吉良吉影はもうちょい静かに暮らしたい。だが世間はそれを許さない。
さまざまな驚きが詰まった作品集です。衝撃度でベスト2本を選ぶなら「海を失った男」と「ビアンカの手」かな。特に「海を失った男」にはとどめを刺されたといっても過言じゃない。 かなり器用な作家らしく文体・題材も多彩なので、人によって好みのポイントも異なるかとは思いますが、この選集の中ではやはり上記二本の奇抜さは群を抜いている。スタージョン恐るべし。この分だと「一角獣・多角獣」も必読でしょう。 「海を失った男」 死の間際にある男の内面世界、その究極のテンパリ具合を脳内時空に凄まじい勢いで展開してみせた一篇。「輝く断片」や「マエストロを殺せ」で炸裂していた言葉と感情の十字放火、まさにあの再来でした。首まで砂に埋もれながら、かつて泳いだ海を幻視する男。そして逃れ得ぬ恐怖と絶望が覆いかぶさり、刹那、勝利の叫びによってすべてが断ち切られ……。うーん。凄い。 他の収録作品では会話文や語り口の妙でスタージョンの技術力を十分に堪能できるけれど、ここではその技術をもってすら対応しきれない相手にあえてスタージョンが挑戦しているように思える。 レビューや感想を検索してみると、評価してる人も多い一方で苦手だという人も相当数。ま、そうだろうな。 「ビアンカの手」 「海を失った男」がわかりにくい傑作だとしたら、こちらはわかりやすい傑作。人間ではなくその「手」だけを愛した男の倒錯した世界を描く、奇怪なエロティシズムに満ちた一品です。「手」の表現の何たるおぞましさ! 少しばかり巧すぎてオチが見え見えなのはどうかと思うけど。 「墓読み」 亡き妻の真実の姿を墓から読み取る力を得た男の決断。 ある人物の本当の性格や人柄をあらわすものは、何も言葉や表情や仕草だけとは限らない。そういう密かなメッセージを解読しようとする努力は、結果として自分自身の懐を深くしてくれるんじゃないだろうか? てなことを考えたくなる、ちょっといい話。残念ながら、現実では「寝ボケてんじゃねーよ」ということにしかならんと思いますが。 その他、超人テーマの「成熟」や超能力ものの「シジジイじゃない」「そして私のおそれはつのる」など、一般的にみて取っ付きやすそうな作品も多く収録。しょせん翻訳なので本当のところはわからないものの、特にロウワークラスの口語文や会話文体においては鋭いものがあるようです。 ホラー掌編「ミュージック」は「ビアンカの手」のおまけみたいな感じか。 ただ、すべてがいいとこずくめというわけでもない。人物描写は優れているのに設定がクソ陳腐な「三の法則」のように、ネタと話のクオリティ差が顕著な例もいくつかありました。惜しいなあ。 ──── 「阿修羅ガール」舞城王太郎 殺伐たる日常とNDEと世界残酷童話の悪夢的コラボレーション。と見せかけてじつは王道成長物語、みたいな。 感想は……どうもこれといって……書きにくいですね。しかしまあ、とりあえず面白かった。奇異な文体なのに描いていることはけっこうふつーなあたりは、なんとなく町田康に通ずるものがあるような気もします。
by umi_urimasu
| 2006-03-14 20:17
| 本(SF・ミステリ)
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