「妖女サイベルの呼び声」P.A.マキリップ
a0030177_2115163.jpg戦いや冒険をはなれ、愛憎の板挟みに煩悶する女性心理の綾を描くことに徹した異世界小説、名付けてメロドラマティック・ハイファンタジー。
この作品で世界幻想文学大賞を受賞したパトリシア・A・マキリップは当時弱冠25歳だったとか。


たぶん単純に慣れのせいだと思うんですが、先に「影のオンブリア」から入った身としては、あの時ほど無我夢中な浸り方はできませんでした。同種の衝撃ならば先に受けた方を相対的に強く感じるものだとすると、これは仕方のないことだったのかもしれない。
もちろん、ファンタジー性の純度と濃度において本作は決して「オンブリア」にも劣っていないはずです。冒頭の数ページで数十に及ぶ架空の伝承伝説をずらりと並べるくだりからして、すでに長年の風雪に耐えた風格すら感じさせる筆致。なんというかこう、堂に入っている。

ただし、ドラマの内容と人物造形だけを取りあげると、少しお行儀がよすぎて物足りなさを感じる部分もないではなかった。これは「オンブリア」でもそうでした。人物をもう少しリアル臭く、あるいは下世話なところまで描き込んだ方がドラマ的には濃くなって面白いんじゃないの、とか、素人なりに思うわけです。ドラゴンランスやエルリックサーガによるインプリンティングの影響がいまだに抜けてないだけの幼稚な感想かもしれませんが。
でもそれはもう、しょうがないよなあ。完全に単なる好みの問題だから。
まあ僕ごとき痴愚蒙昧な読み手の言うことなど気にしないのが一番ということで。


あと、あえてひとつ難を言うとすれば構成について。
本作のストーリーは基本的に、主人公サイベルの主観に沿った一本道のプロットだけで出来ています。対して「オンブリア」では、主役としてリディアとマグとデュコン・グリーヴという三つの視点を導入し、随時使いわけたり組み合わせたりしています。この二つを比べると、僕はやはり後者の方が重層的な構成の分、物語としての質と密度がより高く、読み応えも大きいと感じます。
ゆえに、未読の人に「サイベル」と「オンブリア」のどちらか一方だけを推薦するとしたら、まず後者を。
それでいけそうなら「サイベル」にも手を広げて頂くのがよろしいかと。
僕もしばらく間をおいて、それから次の「イルスの竪琴」にでも行ってみましょう。
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by umi_urimasu | 2006-03-19 21:20 | 本(others)


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