッホ、ディヴィム・トヴァー→ダイヴィム・トヴァーなど。変更によって物語の面白みが失われることはないのでその点は心配無用ですが、アリオッチに馴染んだ身にアリオッ「ホ」はやはりちょっと違和感がありました。別にドイツ語じゃないだろうにね、Arioch。あと、神官戦士→戦士神官なんていう小さな変更もいくつか。細かいことだけど。
ちなみに井辻氏はファンタジー作家・翻訳の大家であると同時に、常から指輪物語における瀬田・田中訳に批判的な姿勢を公にしていることで有名です。この人の訳は好きなんだけど、その言い分だけは同意しかねるなあ。

補足2。
作中にイラストの類は付きません。この点では旧版の方が断然おすすめです。重厚で陰鬱な作品世界をみごとに視覚化した天野喜孝の旧版挿絵は、ムアコック自身がそれを見て感激したという逸話が残っているそうな。
by umi_urimasu | 2006-04-24 01:16 | 本(others)


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